AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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「......これで、撃てるようになります。両手でしっかり持って、的に向かって撃ってください。分からなかったら装填はこっちがやるので」
学園祭一日目、今日はクラスの当番が午前中なので射的銃の説明をお客さん......おそらく一年生女子達に施し、コルク玉をセットした状態で渡す。きゃあきゃあと楽しそうに盛り上がる様子を安全面に注意しつつ見ていると、同じように丁度手が空いたのか射的銃管理担当の友人が話しかけてきた。
「赤葦赤葦、今外で三の二がドッチボール大会やってて、木兎さんとか居て超盛り上がってるって」
「ああ、さっき誘われた。クラスの当番あるから断ったけど、次の回は俺も出るよ」
「え、マジで?じゃあ木兎さん達もまた参加すんの?」
「他の先輩方はわかんないけど、木兎さんは参加するって」
「おお、じゃあ俺も行こうかなぁ。木兎さんとドッチとか超楽しそう」
「うん、来なよ。木兎さんも喜ぶだろうし」
彼の話に、先程木兎さんからそれに誘われ、次は自分も参加することを返せば相手もノリのいい返事をくれる。でも、まさか学園祭で体育祭のようなドッチボール武闘会とやらを出してくるクラスが居るなんて思わなかった。しかしそれが部活の先輩の小見さんや知り合いの先輩の立嶋さんのクラスであることを知れば、どうにもすっかり納得してしまう。なんと言うか、似たもの同士の二人というか、あの先輩方は非常に“ノリのいい”タイプの人間なのだ。
「お疲れ~!どう?トラブってない?」
お客さんから少し離れたところで友人と話していれば、このクラスの学実である志摩が教室に入って来た。彼女は今フリーの時間のはずだが、俺よりもずっとしっかりとした彼女のことだ、責任感からクラスの様子を見に来たのだろう。
「お疲れ。今の所問題ないよ」
「そっか、よかった~。ローテも大丈夫そう?」
「うん。でも、もし引き継ぎ連絡ある場合グループライン使ってもらって、リアルタイムで全員に共有した方が安心かも」
「それいい!そうしよ!私今から流すわ、みんなスマホ触ってるだろうし気付くでしょ」
「あと、今日は学生だけだからか結構余裕だけど、釣り銭は100円もう1本くらいあった方がいいかもしれない」
「了解!じゃあ銀行も行ってくる」
「え、この後俺行くよ。志摩は自由時間なんだから、ちゃんと遊んでくれ」
サクサクと確認作業をして、効率よく動こうとしてくれる相手に流石に悪いと思ってそう申し出れば、志摩は「あははwちゃんと遊ぶって何wお父さんかw」と可笑しそうにふきだした。思わず「お父さんはないだろ、せめて兄貴あたりにしてくれ」と冗談を返すと、彼女は更にけらけらと明るい笑い声を立てる。
「あ、あの!」
「......お二人って、付き合ってるんですか!?」
「え?」
志摩との会話を聞かれていたのか、突然寄越された質問に目を丸くしてそちらを見ると、先程俺が射的銃の説明をした女子達がそわそわとした様子でこちらを見ていた。彼女達とはおそらく面識は無いと思うが、随分とプライベートなことを聞いてくるなと少し構えてしまう俺と対照的に、志摩は彼女達にニッコリと優しく笑った。
「違う違う、私と赤葦学実なの。別に付き合ってないよ。ね?」
志摩の視線がこちらへ滑り、それにおもむろに頷けば彼女達は一様に顔を見合わせ、「突然すみませんでした!」と頭を下げると再び射的へと戻って行った。なぜかちらちらとこちらを見るものの、話し掛けてくるような素振りは見られなかったので多少首を傾げながらも安全管理に努めていると、横に立っている志摩が相変わらず楽しそうな笑みを携えながら小さく息を吐いた。
「......赤葦、本当にモテるよねぇ......この三日間で何人に告られる予定?」
