AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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購買近くの壁際で、小見先輩に残された私と赤葦君は、二人して口を閉じたまま突っ立っていた。
先程見せてもらった立嶋先輩の写真のことは、小見先輩が教えないと言っていたのでおそらく赤葦君にはお話ししない方がいいんだろうと思うけど...赤葦君から「何を見てたの?」とか聞かれたら、どうしよう......。
「.............」
「.............」
「.......小見さんと話すの、もう慣れた?」
「え......?」
何処と無く居心地が悪くて、俯いていた私の頭の上からそんな言葉が降ってきた。
一瞬ぎくりとしたものの、赤葦君から言われたことをもう一度頭の中で繰り返し、軽く深呼吸してからおずおずとそちらへ顔を向ける。
「......ぅ、うん......少し......。気を、遣って貰ってる......けど......」
「.......そっか」
「.............」
「.............」
私の返答に、赤葦君は小さく頷いて再び口を閉じてしまう。
察しの悪い私は、赤葦君の表情を見て何を考えているのかなんて全く分からない。
黙ってしまったけど、私の言動で気を悪くしてないかな......。
心許なくて思わず手元のぶどうの紅茶を両手で握り締めれば......そういえば、赤葦君はおにぎりを買いに購買に来ていたことを思い出した。
そろりと赤葦君の手元を見ると、大きくて綺麗なそれはどちらも空っぽだ。
「.......ぁ、あの......」
「ん?」
「......おにぎり......買えた......?」
お昼休み、食堂と購買は当然活気溢れる場所のはずなのに、私と赤葦君の間だけやたら静かで、何か話題をと思いそんな言葉を寄越してしまう。
聞き方がとても子供っぽかったなと口に出してから早々に後悔し、やっぱり黙っておけばよかったと思っていると相手はひとつ瞬きをして、「ううん、これから」と素直に返してくれた。
「......さっき呼ばれた用事、案外直ぐ終わって。追い付けるといいなって思ってたんだけど、小見さんと話してるの見つけて......森がうちの先輩と二人で話してるの珍しいから、気になって来ちゃった」
「.............」
「......まぁ、話してた内容は教えてくれないみたいだけど?」
「っ、あ......ご、ごめん、なさい......」
先程の小見先輩との話の内容をやはり気にはなっているようで、咄嗟に頭を下げて謝ると赤葦君はくすりと小さく笑った。
どうやら怒ってる訳では無さそうだ。
「......一応聞くけど、俺に関する話?」
「ち、違う......!赤葦君のことじゃないです......!」
「......それなら、まぁ、いいや」
自分のことで笑われていた訳では無いことを知ると、赤葦君はわりとあっさりと納得し、制服のズボンからお財布を取り出して「じゃ、買ってくる」と購買の方へ足を向ける。
赤葦君の背中を見て、このまま別々に教室に戻ってしまったらまた話す機会が無くなってしまうことにふと気付いた。
......あと、少し。もう少しだけ、赤葦君と話してたい。
「.......あの!......ま、待ってても、いい......?」
「.............」
大きな背中に思い切って声を掛ければ、赤葦君はきょとんと丸くした目をこちらに向けた。
突然そんなことを言われて驚いている相手の様子に、やってしまったと一瞬にして血の気が引くと......優しい赤葦君は、いつもの落ち着いた態度で答えてくれる。
「うん。直ぐ戻るから、ちょっと待ってて」
「.............っ、」
そう言って、少し早足で購買へ向かっていく大きな背中にたまらずほっと安堵のため息がもれた。
私の情けない様子を見て、きっと気を遣ってくれたんだろうけど......教室に戻るまで、赤葦君と一緒に居られることが嬉しい。
でも、赤葦君は人気者だから、また誰かに呼ばれてしまうかもしれないけど......それは、私みたいに赤葦君と話したい人がたくさん居るからで、その気持ちもすごくわかるから、今度はちゃんと「じゃあ、またね」と伝えよう。
さっきの私の態度は、きっととても良くなかったから。
▷▶︎▷
学園祭に向けた、2回目のクラスミーティングの時間。
前回の時間であみだくじにより決定した実行委員の2人が壇上に立ち、てきぱきと話し合いを進めていた。
「.......じゃあ、二年六組は“縁日、射的屋”で希望出します!多分通ると思うけど、一応第2希望が“メイド喫茶、メイド男子も居るよ”で出してくるから、最終決定したらホームルームでお知らせしまーす」
