AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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梟谷学園総合学園祭2日目の土曜日。......本当は昨日中に赤葦君に声を掛けて、出来たら仲直りしたいと思っていたのにもたもたしてたらあっという間に初日が終わってしまった。普通の授業だったら赤葦君は絶対に教室に居るけど、学園祭となると彼の現在地なんて全く分からない。スマホで連絡しようかとも思ったものの、無視されたらどうしようというお得意のネガティブ思考がアクセルを踏んでしまい、結局スマホを使わずに赤葦君を探した結果、全く会えずに終わったのである。流石に最後のホームルームではその姿を瞳に映すことが出来たけど、学祭実行委員であり元々人気者である赤葦君は、同じ学実の志摩さんや担任の先生、クラスメイトから次々に話しかけられていてとてもじゃないけどその中に入る勇気なんて無かった。沢山の人に囲まれても淡々と、だけど時折楽しそうに笑う赤葦君を遠目に見ながら、仲の良い友達に「また明日ね」と挨拶をしてそのまま立嶋先輩と花瓶のお花のチェックに向かったのだった。
そんなこんなで学祭2日目の早朝、先輩と二手に別れて学祭前のお花のお手入れをしていた。先輩は初等部、私は中等部を担当して、体育館と図書館の大きめの花瓶二つと高等部は二人で手入れを進める。昨日のへたれな自分に心底がっかりしていたものの、自分が決めたテーマで彩られた花瓶の花を見ていれば少しずつ気分が浮上してきた。......今手を入れてるこの花瓶は、男バレマネージャーお二人の白福先輩と雀田先輩をイメージしたものだ。白をメインにバラとカトレアとダリア、コスモスは白と黄色を入れて、赤みのあるケイトウを差し色に。チョコレート色の花瓶に差して、下にモノトーンのギンガムチェックのマットを敷いた。
優しくて、明るくて、笑顔が素敵な綺麗な人達。麗しさの中に男バレの選手陣を支える勇ましさも持つ、強くて格好良い人達でもある。白福先輩も雀田先輩も、温かくて、しっかりしてて、本当に大好きだ。同性の後輩として、あんな素敵な女性になれたらなと憧れずにはいられない。
「............先輩方には、お伝えしようかな......」
昨日も沢山写真を撮ったのに、今日もつい一枚パシャリとスマホで花瓶を撮ってしまいながら、この場に人が居ないのをいい事に思考をそのまま口に出す。......男バレ選手陣の方々は男の人だから、勝手にイメージして花束を作りましたなんて恥ずかしくて絶対言えないけど......マネージャーのお二人なら、もしかしたら、本当にもしかしたら喜んでくれるかもしれない。不特定多数の人に見てもらえるのも凄く嬉しいけど、やっぱり知人に見てもらえるのは少し違う嬉しさがあると思う。......ああ、でも、違う部活の後輩からそんなことをされて、本当に迷惑じゃないかな......引かれ、ないかな......。ふと思い付いたことにも直ぐにネガティブな思考がなだれ込んできて、スマホを両手で持ったままその場に立ち往生すること数分......「......え、森?」と声を掛けられて、たまらずビクリと肩が跳ねた。随分と耳に馴染んでしまった......だけど、随分と久し振りにも感じてしまうその落ち着いた声にまさかと思っておずおずとそちらに顔を向ければ......中等部の校舎の廊下に、制服姿の赤葦君が切れ長の目を丸くしてこちらを見ていた。
「............」
「............」
「............あ、ごめん、おはよう......」
「............ぉ、はよう、ござい、ます......」
突然現れた赤葦君は珍しく驚きを露わにして動きを止めていて、だけど直ぐに気を回して朝の挨拶をしてくれた。どもりながらそれに返すも、思考回路は完全にパニックしていてまともに赤葦君の顔を見られず視線は直ぐに自分の足元へ固定される。......え、え?なんで赤葦君が、こんな時間に中等部に居るの?学祭実行委員ってもしかして朝の校舎の巡回とかやってるのかな......?いや、それよりまずはあの日のことを謝らないと......!今は周りに誰も居ないし、赤葦君に謝るタイミングはもう今しか無いかもしれない......!
「っ、ぁ、あの、赤葦君......!」
「!、はい」
「............」
視線は上げられないものの、何とか自分から話を切り出そうと声を掛けたら、なぜか敬語で返事をされた。久々に話す赤葦君はなんだか前よりずっと他人行儀になっている気がして、勝手にショックを受ける。や、やっぱりいきなり電話を切ったから、なんだコイツって思われたんだ......。そうだよね、普通怒るよねともう何度目かの大反省会と、赤葦君に嫌われてしまったかもしれないという恐怖に身を竦ませつつも深呼吸を二回して、目を瞑りながら頭を下げた。
「......あの日......電話、切って、しまって......申し訳、ありませんでした......」
「............」
「......謝るのも、遅くなり......本当に、ごめんなさい......」
「............」
深く頭を下げたまま謝罪を述べる私に、赤葦君からの反応は何も無く時間だけが過ぎていく。先程まで感じた早朝の爽やかな空気なんて微塵も分からなくなっていて、重たい沈黙とドクドクと鳴り響く自分の心音に泣きそうになりながらとにかく頭を下げ続けた。......許して貰えなかったら、どうしよう。このまま無視されて、この先ずっと話せなくなって、......木兎さんのボールがぶつかる前みたいに、顔と名前しか知らないクラスメイトの関係だけに、戻ってしまったら......
