AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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毎年恒例の梟谷総合学園祭で、私のクラスである二年六組は縁日、射的屋を開催することになった。
学園祭実行委員の赤葦君と志摩さんのテキパキとした司会進行の元、特に大きなトラブル無くスムーズに準備期間は進んでいく。
射的屋を行うにあたり、大体の教室のレイアウトや遊び方のアウトラインを決めた後、必要な担当や役割を振る。貸出の射的銃の取り扱いをする人、同じく貸出のコルク球の管理をする人、的や得点を記録する人、景品を管理する人。他にも全体の安全確認をする人や射的屋の受付をする人等、一人一人がどれを担当するか人数を調整しながらなるべく本人の希望通りになるよう、実行委員の二人はクラスのみんなと上手くコミュニケーションを取りながら割り振っていく。
しかし、それでもやはり人気の役職とそうではないものは存在するようで、その時は以前このクラスの担任の先生がやったようにあみだくじを作り、なるべく公平に決めていくようだった。
「夏初は何希望?」
「うーん......景品管理かなぁ......」
「そっかー......ねぇ、もしかしてまた人見知り発動してる?」
「............」
前の席に友達と希望の役割を話していると、鋭い指摘を受けてたまらず口を閉じる。
いや、その、しっかりした人にはなりたいと思ってるし、人見知りも直したいと思ってる。だけど、学園祭となると、このクラスだけでなく学園全体、それにプラスして保護者の方やご友人や他校の方々も来られる訳で......あまりにも不特定多数の人々と関わらないといけないという環境は、正直まだちょっと恐ろしい。
だから、なるべく身内と接することが多そうなもので、尚且つ鈍臭い私が邪魔にならないものと考えると、景品管理が一番妥当なのではと思ったのだ。ちなみに射的銃の管理は男子に人気で、先程からあみだくじによる怒涛の争奪戦が起こっている。
コルク球管理や的、得点記録は俊敏性や容量の良さを求めそうだし、安全管理は恐れ多い。受付は以ての外なので、消去法により景品管理を希望することにした。
有難いことに景品管理はそこまで希望者が多くないようだったので直ぐに決まる。友達は受付希望だったみたいで、そっちも即決したようなので議題が移るまで二人で他愛のない話をしながらこの時間を潰した。
わいわいと騒がしかった担当決めが終わると、ホームルームの残り時間はほんの少しになっていた為、今日は一先ずここで終わるようだ。
「次の時間は今日決めた各担当で集まって、細かい所を取り決めてもらいます。簡単なものだけど、ガイドラインは俺と志摩で作成するので、それ使って担当毎にミーティングしてください。最後15分で取り決めた内容を全員で共有します」
「赤葦待って。15分じゃ短くない?他の担当からの質疑応答は無し?」
「ああ、ごめん。失念してた。じゃあ、話し合いが進めば30分くらい取ろうか。それと、俺も志摩も部活あるから時間オーバーはしないつもりなので、ご協力お願いします」
「お願いしまーす!あ、あと私は安全管理、赤葦は射的銃取り扱いの担当だけど、次の時間は全体のフォローに回るからそこもご認識お願いします!」
実行委員の二人の息の合った進行で本日の学祭会議も時間ピッタリに終わる。
帰りのホームルームは連絡事項が無いということでそのままお開きとなり、掃除当番以外のクラスメイト達がそれぞれの目的地へわらわらと動き出した。
私も部活に行こうと立ち上がり、前の席の友達に「また明日」と挨拶をしてから教室の出口へ歩き出すと、実行委員である志摩さんが赤葦君を呼ぶ声が聞こえ、無意識にその会話をひっそりと拾ってしまう。
「即席だけど担当者リストできた!全員居るはず!ちゃっちゃとガイドライン作ろ!」
「え、いつの間に?流石志摩だな、ありがとう......て、ちょっと待て。あだ名で書くなよ、誰かわかんないだろ」
「えー?わかるでしょ、赤葦なら」
「......“あかーし”が俺なのはわかるけど、この“うっちー”って誰?」
「え、大内」
「いや、大はどこいったの」
おそらく教室に残って次の学祭会議の準備をしているだろう二人の会話に、周りに集まっている数名がどっと笑った。
その笑い声に釣られるようにちらりとそちらに視線を寄越せば、志摩さんと机を向かい合わせにくっつけて座っている赤葦君が、周りに居るクラスメイト達と楽しそうに話している姿が見える。
