Happybirthday!!!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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▷▶︎▷1月23日
朝の部活が終わり、教室で一限目の授業の準備をしながらふとカバンの中を見ると、自分のものではないスマホが入っていることに気が付いた。
漆黒のプラスチック製のケースに入れられたそれは、明らかに見覚えのあるものだった。
そろりと手に取り、憶測が確信に変わる。
間違いない。これは、私が所属すると園芸部の部長、立嶋先輩のスマホだ。
だけど、どうして私のカバンの中になんて入っているんだろう?
「あれ?夏初、スマホ変えた?」
前の席の友人から目敏く聞かれ、首を振りながらこれが園芸部の先輩のものであることを告げる。
すると直ぐに「え、なんで持ってるの?自分のは?」と確認されて、私のものはちゃんと持ってることも伝えた。
「.............」
しかし、どうして先輩のものがカバンに入っているのかが全く分からない。
不可解な事態に首を傾げつつ、とりあえず先輩の元へこれを届けに行かなければと思うものの...如何せん、人見知りの自分がひょっこりと顔を出してしまい、なかなか重い腰を上げられなかった。
きっとスマホが無いことに気付けば先輩も困るだろうし、どこに置いてきたのかを必死に考えるはずだ。
まさか私のカバンの中だなんて思わないだろうし、実際私もなんでこんなことになっているのか分からない状態である。
だけど早く返しに行かなきゃという気持ちと、でも三年生の教室に行きたくないという気持ちがせめぎ合い、すっかり困り果ててしまった。
「!!」
先輩のスマホを見つめながら途方に暮れていると、真っ暗だった画面がいきなりパッと明るくなり、スマホ本体が規則的に震え出した。
バイブのテンポですぐに電話であることがわかり、その画面には「小見春樹」という名前が浮かんでいる。
「えっ、あっ、ど、どうしよう!?電話きちゃった......!」
「えー?その小見春樹さんって、夏初の知ってる人?」
「た、多分......立嶋先輩の友達で、バレー部の方だと思う......」
「じゃあ出ちゃえば?立嶋先輩がその小見先輩?のスマホ借りてこれに掛けてるのかもよ?」
おたおたと慌てる私とは対照的に、友達は落ち着いて予想を立ててくれる。
なるほど、確かに先輩のスマホはここにある訳だし、同じクラスの小見先輩のスマホを借りて電話を掛けてきても何ら不思議じゃない。
悩んでいる間も鳴り響くバイブ音に友達からは「出ちゃえ出ちゃえ~」と後押しされ、意を決して通話ボタンに指を滑らせた。
《あ、もしもし!夏初か!?》
「!」
怖々と耳元にスマホを当てた途端、聞き馴染んだ先輩の焦っている声が聞こえ、内心でほっとしつつも直ぐに「はい、私です」と返答すると、電話の向こうで大きなため息が聞こえた。
《あぁ~!よかったぁ!うわ、マジ焦ったぁ......!》
「ご、ごめんなさい......よく分からないんですが、私のカバンの中に先輩のスマホが入ってて......」
《あぁ、やっぱそうか~。いや、お前は全然悪くねぇから謝んなくていいよ。俺がやっちまった案件だから》
「......あの、どういうことですか?」
どうしてこうなったのかはさておき、先輩に迷惑を掛けてしまったことを真っ先に詫びると、先輩はどこか納得したような相槌を打ったのでたまらず訳を聞いてしまう。
おずおずと尋ねた私に、先輩は安心したように笑いながら話を続けた。
《いや、実はさ?俺今日カバンの中身1回部室でぶちまけちゃって。で、お前確か机の下辺りにカバン置いてただろ?俺がぶちまけたの机の上だったから多分、夏初のカバンにスマホだけホールインワンしたんだわ》
「......あぁ、なるほど......」
先輩の説明に納得しつつ、私のせいでは無さそうなことに小さくほっとする。
これで私の不手際とかだったら、本当に申し訳なかった。
《今は時間あんまり無ぇから、次の休み時間に取りに行くな。次移動とかじゃねぇなら、悪いけどそれまで預かっててくんない?》
「あ、はい。わかりました......」
《サンキュ、助かる。...でも、お前よく小見からの電話に出たな?夏初のことだから、もしかしたらビビって出てくんねぇかと思った》
「え?......あ、いえ......と、友達が、電話掛けてきてるの、立嶋先輩なんじゃない?って助言してくれて......」
私の心理をドンピシャで当てられ、少し情けなく思っていれば電話口からは「あ~、なるほど」と納得したような相槌が聞こえた。
《そういうことか。なんだ、てっきり今日が小見の誕生日だからかと思った》
「え?」
