AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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先輩に連れて行かれた場所は、私の好きな先生が居る保健室だった。
ああ、お悩み相談窓口ってそういうことかと納得しつつも、普通に保健医の先生の所に行くぞと言ってくれればよかったのにと少し不満に思ってしまう。
一体どこに連れて行かれるのかと、無駄にヒヤヒヤしてしまった。
そんな私の心境を知ってか知らずかはわからないが、立嶋先輩は保健室のドアをノックをした後さっさと室内に入った。
「失礼しまーす」
「あらあら......立嶋君に夏初ちゃん。園芸部がお揃いね」
先輩に続いて入室すると、初老の女性の保健医の先生は相変わらず陽だまりのような温かな笑顔と言葉で出迎えてくれる。
「今日はどうしたの?」と先生が聞くと、立嶋先輩はニコニコと笑いながら私のことを指差した。
「こいつ、今絶賛自分探し中でさ。めい子、こういう相談得意だろ?乗ってやってよ」
「ちょっと先輩!言い方!失礼過ぎます!」
「あらあら......」
あっけらかんと述べる先輩に思わず声を荒げてしまえば、先生は少し可笑しそうにくすりと笑う。
立嶋先輩の物怖じしない性格は凄いと思うけど、こういう所は些か傍若無人なのではと思ってしまう。
話してる相手が私の好きな先生だから、余計に。
「......そういうことだったのね。ふふ、今年のお花も楽しみだわ」
「ま、現時点でこいつ、へこたれてるけどなァ」
「............」
頬に手を当て、穏やかに笑う先生に先輩が事の経緯を簡単に説明した。
でも、だって、全然面白みの無い人間の私に面白いテーマを捻りだせなんて、それは無理な話だろうと軽い責任転嫁をしていれば、「そうねぇ......そういうことなら、私の得意分野ね」と保健医の先生はゆるりと私の方へ視線を向けた。
「......夏初ちゃんは、とても頑張り屋さんよね。立嶋君が居なくても一人できちんと部活に出て、生き物である植物のお世話をする夏初ちゃんはとても立派だったわ」
「......そんな、......それは、別に......当たり前のことをしただけで......」
「ふふ......それを“当たり前”だと思えるところも素敵ね。ヒトって、とても寂しがり屋だから、普段誰かと一緒にやってる作業を一人でするとなると、誰でも躊躇するものよ」
「............」
先生の穏やかな声で紡がれる言葉に、思わずきゅっと口を閉じる。
夏休み、立嶋先輩がお家の事情で少しの間部活に来られなくなって、一人でやる部活はとても寂しくて、作業が全然進まなくて、色々と上手くいかなくてもう散々だった。
大好きな部活のはずなのに、時々ああ、もうやだなと思う瞬間も、確かにあったのを覚えている。
「......寂しさに負けて、逃げることも出来た......だけど、夏初ちゃんは、一人でも頑張ることを選んだ。生きてる植物達の為に、不在の立嶋君の為に、......園芸部の名に恥じない為に」
「......そんな......大義、名分じゃ......」
「......それでも、誰かの為に、何かの為に、折れそうになる心を、自分を何度も奮い立たせて一生懸命頑張れるのは......紛れもない、夏初ちゃんの魅力だと思うの」
「............」
私と先生の話を、立嶋先輩は珍しく黙って聞いてるだけだった。
心優しい先生は、私のことをそんな風に捉えてくれるけど......でも、仮に一人で頑張ったとしても。
「......でも、それでも、結局上手くいかないことが、多いんじゃ......」
「いや、今は結果の話をしてる訳じゃねぇだろうよ」
「っ、でも......過程で頑張れても、それで終わってたら......いつまで経っても、先輩みたいにちゃんとできない......」
「............」
私の言葉に、思わずと言った感じで先輩が口を挟んだ。
だけど過程を頑張ったとしても、結果を出せなきゃ、私の目指す“しっかりした人”には到底なれない。
「......私の周りは、本当に、凄い人ばかりで......先輩も、先生も、きちんと結果を出してて......本当に、尊敬してます......赤葦君とか、木兎さんとか、男バレの方々も、本当に、みんな凄くて......素敵で......」
「............」
「......全然、私と、違うから......」
先輩と先生に話しながら、自分がいかに情けない人間であるかを改めて実感する。
