AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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「今年の学祭も校内に花飾るけど、テーマ決めんの夏初な」
「え?」
放課後の部活動中、花壇の水遣りや落葉の除去をしていると、せっせと雑草を抜いてる立嶋先輩がふいにそんな言葉を寄越した。
声が聞こえなかった訳では無いけど、その不可解な内容に思わず聞き返してしまえば、先輩は両手を高く上げてグッと身体を伸ばす。
「去年同様、花瓶は歴代の物を使い回す。設置場所だけ少し変わるかもしれないけど、大元の基盤は去年と同じだ」
「.............」
「エントランスにデカいの1個作って、他にちっさいのいくつか設置する。......去年は、俺がメインでお前がサブだったろ?だから今年は逆にして、お前がメインな」
「.......ぇ、え?そ、それって、私がエントランスのお花作るってことですか?」
「や、別に一人で作れってことじゃねぇぞ?俺も普通に作るし」
突然のことにたまらず眉を下げてしまうも、立嶋先輩は私の様子を気にかけてくれながらではあるが、「ただ、全体のテーマ決めんのはお前。どんな風にしたいか、今からちょっと考えとけ」とあっさりと言い放った。
学園祭は、普段細々と活動している園芸部のまさに晴れ舞台といったイベントで、校内の至る所に言葉通り、花を添える。
しかし、その花はただ単に飾る訳ではなくて、毎年園芸部内でテーマを決めて、それに沿った花束を作るのだ。
去年は立嶋先輩が考えたテーマで、確か、『しりとり』だった。
花の名前とか、花言葉とか、一つの花瓶でちゃんと『しりとり』になっていて、組み合わせや見た目のバランス等を色々と考えて花束を作るのは大変だったけど、あの時色々調べたおかげで園芸の知識がぐっと増えた。
それに何より、作るのがすごく楽しかったのを覚えている。
......そんなテーマを、今年は私が考えるなんて。
「え......きゅ、急に、言われても......」
「は?全然急じゃないだろ。お前、学祭まで何日あると思ってんだ」
「.............」
「それに俺、一応受験生なので?こういうのは後輩の夏初チャンがやるのが道理じゃね?」
「.............」
受験生という単語を出されて、ぐっと言葉に詰まる。
確かに、先輩の言う通りだけど......でも、こういう時だけソレを使うのはちょっとずるい。
「.......でも、私、先輩みたいに面白いこと、思い付きません......」
「は?んなの、やってみねぇとわかんねぇだろ。結論はやってから言えよ」
「.............」
「......ま、お前の出した案を採用するかどうかは俺が決めるから、とりあえずちょいと考えてみなさいよ。まだ何もしてねぇのに初っ端から“出来ねぇ”って言うのは、少しせっかちなんじゃねぇの?」
「.............」
あまりにも自信がなくて、つい弱音を吐いてしまうとピシャリと正論を返された。
言葉は厳しいものの、立嶋先輩は俯く私のそばに来て、軍手を外したその大きな手でわしゃわしゃと頭を撫でてくれる。
......先輩のこういう所が、本当に、泣きたいくらい好きで、心底ほっとしてしまう。
でも、それにいつまでも甘えてばかりでは、いつまで経っても私は変わらないままだ。
「..............やって、みます......」
深呼吸を2回して、覚悟を決めて発した言葉は自分でもガッカリする程情けないものだった。
それでも、優しい立嶋先輩はからりと明るく笑ってくれて、私の頭をもう一度わしゃわしゃと撫でてくれるのだった。
▷▶︎▷
現代文のノートの端に、あれこれ考えたことをつらつら書き連ねる。
学園祭があるのは秋で、10月下旬でやるから、まずはその時期に咲いてる花なのは絶対だ。
その花を知ってるだけ書いていって、色や形、花言葉、組み合わせ等を考えながら、全体のテーマを決めればいいのかな......?
でも、去年はテーマが先行してたし、やっぱりこっちを先に考えて......いや、でも、何にもないまっさらな状態から、テーマってどうやって決めればいいんだろう?
「.............」
10月下旬といえば......ハロウィン?お月見?
日本の暦とか調べれば、もう少し何か出てくるかな?
そしたら、それをヒントにして何か......