「............あの日から、ずっと聞きたかったんだ......」
「!」
永遠に続くんじゃないかと心配していた膠着状態を、赤葦君が打開してくれた。どうやら無視されることは無さそうで、少しほっとしながらも怖々と話の先を待っていれば、赤葦君は小さく息を吐く。
「............電話を、切られた理由。......考えたけど、ごめん。確信掴めなくて」
「............」
「......森を困らせたことは、本当に反省してるんだけど......」
「っ、ち、違う!」
「!」
落ち着いた声で語られる赤葦君の話に、思わず勢いよく否定してしまった。赤葦君を見上げると、私の勢いに押されたのかまたびっくりした顔を向けている。......ああ、私はあの日から今日まで、こんなに優しい人を悩ませてしまっていたんだなと理解して、更に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「全然、違うよ......!私が、本当、勝手に......ずっと、困らせてたのは、私だから......!」
「......え......?」
あの日の電話のことを思い出して、じわりと視界が滲み出す。「赤葦君みたいな人になりたい」と本人に言ってしまったばかりに、人一倍真面目で優しい赤葦君の負担になり続けてしまった。それに少しも気付かずに気を使って仲良くしてもらって、いざそれを伝えられたら一目散に逃げてしまう。こんなの、自分に都合のいいことだけ相手に押し付けていたようなものだ。......そんな関係、友達でも何でもない。
「......赤葦君に......迷惑、掛けて......私が、“赤葦君みたいに、なりたい”って、言ったから......っ......ずっと、気を遣わせて......本当に考えが、足りなくて、ごめんなさい......!」
「............」
再度深く頭を下げて、あの日からずっと謝りたかったことを口にすれば、馬鹿みたいに涙が止まらなくなった。......いや、実際に私は馬鹿だ、大馬鹿だ。普通に考えて、「あなたみたいな人になりたい」と特に親しくもない人から言われたら誰でもぎょっとするだろう。仮に自分がそんな事言われたら、怖いと思うし負担にも感じる。どうしてそんな簡単なことに今まで気付かなかったのかが不思議で、心底情けなくて、本当に気が滅入るけど......それでも。
「............赤葦君と、話したいです......!前みたいに、仲良く、してほしい、です......!」
「────」
「............なのに、いっぱい、嫌なことして、ごめんなさい......!」
「............」
頭を下げたまま、ボロボロに泣きながら子供みたいなことを言う私に、赤葦君はまた黙ったままになってしまった。我ながら支離滅裂且つ非常に自分勝手なことを告げているのは分かる。これで赤葦君がドン引きしたらもう取り返しがつかないし、最悪な状態になることも分かってる。......だけど、赤葦君との関係をこのまま黙って終わらせるなんて出来なかった。赤葦君がどんなに素敵な人で、格好良くて、優しくて、温かい人なのかを知ってしまったから。同い歳で同じクラスと言うだけで大した共通点も無く、友達と思っていいのかも悩んでしまう関係ではあるものの、赤葦君とこのままどんどん希薄になって、自然淘汰されてしまうのはどうしても嫌だった。......もっと話したい。もっと会いたい。名前だって、呼んで欲しい。もっと、もっと、もっと、赤葦君の近くに居たい。......遠いのは、さみしい。
「────なんだ......そうか......そういう......」
「............ぇ......?」
みっともなくグズグズと泣いていれば、赤葦君は小さな声でそんな言葉を零し、よろよろとその場にしゃがみ込んだ。予想しない動きに少し驚いて、目元を拭い鼻を啜りながら相手の様子をおずおずと窺うと、俯いたままの赤葦君は大きなため息を吐いた後、なぜか両手でその端正な顔を覆ってしまう。
「............じゃあ、まだやりようはあるんだな......そっか、よかった......」
「............?」
「............やっぱダメだな、直接話さないと......俺も森も、思考が偏り過ぎる......」
「............」
私に向けて話してるのか、それともそうじゃないのか今ひとつ分からなくて口を閉じていれば、赤葦君はもう一度ため息を吐いてからおもむろに立ち上がった。あっという間に見上げるかたちになり、やっぱり背が高いなとぼんやり考えていると距離を縮められ、久し振りにすぐ隣に赤葦君が居ることに少し緊張してしまい、誤魔化すように目元を擦った。
「............何から、話せばいいのか......まずは、俺は別に負担じゃないよ。俺みたいになりたいっていう発言」