立嶋先輩やめい子先生なら、どこが好きとか、どこが素敵かとか、いくらでもあげられるのに。
赤葦君も、木兎さんも、男バレの方々も。私はいつも、誰かを羨んでばかりだ。
「......それは、困ったわねぇ......私も立嶋君も、##NAME2##ちゃんの素敵なところ沢山知ってるのに......ねぇ、立嶋君?」
「おう。この前唐揚げ奢ってくれたしな!」
「............」
「......でも、そうね......それもきっと、夏初ちゃんらしさなのかも」
「......え......?」
いや、唐揚げは先輩がめちゃめちゃ催促してきたからでしょうと少しズレたことを考えていると、先生が思いがけない言葉を寄越してきたので思わず聞き返してしまう。
きょとんと目を丸くする私に、先生はふわりと優しく笑った。
「......自分のことは見えづらいけど......周りの人のことはよく見えて、ヒトの素敵なところをしっかり見い出して、受け入れて、尊重できる。これもひとつの魅力じゃないかしら?」
「............」
話の先を聞いて、更にきょとんとする。
......誰かを羨むという思考を、そんな言葉に変換することが出来るなんて。
先生のこういう、ひとつの事象を多方面から捉えてプラス方向に導いてくれるところがとても好きだし......本当に優しくて、素敵な人だと思う。
そしてそれは、先生だけじゃなくて......立嶋先輩の、自分をしっかり持っていて、だけどよく気が付いて、優しくて、馬鹿な私に「仕方ねぇな」って笑ってくれて、呆れず傍に居てくれるところがとても好きだし......木兎さんの、きらきらな笑顔とか、鮮烈なバレーとか、豪快だけど、小さな事も気にかけてくれる温かさが好きで......。
「............」
......赤葦君は、真っ直ぐで、芯が通っていて、頭が良くて、強くて、優しくて......のろまな私を、辛抱強く待っててくれて、沢山迷惑かけてるのに、隣りに居てくれて、切れ長の目をほんのりと甘く緩めながら、大きな手を差し伸べてくれて......そういうところが、とても、とても。
......私の、絶対的な憧れ。この人みたいになれたらと、思わずにはいられない。
「............先輩......あの、......ちょっと、やってみたい、ことが......」
「ん?」
記憶の中の赤葦君がゆるりとほのかに笑い、その笑顔に心がきゅっとなる。
甘く軋む胸元に堪らず両手を当てながら、自然と浮かんだ“お願い事”をおずおずと口にすれば...立嶋先輩の顔は、見る見るうちに明るくなった。
「......へぇ、いいじゃん!面白そうだし、それでいこうぜ!採用!」
「!」
私の話を聞いて直ぐ、あれだけずっと貰えなかった「採用」の言葉を貰った。
あまりにも呆気なく受理されたので、目を丸くしたままぽかんと突っ立っていれば、先輩は楽しそうに笑いながら「時は金なり!」とさっさと軍手を嵌め始める。
「んじゃ、作業がてら内容固めっか!まずはイメージじゃんじゃん出してこうぜ!」
「............」
「ありがとなめい子!今年も期待しとけ!」
「え、あ......あ、ありがとう、ございました......失礼します......」
テンションの上がった先輩はそれだけ言うと直ぐに保健室を後にしてしまい、私も先生に頭を下げてから慌てて先輩の後を追った。
そんな私達に保健医の先生は「あらあら」と朗らかに笑ってくれる。
「行ってらっしゃい。学園祭、とっても楽しみにしているわ」
保健室を離れる寸前に聞こえた先生の優しい言葉に、たまらずへらりと笑い返すのだった。
▷▶︎▷
いつも通り先輩とめいっぱい部活に取り組んで、そういえば今日のホームルーム終わりに赤葦君から「体育館来れる?」と言われたことを思い出したのは、日がすっかり暮れた頃だった。
慌てて時計を見れば19時なんてとっくに過ぎていて、しまったと思いながらとにかく急いで体育館に行かないとと立嶋先輩にそのことを伝えれば、なぜか「俺も行く」と言い出した。
まぁ、先輩と木兎さん仲良しだしなと思いながら了承して、二人でさっさと部活道具を片付け、鍵を職員室へ返し、ジャージから制服へ着替える。
本当は化粧を直したり、髪を整えたりもしたいけど、先にスマホで遅くなったことを連絡すれば向こうも部活道具を片付けながら待ってるとのことだったので、髪は下ろして急いで体育館へ向かう。
「ごめーん☆お、待、た、せ☆」
私よりも断然足が速い先輩が先に体育館へ到着し、そんな冗談を口にすると返ってきたのは静寂だった。