「.......夏初......」
「.............」
「夏初っ」
「!」
学園祭のテーマについてぐるぐると考えていれば、前の席の友達から名前を呼ばれてびくりと肩が跳ねた。
驚いてそちらへ顔を向けると、わざわざ私の方へ半身を向けた状態で、友達が私の現代文の教科書をとんとんと指さす。
「次のページ、夏初読む番...!」
「ぇ、え......?っ、あッ、すみませ......!」
「森さん、大丈夫?お疲れですか?」
「ぁ......だ、大丈夫です......!すみません......!」
友達の言葉に、はっとする。
どうやら、現代文の読み合わせの順番が回ってきたらしい。
慌てて教科書を掴むと、教科担当の女性の先生から心配そうな声を掛けられた。
申し訳ない気持ちでいっぱいになりながらも友達に読み始めの段落を教えてもらい、いつもよりずっと情けない小さな声で教科書を読み始める。
恥ずかしくて、申し訳なくて、この時間が早く終われとひたすらに願った。
「森」
お昼休み、教室から出ると背中から落ち着いた声で名前を呼ばれた。
聞き馴染んだ声にふわりと気持ちが浮上して、相手を予想しながら振り向けば、私を呼んだのはやっぱり赤葦君だった。
「もしかして、購買行く?」
「......あ、うん......飲み物、買いに......」
「今日は水筒無いんだ?」
「ううん、あるんだけど......甘いの、飲みたくて」
教室の前の廊下で足を止めて、赤葦君と喋る。
夏休みが明けてから久々に喋るせいなのか、なんだか少し落ち着かない心地がした。
「もしかして、赤葦君も......?」
「うん、俺はおにぎり買いに。よかったら、一緒に行こう」
「......今日は、お弁当じゃないんだね......?」
「......あー......」
いつも大きなお弁当箱を持っている記憶にあった為、特に深く考えずに思ったことを口にすると、なぜか赤葦君は少し戸惑うような声を出した。
しまった、何か都合の悪いことを聞いてしまったのかもと咄嗟に謝ろうとすれば、赤葦君はその口元に長い指を当て、少し潜めた声で言葉を続けた。
「......実は、午前中にどうしてもお腹空いて、弁当のおにぎり先に食べちゃって......」
「.............」
「......だから、まぁ、弁当はあるんだけど......」
どこか恥ずかしそうな、バツが悪そうな顔をして話す赤葦君にきょとんと目を丸くしてから...込み上げてくる可笑しさに負けて、たまらずふきだしてしまった。
「.......ふ......っ」
「!」
「.......だから赤葦君、そんなに大きいんだね......」
「.............」
いわゆる、“早弁”という行為をしてしまったことに引け目を感じる赤葦君が少し可笑しくて、なんだかちょっと可愛かった。
でも、それだけ大きかったら確かに栄養補給が大変そうだ。
立嶋先輩や白福先輩の身体の構造には首を捻るばかりだけど、とても背が高い赤葦君なら沢山食べてても納得することしかない。
......だけど、それを控えめに恥ずかしがる赤葦君を見て、とても親近感が湧いた。
「.......そういえば、さっきの授業、先生から心配されてたけど......体調、本当に平気なのか?」
「!」
お財布を持っていない方の手で口元を抑え、くすくすと笑っていれば頭の上からそんな質問が降ってきて、思わずぎくりとしてしまう。
赤葦君が話が指すのは、言わずもがな私が先生の話を聞かずに部活の学園祭のテーマ決めに没頭し、授業の進行を止めてしまったことだろう。
同じクラスだから当たり前なんだけど、自分の間抜けな姿を憧れの赤葦君に見られたことを再認識し、今度は私が何とも恥ずかしい気持ちになった。
「......え......あ、うん......全然、平気......。ちょっと、......考え事、しちゃってて......」
「.......何か、悩み事?」
「......ぇ、と......ううん、大丈夫......」
「.............」
赤葦君の方が見られなくて、情けなく下を向きながらぼそぼそと小さな声で返事をする。
今更だけど、授業中に考えることじゃなかった。
ただでさえ、頭のキャパシティが少ない私だ。部活のことを考えてしまえば、授業そっちのけになってしまうのは当然のことなのに。
.......自分のこういう考えの浅いところが、本当に嫌になる。
「.............」
「.............」
「.............」
「.......森、あのさ......よかったら、また一緒に」
「あ!赤葦!いい所にー!」
「!」
自分の足元を見ながら赤葦君の隣りを歩いていると、赤葦君の話の途中で誰かが赤葦君を呼んだ。
反射的に私もそちらへ顔を向けると、他クラスの知らない女子生徒がこちらに手を振っていた。
「ゴメン!ちょっとこっち来れるー?」
「.......何、急用?」
「うーん?ちょっと急用ー?」
「.......ちょっと急用って何だよ......」
どうやら赤葦君のお友達のようで、他クラスの女の子はゴメンと口にしつつも早く早くと言うように可愛らしく手招く。
「......ごめん、先に行ってて。追い付けたら追い付くから」
「......あ、はい......」
軽くため息を吐いてから、赤葦君はそれだけ言うと自分を呼んだ女の子の元へ行ってしまう。
合流した後、二人で話してる姿が何とも仲良さそうに見えて......胸の辺りが、チクリと痛んだ気がした。
────私が、先に話してたのにな。
「.......え......ッ!?」
他クラスの子と話してる赤葦君を見て、無意識に思ってしまったことに心底驚いて、次にはサッと血の気が引く。
.......私、今、何考えた......!?