志摩さんの明るい声に、クラスのみんなは拍手をしたり、「よろ~」「第二希望は阻止してくれ~」等の声をあげる。
前回、学園祭で一人一人のやりたいことを未記名で募り、この時間はそれぞれあがってきたものをひとつひとつ精査して、結果的にこの二つがこのクラスの希望する催し物として今度の学実会議にあげることになった。
「射的屋」を上げたクラスメイトは、みんなが驚くほど細かい所まで企画を考えていて、ほとんどの人が「これいいじゃん!」とその場で賛成意見を出した。
最終的には多数決で第1希望、第2希望を決めたのだけど、「射的屋」は圧倒的な票を集めた。
とにかく、企画からして面白そうで、本当によく考えられていたのだ。
本物の射的銃を2丁レンタルして、教室の机を景品台にする。
景品はお菓子、もしくは各自景品になり得る不用品を一つだけ自宅から持参する。
万が一、窓や蛍光灯が割れないように薄い布で該当箇所を覆う。
射的銃レンタル代、教室装飾等の備品代、景品代、当日の釣り銭準備等で軍資金1100円募るが、ノルマは2日間で1100×35人で38500円。
5発で300円×7時間、1時間に10人くれば全員上乗せして返せる。
ここまでしっかり考えられていたのはこの案だけで、赤葦君と志摩さんは終始ありがたがっていた。
「福袋に入ってた、未使用の化粧品とかアクセとか景品にしてもいいよね?」
「あ、頭良いね。そういうのだったら私もあるかも......」
学祭に向けてのミーティングが終わり、部活に行く人、下校する人で別れてざわざわと動き出してる中、前の席に座る友達の発案になるほどと相槌を打つ。
確か、ハンドクリームとか未使用のままのやつ、いくつかあったはず。
パッケージとか匂いに惹かれてつい買っちゃったものの、今使ってるものがなかなか使い終わらなくて結局未使用のまま溜まっているものだ。
使用期限だけ確認しておこうと思いながら友達に「また明日ね」と挨拶をして、部活に向かおうと出入り口へ足を向ければ......進行方向の途中に赤葦君の姿が見えた。
向こうはクラスの男子と話していて、私には気付いていないみたいだけど......今日こそ、ちゃんと挨拶しよう。
この前はせっかく目が合ったのに、その機会をムダにしてしまったから。
「.............っ、」
教室の出入り口方向へ歩きながら、徐々に近くなる赤葦君との距離にどんどん心臓が速くなる。
カバンとジャージを持つ手に力が入り、思わず逃げ出してしまいたい気持ちを懸命に堪えながら、深呼吸を2回繰り返した。
「.............!」
何か面白い話をされたのか、相手の言葉に可笑しそうにふきだす赤葦君の笑顔を見て、心臓がきゅっとなった途端......ふいに、彼の切れ長の目がこちらに寄越された。
たまらずギクリと身体が強ばるも、ここで黙ってしまったら前回の二の舞になるぞと気持ちを奮い立たせ、短く息を吸う。
「っ、ま、また明日......っ」
「!」
「おー、森さんまた明日な~」
少し上擦った声で挨拶をすれば、赤葦君は目を丸くしてきょとんとしてしまったけど、赤葦君と話していた男子が愛想良く笑って挨拶を返してくれた。
それに少し救われて、思わずほっと息を吐きながら二人の横を通り過ぎる。
「森」
「!」
もう少しで教室から出るというところで背中から呼び止められ、戸惑いながらも振り向けば、私に声を掛けたのはどうやら先程挨拶した赤葦君だったらしく、少し大股でこちらに歩いて来た。
何だろうと思いつつ赤葦君を待つと、そのまま廊下の方へ誘導される。
「.......今日、部活?」
「......え......あ、うん......」
教室前の廊下でそんな質問をされ、首を傾げながらも緩く頷くと、続けて「何時頃に終わる?」と聞かれた。
「.......え、と......多分19時、くらい、かな......?」
「19時か......」
学園祭のテーマ決めと花壇の手入れを合わせたら多分そのくらいだろうなと考えて返せば、赤葦君は片手を顎の下に置いて少し考えるような様子を見せる。
「.......その後、体育館寄ることってできる?」
「え?」
「.............」
「.............」
「.............」
「.......あ、はい......伺います......」
体育館に寄って欲しいという内容に少しびっくりしたのと、何か説明があるのかなと言葉の先を待ってみるも、赤葦君は表情を崩さないまま口を閉じてしまったので、少し遅れて了承の返事をした。
会話に変な間を空けてしまい、失礼なことをしてしまったかなとそろりと相手の様子をうかがうと...赤葦君は、顎の下に置いていた手をそのまま首の後ろに持っていき、ふらりと視線を他所に外す。
「.......うん、ありがとう」
「.............」