「............」
ひそりと小声で寄越された言葉に、たまらずぎくりとする。......これまでの経験上、自分ではよく分からないがおそらく己の容姿がそこそこ良いらしいことは周りの人達から言われていて、女の人から声を掛けられることも少なくなかった。特に学校内という範囲が狭く色々と限られた生活環境の下では、その比率が高くなる傾向にあった。今までは別にそれをそこまで気にしたことは無く......というよりも、部活や木兎さん、己の学力等々それ以外に考えることが沢山あって、優先順位の低いものはどうしても後回しにしてしまっていた。正直に言えば、自分の恋愛感情にそこまで興味が無かったのだ。梟谷でバレー部に所属し、有難いことにレギュラーとして試合に出させて貰えてる今の状態で......憧れのスターである木兎さんと一緒にバレーをできている最高の状態で、もう他に望むものは何も無いだろうとずっと思っていた。
────だけど、まさか、ここに来てまた誰かを、......あの子を、望んでしまうなんて。
「......そんな予定無いよ」
人間、欲望は尽きないものなんだなと小さく苦笑して、自虐も込めてそんな言葉を返す。あの日の電話以降、森とは話すどころか顔を合わせることも極端に少なくなっていた。あの時、自分の気持ちを伝えようとした矢先、電話を切られてしまったことを思い出す度に胸に苦いものが広がる。彼女がどうして電話を切ったのか、もしかして俺に告白されることを察して、嫌悪や恐怖でそうしたのか。それとも何か他の理由があったのか。散々考えた所で一人で答え合わせは出来ないし、本人に聞かなければ今の状態をどうしようも出来ないことは分かってはいるのだが......何処と無く、彼女から避けられているような気がしてその勇気がなかなか出なかった。我ながら女々しいとは思うものの、人見知りで内気な彼女と折角ここまで仲良くなれたのに己の情欲でそれを壊してしまった挙げ句......もし、声を掛けた所で森から素っ気ない態度を取られたらと思うと、情けなくも恐怖が先に来てしまい、どうしても話し掛けることが出来なかったのだ。
“......赤葦、本当にモテるよねぇ”
先程掛けられた志摩の言葉が再び頭を巡り、もし本当にそんな人間だったら森とはこんな不安定な距離感にならなかっただろうなと考え、改めて己の不甲斐無さを思い知るのだった。
「あかーしぃ!!」
クラスの当番が終わり、暫くしてドッチボールをする為に校庭へ足を向ければ、先に来ていたであろう木兎さんが目ざとく俺を見つけてこちらへ走って来た。そのままガシリと肩に腕を回され、「ヘイヘイヘーイ!赤葦居れば無敵だぜ!勝負だ立嶋ァ!」と元気よく三年二組の立嶋さんに宣戦布告をしていたが、チーム分けがわからない時点でそれを言うのは早過ぎるのではと指摘すると、木兎さんはショックを受けたような顔を向けた。
「えぇー!俺あかーしと一緒がいい!」
「言っとくけど忖度はしねぇからなァ」
眉を寄せて意見する木兎さんの声と被るように、先程話題に出された二組の先輩......園芸部の部長である立嶋さんがやって来て、ニヤニヤと笑いながらそんな言葉をピシャリと告げてきた。しかし、「ソンタクって何?」ときょとんと目を丸くして聞いてくる木兎さんに、立嶋さんは指で何処かを差しながら「鷲尾に聞いてこい」とすっかり丸投げしてしまう。ちらりと立嶋さんの指し示した方向を確認すると、遠目に鷲尾さんの姿が見えた。鷲尾さんもドッチボールに参加するのかと少し意外に思っていれば、木兎さんも同じことを思ったのか実に楽しそうな顔で鷲尾さんの方へ駆けて行く。
「......ところでアシ君。今日、夏初のヤツと何か話した?」
「!」
三年二組の小見さん辺りに連れてこられたのかなとぼんやり考えていれば、ふいに立嶋さんから寄越された言葉にピクリと僅かに肩が跳ねる。
「......いえ、特には。何かありましたか?」
