AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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美人な男バレマネージャーの先輩方に声を掛けられ、気圧されながらもどうにか思考を停止してしまうことだけは防いだ。
髪を下ろしている方は白福先輩、ポニーテールの方は雀田先輩というらしい。
「木兎が本当にごめんねぇ。相当痛かったでしょ~?」
「そのマスク、もしかしなくてもアザ隠しだよね?どう?少しは良くなった?」
白福先輩はしゃがみこみ、同じ視線になって話してくれる。
雀田先輩は中腰になり、怪我の心配をしてくれた。
慣れない相手にドキドキとしながらも、怪我の経過は良好で心配ないですと必死に返す。
どうやら綺麗な人は性格もいいらしい。
「それならよかったけど......なんか、木兎が絡みに行ってるんだって?アイツうるさいでしょ?色々自分勝手だし、迷惑かけてない?」
「いやいや、めちゃめちゃ迷惑でしょ~。だって木兎だもん、迷惑掛けない訳ないじゃん」
「......い、いえ......あの......」
木兎さんの話を振られ、どう返したらいいのか言いあぐねていると、二人揃って「本当にごめんね」と苦笑してくれた。
そんなことないと伝えたいのだが、口下手な自分が本当に恨めしい。
「今日も夏初ちゃんのとこお邪魔してたんでしょ?何か馬鹿な話されなかった~?」
「......そんな、全然......あ、赤葦君が、凄い選手だと、お聞きした、だけで......」
「え?なんで赤葦の話?」
白福先輩の言葉にしどろもどろになりつつ答えると、雀田先輩が首を傾げた。
事情を知らない二人に事の顛末を拙いながら説明する。
私の話を聞くと、二人は可笑しそうにふきだした。
「何それ、私も見たかった~。赤葦すっごい役得じゃん」
「今日の部活楽しみだわ~。滅多に無い照れ葦が見られるかもしれない」
「照れ葦w笑うw」
楽しそうにケラケラと笑ってから、二人はおもむろに立ち上がり、私を見る。
慌てて私も立ち上がると「何この子、可愛いんだけど」と雀田先輩に軽口を叩かれてしまった。
「じゃあ、夏初ちゃん。また今度、ゆっくり話そうねぇ」
「木兎も赤葦も迷惑だったら迷惑だってハッキリ言っちゃっていいからね」
「......いえ、あの、そんな......」
「ちょっとかおり、夏初ちゃんには荷が重いから」
そんな言葉を最後に、白福先輩と雀田先輩は手を振って花壇から離れていった。
私もぺこぺこと頭を下げながら、二人の姿が見えなくなるとたまらず大きなため息を吐く。
木兎さんのボールがぶつかったあの日から、何だか馴染みの無い人達と話す機会が鬼のように増えた気がする。
私が人見知りをしない人間だったらどんなに良かったかと考えるも、たらればを考え出すと際限ないうえに何のメリットもない。
「......作業しよ......」
もう一度大きく息を吐いてから、私は再び黙々と草むしりを再開した。
▷▶︎▷
「悪ィ悪ィ、待たせたな」
草むしりが粗方終わった所で、部活の先輩がいつものジャージ姿でやって来た。
馴染みのある顔を見て、内心少しだけほっとしたのは絶対秘密だ。
「おはようございます、草むしりは大体終わりました」
「みたいだな、一人でやらせちまって悪かった」
校舎沿いに伸びる縦長の花壇をぐるりと見渡し、先輩は素直に謝罪してくる。
それに対して首を横に振ると、先輩はどっこいしょと呟きながら私の側へしゃがみ込んだ。
「そういやどーだった?木兎」
抜いた雑草の入ったゴミ袋の口を結んでいた私は、先輩の質問にぎくりと固まる。
私の様子を見て、先輩は先に察したようで「また後日?」と私の返答を待たずに言葉を続けた。
「......一応、返答は頂いたのですが......凄いと思う選手は、一人だけではないようで......」
「あ~、確かに人数制限してなかったもんな。抜かった」
「.............」
「で、誰って答えてた?プロ?アマチュア?」
「......うちのクラスの、赤葦君でした」
私の言葉に、先輩は目を丸くさせた。
しかしそれは数秒のことで、すぐにニヤリと口角を上げる。
「......そうきたか。っつーことは、男バレのヤツら全員......いや、スタメンだけか?兎に角そいつらのプレゼンをしたいと」
「.............」
「は~、そいつは難儀だねぇ。ドンマイ百恵ちゃん」
「......先輩、ちょっと楽しんでるでしょう......?」
「いや、だいぶ」
「.............」
邪心を隠そうともしない先輩に思い切り不満の目を向けるも、効果はいまひとつのようでニヤニヤと腹の立つ笑いをされるだけだ。
戦意は早々に喪失し、大きなため息を吐きながら立ち上がると、今しがた引っこ抜いてきた雑草が詰まっているゴミ袋を手に取る。
取り敢えずゴミ捨て場に行こうと足を進めると、持っていたゴミ袋を唐突に奪われた。
重さの無くなった両手から視線を滑らせると、しゃがんだままの先輩がゴミ袋を持ってくれている。
「夏初サンよ、そんなに怒りなさんな」
「......別に怒ってないですよ」
「それ、怒ってる時の常套句」
「......呆れてるだけです」
私の言葉に先輩は可笑しそうにふきだし、笑いながらゆっくりと立ち上がった。
今まで見下ろしていた状態からあっという間に見上げるかたちとなる。
そのままゴミ袋を持って歩き出した先輩の後をついて行こうとすると、お前は待ってていいよとまた笑われた。
「いえ、私がむしった草なので......」
「なんだそれ、笑うんだけど。ゴミ捨てくらい先輩にやらせてちょうだいよ」
「......でも、」
「なに、もしかして一人で居たくない?最近よく知らねーヤツらに話し掛けられるから?」
「!」
先輩から言われた言葉にぎくりとする。
そんなつもりではなかったのだが、言われてしまえば否定できないように思えた。
最近色んな人によく話し掛けられて、疲弊しているのは確かだ。
別にその人達が嫌いという訳ではなく、ただ、馴染みの無い人との会話に酷く緊張してしまうのである。
思いがけない図星を突かれてしまい、どう返せばいいのかわからず結局口を噤んでしまった。
他人に話し掛けられるのが嫌で一人で居たくないなんて、小さな子供がすることじゃないか。
「......全く、仕方ねぇなぁ」
自分の不甲斐なさに落ち込み始めていると、先輩の声と共に頭に小さな衝撃を受けた。
ビクリと肩を揺らすと、そのまま大きな手でぐしゃぐしゃと頭を撫でられる。
「これ捨てたら、ここに何植えるかのドラフト会議でもすっか。図面だけ持ってどっかでやろうぜ、俺腹減ったわ」
「.............」
「おい夏初、返事くらいしろ~。独り言じゃねぇぞ~」
「......はい......」
先輩が私を気遣ってくれたのは明らかで、それを情けなくも嬉しくも思ってしまい感情が一時迷子になった。
いつも本当に自由奔放な人だけど、この人は確かに優しいのだ。
園芸部員である私の、自慢の先輩である。
......なんて言ったらきっとからかわれてしまうから、絶対言わないけど。
「あ~、ラーメン食いて~」
「え、もうお夕飯ですか?」
「いや?なんだ、おやつ?」
「......せめて杏仁豆腐とテーブル席があるラーメン屋にしてくださいね......」
禍福は糾える縄の如し
(大切なのは、気の持ちよう。)