AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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ついこの間始まった二学期も、学園祭準備と中間テストで忙しくしていればあっという間に半ばを迎えていた。クラスの「射的屋」の方は実行委員である赤葦君と志摩さんを筆頭に発案者含め二年六組のクラスメイト皆が力を合わせて動いている為、特に大きなトラブルも無く開催に向けての準備が着々と整っていく。
一方、園芸部の花瓶の花束作りは私が決めたテーマに沿って何の植物を使うか、何種類何本の植物が必要か、その調達先はどうするか、すべて予算に間に合うかを普段の部活動をしながら立嶋先輩と何度も話し合い、時にはお花屋さんや公園、河原等に出向いて調達先の交渉に伺った。去年は先輩の後ろに着いていくだけだったけど、今年は私が決めたテーマだということで先輩は私を前に立たせ、自分でお願いしてこいとひどく恐ろしい言葉を寄越してくる。「無理です、出来ません」と顔を青くする私の背中をにこにこと笑いながら無理やり押し出し、最初の挨拶だけは先輩が行ってくれて、後の本題だけは私に任せるということがここ最近何度も続いた。持ち前の人見知りを存分に発揮し、最初の内は上手く喋れず相手の方に多大なご迷惑を掛けてしまっていたが、無理やり回数を重ねていく内に徐々にまともな言葉を話せるようになり、相変わらず顔は青いものの涙で言葉が出なくなることだけは何とか避けられるようになっていた。......一学期の半ば頃、同じクラスで男バレの赤葦君のようなしっかりとした人になりたいと思い、具体的に動かなければとは考えていたので、この経験はそれに対して、......来年、私一人で迎えるだろう今後の園芸部の活動に対しても、きっととても意味のあるものだったに違いない。立嶋先輩もおそらくそれを見越して私にテーマを決めさせ、調達先の交渉を私にさせているんだろうと思う。全ては、来年私が一人でも園芸部をやっていけるように。そして、もし来年、私に後輩が出来たら、今の先輩と同じようにその人にちゃんと引き継げるように。
......こうやって繋がっていく園芸部は、まるでひとつの植物のようだ。だから、例え上手く話せず交渉が失敗してしまっても、時々夢で魘されて夜中に泣きながら起きても、どうにか踏ん張り、頑張っていこうと思えた。いつまでも立嶋先輩に甘え、頼りきりになる訳にはいかないと、今年の夏休みで痛い程思い知ったし、立嶋先輩が居なくても、......先輩が、次の春に梟谷園芸部を卒業されても、安心して園芸部を任せて貰えるようにならなければ。男バレの木兎さんと赤葦君みたいに。
「......あれ?もしかして森さん?」
「!」
今は部活中で、高枝切り鋏を用具倉庫から今日の活動場所に運んでいれば聞き馴染みのあるソプラノで名前を呼ばれた。びくりと肩を揺らし、おずおずとそちらに顔を向ければ、そこには同じクラスの志摩さんがTシャツとショートパンツ姿でこちらに駆けてくるのが目に入った。すらりと長い手足に明るい笑顔がとても素敵で、同性と言えど思わずドキリとしてしまう。
「もしかして部活?園芸部なんだよね?いつもお疲れ様~!」
「え、あ、う、うん......志摩さんも、部活......?」
「うん、今は走り込み~。秋と言えど暑いよねぇ、もう汗びっしゃびしゃだよ」
「あ......た、タオル、要る?向こうに、まだ使ってないタオル、あるから......」
「大丈夫大丈夫!自分のあるから!森さん優し~、ありがとうね~」
ポニーテールを跳ねさせて駆け足でこちらに来た志摩さんは、Tシャツの首元をパタパタと仰ぎながらへらりと笑う。同じグループに居るような間柄でもないのに、分け隔てなく話し掛けてくれて、誰に対しても優しくて元気な志摩さんは本当に魅力的な人だ。
「園芸部も学園祭、何か出すの?展示とか?」
「う、うん......お花、学園内に、飾るよ......」
「そうなんだ~!あれ?もしや毎年やってる感じ?うわ、ちゃんと見とけばよかった~!1年分損した~!」
「......ふふ。じゃあ、今年はどうぞ、宜しくお願いします......」
「まっかして!校内探して全部見るから!」
「ふふ、ありがとう......じゃあ、頑張って作ります」
同じクラスと言えど少し緊張してどもってしまう私の言葉に、志摩さんは特に気にする素振りも見せず嬉しい言葉を返してくれる。おろおろしてばかりの私とは違って表情がころころと変わり、相手の気持ちを考えたスムーズな会話運びには最早感謝と感動、尊敬以外の言葉が出ない。学園祭の実行委員をやってる時も思ってたけど、彼女は本当に心優しくて、周りのことが良く見えて、頭の回転も速い人なのだ。私の憧れである赤葦君と同じ、本当にしっかりとした人なのである。
「......志摩さんは、チア部だよね......私も、見に行くね」
「本当に!?わー!ありがとう!じゃあ森さん見つけたら何かサイン送る!私もめちゃめちゃ頑張るから!」
やっぱり志摩さんは凄いなぁと改めて感じながら、私も彼女の部活の公演を見に行くことを告れば、志摩さんはまた可愛らしくぱっと顔を輝かせた。こんな風にきらきらとしてる所は、木兎さんにも似てるかもしれない。赤葦君の言葉を借りるなら、志摩さんもきっとスターだなとぼんやりと考えていれば、少し離れた所から志摩さんを呼ぶ声がして、彼女は「じゃあまた明日~!」と手を振ってから元気よくそちらへ走り去っていった。それに控えめに手を振り返しつつ、彼女の背中が見えなくなったところでひとつ息を吐く。
......志摩さんは本当に素敵で、しっかりとした人だ。私が彼女みたいになれたら、......明るくて、元気で、誰とでも話せて、賢くて、可愛らしいヒトになれたら、あんな風に赤葦君の隣りに立つことができるのかな。教室でも普通に話せて、笑い合って、赤葦君と、ずっと......
