Happybirthday!!!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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▷▶︎▷9月30日
夏の暑さは大気に雲散され、すっかり秋の空気に変化した9月の最終日。
秋の涼しさにより眠りが深くなったせいか、今日はうっかり寝坊してしまった。
家を出る20分前に起きて、青ざめながらも慌てて身支度を整え、ビスケットタイプの栄養食を朝ごはんにしながら電車に乗った。
何とか遅刻ぎりぎりに教室へ滑り込めたものの、お昼ご飯のお弁当を家に置いたままであることを母親からの連絡で気が付き、お昼休みに入った現在、しょんぼりとしながら財布片手に食堂へ来ていた。
友達二人はお弁当の為、食堂に隣接している購買でお昼を買って教室でご飯を食べるつもりだ。
しかしながら、食堂にも購買にも当然知らない人が沢山居て、極度の人見知りである私にはあまり居心地のいいものではなかった。
こういう所も直さないといけないとは思う。だけど、取り敢えずここは人様に迷惑を掛けてる訳では無いので、後から頑張る課題とします。
「あれ?夏初ちゃん?」
「!」
あんまり考えず、目に付いたものを買ってさっさと教室に戻ろうと思っていた矢先、名前を呼ばれてぎくりと身体が強ばった。
呼ばれたのが苗字じゃないということは、大方男バレのどなたかだろうと予想をつけながらゆっくりとそちらを振り向くと、色素の薄いサラサラとした髪が印象的な男バレの先輩、木葉さんが沢山のお菓子を抱えてこちらに向かってくるのが見えた。
「ここで会うなんて珍しいな。今日はお弁当じゃないんだ?」
「.......こ、こんにちは......お弁当、今日、忘れてきちゃって......」
一先ず知っている人だったことにほっとしたものの、おずおずと挨拶をしてからここに居る理由を話す。
私の言葉に木葉さんは「そりゃ災難だな」と眉を下げて笑った。
「夏初ちゃん、食堂で食べる?今木兎とコミヤンと居るけど」
「......あ......いえ......教室に、友達、居ますので......」
おそらく気遣ってくれたであろう木葉さんにすみませんと頭を下げれば、木葉さんは「そっか、ならいいんだけど」と相づちだけ打ってくれる。
その際に抱えているお菓子の一つが落ちそうになり、木葉さんは器用に腕の位置を変えてそれを阻止した。
「.......お菓子......いっぱいですね......」
その様子にたまらず声を掛けてしまうと、「あー、これなー」と木葉さんは少し気恥しそうな顔をした。
「ちょっと貰い物でさ......」
「.......ハロウィン......?」
「いや、それは来月末w」
秋とお菓子という組み合わせに安易に浮かんでしまったイベントを口に出せば、木葉さんは可笑しそうにふきだす。
それもそうかと少し恥ずかしく思っていると、上から咳払いが聞こえ、お菓子から木葉さんへ視線を戻す。
「......今月末は、俺の誕生日だったりして?」
「.......え......」
形のいい唇を少し尖らせ、ぽつりと零すように言われた言葉に思わず目を丸くする。
今日は確か、9月30日。色素の薄い、綺麗な秋色の髪をした木葉さんが、本当に秋生まれだったとは。
「......おめでとうございます......木葉さん、秋生まれなんですね......」
「ありがと。それ、よく言われる」
つい口から思考が零れてしまうと、木葉さんは肩を竦めながら苦笑気味に笑う。
「苗字が“木葉”、そんで名前も“秋紀”だから、これで秋生まれじゃなかったら逆にビックリだよな」
「.............」
木葉さんのお名前が秋紀さんであることを知り、それは本当に秋満載な名前だと勝手に感動してしまった。
「絶対ぇギャグで付けたとしか思えないだろ?」
「.......え......?」
とても素敵な名前だと思ったのに、当の本人はどうやらそう考えてないらしい。
うちの両親、色々安直だからと笑いながら話す木葉さんに、たまらず言葉が口をついた。
「.......“秋山の......木葉を見ては 黄葉をば 取りてぞしのぶ 青きをば 置きてぞ歎く そこし恨めし 秋山吾は“」
「.............」
「.............」
「.......え、と......短歌、だよな?教養なくてごめん」
秋と木葉というフレーズに万葉集の中でも好きな一節を思い出し、そのまま歌うと木葉さんは少し眉を下げて謝罪を述べた。
それに首を横に振り、ゆっくりと深呼吸する。
