Happybirthday!!!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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▷▶︎▷12月5日
その事実に気が付いたのは、あまりにも遅かった。
「赤葦おめー。これ誕プレな」
「え、ありがとう。俺話したっけ?」
「いや、この前木兎サンにたまたま会ってさ。あかーし5日が誕生日だから宜しくな!って言われた」
「.......なんか、ごめん」
部活の朝練後、教室の自分の席に着いた赤葦君を前の席の男子がお祝いする声が聞こえ、思わず思考が固まった。
え、赤葦君今日誕生日なの?と思ったのはどうやら私だけではないらしく、赤葦君の席の周りでは「赤葦誕生日なの!?え、おめでとう!」と一気に盛り上がる。
「つーか誕プレがおにぎりて!雑過ぎるだろお前w」
「えー?赤葦と言えばおにぎりか米だろ?」
「うん、嬉しい。しかも具が凄い高いヤツ。こんな豪華なもの、自分じゃ買えない」
「え、中味何?」
「イクラ」
「おぉー!......って、200円くらいじゃねぇか!豪華の基準おかしいだろw」
クラスメイトの男子達と赤葦君のやり取りに周りがどっと笑い、「じゃあコレもやるよ~」と次々お菓子やら何やらが差し出されている。
「後で飲みもん奢っちゃる」
「え、いいの。ありがとう」
「赤葦君、ほんの気持ちです♡」
「......うん、くれるなら全力が欲しい。課題は自力でやってくれ」
「男前かよw」
わいわい盛り上がる男子達の話をひっそり聞きながら、私も何かお渡し出来ないかと必死に考える。
最近お世話になりっぱなしだし、理想の人でもある赤葦君の誕生日を是非ともお祝いしたい。
でも、一体何をあげよう?学校で用意できるものなんて限られているし......その前に、赤葦君に声を掛けられるだろうか。
「.............」
そろりと赤葦君を見ると、相変わらず近くの席の男子達と楽しそうに話していて、とてもじゃないけど声を掛けられる感じではない。
しかも、クラスメイトの中には「赤葦君おめでとー!はい、誕プレどーぞ」とちゃんとプレゼントを用意してる女子達も居るらしく、余計に心が慌てる。
今日は確か、12月5日だ。この日が赤葦君の誕生日だと、焦る頭にしっかりと刻みつけた。
▷▶︎▷
お昼休みになり、家に水筒を忘れてしまった私は売店でお茶を買いに来た。
その際、売店に並んでいたおにぎりを見て、そういえばクラスの男子が赤葦君にそれをあげていたことを思い出す。
「.............」
おにぎりなら、部活の後で食べられるし、いっぱい食べる人だから迷惑にならないかな。
完全に二番煎じだし、誕生日プレゼントにするようなものではないのかもしれないが、あいにく赤葦君がバレーボール以外で何が好きなのかとか、そもそもおにぎりの具は何が好きなのかとか、そういうことを一切知らなかった。
とりあえず、差し上げても迷惑にならないものという基準で考えて、売店では緑茶と鮭のおにぎりを購入する。
朝のイクラと比べたらだいぶ劣るけど、鮭とイクラの組み合わせは美味しいと思うので、鮭のおにぎりに決めてしまった。
「.............」
購入した矢先、本当にこれでよかったのか、そもそも私がお祝いするのは変じゃないかというマイナス思考が流れ込む。
教室へ続く道をとぼとぼ歩きながら、やっぱり買わなきゃよかったかなと1人うなだれていると、ふいにいつか聞いた先輩の言葉を思い出した。
『......断言すっけど、人間ってのは悩んだり迷ったりする時点でアウトなんだよ。そうなったらもう、どっち選んでもなんかしらの後悔が残るんだ。あの時やっときゃよかった~とか、やらない方がよかった~とかな』
「.............」
『だったらさぁ、やりたいって思った方やってから後悔しようや。な?』
確か、この言葉を聞いたのは一番最初に男バレの練習試合を観に行くかどうしようか悩んでた時だ。
どっちにしろ何らかの後悔は残るから、それならやりたい方をやれ。
そんな先輩の言葉は、うじうじと悩むことが多い私の行動の指針になっていた。
「.............よし、」
周りに聞こえない程度の声で気合を入れ、おにぎりを落とさないように気を付けながら足早に教室へ向かった。
▷▶︎▷
赤葦君に渡そうと心に決めたのに、気が付けばあっという間に放課後になっていた。
どうやら私が考えていた以上に赤葦君は人気者であり、休み時間になると来客がひっきりなしに来て誕生日プレゼントを貰っているようだった。
まるで赤葦君の誕生日が今日であることは有名な事柄であるように、他クラスのみならず他学年の方々も次々にお祝いに来る。
それを眺めながら、赤葦君はやっぱり素敵な人であると再認識し、そんな赤葦君みたいになりたいというあまりにも高い目標を掲げてしまった自分にひっそり顔を青くしていれば、文字通りあっという間に部活の時間になっていたのだ。
「.......なぁ、夏初サンよ。もしかして具合悪い?」
「え......?」
花壇の周りに落ちている枯葉を竹箒ではいていると、唐突にそんなことを聞かれ思わず目を丸くした。
「......いえ、全然......?」
「え、そうなの?じゃあ何でずっと困った顔してんの?いつもより更に眉毛下がってんぞ」
