AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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梟谷学園総合学園祭、通称総学祭の初日。午前中は私も友達もクラスの当番が無いので、お財布とスマホ、学園祭のパンフレットだけ持って校舎内をまわっていた。
「チュロスある~!食べたい!」
「いいねぇ、じゃあ三年三組行こ。そうだ、立嶋先輩って何出してるの?」
「......“ドッチボール武闘会”」
「なんて??」
友達からの質問におずおずと答えれば、彼女達は予想通りきょとんと目を丸くする。それもそうだろう、私だって先輩から聞いた時同じように聞き返してしまった。
「なんかね、三年生って受験あるでしょう?それで、先輩のクラス、極力準備とかお金とか掛からないものにしようってことになったらしくて」
「なるほど、確かにドッチボールならコートとボール用意して、お客さん集めるだけだもんね?」
「組み分けとかどうするの?」
「確か、参加人数によって決めるんだって言ってた。沢山居たら、先輩方は外野と審判だけ、少なかったらお客さん対先輩方にするって」
「学祭というより体育祭?w」
「先生もよくOK出したよねw」
「しかも、男女共に本気でやるから、怪我は自己責任らしく......参加者は承諾書に記名させるって言ってた」
先輩から貰った情報を話せば、二人は「ガチじゃんwウケるw」と可笑しそうにふきだした。
「あ、11時から一回戦目やるみたいよ?行く?」
「えー......うーん......」
「立嶋先輩と仲良いメンズ、参加するのかな?木兎さんとか」
「木兎さん行くなら赤葦も呼ばれてるんじゃない?」
「!」
友達との会話に出て来たクラスメイトの名前に、たまらずぎくりとする。......結局赤葦君にはまだ声を掛けられてなくて、連絡すらできていない状態だった。でも、今日からの学園祭に乗じて赤葦君に自分から謝りに行き、できるものならまた前みたいにちょこちょこ話せる関係になりたいと思っている。今回、私が決めたテーマで作った花瓶の花達を赤葦君に見て欲しい。全部じゃなくていいから、......せめて、青いリボンを結んだ花瓶のものだけでも、どうか見て欲しいのだ。
「梟谷のイケメンと一緒に遊べるなんて、またとないチャンスじゃんwめっちゃ盛り上がりそうw」
「確かに~!SNSで拡散してさ、日を追う事に参加者増える感じ?なら、今日が一番少ないかもね。梟谷生だけだし、行ってみる?」
「......あ......でも......うーん......」
「ああ、また人見知りか〜」
「......ごめん......」
先輩のクラスのそれに今参加したくないのは、人見知り以外にも少し気分が落ちているからという理由もあるのだけど、赤葦君と微妙な関係になっているのを二人には話してなかった為、内心でごめんと思いつつ少し誤魔化してしまった。
「じゃあ、11時のはやめとく?」
「う、うん......」
「チェストぉ!」
「痛ッ!?」
優しい友達が気をつかってくれて、それに今は甘えてしまおうと思った私の後頭部を、そんな素っ頓狂な掛け声と共に誰かが軽く叩いた。すっかり耳に馴染んだ声と無遠慮にこういう事をしてくる相手なんて、私の中では一人しかいない。予想をつけておずおずと振り向けば......黄色いクラスTシャツにジャージを纏った園芸部の部長様がムスッとした顔で仁王立ちしていた。
「た、立嶋先輩......なんでここに......」
「客引き中!......で?夏初お前、本当冷てぇな?俺との学祭はこれで最後だぞ?」
「............」
「俺は夏初のクラス、行くつもりだけどなぁ〜?何なら3日間行こうかと思ってんのになぁ〜?」
「............」
「俺との思い出、作らしてくんねぇのかぁ〜。は〜、なんて冷たい後輩だこと......夏初とドッチすんの、すげぇ楽しみにしてたのになぁ〜」
「............」
運悪く宣伝中とやらの先輩と鉢合わせてしまい、今までの会話を聞かれていたのかここぞとばかりにそんな言葉を寄越してくる。ひそりと友達二人に救難信号を送るも、彼女達は先輩と私のやり取りを面白可笑しく見守っているだけで、救助してくれるつもりは微塵もなさそうだった。
先輩相手に口で勝てた試しが無い為、結局今回も私が折れて「............わかり、ました......」と渋々参加を表明すれば、相手は直ぐに機嫌を直してからりと快活に笑った。