「......全文は、もう少し長いのですが......春と秋はどちらも素敵で、だけど、個人的に秋は格別だと、額田王が歌ったものだと言われています」
「.............」
「......なので、昔からずっと、“秋”はとても素敵な季節であって......無くてはならない、特別なものなんです」
「.............」
切れ長の目を丸くする木葉さんに視線を重ね、しっかりと言い切る。
「.......木葉さんに、ぴったりだと思います」
「.............」
率直に思ったことを素直に伝えた私をぽかんと見たまま、木葉さんはすっかり黙ってしまった。
そんな木葉さんの様子に、私も段々恥ずかしくなってきて徐々に視線を下にさげていく。
「.............」
「.............」
「.......ぁ......では......失礼します......」
もしかしてだいぶ引かれてしまったのではと思い当たり、変なこと言っちゃったなと後悔するも発言を取り消すことなんてできない。
それならもう手早くお暇するのが一番だと考えて、小さく頭を下げてから購買の方へ足を進める。
「.......あ、ちょ、夏初ちゃん!おわっ」
木葉さんに背中を向けて間も無く呼ばれ、ぎくりと身体と心が縮こまった矢先、後ろからドサドサと複数の物が落ちる音がして慌てて振り返る。
見ると、木葉さんの抱えていた沢山のお菓子の幾つかが床に落ちてしまっていた。
「あー......やっちまった......」
「......だ、大丈夫、ですか......?」
落下したお菓子を拾おうとしゃがみこむ木葉さんだが、その腕からはまた一つお菓子が零れ落ちる。
見るに見兼ねて私もそちらへしゃがみこみ、落ちてしまったお菓子を拾って木葉さんに渡した。
「ああ、ごめんな。ありがと」
「いえ......あの、運ぶの、手伝いましょうか......?」
「あー......や、大丈夫。考えたらさ、木兎と会ったら多分、教室帰してもらえないと思うぜ?」
「.............」
木葉さんに手伝いましょうかとお伺いを立てれば、思ってもない変化球を返され思わず黙ってしまった。
咄嗟にたじろぐ私を見て、木葉さんはまた可笑しそうに笑う。
「木兎の奴、夏初ちゃん大好きだからなw」
「.......木兎さんが好きなのは、多分赤葦君かと......」
「ぶはっw確かにw」
今までの経験上、素直な返答をすれば木葉さんは思わずと言った感じでふきだした。
笑った振動でお菓子が零れ落ちそうになったが、今回は上手く持ち変えてそれが落ちることはなかった。
長い腕に抱えられた沢山のお菓子は、おそらく木葉さんの誕生日を祝いにきた人達からの贈り物なんだろう。
これだけを見ても、木葉さんの人気ぶりがよくわかった。
折角だし私もなにか贈ろうかとも思ったが、これ以上のモノを持つとなるとなかなかしんどいだろうと思い直し、結局木葉さんへのプレゼントは買わないことにした。
「.......木葉さんも、人気者ですね」
沢山のお菓子を眺めて、改めて感じたことを伝えると、木葉さんは少し間をおいてから照れくさそうに笑った。
「まぁ、ミスター器用貧乏ですから?」
「え......?それ、違います」
「え?」
「.............」
木葉さんの言葉に驚いて、思わず直ぐに反論してしまう。
器用貧乏という言葉は、本来あまりプラスの意味を成さないものだ。
木葉さんは謙遜して遣っているのかもしれないが、それをただ聞き流して何も言わないのも少し違うと思う。
沢山のお菓子を抱えたまま目を丸くする木葉さんを前に、少し黙考してからゆっくりと息を吸った。
「.......木葉さんは......中途半端でもないし、大成されてます。バレーも、それ以外も、何でもこなせる凄い人です」
「.............」
「.......なので......“オールラウンダー“の方が、合っていると思います」
「.............」
考えて、伝えた言葉に自分でも納得する。
オールラウンダーで、沢山の人と関わってきた木葉さんだから、木葉さんをお祝いしたい人がこんなに沢山居るのだ。
このお菓子だってきっと、木葉さんをお祝いした人達のほんの一部にしか過ぎないんだろう。
そんな人気者の木葉さんが、食堂に一人でいる私を気遣ってくれ、話しかけてくれた。
木葉さんの優しさに改めて感謝しながら、きちんと視線を重ねてお祝いの言葉を告げた。
「お誕生日おめでとうございます。木葉さんにとって、素敵な一年でありますことを......僭越ながら、願ってます」
Happybirthday!!!
Dear Konoha!!!
(“オールラウンダー”な優しい貴方に、最大級の祝福を!)