「!」
「まぁ、俺なんかでいいのかなとは少し思うけど......理想の具体化って結構大事だし、そう思われることで俺もこう、しっかりしようと思うから、良い刺激になってるよ」
「............ほ、本当に......?」
「うん、本当に。だから森が謝る必要無いし、気にすることもない。......森にそう思われて、結構嬉しかったりもするし」
「............」
「......だから、本当に大丈夫。ちゃんと話しておけばよかったな」
頭の上から降ってくる言葉はやっぱり優しさで溢れていて、私に合わせてくれてるんじゃないかと少し不安になるも、視線が重なれば赤葦君はゆるりと目元を甘くさせ、優しく笑ってくれる。その顔に無理してそうな色は見えなかったので、ほっとしつつも心臓がきゅっとなった。赤葦君が笑うと、どうにもドキドキしてしまう。久し振りに喋るから、余計に。
「......俺も、ずっと話したかった。また一緒に帰ったり、どこか行ったりもしたいって思ってた」
「!」
話したくても話せなかった、どうにも気まずい時間が終わったことは大変喜ばしいけど、帰ってきたこのドキドキ感にはまた耐えていかなきゃなとひっそりと気合いを入れていれば、更にドキッとすることを言われて思わず固まってしまう。相変わらず誰よりも優しくて格好良い赤葦君の言葉にすっかり惚けていると......赤葦君は、ゆっくりとした動きで右手をこちらへ伸ばし、その指の背でトンと軽く私の唇に触れた。反射的にビクリと肩を震わせ、逃げるように何歩か後退ってしまえば、彼はまた目元をゆるめて小さく笑う。
「────夏初とは、友達以上の関係になれたらって考えてる」
「............」
「............」
「............」
「............そういえば、この花って森がテーマ考えたんだってな。“お世話になった人への感謝”って聞いたけど」
あまりにも予想外な事が起きて心の底からびっくりして、思考停止したまま動かないし喋りもしない私とは対照的に、赤葦君はなんて事ない様子で花瓶の花に話題を移した。至っていつも通りな赤葦君を見て、もしかしてぽかんと口が開けっ放しになっていて、それを指摘されたのかもと思い直し、今度は別の意味で恥ずかしくなってくる。高校生にもなって、本当に居た堪れない。
「............ぇ......ぁ、そう、なん、です......ぇと、これは、白福先輩と、雀田先輩のイメージで......」
「あッ、しまったごめんちょっと待った!」
「ひッ、ご、ごめんなさい......」
恥ずかしさのあまり花瓶の花の説明に集中しようと話し出せば、唐突にストップを掛けられて咄嗟に謝罪が口をついた。赤葦君から強めに話を止められたのは初めてで、たまらず眉を下げてしまうと少し慌てた様子で会話を繋いでくれる。
「話を遮ってごめん......実は俺、立嶋さんとその、......勝負、みたいなことしてて......」
「......え......?」
赤葦君の話に出て来た名前にきょとんと目を丸くするも、少し遅れて彼が花瓶の花のテーマを知っていた理由を理解した。おそらくあれだ、三年二組のドッチボールに強制参加させられた赤葦君に立嶋先輩がその話をしたんだろう。......でも、赤葦君と立嶋先輩が勝負するなんて......正直大食い大会くらいしか思いつかないけど、一体何の勝負をしてるんだろうか?
「......それで、ちょっと早出して中等部に来たんだけど、まさか森が居るとは......て、うわ、もうこんな時間か......!」
「え......あ!うそ、あれ!?スマホ......うそ、サイレントにしたまま......!」
どこか話しづらそうに視線を他所に滑らせる相手に首を傾げるも、現在の時刻を認識した途端サッと血の気が引いた。しまった、今は部活の時間だった!慌ててスマホを確認すると、サイレントモードになっていたそれには先輩からの着信が何度も入っている。ま、まずい、これは相当お怒りだ......!
「............えーと......俺は高等部の校舎戻るけど、森は?」
「............私も、行きます......あ、の......電話、しても、いいでしょうか......」
「......立嶋さんになら、俺も謝らせて。声掛けて邪魔したの俺だから」
「そんな事、ないです......私の時間管理の甘さが原因です......」
すっかり顔を青ざめる私を不憫に思ったのか、赤葦君はそんなフォローする言葉を掛けてくれるけど、これは完全に自分の失態なので彼の申し出を断った。高等部の方へ向かいながら怖々と電話を掛ければ、園芸部の部長様からしっかりと雷を落とされたのだった。
日陰の豆も時が来れば爆ぜる
(......通話中の彼女に気付かれないように、己の指の背にそっと口付けた。)