AND OWL!SS
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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▷▶︎▷2022.08.19(THANKS 819day!!)
思い立ったが吉日。俺の座右の銘であるそれに倣い、ダメ元で電話を掛けたもののまさかの3コール目で相手は普通に出た。
《もしもし立嶋!?超久し振りじゃね!?元気!?俺は元気!!つーかこのタイミングで電話くれるってことは、今日の試合見たんだろ!?お前どこで見た?体育館?オンライン?今どこ居んの?体育館近い?会っちゃう!?》
「......木兎お前、相変わらずうるっせぇ......w」
通話が開始されるが否や、瞬く間に喋り通す相手にたまらずふきだしてしまうと、「いいだろ別に!久々なのにディスんのやめろ!」と若干面白くなさそうな声が返ってきた。
《で、どうなんだよ?見たの?居んの?》
「試合は見た。オンラインでだから近くには居ねぇ。Bがストレート負けしてたから野次ってやろうと思ってなァw」
《おま、本当さァ!最初に言うことそれかよ!》
「それだよ。たく、折角のスペシャルマッチだったのに......何?ストレート負けって。普通フルセットやるだろ。なんか、拠点が海外の選手もわざわざ呼んだらしいじゃん?オイカワ選手とか?ウシジマ選手とか?もっと観たかったなァ」
《ハイハイどうもすみませんでしたァ!ちょっとはしゃぎ過ぎましたァ!!》
自宅のパソコンでバレーボールのドリームマッチを見て、率直な感想を告げると木兎は勘弁してくれと言ったように雑な謝罪を寄越してくる。
それにまた笑いながらも、......プロのスポーツ選手になっても学生時代と何ら変わらない真っ直ぐなコイツに少しだけ安心した。
勿論、バレーの方はめきめきと腕を上げ、学生時代よりもずっとすげぇ選手になっている。体格がマジで違う、ガチでゴリラになった。
《何だよ立嶋、わざわざ文句言いに来たのかよぉ》
「......まぁ、素直な感想は言っとこうと思って?あと、Bのセッターだったイイヅナ選手?あの人のプレースタイル、ちょっとだけアシ君に似てない?トリッキーより堅実というか、絶対的に確実な感じ?」
《ぅわっっっかる!!俺もちょっとそれ思った!!影山もちょっと似てるとこあるけど、あかーしよりも我が出る?感じあるんだよな。どっちかっていうとツムツム寄り?イーヅナ君のがあかーしぽかった》
「だよなぁ、なんか見てて懐かしかったもんwなぁ、アシ君元気?相変わらず修羅場ってる?」
《元気元気!校了?ヤバい時は死にそうになってるけど、そん時以外は元気だよ。あ、そういや夏初ちゃんは?元気?》
「はwそれ俺に聞くのかよwアシ君に聞きゃいいじゃんw」
《赤葦ガード固いから、“はぁ、元気なんじゃないすか”ってテキトーに言われる時がある》
「そりゃお前、聞き過ぎて警戒されてんじゃねぇのwもしくはタイミングが悪いとか......こないだ電話したけど、夏初も元気だよ。あ、でも話の流れで冗談で“アシ君てエロいの?”って聞いたらびっくりするくらいドン引かれたけど」
《ぶはっwお前マジでチャレンジャーだな!wつーか夏初ちゃんに聞くのは可哀想だろ、聞くなら赤葦に聞けよw》
「えー、じゃあ木兎聞いてきて」
《やだよwまだ死にたくねーw》
お互いの後輩の話になり、けらけらと笑い合う。
この感じは本当、梟谷学園高校に居た時のまんまだ。
思わず仄かな懐かしさを覚えながら、園芸部の後輩である夏初が当時の男バレのことを「朝顔のようだ」と話していたことをふと思い出した。
俺よりずっと感受性が豊かな後輩は、妙に印象に残る話をすることが時々あった。
《つーか立嶋、もっと他に感想無いのかよ~?超格好良かった~とか、面白かった~とか》
「おう、めっちゃある。なんだこれ超格好良ッ!!って思って、配信見た後お前に電話したからな」
《じゃあソコもっと話せよ~!俺のビームとか元気球とかいっぱいあんだろ~?》
「まぁ、負けたけどな」
《う、うっせぇ~~~!!ちくしょー、合わせ練習出来ればも少しコンビネーション出来たと思うんだけどさァ......あ、次やる時は合わせの時間くれって黒尾に言っとこ!》
「マジか、次あんの?w」
《あるだろ!楽しかったし!で、次こそ俺のチームが勝つ!全部拾って全部打って、普通の俺を見せてやるよ!》
勝手に次回の開催宣言と勝利宣言をする木兎に、「普通の俺ってなんだよw」とふきだしながらもすっかり感心してしまう。
......何やかんや冷やかしているものの、今の木兎は冗談抜きで世界に通用するバレーボール選手だと思う。
元から向上心が強く、フィジカルもメンタルもひたむきに鍛えてきた木兎は、学生時代よりもずっと強く、逞しくなった。
スポーツ選手としてのポテンシャルは高い方だと思ってはいたが、木兎はそこから更に半端ない努力を重ね、強さを磨き上げたのだ。
