Happybirthday!!!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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▷▶︎▷9月20日
「夏初ちゃん夏初ちゃん!今日は何の日でしょうか~?」
放課後、園芸部として高等部側の花壇の水やりをしていた私に、おそらくロードワーク中であろう男子バレー部の先輩、木兎さんがうきうきとした様子で突然そんな質問を投げてきた。
夏が残した暑さが少しずつ和らぎ、徐々に空気が秋めいてきているが、目の前の木兎さんはTシャツとハーフパンツ姿で、変わらず夏と同じ格好をしている。
学校指定のジャージを上下身にまとってる私にしたら寒くないのかなと心配になるものの、木兎さんの質問に何か返事をしなければと慌てて頭を回した。
今日の日付は、9月20日。
何かあっただろうかと黙々と考える。
「.............」
「じゃあ、ヒント!今日は誰かの誕生日です!」
「.............」
直ぐに思い当たる事がなく考え込んでしまうと、木兎さんは明るく笑ってそんな助け舟を出してくれた。
与えられたヒントに思わず目を丸くして木兎さんを見る。
今日は誰かの誕生日で、目の前にはにこにこと楽しそうに笑う木兎さんが居る。
「.......木兎さんの、誕生日......?」
小さな声でおずおずと聞いてみると、どうやらその通りだったらしい。
「大正解~!ヘイヘイヘーイ!」と木兎さんは大層嬉しそうにはしゃいだ。
金色に輝く綺麗な満月のような瞳を持つ木兎さんが秋生まれであることに、何となく感慨深いなぁ思いながら「おめでとうございます」と拙いお祝いを送った。
「おう、ありがと!......と、立嶋は?一緒じゃないの?」
「......先輩は、今日までの課題を思い出したようで、提出しに行ってます......すみません......」
「あ~、マジかぁ!うわ、しくった~。アイツにはドカンと無茶振りしようと思ってたのに~!」
「.............」
園芸部の部長である立嶋先輩がこの場にいないことを知ると、木兎さんは今までの態度とは一変しモノトーンの頭を抱えて悔しそうな様子を見せる。
......もしかしたら先輩は、こうなることを危惧してわざとここから離れたのかもしれない。
こういう事にはとても敏感というか、非常に察しのいい人だから。
木兎さんの言う“ドカンと無茶振り”とは一体どんなことを言おうとしていたんだろうとひっそりと考えていると、ふいに木兎さんはその金色を私へ向ける。
まるでお月様と目が合った心地になり、ぎくりと身体が固まった。
「じゃあ、予定を大幅に変更して夏初ちゃんから何か貰う!園芸部のレンタイセキニンな!」
「え?」
唐突に降ってきた連帯責任という問題に、たまらず聞き返してしまう。
戸惑う私とは対照的に、木兎さんは相変わらずとてもご機嫌なご様子だ。
木兎さんのお誕生日をお祝いしたい気持ちはあるものの、如何せん、今は部活の真っ最中なので本当に何も持っていない。
ジャージのポケットにはスマホとお財布の貴重品二つしか入っていないので、最悪現金ならお渡しできるがそれはそれでとても失礼にあたるのではとぐるぐると考え込んでしまった。
ああ、どうしよう。どうすればいいんだろう。何か機転を利かすことが出来ればいいのに、あいにく私のスペックには重過ぎる案件だった。
「.......あ、あの、木兎さん......本当に申し訳ないのですが、私、今、何も持ってなくて......」
「よし!決めた!」
「.............」
私から何を貰おうかと真剣に考えている木兎さんに怖々とお伺いを立てるものの、私の言葉は物の見事にスルーされ、木兎さんの勢いは止まらない。
「夏初ちゃんの凄いと思うバレー選手、教えて!」
「え......?」
何を言われるのだろうと緊張していれば、木兎さんの口からは聞き覚えのある台詞が飛び出し、思わず目を丸くする。
今のは、以前私が木兎さんに言った言葉だ。
木兎さんのスパイクが私にぶつかってしまい、そのお詫びがしたいと申し出てくれた木兎さんへ、私が頼んだ“お願い事”。
それを今、そっくりそのまま木兎さんから私へ返された。
「.............」
びっくりしたまま固まってしまうと、木兎さんは「どっこいしょ」とその場にしゃがみこむ。
どうやら私の答えを聞くまでここに居座るつもりらしい。
男バレの方は大丈夫なのかなと少し心配になるものの、木兎さんの質問に答える方が先かと思い、私はゆっくりと深呼吸を2回した。
「.......え、と......木兎さん、です......」
本人を前にして出てきた声は緊張した弱々しいものになってしまったが、木兎さんはにっこりと笑いながら「うん」と小さく頷いた。
「......木兎さんの......スパイクが、凄いです。音が、他の人と全然違くて......力強くて、とても格好良いです」
「うん」
木兎さんのバレーボールを思い出しながら、素直に思ったことを伝える。
酷く拙い言葉でも木兎さんは優しく頷いてくれるので、両手の指を緩く弄りながらもたもたと言葉の続きを述べた。
