Happybirthday!!!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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▷▶︎▷4月14日
部活の時間。キリのいいところで休憩に入ろうということで、軍手を外して水道まで手を洗いに来ていた。
冬のような厳しい寒さはめっきり無くなり、代わりに時折夏のような強い日差しを感じる日もある。
辺り一面を薄桃色に染め上げていた桜も今は新緑色が多くなり、これから来る夏の季節に対応するため、ゆっくりと準備を整えているようだった。
「わっ......」
今日は少し気温が高い為、心地良く感じる水の温度から名残惜しくも手を離し、ジャージのポケットからハンカチを取り出した、矢先。
唐突に襲ってきた春風に目を瞑り、うっかりハンカチを手から離してしまった。
巻き上げられた砂粒から目を守る為に暫く目を伏せて、落ち着いたところでゆっくりと目を開ける。
乱れた髪を少し濡れている手櫛で整えつつ、飛ばされてしまったハンカチの行方を探すも見当たらない。どうやら、近くの地面には落ちていないようだ。
「.............?」
水道付近をきょろきょろと探してみるものの、本当に無い。
今日のハンカチはトリコロールカラーのものだからそんなに目立たないはずもないのに、不思議な程それはどこにも見当たらなかった。
もしかして、遠くの方まで飛んでしまったのだろうか?
困ったなぁと眉を下げながらため息を吐き、何となしにふと上に視線を上げる。
「.......あ......」
探し物は、すぐ上にあった。
運の悪いことに、葉桜の枝に引っかかってしまっている。
多分届かないだろうとは思いつつ背伸びをして手を伸ばすも、残念ながら擦りもしなかった。
狙いを付けてジャンプしてみるも、空振りするだけで全く触れない。
「.............」
用具倉庫から脚立を持ってくればきっと届くだろうけど、この場を離れた時にまた強い風が吹いたら、今度こそどこか遠くに飛ばされてしまうかもしれない。
届かないハンカチにどうしようかとひたすら上を見上げていれば、一つの方法を思い付いた。
少し恥ずかしいけど、先程手を洗った水道の上に立ち、そこからハンカチ目掛けてジャンプすれば届くのではないだろうか。
試しに再び水道まで近付き、登れそうなことを確認してから落ちないように気を付けてその上に登ってみた。
幸い今はジャージを着ているので、多少アクティブなことをしても問題は無いと思う。
コンクリート製の水道の上にそろそろと立ち上がり、普段よりずっと高い視界に新鮮味を感じながら改めて問題のトリコロールへ視線を戻す。
柔い春風にヒラヒラとなびくそれに狙いを定め、準備が整ったところで思い切り飛び跳ねた。
「えッ!?何してっ、いや、危ないッスよ!?」
「!?」
水道から飛び下りた瞬間、ひどく驚いたような声が掛かり思わずビクリと身体が震える。
それでも何とか着地は成功したものの、お目当てのハンカチには全く手が届かなかった。
「.............」
地面にしゃがんだまま、ドクドクと嫌な音を立てる心臓にたまらず俯く。
慌てた様子でこちらへ駆け寄ってくる相手の顔を確認したいのに、知らない人に怒られることが怖くてなかなか顔を上げられなかった。
「だ、大丈夫ですか?あっ、もしかして足捻ったとか!?保健室行きます!?」
「.............」
しゃがんでいる私に対して、声を掛けてきた人は勘違いをしたらしい。
心配そうな声色に流石に黙っていられず、「大丈夫です......」と返答しながら意を決しておずおずと顔を上げると、とても背の高い男の子が屈んだ状態でこちらを見ていた。
その顔には先程掛けられた声と同様に心配そうな色が浮かんでいた為、途端に申し訳なくなって慌てて立ち上がる。
しかし、私が立ってもその男の子の胸下辺りに私の顔がくる。本当に背が高い人だ。
「......すみませんでした......」
やっぱり最初から脚立を持ってくればよかったと内心で後悔しつつ、余計な心配を掛けてしまったことにお詫びを申し上げれば、相手はまた慌てた様子で「いえいえ!頭上げてください!」と気遣ってくれる。
「えっと、アレですよね?さっきのジャンプ、あのハンカチを取ろうとしてたんですよね?」
「.............」
言われた言葉に思わず目を丸くする。
随分と察しのいい人だなと驚いてしまったが、よく考えれば高校生にもなって先程の奇行を何の理由も無しにやっていたらそれこそおかしな人になる。
何らかの理由があっての行動だろうと予め予測していたのなら、葉桜に引っかかっているハンカチさえ見つけられれば簡単に仮説が立てられるだろう。
「もしかして、風で飛ばされちゃったんですか?今日、結構強いやつ吹いてますもんね」
「.............」
まさに彼の推測通りなので控えめに頷くと、自分の考えが当たったことに納得したのか相手も一度小さく頷いた。
そして、おもむろに問題のハンカチへ視線を向ける。
「......んー......いける、かな......?」
「 .............?」
少し考えるように目を細めて、ゆっくりと葉桜から離れるように移動する。
