特別な君へ
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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長いようで短いのが、夏休みである。
その一日たりとも無駄に出来ないと、我が梟谷学園男子バレー部は今日も今日とてバレーボールに打ち込んでいた。
「あ。見て見てかおり、あそこに居るの立嶋君と夏初ちゃんじゃない?」
お昼休憩中、午前練に使用した汗びっしょりのビブスを洗濯し、体育館裏に干していると雪絵に声を掛けられた。
示された方に視線を向けると、体育館に程近いフェンスの傍に園芸部の二人が何やら作業をしているのが見える。
麦わら帽子に軍手をはめ、学校指定のジャージにTシャツ姿の二人がこんな所で何をしているのか気になり、そして丁度ビブスも干し終わったところだったので、雪絵がドリンクを作り終わるのを待ってから二人で園芸部の元へ直撃することにした。
「こ~んに~ちは~」
隣りに居る雪絵が適当な距離で気の抜けるような挨拶をすると、二人はほぼ同時にこちらへ顔を向ける。
「おお、白福と雀田じゃん。こんな所でどうした?」
「体育館裏から二人の姿が見えてねぇ、何やってんのかなぁって気になって、見に来たの~」
私達の顔を見て、立嶋君は作業を止めて不思議そうに首を傾げるが、雪絵の答えに納得したのか軍手を付けた両手で腕を組んだ。
「いや、校長にさ?ここのフェンスの草むしり頼まれちまって、二人で絶賛駆逐中」
「なるほどね......じゃあ、それが立嶋君の立体機動装置って訳?」
「おう。俺のことは今日一日兵長と呼んでくれ」
立嶋君の腰に下がっている草むしり用のカマをふざけて指差すと、ノリのいい立嶋君は誇らしげに何度か頷いてみせた。
「兵長~、夏初ちゃんがきょとんとしちゃってます~」
雪絵の言葉に夏初ちゃんを見れば、あわあわと慌てて首を横に振っていた。
その顔が赤いのは夏の日差しのせいか、それともなかなか馴染んでもらえない私達と話しているせいか。
きっとどちらでもあるんだろうけど、以前男バレが迷惑を掛けてしまったことと、私達女マネが個人的に仲良くなりたいという二つの点で、早く馴染んで貰えるように機会があれば話し掛けていこうと二人で密かに決めていた。
「ああ、夏初はグロいのとか怖いの嫌いだから、巨人は読まねぇんだよ」
「え、そうなんだ。じゃあホラーもダメ?夏の心霊特集とか、全然見ない?」
立嶋君の言葉に相槌を打ちながら夏初ちゃんに確認を取ると、麦わら帽子を両手でおさえながら「......み、見ないです......」と怯えるように眉を下げる。
まるで怖がる子猫のような可愛い動きに、思わず胸がきゅんとなった。
「なのにコイツ、季節じゃ夏が一番好きとか言うんだぜ?夏の真骨頂も味わえないヤツが何言ってんだって思うよなぁ」
「こ、怖い話以外にも夏らしいことはいっぱいあります!花火とか、アイスとか、クワガタとか!」
「え、クワガタ好きなの?」
「夏初ちゃん、虫は平気なんだ...」
まさかの発言に驚きの事実を知ってしまい、思わず目を丸くすると夏初ちゃんはおずおずと私に視線を向ける。
「......園芸部、なので......虫は、大丈夫です......」
か細い声で言われた言葉に、なるほどと納得する。
活動内容がほとんど土をいじることである園芸部だ。虫が苦手であれば間違いなく作業が出来ないだろう。
女の子らしい夏初ちゃんだが、意外にも逞しい一面があるんだなと勝手に関心していると、「あとはナメクジとかも平気だよな」と立嶋君の補足が入る。
アレが平気な人って居るのかと思わず顔を引き攣らせれば、「あの、軍手をしてたらの話です!菌が沢山居るので、素手では触れません!」と夏初ちゃんは慌ててフォローに入る。
