Happybirthday!!!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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▷▶︎▷2021.12.05(Akaashi)
12月5日。今日が赤葦君の誕生日だと、11月の半ば頃に男バレ主将の木兎さんが私にひっそりと教えてくれた。
突然の話にきょとんと目を丸くする私に対し、木兎さんは相変わらず太陽のようなきらきらとした明るい笑顔を浮かべながら、「夏初ちゃんもお祝いしてあげて?あかーし、絶対喜ぶから」と耳打ちして、何やらわくわくとしたような様子を見せていた。
日頃赤葦君には大変お世話になっていて、何かお礼が出来ればとは常々考えていたので、それも含めて何か贈り物をしようと思い二つ返事で頷くと、木兎さんは更に嬉しそうに笑い、「ありがとう!あ、赤葦にはナイショな!びっくりさせたいし!」と言う言葉を最後に、颯爽と体育館へ戻っていった。
その日から、赤葦君へのプレゼント選びが始まり、休み時間に何が良いか考えたり、休日出掛ける時には色々なお店に寄ってプレゼントになる物は無いか探したりした。
赤葦君本人に何か欲しい物はあるか直接聞ければよかったのだけど、木兎さんから内緒にしてくれと頼まれている手前、それを聞くのは些か躊躇われてしまい、結局悩みに悩んで選んだ物は...薬用のハンドクリームだった。
何かを差し上げるならなるべく実用的な物がいいかと思い、スマホで“バレーボール選手、あると便利なもの”で調べてみたら、いくつか出てきたアイテムの中にハンドクリームがあったのだ。
どうやら冬になると、バレーボールをすることで指先にひび割れを起こしたり、赤切れをすることがあるらしい。
とは言え、しっかり者の赤葦君ならきっと自前のそれを持っているんだろうけど、消耗品だから幾つかあっても困ることは無い......と、思うし、消耗品だからこそあまり高価なものは買わないのではと思う。
だから色々と調べてみて、プロのバレーボール選手がおすすめしていた少しだけ良いお値段のハンドクリームをプレゼントすることに決めたのだ。
これで赤葦君の肌に合わなかったら本当に申し訳ない限りだけど、塗ってもあまりベタつかず、無香料だから男の人でも付けやすいとネットのクチコミに書かれていて、それなりに評価も高いものだったのでそれを信じてえいやと購入してしまった。
「.............」
赤葦君へのプレゼントを用意できたのはいいものの......それを渡すまでのプロセスをすっかり忘れていて、そして、赤葦君が人気者であることもすっかり失念していた。
今朝のホームルーム終わりから何度か赤葦君の元へ渡しに行こうとするものの、直ぐに違う人が赤葦君に話し掛けてしまったり、誕生日プレゼントを渡していたりした為、なかなかタイミングが掴めないままお昼休みに突入してしまった。
私の机の脇にぶら下がる小さな紙袋は所在無さげにユラユラと微かに揺れていて、どうやって渡したらいいんだろうと途方に暮れる私の不安を煽っているようにも見えた。
「.............」
ちらりと赤葦君の方を見るも、今はクラスの男の子達と談笑しながらお昼ご飯を食べていて、時折楽しそうな笑い声が聞こえる。
そんな中でもこのクラスの女の子や他クラスの女の子達がちょこちょこ赤葦君に声を掛け、プレゼントを渡している姿が見受けられた。
その度に周りの男子達が「おーおー、赤葦マジでモテモテじゃんw」とか「イケメンガチで滅べ」とか面白可笑しくはしゃいでいて、正直とてもじゃないけど今の時間、渡しになんて行けない。
「.............」
楽しそうな赤葦君達から視線を元に戻し、ひっそりとため息を吐く。
お昼休みが終われば、五時間目と六時間目の授業がある。
その間の五分休みに渡せればいいんだけど、あいにく六時間目は選択授業で、違う科目を取っている赤葦君とは教室が離れてしまう。
そうなると、帰りのホームルームが終わった時が狙い目かと思うものの、きっと同じことを考えている女の子達が沢山居るんだろうと思うと、どうしても気後れしてしまった。
.......もう、別に渡さなくてもいいかな......。
赤葦君、沢山プレゼント貰ってるし......荷物を増やしてしまうのも、あまり良くないのでは......。
あっという間に思考がずるずると暗くなり、このハンドクリームは自分用として持ち帰ってしまおうかという気持ちになってきた。
赤葦君、色んな人からお祝いされてるし、私は夜にでもおめでとうメッセージを送って......もしかしたら、それが一番ベストなお祝いなのかもしれない。
「.............」
そんなことまで考えて、いや、そうじゃないでしょと思い直す。
折角木兎さんが赤葦君の誕生日を私に教えてくれたのに、それを無下にするなんてあまりにも失礼だ。
あの時木兎さんは本当に楽しそうに笑って、赤葦君をお祝いしてあげてと、びっくりさせたいからと、まるで内緒話をするように私にひっそりと告げた。
もしかしたら、私が赤葦君をお祝いするという行為自体が、木兎さんから赤葦君へのサプライズになっているのかもしれない。
「.............」
それに、やっぱり、私もちゃんと赤葦君に直接おめでとうを言いたいし、このハンドクリームだって渡したい。
今までは、苦手なことから散々逃げ回ってたけど...今日は、特別な日だから。逃げないで、ちゃんと頑張らないと。