「オイコラ夏初!!」
「!?」
瞬間、ギュルギュルと壊れたカセットテープみたいに歪に回っていた思考がピタリと止まる。ハッと我に返ってそちらを見ると、眉間に皺を寄せた先輩が大股でこちらに歩いてくる姿が見えた。途端にしまったと思うも、後悔先に立たずだ。
「お前ソレ持ってくるだけで何時間待たすつもりだ?おかげで部活の時間がガンガン減ってくんですけど?」
「あっ、ご、ごめんなさい......!」
明らかに不機嫌な立嶋先輩の言葉がグサリと刺さり、部活の時間を無駄にしてしまったことに深く頭を下げた。最近はいつもの部活動にプラスして学園祭の準備も進めないといけなくて、部活の時間を一秒も無駄に出来ないと十分思い知っていたのに。本当に、自分の頭の悪さには失望するばかりだ。たった今志摩さんと話していたばかりだから、余計に自分の不甲斐無さにガッカリしてしまう。
「......何、もしや誰かと話してたの?めい子?」
「......いえ......クラスの、友達です......すみません......」
「ふーん。俺知ってる人?」
「え?ど、どうでしょう......?し、志摩さん、なんですが......」
「シマ......あ、もしやチア部だったりする?」
立嶋先輩の言葉に思わず目を丸くして、なんでそんなことを知ってるんだろうと疑問に思いながらも小さく頷けば、先輩は不機嫌そうな顔から一変してからりとした明るい笑顔を見せた。
「マジか!お前、シマちゃんと友達なのか!おー、いいこと聞いた!」
「え、え?せ、先輩、志摩さん知ってるんですか?」
「知ってる知ってる。チア部二年のシマちゃんだろ?三年男子界隈で可愛いって結構有名だぜ?知らねぇの?」
「......知りません......」
あっという間に機嫌の直った先輩にほっとしつつ、志摩さんのことを尋ねれば随分と素っ頓狂な話が返ってきた。確かに志摩さんは可愛いし、優しいし、男女共に人気があることは知ってるけど......立嶋先輩からそういう話をされると、何だかひどく心がざわついた。ガツンと、頭を殴られた気分だ。
別に先輩の恋愛事情に私がとやかく口を挟む理由も権利も何も無いけど、よりにもよって、その対象が志摩さんなんて。......赤葦君の隣りに自然と居ることが出来て、立嶋先輩からも一目を置かれて......志摩さんがとても素敵な人なのは重々承知してるけど、それでも。
「今度シマちゃんと話す時俺呼んでよ」
「............絶対、嫌です」
「は?なんで?......え、なんで泣いてんの?オイ、?」
「泣いてません......」
「いや、泣いてんじゃん......あー、ソレ貸して。俺持つよ」
「結構です」
じわじわと目に溜まる涙を片手で擦り、狼狽える先輩の申し出を断りながら高枝切り鋏を持って足を進める。その後ろを先輩が着いてくるが、いつも通りの会話をするには些か私の情緒が不安定だった。......我ながら、なんて面倒くさい卑屈な性格をしているのだろうと思う。志摩さんと私を比べた所でヒトとしての差は歴然で、立嶋先輩しかり、めい子先生しかり、赤葦君や木兎さんしかり、素敵な人の周りには沢山の人が集まるというのは既に知っているはずだ。だから、志摩さんに赤葦君や立嶋先輩が惹かれるということも、別に何も不思議じゃない訳で。
────だけど。
「......夏初、ごめん。気ぃ悪くしたなら謝る。悪かった」
「............」
今日のことでまた自分の嫌いな所が浮き彫りになってしまい、果たして自分を好きになることなんて出来るのかと鬱々とした気持ちで歩いていると、背中から少し固い先輩の声が掛かった。その声音に思わず足を止めると、不意をつかれて高枝切り鋏を奪われる。反射的にそちらに顔を向けてしまえば、そこには珍しく眉を下げた立嶋先輩の顔があった。
最初こそ、先輩の言葉に少しムッとして反抗してたけど、こんな風に先輩を本気で困らせたかった訳では無くて、気まずそうに謝って欲しかった訳でも無くて、ただ、......ただ、私が凄く嫌な人間過ぎて、結局は自分にほとほと嫌気が差していただけなのだ。