......昨日は一緒に夕ご飯を食べに行って、二人で色々話して、その後恐れ多くも家まで送ってもらい、少しびっくりしたことを相手から告げられたけど......日付が変わり、世界が教室の中になれば私と赤葦君の距離はあっという間に遠くなる。
昨夜の赤葦君は「しっかりした人になる」と私に宣言してたものの、今日の学祭会議といい普段の教室内といい、もうすでにしっかりした人として完成されているのではと首を傾げてしまうが、向上心の高い赤葦君からしたらそれでもまだ未熟さが目立つようだ。
目線の高い赤葦君から見たら私なんか本当にただの甘ったれで、本当は内心辟易しているのではないかと自分の想像にひっそり顔を青くしてしまうと、まさかのタイミングで赤葦君と目が合ってしまった。
「!」
「......あ、」
「夏初ー!」
「!?」
思いのほかしっかり重なってしまった視線にぎくりと固まっていると、赤葦君は何かを言いたそうに口を開いた。瞬間、教室の外から聞き馴染んだ声で名前を呼ばれ、びくりと肩を震わせながら反射的にそちらへ顔を向ける。
そこには我が園芸部の部長様である立嶋先輩が居て、「お疲れ!」と軽く片手を上げてからいつものように人懐こい笑顔を浮かべた。
それに「お疲れ様です」と返しながらも、混乱する頭を携えてとりあえず先輩の元へ駆け寄る。
「え、どうしたんです?何かありました?」
「や、別にそういうんじゃねぇけど。二度手間防止?みたいな?」
「?」
わざわざ私のクラスに来るなんて、もしかして何か緊急性の高いことがあったのではと予測して尋ねれば、先輩は片手をひらりと振った後ここに来た理由を話し出した。
どうやら、今日は部室に行く前に職員室から用具倉庫の鍵を借りた先輩に、担任の先生からの呼び出しが掛かったらしい。その用件の終わる時間が見えないことから、とりあえず先に借りた用具倉庫の鍵を同じ園芸部である私に預けに来たようだった。
先程先輩が言った「二度手間防止」というのは、私が職員室へ寄らずそのまま用具倉庫へ迎えるよう、鍵を直接渡しに来たことを指すのだろう。
「だから悪ぃけど、作業進めといてくれ。万一俺の方が長引いて水遣りまで終わったら、学祭のミーティングしたいから部室居て」
「わかりました」
用具倉庫の鍵を受け取り、言われたことに了承の返事をすると立嶋先輩はひとつ大きく頷いた。
「じゃ、頼んだぞ~......あ、アシ君じゃあなー!」
「!?」
私に今日の部活の内容を託した先輩は、そのまま職員室へ向かうと思いきや突然このクラスの赤葦君へ元気に声を掛ける。
今まで全然赤葦君の話をしていなかった為、教室に残っている何人かのクラスメイトがきょとんと目を丸くしていた。おそらく先輩と赤葦君の関係を不思議に思っているのだろう。
「はい。お疲れ様でした」
静かな混乱が走る中、呼ばれた本人の赤葦君は相変わらず涼しい顔をして、立嶋先輩にしっかりとした挨拶を返していた。
本当、流石赤葦君だ。この急な展開に全く動じてない。すごい。
「オイ、夏初もちゃんとアシ君に挨拶しろよ。同じクラスだろ」
「!」
ついぼんやりと赤葦君を見てしまえば、先輩の強度のコミュニケーション能力が飛び火して、そんな言葉を寄越されてしまった。
びくりと肩が跳ねてしまうも、クラスメイト数人の視線と......何よりも、赤葦君本人の視線が刺さり、心拍数と羞恥心が一気に急上昇する。
「っ、そういうの、いいですから!先輩は早く行ってくださいっ!」
「うわっ、おま、押すなって!危ないでしょうが!」
先程完璧な対応を見せた赤葦君とは対照的に、真っ赤な顔をして慌てて先輩を教室の外へ追い出す私はクラスメイト達の目に一体どんな風に映ったのか。
気にはなるけど考えたくもなくて、危ないコケると文句を言う先輩を真正面から両手でぐいぐいと押し、とりあえず教室の外へ追い出すことに成功したのだった。
▷▶︎▷
「あははっ!何あれ可愛い~!あの人赤葦の知り合い?三年生だよね?」
「......うん。木兎さんの友達で、園芸部の部長」
「え!園芸部の人なんだ!意外!...ということは、もしや森さんは園芸部員?」
「そうだよ」
颯爽と二年六組の教室に現れた園芸部の部長は、同じ園芸部の彼女によって強制退出させられた。
一部始終を見ていたクラスメイト達は、園芸部の微笑ましい姿にくすくすと笑いを零してるようで、俺の向かいに居る志摩も楽しそうにけらけらと笑いながら園芸部の事を聞いてくる。
森の話題にほんのりと心が浮き足立つも、何とか態度に出さないように身体に力を入れながら会話を続けると、志摩は「へー!知らなかった!」と素直な返答を寄越した。
「でも、森さんはなんかわかる~。花とか好きそう」
「......うん。夏休みの間も随分長く花壇に居るの、何度も見た」
「へぇ、そうなんだ。部活熱心なんだね~」
「............」