「.............」
先輩から言われた言葉に、たまらず狼狽えた。
どうやら考え事が顔に出ていたらしい。
なんとも言えない恥ずかしさから咄嗟に俯けば、立嶋先輩は箒を動かしながら話を続けた。
「また何か悩んでんの?それって部活より大事なことか?」
「.............」
「.............」
どう答えたらいいのかわからず、すっかり黙ってしまった私を見て、先輩は軽くため息を吐く。
もしかして怒らせてしまったのかと不安に思っていると、先輩は私の隣まで来ると花壇の淵にどっこいしょと腰を下ろした。
「......とりあえず、話してみなさいよ?うわの空のお前と部活すんの、結構虚しくて嫌だ」
「.............」
おずおずと先輩へ視線を寄せると、先輩も視線を重ねてくれて、ニッと明るく笑ってくれる。
申し訳ないと思う気持ちと有難いと思う気持ちで心がいっぱいになりながら、私はぽつりぽつりと今日のことを先輩にお話するのだった。
▷▶︎▷
「頼もー!!」
立嶋先輩の大きな声が体育館に響き渡り、色々な音が溢れていた館内が急速に静かになる。
「え、立嶋?なに、」
「今日はー!男子バレー部のある人にー!言いたいことがありまーす!!」
突然の先輩の訪問に驚いている男バレの方々であったものの、どこかで聞いたような口調で言葉を続ける先輩に、何人かが「だーれー!?」ときちんと合いの手を入れてくれる。
「二年六組ー!赤葦京治くーん!!」
「え」
「きゃー!♡」
まさか自分が呼ばれるとは思ってなかったのだろう。赤葦君は珍しく動揺した様子を顕にした。
ちなみに裏声まで使い立嶋先輩に悪ノリしているのは、鷲尾さんを抜かした三年生の先輩方だ。見れば女子マネージャーのお二人も楽しそうに悪ノリしている。
他の二年生や一年生は可笑しそうに笑っていたり呆然としていたりと様々で、ひとまず練習の邪魔をして怒っている人が居ないのが唯一の救いだった。
何でこんなことをしているのかと言えば、私の相談事を立嶋先輩が直ぐに楽しいイベントにしてしまったことが原因だ。
「え、アシ君今日誕生日なの?プレゼントおにぎりなの?何それ祝いに行くしかねーじゃん!よし、サプライズ仕込むぞ!」と先輩が嬉々として提案し、あれよあれよとこんな事態に発展してしまった。
嫌がる私の気持ちなんか一切汲み取ってくれず、「来年は夏初の好きなように祝えば?今年は俺の好きなことすんぞ!」という言葉に押し切られて泣く泣く体育館へ足を運んだのだ。
「園芸部の気持ちー!受け取ってくださーい!!」
「!?」
楽しそうに笑いながら、立嶋先輩はリボンをかけた鮭のおにぎりを綺麗なフォームで赤葦君へ投げる。
立嶋先輩の言動にひどく戸惑っているものの、赤葦君は見事にそれをキャッチして、投げられたものがおにぎりであることを確認すると、目を白黒とさせながら再びこちらを見た。
そんな赤葦君に先輩はおかしそうにふきだし、入口脇に隠れている私の背中を叩く。
「......ホラ、ちゃんとお祝いしねぇとまた来年になっちまうぞ?」
「!」
先輩がこそりとそんな言葉を寄越す。
果たしてこれがちゃんとしたお祝いになっているのかが甚だ疑問ではあるが、ここでタイミングを逃すと本当に来年になってしまいそうな気がして、深呼吸を2回してから思い切って体育館の入り口に立った。
「......あっ、あかぁしくんっ、お誕生日、おめでとぅござぃますっ!」
「.............」
ギュッと目を瞑り、大きな声を出してお祝いの言葉を告げたものの、緊張のあまり所々声がひっくり返ってしまった。
恥ずかしい、情けない、申し訳ないの気持ちで頭がパンクして、顔は真っ赤だし涙まで出てくる始末だ。
こんな調子なので当然赤葦君の顔なんか見ることができなくて、木兎さんや小見先輩達のわっと盛り上がる声だけをかろうじて聞いていた。
「アシ君ハピバ~!良い一年を!......以上、園芸部からのサプライズでした~」
完全にパニックしている私を横に、立嶋先輩が締めの言葉を伝え、「邪魔してすんませんっした~」と一応お詫びを告げてから体育館を後にする。
外に出てもいまだにバクバクと跳ね続ける心臓に苛まれていれば、先輩はとても楽しそうに笑った。
「あ~、楽しかった!来年はこれを超える祝い方してやれよ~?」
「.......絶対無理です......」
「赤葦、お前なに貰ったの?」
「おにぎりwさすが園芸部w」
「ナイスピッチングでしたね!そしてナイスキャッチです!」
「でも、まさか園芸部がサプライズかましてくると思わなかったわ。赤葦本当にモテモテだな」
「人徳だろう」
「俺らも部活後に祝ってやるからな~!覚悟しとけよあかーし!」
「え?サプライズにするとか言ってなかったっけ?」
「いや、もう遅いでしょ~?園芸部には勝てないって」
突然の嵐のような園芸部の主張が終わってから、木兎さん達が俺を囲んで楽しそうに話し合う。
......ああ、クソ。今日この時以上に、自分の口下手や無愛想が憎いと思うなんて、後にも先にもきっと無いに違いない。
この感情を、一体どんな言葉に乗せればいいのか。
こんなことで迷わないくらい、もっと精進しなければと固く心に誓った。
Happybirthday!!!
Dear Akaashi!!!
(どこまでも“尽瘁”で実直な貴方に、最大級の祝福を!)