「............ごめん、なさい......違うんです......」
「............」
「......ちょっと、自分の面倒くささに、......最悪だなと、思って......先輩は、悪くないです......」
謝罪を寄越してくる先輩に、私も頭を下げてそんな拙い言葉を返す。たかが自分の醜い嫉妬心に優しい先輩を巻き込むなんて言語道断だ。
「............」
「......なぁ、夏初。学園祭の花さ、やっぱ俺だけで1個作っていい?」
「......え......?」
自分の不甲斐なさをいつまでも引き摺って落ち込んでいれば、ふとそんなことを聞かれ、たまらず目を丸くする。いきなり変わった話題についていけずにいると、先輩はずいっとこちらに顔を近付けてきた。
「夏初のイメージで作ってやる。世界一最高なの作るから、それで機嫌直せよ。な?」
「え、え......!?」
「ハイ、決まり~。じゃ、この話はもう終わりな~」
明るい太陽のような笑顔を向けられ、そして告げられた内容に驚いて、おたおたと狼狽えてしまうも先輩はさっさとこの話を畳んでしまった。
「うし、そんじゃあ再開しようぜ!時は金なり!走るぞ夏初!」
「えっ、ちょ、ちょっと先輩!」
混乱する私を置いて、高枝切り鋏を持ちながら風のように走っていく先輩の背中に目を白黒とさせながらも......どうしても気になることが我慢できず、つい大きな声をその背中に掛けてしまった。
「は、刃物を持って走らないでください!危ないです!」
私の声に先輩は前につんのめるようにして足を止め、こちらに振り向きながら「お前、そういうとこだぞ~!?」と不服そうな声を上げる。その様子が何だかとても可笑しくて、つい吹き出してしまった私の笑い声は、天高い秋の空にゆっくりと溶けていった。
▷▶︎▷
「赤葦君」
「!」
お昼休み、飲み物を買いに行った帰りの渡り廊下で赤葦君の姿を見つけた私は、彼が一人なのをいいことに緊張しながらも声を掛けた。教室だとなかなか話す機会が無くて、だけど、どこかで話せたらなとずっと思っていたからだ。
「あの、今喋っても、大丈夫?」
「うん、大丈夫。何かあった?」
何だか久し振りに話すような気さえして、おずおずと赤葦君の都合を窺うと会話する姿勢を取ってもらえたので、ほっとしながら話の先を続ける。
「この前、河原でね?葦を見掛けたから、ちょっと話したくて......」
「......ああ、俺の分身?」
「分身......?ふふ、そうなの?」
先日部活で行った河原に葦が生えていて、その時男バレの方々と葦の話をしたことを思い出したのだ。あの時赤葦君は何も言ってなかったけど、まさか「分身」なんて言葉で表現されるなんて思ってなかったから、思わず小さく吹き出してしまった。
「......ああ、でも、黄金色の穂がとても素敵で、綺麗で、立派だったから......確かに、赤葦君の分身かもしれないね......」
「!」
妙に可笑しくてくすくすと笑ってしまうも、河原の葦の様子を思い出して素直な気持ちを述べる。秋風に揺れる稲穂が美しくて、太陽に向かって真っ直ぐに伸びるその姿は、確かに赤葦君を表しているような気がする。
「ッ、......森、あのさ、俺、 」
「あ!居た居た、赤葦~!至急木兎さんが連絡寄越せって~!」
「!」
「......あ、じゃあ、教室戻るね......えと、木兎さんには、宜しくお伝えください」
笑う私に赤葦君は何かを言いかけたけど、少し離れた所から他クラスの男子に呼び掛けられた為、とりあえずここでお暇しようとすれば「......森」と小さな声で呼ばれた。反射的に動きを止めると、赤葦君は私の耳元に口を寄せ、声を潜めて言葉を告げた。
「......今日の夜、電話する。あんまり遅い時間にならないようにするから」
「............」
「じゃあ、また」
それだけ言うと赤葦君は姿勢を戻し、スマホを片手に教室とは逆方向へ歩いて行ってしまうのだった。
我が身のことは人に問え
(いいところも、悪いところも。)