え、うそ、まさか赤葦君達帰っちゃった?と一気に不安に駆られると、「え、なんで立嶋が来んの?夏初ちゃんは?」と少し遅れて木兎さんの声が聞こえる。
どうやらまだ体育館に居てくれたようで、そのことにほっと胸を撫で下ろした矢先。
「夏初は急用で帰りました」
「!?」
「えぇッ!?ウソだろ!?」
先輩がそんな嘘をついて、木兎さんがひどく驚く。
なんでそうやって変なこと言うの!と怒りたい気持ちをぐっと堪えて、慌てて先輩の後ろから顔を出す。
「居ます......!こ、こんばんはっ......遅れてごめんなさい......!」
「おいコラ立嶋ァ!お前そういうとこだぞ!」
走ったせいで荒くなった呼吸を何とか抑えつつ、謝罪をすると木兎さんは嘘吐きな立嶋先輩を早速非難し始めた。
そのまま言い合いを始めてしまった先輩方を他所に、とりあえず呼吸を落ち着けようと口元を両手で抑え、目を瞑って息を吸ったり吐いたりしていれば、「......森」と小さく名前を呼ばれた。
ぱちりと瞼を開けると、制服に着替えた赤葦君がこちらへ歩いてくる姿が見える。
「......大丈夫?そんな、走って来なくてもよかったのに」
「......うん、大丈夫......時間、遅くなっちゃったので......すみません......」
「問題ないよ。こっちも夜練長引いてたし......誰かさんがなかなかスパイク練やめないから」
「............」
近くに来てくれた赤葦君にもう一度遅れたことを謝れば、赤葦君は腕を組みながらぼそりとそんな言葉を寄越した。
誰かさん、とは言っているものの、今この状況で残ってる男バレ部員は木兎さんしか見当たらない。
それが少し可笑しくて、思わず小さくふきだしてしまえば、赤葦君も釣られるようにしてほんのりと口元を緩めた。
「......こんな時間までお疲れ様。園芸部、本当に毎日頑張るよね」
「あ、赤葦君こそ......本当に、お疲れ様です......毎日、いつも......遅くまで......」
「......もう、夕飯の時間だな......」
「......そう、だね......お腹、空いたね......」
「............」
腕時計で確認すれば、確かにもうお夕飯を食べていても何もおかしくない時間だ。
お昼ご飯はもうすっかり消化されていて、気を緩めれば鳴ってしまいそうなお腹に用心しながらそう返せば、赤葦君はふらりと視線を他所へやり、コホンと小さく咳払いをした。
そういえば、今日のお昼休みに赤葦君、お昼ご飯用のおにぎりを午前中に食べてしまったことを話してたな。
梟谷のバレーボールは凄く動くし、園芸部なんかよりもずっと運動量が多いから、今もすごくお腹を空かせてしまってるのかもしれない。
私がお待たせしてしまった訳だし、何か帰り際におにぎりとか唐揚げとかお詫びの品をお渡しするべきかなとぐるぐる考えていれば......ふいに、赤葦君がゆっくりと屈んできた。
普段より顔同士が近くなり、たまらずぎくりと固まってしまう。
「......迷惑じゃ無ければ、これからご飯行かない?」
「!」
ひそりと小さな声で言われた言葉に、ぴくりと肩が跳ねる。
反射的に赤葦君の顔を見てしまえば、いつもよりずっと近くにある切れ長の目であっという間に射抜かれてしまった。
「............」
「............」
「............」
「............」
視線が重なったまま、お互い黙ってしまって近くには音が無いはずなのに、自分の心臓がやけにうるさく響いていた。
どうしよう、どうしよう、どうしよう......頭の中はすっかりその言葉で埋め尽くされて、ひどい混乱が交感神経を伝い、ゆっくりと涙となって現れる。
徐々にゆらりと視界が滲み、目元がじわりと熱くなってきた、矢先。
「............行く......」
「!」
混乱状態の私の口から、弱々しい声がぽろりと零れた。
まるで居もしないもう一人の私が勝手に答えてしまったような心地がして、口にしてから自分に驚いてしまう。
......え、え?......私今、行くって言った......?
自分で答えたくせに、目を白黒させてる私を見ていた赤葦君は、少しだけ目を丸くしてから、流れるような動きで颯爽と私の左手をとった。
「木兎さん立嶋さん、お疲れ様でした。申し訳無いんですが、今日だけ体育館の鍵、返却お願いします」
「え?」
「は?」
少し早口な赤葦君の言葉に、今まで楽しそうに話していた立嶋先輩と木兎さんはきょとんとした顔を向ける。
そんな先輩方を他所に、赤葦君は「失礼します」と会釈をしてから私を連れてさっさと体育館を後にしてしまうのだった。
うまいものは宵に食え
(この機会、逃してたまるか)