「.......ごめん、私ちょっと、用事あるから......少し席外すね」
迷ったら、やりたい方やって後悔する。
先輩の教えに従って、お昼ご飯を一緒に食べていた友達にそう言うと、小さな紙袋とスマホだけ持って足早に教室から廊下に出た。
そのまま部室である第三会議室へ足を進ませ、目的地に辿り着いたところで2回深呼吸をする。
スマホのトークアプリを開き、【お疲れ様です。昼食中に申し訳ないのですが、少しだけ時間を貰うことは出来ますか?】というメッセージを、思い切って送信した。
.......ああ、送っちゃった......と早々に不安と後悔の渦に飲まれていれば、思ったよりも早く返信が来てたまらずぎくりと心身が強ばる。
【お疲れ様。それは構わないけど、何処にいる?】
【重ね重ねごめんなさい。第三会議室へ来て貰うことは出来ますか?】
【謝らなくていいよ。今行く】
相変わらず優しい赤葦君の言葉にほっとすると同時に本当にありがたいと感じた。
理由を聞かれたらどうしようかと一瞬迷ってしまったのに、赤葦君は素直に私のお願いを聞き入れてくれたのだ。
赤葦君のこういう所がとても素敵だと思うし、すごく憧れる。
やっぱり私は赤葦君みたいな人になりたいなぁと思いながら、赤葦君からのメッセージをぼんやりと眺めていれば......私の憧れであるその人が姿を現した。
「遅くなってごめん、色々撒くのに時間掛かっちゃって」
「ううん、全然......!私の方こそ、お昼ご飯中にごめんなさい......」
私の呼び出しに応じてくれた赤葦君に頭を下げてから、両手で持っていた小さな紙袋をおずおずと差し出す。
「.......赤葦君、よかったらこれ、貰ってください......」
「え?」
「っ、お誕生日、おめでとうございます......!」
「.............」
貴重なお昼休みを割いてもらってる為、なるべく手短にした方がいいだろうと思い、唐突ではあったものの赤葦君へのお祝いの言葉を口にした。
「.............」
「.............」
「.............」
「.......ぁ......す、すみません......あの、木兎さんから、赤葦君の誕生日、聞きまして......お祝い、したくて......勝手に、ごめんなさい......」
「え、......あ、いや、ごめん、違う、......ちょっと、びっくりして......」
「.............」
私の言葉に対して赤葦君は黙ったままで、そして差し出した紙袋を受け取る様子もなかったので、顔を青くしながらそれを下げようとすると、珍しく少しだけ焦ったような色を見せた。
「まさか、森が祝ってくれるとは思ってなくて......本当、びっくりした......」
「.............」
「.......いや、違うな......本当は、さっきのメッセージきた時、......ちょっと期待した」
「.............」
「でも、本当に祝ってくれるなんて......嬉しい。ありがとう」
「.............」
色々と予想外の言葉を掛けられ、頭がついていかずにただ目を丸くしていると、赤葦君はその切れ長の瞳をゆるりと甘く緩めて私の手から紙袋を受け取ってくれた。
そのまま「開けてもいい?」と聞かれて、おずおずと頷くと、赤葦君は丁寧な仕草で中身を確認する。
何だか急にドキドキして、がっかりされたらどうしようと少し不安に思っていると......プレゼントであるハンドクリームを見た途端、赤葦君はそれを興味深そうに手に取って眺めた。
「.............」
「.............」
「.............」
「.......ぁ、えと、それ、プロのバレーボール選手も、使ってるみたいで、指先のケアに良いって、言ってて......」
「.............」
「あ、でも、もし肌に合わなかったら、無理して使わなくても、全然いいので......」
ハンドクリームを見たまま何も喋らない赤葦君を前に、思わず聞かれてもないことをベラベラと話してしまうと、赤葦君はおもむろにこちらへ視線を寄越した。
「......こんな良いヤツ、使ったことないけど......別に肌も弱くないから、大丈夫だと思う」
「.............」
「......ありがとう。大事に使う」
「.............!」
聞き心地の好い声音で、優しく笑いながらお礼を述べられ、思わずドキリと心臓が跳ねる。
プレゼントを無事に受け取って貰えた嬉しさと、安心感と、他にも何か色々な感情が胸の内で混ぜこぜになっているような気がした。
「ぇ、と......あの、本当に、おめでとう......!あと、春高、頑張って......!」
「.............」
顔を中心に急速に上がる体温に思考がこんがらがり、ぱっと視線を下へ滑らせてそんな言葉を贈ると、赤葦君は少しだけ間を置いてからゆるりとこちらへ距離を詰め......両腕を軽く広げると、そのまま流れるような動きで私を柔い力で包み込んだ。
「.......うん。ありがとう」
「.............」
囁くような声量で頭の上から振ってきた言葉に、きゅっと胸が詰まり、思わず息を飲む。
驚きのあまり頭のてっぺんから足の爪先までもれなく固まってしまった私に対して、赤葦君は可笑しそうに小さく笑うだけだった。
Happybirthday!!!
Dear Akaashi!!!
(......あと、クリスマス。何欲しいか考えといて。)