赤葦君は容姿も背格好も格好良くて、更には運動も出来て、頭も良くて、極めつけにとても優しくて、すごく頼りになる素敵な人だ。
男女問わず、学年問わず、先生達や学校外の人からも人気のある赤葦君が、私なんかと話すこと自体非常に稀なケースであるはずなのに。
この夏休み、ありがたいことに何かと赤葦君と話す機会が多かったから......呆れる程、図々しいことを考えてしまった。
頭も悪くて、心も狭いんじゃ、もう救いようが無い。
「.............」
鬱々とした思考を抱えながらも、ここでずっと立ち尽くしていても仕方が無いので、少し早足になりつつ一人で購買へ向かった。
「お、夏初ちゃんじゃん」
購買で期間限定のぶどうの紅茶を買い、お釣りを貰ったところで声をかけられた。
振り向くと、立嶋先輩のお友達で赤葦君の先輩でもある、男バレ三年生の小見先輩が色々な惣菜パンを抱えて立っていた。
「こんちは、花火大会振り。元気?」
「あ......こ、こんにちは......元気です......」
にこりと気持ちよく笑われて、おずおずと挨拶を返すと「あ、それ俺も飲んだ。結構美味いよな」と何ともスムーズに会話を運んでくれる。
誰とでも分け隔てなく喋れる小見先輩のコミュニケーション能力に密かに感動していれば、小見先輩はふいに「あ、そうだ」と何かを思い出したような顔をして、他の人達の邪魔にならない壁際へ私を連れ出した。
「コレさァ、いつか夏初ちゃんに見せようと思ってて」
「?」
小見先輩はどこか楽しそうな様子で自分のスマホを弄り、いくつか操作をしてからひょいと私にその画面を見せた。
一体何だろうと思いながらそれを見ると...そこには、綺麗にばっちりとメイクをした立嶋先輩の姿が写っていて、あまりにも予想外のことについふきだしてしまった。
「な?超面白ぇでしょ?最高傑作でしょ?w」
「え、すごい......!すごく、可愛い......!」
私の反応に、小見先輩はけらけらと楽しそうに笑う。
おそらくメイクをした人がとても上手なんだろう、先輩がちゃんと女の子に見える。
きめ細やかな肌に、長いまつ毛。元々のぱっちりとした二重がアイラインやアイシャドウによって更に際立っていて、リップの色もすごく肌に馴染んでいる。
髪の毛もわざわざ整えたのかサラサラのストレートになっていて、パッと見本当にショートカットでボーイッシュな女の子に見えた。
「いくつか写真あるけど、見る?」
「え......み、見たい、です......っ」
「よしきたw」
小見先輩のスマホに映る可愛らしい立嶋先輩の姿にすっかり夢中になってしまい、先程までのジメジメとした暗い思考はどこかへ飛んでいってしまった。
私が単純なこともあるだろうけど、でも、この写真は本当に衝撃的だった。
「......わ、わ......本当、可愛い......」
「だろ~?w......ま、夏初ちゃんのが数億倍可愛いけどな~」
「......いえ、これ、私なんかよりずっと......」
小見先輩のスマホに釘付けになったまま、この先輩は私よりもずっと可愛いのではと割と真面目に考えていると......隣りに居る小見先輩が小さく「あ、やべ」と少し焦ったような声をもらした。
その声に、どうしたのかと小見先輩の方を見れば...目の前にゆらりと影が出来る。
「......ちわス。こんなとこで、何してるんですか?」
「......おー、赤葦。なに、お前も昼飯購買?それとも食堂?」
影の正体は、先程離れた背の高い赤葦君で、どうやら私が小見先輩と喋っている内に、ここへ到着したようだった。
小見先輩の質問に「購買です」と答えてから、その切れ長の瞳をゆるりと私へ向ける。
「......なんか、すごく笑ってたね。そんなに面白かった?」
「......ぇ、と......」
赤葦君の質問に、可愛い立嶋先輩のことを話してしまってもいいのかわからず、ちらりと小見先輩を窺うと......小見先輩は、ニヤリと愉しそうに笑った。
「......すっげぇ面白いモンだけど、赤葦クンには教えませーん」
「え、何でですか」
「じゃ、俺もう行くわ。夏初ちゃん、また見たくなったらいつでも見せるから、遠慮なくドーゾ?w」
「.............」
小見先輩は悪戯に笑いながら、赤葦君には先程の写真を見せずにさっさとこの場を去って行ってしまうのだった。
焼き餅焼くならきつね色
(赤葦お前、マジでガチなやつじゃんw)