何をしてるんだろうと首を傾げつつ黙って見ていると、彼は適当なところで止まり、葉桜へ向き直った。
一度ハンカチを見据え、ぐっと重心を落とした後、葉桜に向かって一気に走り込む。
「!」
助走の勢いを殺さずに地面を踏み切ったその長身は、驚く程高く飛び上がった。
まるで大きな梟が飛び立つ様にも見えて、思わず息を飲む。
「.......お、っとと!よかった、一回で取れた」
「.............」
目を見張る程の大きなジャンプから軽やかに着地し、体勢を整えながらゆっくりと私の方へ歩み寄る。
人の良さそうな柔らかな笑顔と共に「はい、どうぞ」と差し出されたのは、葉桜から救出されたトリコロールのハンカチだった。
「.......あ......ありがとう、ございます......」
「いえいえ、お易い御用です!」
先程の見事な大ジャンプにいまだ意識を奪われつつ、それでも何とかハンカチを受け取り頭を下げてお礼を言うと、相手はにっこりと爽やかに笑ってくれた。
「俺の身長が役に立ってよかったです」
「..........何センチ、あるんですか......?」
「この間の健康診断で、191センチでした」
「.......ひゃく、きゅう、じゅう......?」
彼の人当たりの良さにうっかり感化されてしまい、思わず身長を尋ねると予想よりもずっと大きな数字が返ってきてさらに驚いてしまう。
191センチって、それって殆ど2メートルあるってことだ。
物腰が柔らかい雰囲気を携えている人だが、この身長だし、もしかしたら三年生なのかもしれない。
「あ、尾長〜!お前今日誕生日なんだって?オメデトー!」
「!」
彼の背の高さにすっかり呆けていると、グラウンドの方から元気の良い明るい声が聞こえた。
反射的にそちらへ顔を向けると、私の知らない人だったのでおそらく彼の友達だろう。
「おー!ありがと!」と爽やかに笑う彼...尾長さんに対して、声を掛けた相手は私の姿を確認するなり少し動揺した素振りを見せた。
「あっ、ごめん!俺めっちゃ邪魔したな!?マジでごめん!」
「え?......あっ、いや、全然違うから!別にそういうんじゃ!」
「頑張れよ~!」
「だから!話聞けって!!」
「.............」
何やら言い合いながらも仲の良さそうな二人のやり取りに何も言わずに静かにしていれば、声を掛けてきた男子は楽しそうに笑いながらこの場から去って行った。
そういえば、さっき誕生日だと言われてたなとぼんやり思い出していれば、尾長さんは困った顔をしつつ頭を搔き、再びこちらへ顔を向ける。
「......なんか、すみません......アイツには、後でちゃんと説明しますので......」
「......あ......いえ......全然......こちらこそ、すみません......」
律儀にぺこりと頭を下げられ、おたおたとしながらも同じように頭を下げれば、尾長さんは慌てて「謝らないでください!」と私の頭を上げさせた。
だけど、元を正せば私がハンカチを葉桜に引っ掛けてしまった為に起こった出来事なので、私が彼に謝罪するのが道理だと思う。
しかしながら、人の良い尾長さんは私からの謝罪を良しとしないようなので、それならばと別方向へ発言をシフトした。
「.......あ、あの......ハンカチ、取って頂いて......本当に、ありがとうございました......」
謝罪ではなく御礼を伝え、もう一度頭を下げた私に「いえ、そんな、全然ですよ!」と今度は少し照れたように早口で返してくる。
でも、実際私一人ではどうしようもなかったし、すっかり困ってしまっていたので尾長さんがこちらへ来てくれて助かったのは事実だ。
何か御礼が出来ればと思うけど、機転の利かない私の脳みそは欲しい答えをなかなかくれない。
「.............」
「.......あ、じゃあ俺、部活に戻ります」
「!」
何かいい考えはないかとぐるぐる考えていると、尾長さんからいよいよ別れを切り出されて思考回路がパチンと弾けた。
「.......あっ......お、お誕生日、おめでとうございます......!」
「え?」
咄嗟に口をついた言葉に、尾長さんはその目をきょとんと丸くさせる。
そりゃそうだ。学年も名前も知らない初対面の人間に突然そんなことを言われたら、誰でもびっくりするに決まってる。
「.............」
「.............」
むしろ、驚きを通り越して気持ち悪いとさえ思われてしまう可能性だってある。
あぁ、余計なことを言うんじゃなかったと顔を青くするも、全てはもう後の祭りだった。
「.......ありがとうございます!」
「!」
果てしない後悔の大波に俯いたままどんよりと沈んでいると、きらきらと光り輝く明るい声で助け舟が出され、おずおずと顔を上げる。
私と視線が重なると、尾長さんはにっこりと嬉しそうに、そして少しだけ気恥ずかしそうに笑った。
その笑顔は思いのほか幼く見えたので、不思議だなぁとぼんやり思ってしまったこの日から数ヶ月後。
尾長さんが一年生であることを知り、驚愕と納得の狭間で大混乱してしまうのは、この時の私には勿論知る由もなかった。
Happybirthday!!!
Dear Onaga!!!
(心も体も大きな“末っ子”の貴方に、最大級の祝福を!)