「いや、軍手してても私は触りたくないなぁ...むしろ見るだけで嫌だし......」
「......嫌、ですが......ナメクジは、植物を食べてしまうので......駆除する必要が、あります......」
「夏初お前、そこは俺と揃えて駆逐って言えよなぁ」
「......でも、駆逐は、害になるおそれの、あるものに、使いますよね......?害虫、とかには......駆除の方が、合ってると思います......」
「いや、そういうことじゃなくてね?まぁ、いいんだけどね」
「兵長しっかり~」
「やかましいわw」
どことなくズレてる園芸部二人の会話に思わず笑ってしまえば、夏初ちゃんは不思議そうに小さく首を傾げた。
その様子にまた少し笑ってから、ひとまず話の区切りがついたかなと園芸部の様子を確認する。
「......雪絵、そろそろ戻ろっか」
特に不自然でないタイミングで声を掛けると、雪絵も「そうだねぇ」とのんびりと同意を示す。
「外暑いし大変そうだけど、頑張ってね」
「ちゃんと休憩と水分摂るんだよ~?」
「おう、ありがと。お前らこそ大変だろうけど、頑張ってな」
「ありがと。まぁ、頑張るのは木兎達だけどねぇ」
「え?」
「え?」
そろそろお暇するべく話を纏める私達に、驚いたような声を上げたのは意外にも夏初ちゃんで、思わず聞き返してしまった。
咄嗟に出てしまった声だったのか、夏初ちゃんは口元を隠してあっという間に俯いてしまう。
「......夏初、言いたいことがあるならちゃんと言え」
「.............」
「大丈夫だって。男バレ女マネーズは女子には滅法甘いらしいから、怒られないと思うぞ?」
「立嶋君、何それ誰情報?」
黙ってしまった夏初ちゃんに、立嶋君はまるで妹や子供を諭すような口調で言葉を掛ける。
その内容に対して少しばかり気になる所もあるが、立嶋君が口を開く前に夏初ちゃんが言葉を発した。
「......す、すみません......あの、ちょっと、びっくりして......」
夏初ちゃんはおずおずと麦わら帽子を外し、胸の前に抱える。
「......雀田先輩も、白福先輩も、木兎さん達と同じ時間、同じ部活に費やしてるのに......頑張るのは、木兎さん達だと仰ったので......なんでだろう?って思って、しまって......」
「.......」
夏初ちゃんの発言に私も雪絵も何も返せず、ただ目を丸くしてしまった。
大抵の人は、頑張るのは木兎達という言葉に笑って終わりだったからだ。
......なのに、まさか疑問を抱かれるなんて。
「.............」
「要するに、選手同様マネジメントもクソ大変なんだから毎日お疲れ様ですってことだな!」
「!」
私も雪絵も、そして夏初ちゃんも黙ってしまう時間が過ぎると、立嶋君の明るい声が沈黙を破る。
反射的に立嶋君へ視線が集まると、立嶋君は腕を組んだままうんうんと何度か頷いた。
「うちの男バレの練習量ってハンパじゃねぇのに、二人は毎日休まず長時間サポートしてやってんだろ?自分がプレーする訳でもなくさぁ。それってぶっちゃけかなりしんどいと思うし、それなりに頑張ってかないと続けらんないと思うのね」
「.............」
な?と確認を取るように夏初ちゃんを見ると、夏初ちゃんは立嶋君の隣りで何度も頷いた。
「木兎達も頑張ってるし、女マネーズも頑張ってる!そこはお前、胸張って言いなさいよ。同じ男バレ部員でしょうが!」
「.............」
「......と、うちの子が申しております」
「そ、そんな偉そうな口利けません!」
立嶋君の言葉に、夏初ちゃんは眉を下げて抗議するも、「なんだよ、主旨は合ってるだろ?」と飄々とした態度を取られ、悔しそうに黙っていた。