途端、思ってもみなかった方向へ話が転がり、思わず驚きの声をもらしてしまう。
電話の向こうで「おい!余計なこと言うなっての!」という少し怒った声がして、直ぐに立嶋先輩の明るい笑い声が聞こえた。
《じゃ、そういうことだから、可愛くお祝いしてやって?》
「え、えっ......」
笑いを含んだ先輩の楽しそうな声にたまらず狼狽えてしまうと、電話を代わるようなやり取りが聞こえ、少ししてから立嶋先輩とは違う声が耳元で聞こえる。
《.......あー、もしもし?夏初ちゃん?ごめんなぁ、こいつバカで》
「......あ、いえ......えと、小見、先輩......です、よ、ね......?」
《はい、小見です》
念の為電話の相手が小見先輩であることを確認すると、小見先輩は少し可笑しそうにふきだしつつもきちんと名乗ってくれた。
小見先輩とは何度かお話ししたことはあるが、こうやって1対1で話すのは初めてだ。
面と向かって話すより電話越しの方が相手の表情が読めない分、お話しすることに若干の不安と緊張が走る。
だけど、先程立嶋先輩から聞いた情報がある為、この言葉は絶対に伝えたかった。
「.......あ、えっと......お誕生日、おめでとうございます......」
発した言葉は思った以上に弱々しいもので、とてもじゃないけどお祝いしているような声音じゃなかった。
これでは何だか無理やり言わされてるようにも聞こえたかもしれない。
失礼な態度をとってしまったのではと一瞬にして不安になると、小見先輩は軽く笑いながら「おー、ありがと!」と明るく返してくれた。
小見先輩の返答に少しほっとしたのも束の間、話の方向が少しばかり違うところへ向いた。
《祝ってくれたお礼に、お兄さんが1個面白いことを教えてあげよう》
「え......?」
《立嶋のスマホ、1個鍵付きのフォルダがあんだけどな?そのパスって4桁の数字で最初が0......》
《おわあああッ!?おま!え!?ちょ、何でそんなん知ってんだ!?バカなの!?小見ちょっと貸せコラ!!》
「.............」
小見先輩の言葉に目を丸くしていると、電話の向こうで立嶋先輩の慌てふためく声が聞こえ、さらに驚いてしまう。
《で、次がぁ、》
《小見てめぇマジで黙れ!!夏初切れ!今すぐ切れ!!》
「.......あ.......え、と......」
《生憎俺、本日の主役なので?誰の指図も受けませーんw》
《小見ぃぃいいぃ!!お前は恩を仇で返すのか!?》
「.............」
電話口でドタバタとしている二人のやり取りを聞きながら、こんなに慌ててる立嶋先輩の声は初めて聞くなぁと場違いながらに思ってしまった。
いつも飄々としている立嶋先輩だけど、どうやら同じクラスの小見先輩には敵わない所もあるようだ。
仲良いんだなぁと感じつつ、電話を切るべきかどうするか少しばかり悩んでいると、小見先輩の楽しそうな声が再び耳元で聞こえてくる。
《夏初ちゃんさ、もし立嶋に泣かされたら俺んとこおいで?一撃必殺で寝首搔かせてやっからw》
「.............」
冗談なんだか本気なんだかよくわからない小見先輩の発言に思わず黙ってしまうと、電話の向こうで「泣かさねぇよ!」という立嶋先輩の面白くなさそうな声が聞こえた。
最初はあっけに取られてたものの、徐々に可笑しさが込み上げてきてたまらず小さくふきだしてしまう。
電話に出た直後の不安や緊張は小見先輩の巧みなトークスキルによって見事に雲散されていて、いつの間にか自然に笑ってしまうくらいリラックスした状態になっていた。
もしかしたら小見先輩は、誰とでも気軽に、そして双方共気楽に話せる凄い人なのかもしれない。
そういえば、立嶋先輩と男バレの所にお邪魔している時、小見先輩はよく私にも声を掛けてくれる。
とても優しくて、本当に素敵な人なのだ。
「.......ぁ、の......小見先輩......?」
《ん?》
笑ったことにより少し肩の力が抜けて、小さく深呼吸をしてから小見先輩を呼ぶと、直ぐに反応を返してくれた。
「.......今日は本当に、おめでとうございます。小見先輩にとって実りある一年になりますよう、心から願ってます」
《.............》
先程よりもしっかりと伝えられた言葉に、ちゃんと言えてよかったとひっそり胸を撫で下ろす。
いつもお世話になっている小見先輩には、きちんとお祝いの言葉を贈りたかった。
《.......夏初ちゃん。俺と付き合おっか?》
「......え......?」
《ダメに決まってんだろ!!うちの後輩誑かすんじゃねぇ!!》
少しの沈黙の後、素っ頓狂な発言をする小見先輩に思わず聞き返してしまえば、立嶋先輩の怒鳴り声と共にぶつりと通話は切れてしまうのだった。
Happybirthday!!!
Dear Komi!!!
(“ムードメーカー”な頼れる貴方に、最大級の祝福を!)