「じゃあ、また後で」
そう言って、赤葦君はちらりと私を一瞥した後、直ぐに教室へ戻ってしまった。
廊下に一人残った私は、予想外の約束をしてしまったことに半ばあっけに取られながらも......とりあえず、部活に行かなければと少し早足でこの場から離れるのだった。
「んー、却下。」
「えぇ〜......!もう無理ですよ......!」
順調なペースで進むクラスの学祭ミーティングと違い、園芸部の方はことごとく立嶋先輩に振られ続けていた。
部室である第三会議室、隣りに座る先輩は私の考えてきたテーマの仮案を読んでくれるものの、「これは予算だいぶ掛かるから無理」とか「ありきたりで面白みがねぇ」とか、様々な理由でバサバサと却下していく。
「.......やっぱり私じゃ駄目ですよ......!もうこれ以上は思いつきません......!」
「オイオイ、時間はまだまだ残ってるぜ?もうちょい粘ってみろよ」
「......そんなこと言われたって......無理なものは無理です......」
こういうことが苦手なりにも、色々と頑張って考えて出したテーマをこうも無惨に否決され続けていくのは、正直とても悲しいしもやもやする。
とは言っても、立嶋先輩は別に意地悪で却下してる訳ではなく、その理由も悔しいけど納得してしまうものであるから、余計にもやもやしてしまうのだ。
「.......大体、面白くない人間に面白いこと考えてこいって言う方が無謀なんですよ......」
「ハイ、ネガティブ発言やめてクダサーイ。つーか夏初、お前結構面白いけどな?この前、ほら、脚立しまう時ロック掛け忘れてて、倉庫の中の物キレイにドミノ倒ししたこととかw」
「それは別に面白いことをしようと思ってやった訳じゃありません!ただの失敗談です!」
「......いや、冗談だって......そんなキレんなよ......」
最近しでかした失態を面白そうに話され、羞恥と怒りで思わず強めの声を出してしまえば、先輩はひょいと肩を竦めて椅子に座り直した。
「.......やっぱり、立嶋先輩が今年もテーマ決めてください......」
「えー?それは無理」
「何でですか?このままずっとテーマが決まらなければ、文化祭での園芸部の活動、全部無しになっちゃうんですよ?」
「や、だから何でそんな気が早いのよお前さんは......まだまだ時間はあるっつってんでしょうが」
「.............」
先輩が納得するようなアイデアが思い浮かばず、自分の能力の低さに改めて打ちひしがれながらももう降参したい旨を伝えると、先輩は小さく溜息を吐きながらテーブルに頬杖をついた。
そのまま私の出したテーマの仮案にゆるゆると目を通し、「......んー、なんつーかさァ」と会話を続ける。
「.......この、“秋の食べ物を花で表現”とかは、かなり俺っぽいっていうか、俺が考えそうなことな訳よ。俺好みの、俺らしいテーマってヤツ?」
「.............」
「...でも、俺のテーマは去年やったじゃん?だから今年は夏初好みの、夏初らしいテーマにしたいんだよ、俺は」
「.............」
立嶋先輩の言葉に、思わず眉を下げる。
......確かに、その食べ物のテーマはちょっと先輩が好きそうかなって思ってつくったものだったけど......まさか、それをすっかり見抜かれてしまうなんて。
この人は本当、へらへらしてるようで見てるところはちゃんと見てるのだ。
.......でも、じゃあ、私らしさって、一体何なんだろう?
「.............」
高校生にもなって人見知りで、甘えたで、考えが足りなくて......パッと思いつく限りでも、学園祭のテーマになるような明るく楽しいものなんてひとつも無い。
大して面白くもないし、ヒトに迷惑かけてばかりだ。
「.............」
「.............」
「.............」
「.......ったく、仕方ねぇな~」
「!」
思考がどんどん落ちていき、私らしいテーマなんて絶対につまらないし、絶対に面白くならないのではと俯いていると......立嶋先輩は突然ガタリと音を立て、椅子から立ち上がった。
「花壇行く前に、お悩み相談窓口行くぞ~」
「え、え......?」
そう言って、先輩は私の腕を引っ張り半ば無理やり立ち上がらせ、そのままずんずん足を進めていく。
「ちょ、先輩?どこ行くんですか?そんな窓口、聞いた事無いですけど......」
ぐいぐい引っ張られる腕に抵抗できず、立嶋先輩の後ろを小走りでついて行きながら目を白黒とさせていると、先輩は顔だけこちらに向けて楽しそうにニヤリと笑った。
「......ほら、よく言うだろ?3人よればなんとやらってな」
「.............?」
三人寄れば文殊の知恵
(ま、“自分らしさ”なんて、自分が一番わかんねぇからな)