「......凄く、高く飛ぶから......滞空時間が長くて......本当に、空中で止まってるんじゃないかって、毎回びっくりします」
「うん」
「......スパイクを、打つ時の......動き?が......とても綺麗で、見ていてとても気持ち良くて、好きです」
「うん」
「......あと、いつも凄く、楽しそうで......沢山動いて大変なのに、本当に凄く楽しそうで......木兎さんのバレーボール、見てるのとても楽しいです。ドキドキして、ワクワクします」
「.............」
「あと、あの、ヘイヘイヘイって......かけ声?も......楽しくて、好きです」
「.............」
緊張する為木兎さんを見ずに自分の足元ばかり見ていたのが災いして、ふと気付けば木兎さんは口を閉じて俯くような姿勢になっていた。
その様子を見て、瞬時に顔が青くなる。
「あっ......ご、ごめんなさい......!変なこと言いました......!私、感想言うの本当に下手で......!すみません!」
木兎さんがしゃがんでいるので、今は私の方が目線が高い。
ヘアワックスで綺麗に上げられたモノトーンの髪を見下ろしながら、やってしまったと後悔するも後の祭りである。
どうしよう、きっと木兎さんの機嫌を損ねてしまった。今日誕生日の人を不愉快にさせるなんて、私はどこまでダメ人間なんだ。
慌てて頭を下げる私に、木兎さんは大きくため息を吐いた。
「.......はぁ~、やべぇ~......今の、めっちゃズキューンってきた......」
「.............」
口元を両手でおさえ、木兎さんはしゃがみこんだままぽつりとそんな言葉をもらす。
声のトーンから怒ってる訳ではなさそうだったので、おずおずと木兎さんに顔を向けると、木兎さんはおもむろに私へその金色を向けた。
「.......夏初ちゃん、俺のこと超好きな?」
「.......えッ」
視線が合った矢先、ニヤリと笑いながら言われた言葉に少し遅れて反応する。
とっさに半歩後ろへ下がり、ニヤニヤと笑う木兎さんを前に慌てて両手を横に振った。
「いやっ、あの、ちがっ......わ、私は、その、木兎さんの、バレーが好きでっ、そんな、あの、決して、そういう意味では......っ!」
「ぶはっ!ジョーダンジョーダン!わかってるって!夏初ちゃん、本当可愛いな~!」
顔に向かって一気に急上昇した熱に苛まれつつ、誤解を解こうと必死に言葉を紡いでいれば、木兎さんは可笑しそうにふきだした。
完全にからかわれたことが分かり少しばかり面白くない気持ちもあるが、楽しそうに笑う木兎さんを見て、その笑顔に結局何も言えず、ただ小さく息を吐くだけに終わる。
「.............」
「.......でも、ありがと」
「.............」
ひとしきり笑い終わったのか、満足そうにため息を吐いてから木兎さんはおもむろに立ち上がり、私へお礼の言葉を述べた。
視線はあっという間に逆転し、木兎さんを見下ろす形から見上げる形へ変化する。
木兎さんの背の高さを改めて実感していると、木兎さんは笑顔のままゆっくりと片手をこちらへ寄越し...私の頬をその大きな手で優しく撫でた。
その部分はちょうど木兎さんのボールがぶつかり、青アザになっていた所だ。
反射的にびくりと身体をびくつかせると、木兎さんはまるで「怖くないよ」とでも言うように柔らかな手つきで何度も頬を撫でる。
「.......痛い思いさせてごめん。ちゃんと治って、本当によかった」
「.............」
「俺、酷いことしちゃったのに、ずっと仲良くしてくれてありがとう」
「.............」
木兎さんから告げられた言葉に、思考が停止する。
青アザはもうとっくに治っていて、私自身怪我のことなんてすっかり忘れていたというのに、もしかして木兎さんは、ずっと気にしてくれたのだろうか?
仲良くしてくれてありがとう、なんて...むしろ、私の台詞であるべきなのに。
「.............っ、」
労わるような手つきであてがわれた木兎さんの手がゆっくりと離れた矢先、考えるよりも先に私の両手が木兎さんのその手を掴んだ。
突然の私の行動に木兎さんは目を丸くするが、私はその大きな手を離すことなくしっかりと握りしめる。
「私、木兎さんとこうやってお話しできるようになって、凄く楽しいです......!凄く嬉しいです......!」
「.............」
「なので、その、......木兎さんと出逢えて、よかったなって思います......!」
「.............!」
木兎さんのお月様みたいな瞳が、更に丸くなる。
普段なら恥ずかしくて、そして緊張してしまうのもあり、とてもじゃないけど伝えられない言葉ではあるが......今日は特別な日だから、その恩恵にあやかってしまおう。
「お誕生日、おめでとうございます!これからも、木兎さんが楽しく過ごせることを、心から願ってます!」
Happybirthday!!!
Dear Bokuto!!!
(“ただのエース”になる貴方に、最大級の祝福を!)