「よーし!偉い!じゃ、二人も来るよな?夏初の付き添いよろしく!」
「ちょっと先輩!言い方!」
「何だよ、事実だろ?二人とも、うちのがいつも世話掛けてごめんな〜」
「いえいえw全然ですよ〜」
「ドッチボール、制服でも大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫!......あ、でもあれか、スカートだからパンツだけ気ぃ付けてもらえれば!」
「先輩!!最低です!!もう、あっち行って......!!」
私だけでなく友達二人も巻き込んで、しかも下世話な冗談まで飛ばすもんだから思わず声を荒らげてしまい、先輩を他所へやるようにその身体を両手で押し退けた。「危ねッ、押すなコケる!」なんて文句をぶつけてきたものの、私が本気で嫌がってるのが分かったのか「じゃあ後でな!絶対来いよ!」とだけ言ってさっさとここから離れてくれた。先輩の姿が見えなくなった所で、たまらず大きなため息を吐く。
「ごめんね二人とも......先輩のああいうノリ、本当にやだ......」
「あははw全然気にしてないから大丈夫だよw」
「あれだけサラっと言われたら、なんかもう許せちゃうよねw」
「許しちゃ駄目だから......もう、本当、ごめん......」
先輩の悪行を謝れば友達は気のいい返事をしてくれて、だけどそれが余計申し訳なくてじわりと視界が滲んでしまえば「泣くな泣くなw」「本当に大丈夫だって!」と更に優しい言葉を寄越してくれた。彼女達の心の広さに心底感謝しつつ、先輩のクラスのドッチボールに絶対付き合って貰うことになってしまったので、お詫びとして二人にはチュロスを奢らせて頂くのだった。
▷▶︎▷
「あ!夏初ちゃんジャージだ!いいね!」
「!」
先輩に参加しますと言ってしまったので、私はジャージに着替え、友達二人はスカートの下にジャージのズボンを履いて校庭へ来ていた。聞き慣れた明るい声に名前を呼ばれ、顔を向けるとやっぱり予想通りの相手、男バレ主将の木兎さんが楽しそうに笑いながらこちらへ駆け寄ってくるのが見えた。
「もしや、立嶋に参加しろって?」
「......え、あ......あの、もしかして、木兎さんも......?」
「ううん、俺ドッチボール好きだから!ジシュテキに?参加した!」
「......そう、ですか......」
クラスTシャツ姿の木兎さんにこんにちはと挨拶した後、私の参加理由をピタリと当てられて、もしかして木兎さんも同じだったらどうしようと思ったが、どうやらそれは考え過ぎだったらしい。少しほっとしてしまうと、「あとサルと木葉も居るよ」とこのドッチボールに参加する男バレの先輩方の情報をくれた。
「あ、あとあかーしにも声掛けたんだけどさァ」
「!」
「11時はクラスの当番あるから無理だって。13時のは参加するってさ」
「............」
再び出て来た名前にまたドキリとしたものの、そういえばこの時間は赤葦君の班が射的屋を運営してくれてることを木兎さんの話で思い出し、ああそっかと残念に思いつつ......良くないとは思いながらも、少しほっとしてしまう。
「だから、夏初ちゃん次も参加しない?あかーし居るし、俺も居るし、何なら雪っぺとかおりんも誘う予定!」
「......あ......すみません......その時間、私、クラスの当番で......」
「あ、そーなの?そっかぁ、じゃあしょうが無いな~」
「......ごめんなさい......」
「え?いーよいーよ!クラスの当番大事だし!それにほら、学祭は明日も明後日もあるだろ?また次一緒に遊べばいーじゃん!」
「............」
「じゃ、同じチームになったらヨロシク!絶対勝とうな!ヘイヘイヘーイ!」
折角の木兎さんからのお誘いに、今度は私がクラスの当番であることを伝えると、木兎さんは相変わらずにこにこと笑いながら了承してくれた。断ってしまったにも関わらず、嫌な顔ひとつしないで私と話してくれる木兎さんは、やっぱり誰しもが惹かれてしまうとびきりのスターだ。改めて木兎さんの優しさと心の広さにペコペコと頭を下げていれば、ここで丁度三年二組によるドッチボール武闘会とやらの説明が始まった。どうやら初回から参加人数が集まった為、参加者同士での勝負をするようだ。20分間でボールを投げ合い、内野の人数が多い方が勝ちで、最初の外野は三年二組が担当するらしい。ボールが当たったら外野へ行き、敵の内野に当てられたら再び内野に戻ることができる。また、ボールが当たっても他の人が着地する前にそれをキャッチできたらセーフで、顔面が当たってもボールが落ちればアウト扱いになるらしい。そんなルール説明の後チーム分けが発表され、軽いストレッチを全員で行なってから各人コートの中へ入った。ちなみにチーム分けは最初に書いた怪我への承諾書で三年二組の先輩方が決めたようだった。