志摩と話しながらも未練がましくちらりと園芸部が出て行った教室のドアを見るも、彼らはそのままそれぞれの目的地へ足を向けてしまったようで、クラスメイトが出入りするだけだった。
相変わらず、同じクラスでありながら教室で森とはほとんど話せず、先程やっと目が合ったと思ったのに彼女のヒーローである立嶋さんの登場でさっさと連れて行かれてしまった。
「でも、園芸部ってめちゃめちゃ仲良いんだね。パッと見全然タイプ違うから、一瞬何かと思っちゃった」
「......森の、彼氏に見えたとか?」
「え、そうなの?」
「......いや、違うけど」
「違うんかいw」
園芸部の二人のやり取りを思い出し、俺と立嶋さんで全く違う彼女の態度に少しやっかんでしまうと、それに気付いてないだろう志摩は可笑しそうにふきだす。
「てか、赤葦でもそういうこと言うんだね?恋バナとか、あんまり興味無いかと思ってた」
「......まぁ、俺も人間なので。人並みには」
「人間なのでwふふっwなんかジワるw」
自身の感情に素直な志摩にくすくすと笑われ、段々自分の嫉妬心が恥ずかしくなり小さくため息を吐いた。
心の拠り所になっている立嶋さんから彼女の気を引くには、きっと相当の時間が掛かる。今の森の一番であろう男性は、多分どうしたって立嶋さんだ。
......だから、長期戦でいくことにしたのだ。彼女が少しずつ、己のヒーローだけでなく俺の存在も認めてくれるように。彼女の心の中に、俺も居させてもらえるように。
「......ガイドライン、さっさと作ろう。志摩も早く部活行きたいだろ?」
「ふふ、そだねぇ......あ、そうだ。今度の大きな大会あるじゃん?三年生最後のヤツ......えーと、バレーはなんて言うんだっけ?」
「春高?」
「そう!春高!それの応援ね、振り付け新しくなったから試合の合間に見てほしい!ちょっとでいいから!」
「へぇ、そうなんだ......わかった、ちゃんと見る。......部活とはいえ、いつもありがとな」
「!」
随所随所で男バレも世話になっているチアリーディング部に所属している志摩の話を聞いて、改めて言うのも変かとは思ったが一応梟谷男バレの副主将として志摩に日頃の感謝を伝えると、相手はその大きな目をきょとんと丸くした。
「......まぁ、まずは予選勝ち抜かないとな。シードとは言え、毎年必ず行けるとは限らないし」
「あっ、そ、うだよね!ごめん、気が早くて」
「いや、全然。木兎さん達最後だし、今年は何があっても負けられないとは思ってるよ。......全部勝って、絶対春高に行く」
「............っ、」
互いの部活のことを話しながら、今一度その事実を認識し、気を引き締めなければと己の肝に銘じる。
考える事は沢山あるが、最優先は間違いなく木兎さん達とのバレーだ。それだけは、絶対に揺らいではならないし、揺らぎようがない。
「......うん!全部勝とう!そしたらギャラリーで“赤葦めちゃめちゃ頑張れ~!”って念じながら踊るから!」
「いや、そこは俺より木兎さんに」
「もち!木兎さんもめちゃめちゃ応援するよ!でも、赤葦のこともめっちゃ応援するから!」
「............」
自分に向けられる応援や歓声が大好きな木兎さんだから、是非とも盛大に持て囃してくれとセッターの立場で頼み込むと、志摩はにこにこと可愛らしく笑いながら気のいい返事を寄越してくれた。
「......うん、ありがとう。じゃあ、めちゃめちゃ頑張ります」
「っ、ふはっw赤葦が“めちゃめちゃ”って言ったwキャラ違くない?」
「いや、志摩が俺に“めちゃめちゃ頑張れ”って言ったんだろ」
俺の言葉に可笑しそうに笑い続ける志摩に軽く肩を竦めてから、とりあえず早く部活に行けるよう必要なプリントの作成を一人で進める。
口ではなく手を動かし始めた俺を見て、志摩もやっとエンジンが掛かったのか手際よくガイドラインの作成を進め始めた。なるべく早く部活に行きたいのはお互い様だ。
「......ねぇ、赤葦?」
「ん?」
「......これ終わったら、下駄箱までご一緒していい?」
「え?別にいいけど......逆にバラバラで行く方が変じゃないか?」
プリントを作る途中、志摩から寄越された問い掛けに思わずそう聞き返してしまえば、相手はどこかほっとしたようにへらりと笑い、「んふふwそうかもだけど、でも、やった~」とこちらを見ずにそんな言葉を返してくる。
何が“やった~”なのかがいまいち解らず軽く首を傾げるも、もしここに居るのが何かと予想外な行動を取る園芸部の彼女だったら、「目的地が違うから......」と別々に行こうとするかもしれないと案外すんなりと想像出来てしまい、思わず小さく笑ってしまうのだった。
思い思われ振り振られ
(ああ、なんて羨ましい。)