それこそ、バレーボールで食べていけるくらい強くなった。これってマジで、ガチでとんでもない事だと思う。
......だけど、木兎はまだまだ満足していないらしい。
強くて逞しい、立派で綺麗な花を咲かせるだけでは飽き足らず、枯れてはまた種子になり、次はもっと良い花を咲かせようと奮闘する。現状に満足せず、常に考え、更に上を求める。
「......木兎はむしろ、植物そのものだな......」
《え?何だそれ?どういう意味?》
夏初の話を思い出したことにつられて、ふと思ってしまったことをぽろりと口からもらしてしまえば、好奇心旺盛な木兎は直ぐに反応を示した。
内心やべ、と思いながらも、顔を合わせて話せるような内容でもないことに気付き、対面しない電話ならまぁいっかと思いなおす。
最悪、居た堪れなくなればこちらから切ってしまえばいい。
「......や、高校の時にさ?夏初がお前ら男バレのこと、“朝顔みたい”って言ってたんだよ。木兎達三年がめっちゃすげー花咲かして、まぁその後引退するから1回枯れるんだけど、木兎達の養分しっかり蓄えた種が後輩のアシ君達で、また来年には違うけど同じ花を咲かせるんだって話してたの思い出して」
《.............》
「で、今日のスペシャルマッチ見て、その話思い出してさ......そん時は、コイツ面白いこと考えんな~って思ったけど、......俺は、木兎が植物そのものだなって思って」
《.............》
「お前さ、今の段階でめっちゃ格好良いのよ。すげぇプレーばっかするし、パワーとかテクニックとかバケモンかと思うし、......何より木兎のバレーボールって、すっげぇ楽しそうに見えるんだわ」
《!!》
「うわぁー、くそー、いいなーって思うし、俺もバレーしてぇーって思っちゃうんだよ。お前、マジですげぇから」
対面してないのをいい事に、思ったことをそのまま話すと「それいいな!俺も立嶋とバレーしたい!」と心底楽しそうにぬかしてきた。
いや、プロのバレーボール選手と一般人がガチンコ勝負したら確実に俺が死ぬからなと返してやりたいところだが、こいつにとってはそんなん全く関係無いんだろう。根っからのバレー馬鹿だから。
「......まぁ、そんな凄い木兎選手なんだけど...お前、現状で全然満足しないじゃん?すげぇスパイク決めても、スーパーレシーブ上げても、サービスエース取っても、もっともっとってなるだろ?...それが、なんか植物っぽいって思ったんだよ。植物もさ、どんなに立派な花咲かせても絶対枯れて、また種からやり直すんだよな」
《.......うん》
「で、来年また元気に咲くんだけど...同じとこで咲く奴もいれば全然違うとこで咲く奴もいる。場所が違えば、去年と全く違う環境で生きていかないといけない。そうじゃなくても気候や天候は日々変化するし、何ならヒトや動物にガッツリ踏まれる可能性もある」
《うん》
「......だけど、アイツらすげぇ強いから、普通に咲くんだよな。去年より環境が最悪でも、考えて、対応して、より強くなって立派に花咲かせんだよ。去年も、今年も、来年もさ。それってマジですげぇことじゃん?」
《.......立嶋、そんな風に思ってくれたの?》
珍しくも俺の長い話の腰を折ることなく、普段落ち着きのない木兎が驚くほど小さな声で言葉を返した。
これでドン引きされてたら直ぐに電話を切ろうとよこしまなことを思いつつ、少しずつ湧き上がる羞恥心にわざと目を向けず、言いたいところまで言い切った。
「......去年も強い、今年も強い、きっと来年も強い木兎は、マジですげぇよ。最高に格好良いし、...そんなん、普通に最強だろ!」
《.......た、立嶋......!!》
「まぁ、今日負けてたけど」
《立゛嶋゛ァ!!!落とすくらいなら上げないでクダサイ゛!!!》
だけどやっぱ最後に羞恥心に負けてそんなことを付け加えると、木兎は電話越しでもはっきりとわかるくらいしょぼくれる。
それに思い切り笑ってしまえば、電話の向こうで誰かが木兎を呼ぶ声がした。
流石に長電話だったなと反省して、「忙しいのに悪かったな」と軽く謝ると、「え?全然?つーか今度は俺が電話するな!」と明るく笑われた。
え、なに、そのイケメン発言。俺、お前の彼女だっけ?
木兎の天然人タラシっぷりに久々呆気に取られていれば、「じゃ、またな!」と元気に告げられて通話が終了した。
「.............」
......不確かな“じゃあな”ではなく、かと言って確実な“約束”でもない。
だけど、木兎の告げる“またな”は、再会の意味合いを強く含んでいる気がしてならなかった。
まるで、物事の“終わり”を勢い余って“続き”に変えてしまうような、そんな気分にさせてしまう木兎に、これからも沢山のヒトが魅了されていくんだろうと漠然と感じて、たまらず笑いがもれるのだった。
一球入根
(今日も明日もその先も、ずっと応援してっからな。)