「......うん、そうだねぇ」
仲睦まじい園芸部の二人をぼう然と見ながら、胸の奥がじわじわと温かくなっていくのを薄らと感じていると、隣に居る雪絵が小さく頷いた。
ちらりと雪絵に視線を滑らせると、どうやら雪絵も私と同じような心境であることがわかる。
目線が合った途端、どちらからともなく笑いが溢れた。
「......うん、ありがとね」
少しだけ気恥しく思いながらも、立嶋君と夏初ちゃんに小さくお礼を言うと、園芸部の二人は仲良さそうに笑ってみせるのだった。
▷▶︎▷
先程の立嶋君の一言に不覚にもときめきを覚えてしまい、お互い迂闊だったねと話しながら体育館裏まで戻ると、そこには副主将である二年生の赤葦と一年生でレギュラーの尾長君が何やら話し込んでいた。
「あ、先輩達帰ってきた!」
「ごめんごめん、何かあった?」
こちらに気が付きパッと顔を明るくさせる尾長君に、緩く謝りながら二人の近くへ歩み寄る。
「俺と尾長、早めに昼飯食い終わったんで、何か手伝おうかと思いまして」
「え、本当に?助かる~、ありがと~」
「待たせてごめんね」
赤葦の言葉に二人でお礼とお詫びを口にすると、真面目な後輩達はそんなことないと律儀に返してくれる。
「ジャグ、中味出来てます?」
「うん、全部満タン」
「じゃあ、俺らで運びます。尾長、そっち頼めるか?」
「はい」
この場にある物の中でおそらく一番重たいであろうウォータージャグをいとも簡単に持ち上げる後輩二人にさすがだなと思っていると、尾長君を先に行かせた赤葦がふいにこちらへ視線を寄越した。
「......いつも、ありがとうございます」
「......え、なに?急に改まってどうしたの?」
立ち止まった赤葦が唐突にお礼を言ってきたので、思わず目を丸くして聞き返してしまった。
雪絵もボトルを両手に抱えながらびっくりした顔している。
「......いえ......先輩方が居ることを、当たり前に思ったらダメだなと思いまして」
「......え......」
「......こういう重い物とか、俺や尾長呼んでくれれば持ちますんで、言ってくださいね」
「.............」
「他の一、二年にも言っときますので、力仕事あれば呼んでください」
赤葦の言葉に、二人してぼう然とする。
赤葦は元から気遣いができるタイプだし、よく気がまわる人間だから二年生でありながら副主将という名ばかりの、ほぼ主将の仕事そのものをやってくれている訳だが......先程の園芸部の一件の後にこんな事を言われると、もしかして何か裏で画策でもされたのではないかとうっかり思ってしまう。
「.............」
ちらりと雪絵を窺うと、雪絵も私の方へ視線を滑らせた。
少しの間黙って目を合わせた後、どちらからともなくふきだす。
「......ぷ、あははは!さっきから何なの!なんか怖いんですけど!w」
「ていうか赤葦のタイミング、本当にドンピシャすぎてビビるわ~w」
「え?どういう意味ですか?」
ケラケラと笑う私達を見て、赤葦は珍しく動揺した素振りを見せる。
そりゃそうだろう、一連の流れを知らない赤葦が首を傾げるのは当然である。
赤葦を放ってひとしきり笑ってから、先に声を掛けたのは雪絵の方だった。
「......そういえばさぁ、今度の夏合宿先の森然高校って、確かクワガタいるよねぇ」
「はい?」
ニヤニヤと笑う雪絵の素っ頓狂な発言に、赤葦は予想通りの反応を見せる。
一体何なんだと眉を寄せるその端正な顔を見上げながら、私はとびっきりの笑顔を作った。
「......クワガタ、好きなんだって。夏初ちゃん」
「.......は?」
選ぶ体温はたったひとつ
(頑張って赤葦。立嶋君はなかなか強敵だよ。)