「はは、何かあったのはソッチだろ?」
「............」
なるべく冷静を装って会話に応じるも、俺の動揺なんて最初からすっかり見透かされているようで、相手は可笑しそうにふきだしながら痛い所を突いてきた。......彼女のヒーローであるこの人が何をどれだけ知っているのかは分からない。だけど、少なくとも俺から彼女への気持ちを知られている状態で、下手なことを話して今後意図的に彼女を遠ざけられてしまっては堪らない。最強で最悪のカードを前にどう切り出すかを忙しなく考えていれば、立嶋さんは相変わらず愉しそうに笑って話を続けた。
「......ま、アシ君が参加することでうちのクラスの盛り上がりに貢献してくれてるし?その礼としてひとつイイコトを教えてあげよう」
「......いい事、ですか?」
「いやいや、そんな構えんなってw園芸部ってさ、学祭では毎年花瓶に花生けて学園内にいくつか展示すんのよ。で、その都度テーマを決めてそれぞれの花瓶に生けるんだけど、今年のテーマ、夏初が決めたんだ」
「............」
「......“日頃お世話になってる人への感謝”だってさ。まぁ、言わば夏初からのラブレターみたいな感じだな。すげぇアイツらしいテーマだろ?」
立嶋さんの話に、そういえば以前森が部活のことで少し悩んでいると零していたことを思い出す。もしかしてこの事だったのかと頭の中で納得すると共に、本当に彼女らしい優しいテーマで心の中に温かいものがふわりと広がった。
「ちなみに大体育館のデッカいヤツは俺宛で、図書館のデカいのはめい子宛らしい。あ、でも1個は俺から夏初に作ったんだけど。稀に見るレベルですげー喜んでたな」
「......そうなんですか......」
「で。察しのいいアシ君はもうお分かりかと思いますが......夏初からアシ君宛の花も勿論ある訳だ」
「!」
何処と無くマウントを取られた気がして、しかし園芸部が本当に仲が良いことは十分知っているのでどうにも複雑な心境でいれば、正直全く予想していない言葉を寄越され思わず目を丸くした。......森から、俺に宛てた花がある?何だそれ、聞いてない。そんな花があるなら、絶対見たい。何なら今直ぐにでも見に行きたいくらいだ。
「っ、あの、それって何処にありますか?」
「焦んなってwこっからが本題なんだから」
「!」
途端に心臓がドキドキと鳴り出して、体温の上昇を感じながら立嶋さんに尋ねれば、相手はまた可笑しそうに笑って俺の質問を跳ね除けた。
「......学園内に飾られた花瓶は全部で20個。その中で、見事アシ君宛の花を当てられたら、追加情報開示してやんよ」
「......追加情報?」
「花瓶見つけたところで、どうせ花の種類も名前もその花言葉もわかんないだろ?それら全部教えてやるよ、園芸部部長直々にな」
「────ッ!」
「アイツどうせ恥ずかしがって一切説明しないだろうし。散々悩んで決めてたってのに、本当に口下手っつーか、自己満完結型っつーか。なぁ、アシ君?」
何処か俺を試すような口振りで、立嶋さんはそんなことを提案してきた。確かに、彼女が作った花瓶の花を見つけられたとしても、俺には植物の知識が殆ど無い。彼女が俺に向けてどんな想いでその花を選び、その花にどんな言葉を託したのか......余すこと無く、その全てを知りたかった。
「期限は学祭が終わるまででどうよ?」
俺にとって最強で最悪のカードが笑う。この人の提案が吉と出るか凶と出るかはまだ分からないが、......ここで怖気付けば、この先一生この人には敵わない気がした。
「......見つけます。絶対に」
密かに拳を握り締めてそう返した俺に、立嶋さんは満足そうに笑いながらも「おう。んじゃ、先ずはうちのドッチボール、めちゃくちゃ盛り上げて♡」とちゃっかり別のお願いまで口にするのだった。
窮すれば通ず
(ま、手は貸してやりますけど?カンタンに通れるとは思うなよ?)