「あ、夏初ちゃん。やっぱり居た」
「!」
「お、マジ?やった、同じチームじゃん」
友人二人と同じチームで一先ず安心していれば、先程木兎さんが話していた男バレの三年生、猿杙先輩と木葉さんがわざわざ声を掛けに来てくれた。二人共クラスTシャツに下は制服のようだ。
「木兎はあっちだって。で、立嶋は実況らしい」
「嘘だろw実況なんてあるのかよ」
「ちなみに解説は小見やん」
「ゲ、俺らイジられんの確定じゃねぇか」
「だよねぇ......夏初ちゃんは友達と参加?三人?」
「あ、はい......付き合ってもらいました......」
「そっか、じゃあ楽しまないとね」
「は、はい......頑張ります......」
猿杙先輩から立嶋先輩が後方支援だと聞き、じゃあさっきの私とドッチボールをしたいという発言は何だったのと少し呆れつつ、とにかく今はお二人の足を引っ張らないようにしなければと気持ちを切り替えた。万が一変な当たり方とかしたら、先輩に絶対イジられる。それだけは絶対嫌だ。
「......まぁ、狙われそうになったら俺でも木葉でも盾にするといいよ。ね、木葉?」
「おー、お兄さん達に任せな」
運動はあまり得意では無いので悪い想像ばかりが頭を巡ってしまうと、私の不安に直ぐに気が付いた先輩方がそんな心強い言葉を寄越してくれた。お二人の優しさに思わずじんときて、深々と頭を下げてお礼を言うと同時に、ドッチボール開戦の声が天高い秋の空に響き渡った。
「痛ッ!?」
「っと!......取った取った。セーフだけど、大丈夫?」
「あ......ありがとう、ございます......!大丈夫です......!」
始まってしまえばもうあれこれ考える余裕なんて無くて、あちこちに飛び交う豪速球を目で追いながらひたすら逃げる。しかしやはり動きが一等もたついてしまうようで、何度か標的にされてしまった。何とか自力で避けてきたが、先程は猿杙先輩に助けられ、今度は木葉さんが私に当ったボールをキャッチしてくれた。始まる前に寄越してくれた言葉をきちんと実行してくれて、その格好良さと頼もしさには頭が下がるばかりだ。
《ナニ格好付けてんだ木葉秋紀ぃー!とっとと投げろー!》
「うっせぇな!ちゃんと実況しろよお前!そっちに投げてやろうか!?」
しかし、コートの外に居る立嶋先輩の実況という名の野次を飛ばされ、周りがどっと笑う中木葉さんは面白くなさそうにそちらへ怒鳴る。
「ヘイヘイ!勝負だ木葉ァ!」
「......っとに、どいつもこいつもうるせぇな!」
続けて相手チームである木兎さんが木葉さんを挑発するような言葉を寄越し、木葉さんは不愉快そうに顔を顰めながらも綺麗なフォームで木兎さんへ豪速球を投げ付けた。
《チャンスボォォォオオオルッ!!!》
「!?」
その瞬間、立嶋先輩の大きな声にみんなが目を丸くする。チャンスボールって確か、バレーボールで使う言葉だったようなとうっすら考えてしまえば、木兎さんは木葉さんからのボールを綺麗なレシーブで返してしまった。
「......あッ......あ゛あああッ!?た、立嶋お前ぇッ!!汚ねぇぞ!!」
《だっはっは!ハイ、木兎君アウト~w速やかに外野へご移動願いマースw》
おそらく立嶋先輩の言葉に脊髄反射でレシーブしてしまったのだろう。直ぐに先輩へ文句を言う木兎さんだったが、ボールをキャッチせず敵陣へ戻してしまったのでこの競技では残念ながらアウトだ。
《流石全国屈指のバレー部のエース、木兎君。ナイスレシーブでしたね。だだ、この競技がドッチボールなのが非常に残念でした》
「うるせー!!解説すんな!!」
《競技中デース。速やかにご退出願いマース》
「あーあーわかったよクッソ!!お前らマジで覚えてろよ!?」
小見先輩と立嶋先輩の無慈悲な言葉に、木兎さんは怒りながらも外野に移動していく。その様子を見て木葉さんと猿杙先輩が「俺も咄嗟にやりそうで怖い」と声を潜めて話していて、悪いとは思いつつも体に染み付いたバレー魂みたいなものを感じてしまい、小さくふきだしてしまうのだった。
踊る阿呆に見る阿呆
(同じ阿呆なら踊らなにゃ損損!)