AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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担任の先生お手製のあみだくじで学祭実行委員になった赤葦君と志摩さんが、黒板の前に出て軽い挨拶を済ます。
そこから先生には「じゃ、残りの時間は学実の二人で司会進行お願いします」と投げられて、「今決まったばっかなのに!?」と志摩さんが少し怒った。
先生と志摩さんのコントのようなやりとりにクラスメイトがけらけらと笑う中、赤葦君は小さくため息を吐きながらも教室の時計を見て、「6組が何をやるか決めるんですよね?」と落ち着いて先生に確認する。
「......残り20分で決めるのは多分無理だから、とりあえず何をやりたいか募ろうと思うんだけど......なるべく全員の意見が欲しいから、余ってるルーズリーフとか、メモ帳とか、ノートの切れ端とかに学祭で何やりたいか全員書いてもらって、回収してもいいですか?」
突然学祭実行委員になったというのに、赤葦君は驚く程スムーズに司会進行を執り行う。
やっぱり赤葦君て凄いなぁと改めて感心していると、赤葦君の言葉に志摩さんがパッと顔を輝かせた。
「あ、それいいね!ナイス!......そうだ、もし何やりたいか思い浮かばない人は、さっき先生が配ったプリントに去年の出し物の一覧があるから、それ見て考えて貰えればって思います!で、時間余ったら集計まで今日やっちゃお。決め方は多数決にする?」
「......それもいいけど、ひとまず出てきた候補を全部検討してみるのはどう?次のこの時間で、一つ一つ現実的にどうやるのか考えてみて......手間とか費用とかある程度計算した上で、何をやるか決めた方が後々の作業がスムーズなんじゃないかな......」
「オッケー。じゃあみんな、そういうことかだからちゃんと実用的なの書いてね!......例えば、“メイド喫茶”とか書くなら、メイド服の調達先とか、メニューとか......教室のレイアウトとか、男子の服装及び化粧やウィッグの有無なんかも次の時間しっかり考えるから、もしあれならそこまで細かく書いてくれると有り難いかも!」
頭の良い赤葦君と要領の良い志摩さんの話し合いはサクサクと進み、まるで最初からこの二人が学実をやることが決まってたかのように息ピッタリだ。
メイド喫茶を例に出し、最後に男子のことを兼ね合いに出した志摩さんの発言に、先生含め教室中がどっと笑う。
確かに、本物のメイド喫茶って女の子しか居なくて、男性は大抵キッチンとか裏方さんなんだろうけど......学祭だったら男子のメイドが居ても面白いかも。
そんな話をしながら前の席の友人とクスクス笑っていれば、6組の中でも特にしっかり化粧をしてるクラスメイトがおもむろに声を上げた。
「あ、だったら私、赤葦のメイクやりたいかも。赤葦顔綺麗だし、絶対美女にする自信あるよ~」
「え......」
「あはは!確かに赤葦化粧映えしそう!w」
「あかこちゃん?や、けいこちゃんか?w」
「.............」
彼女の発言に、赤葦君と仲良い男子達が楽しそうに笑った。
......でも、元が綺麗な赤葦君がしっかりメイクしたら、確かにすごく美人さんになるかも。
そんなことを半ば本気で考えてしまえば、当の本人は顔を顰めながら「......仮にソレが採用されるなら、6組の男子もれなく全員巻き込むんで、男子は首と顔洗って待っててください」と静かに告げて、6組の男子もれなく全員からブーイングや苦笑を貰っていた。
ちょっとした騒ぎになったクラスを纏めたのは志摩さんで、「ハイハイ、静粛に~!周りと相談してもいいけど、10分経ったら回収するよ~」と慣れた様子で学祭の話し合いを進める。
「アラームセットするから、音鳴ったら後ろから回収お願いしまーす」
志摩さんは自分のスマホを取り出して、手際よくタイマー機能を使う。
その言葉を皮切りに、クラスメイトそれぞれが6組の催し物の話をしたり、提出するメモ帳を見繕ったりし始めた。
私もそれにもれず、まずはいつも持ってる手のひらサイズの花柄のメモ帳を一枚切り取り、さて何を書こうと考え出せば、担任の先生が前に居る学実の二人をのんびりと呼んだ。
「......赤葦~、志摩~。お前らも書きなさいよ、“クラス全員”の意見聞くんだろ?」
「え?あ、そっか。忘れてた......ん~、なんかメモ帳あったかな~」
「志摩、ルーズリーフでいいならあげようか?」
「え、いいの?ありがと!」
先生の言葉に志摩さんが直ぐに反応し、彼女の言葉に赤葦君が直ぐにフォローした。
二人が赤葦君の席へ向かうのを何となく自分の席からぼんやり見ていると、「あと、これって未記名でいいのか?それとも記名必要?」と先生が会話を続ける。
「ああ、すみません......なぁ、どっちの方が都合いい?」
「え、未記名がいい」
「わかった。じゃあ、未記名でお願いします」
赤葦君はたまたま近くを通りかかった男子の一人に聞いて、彼の返答をそのまま決定にしてしまった。
それにまた少し笑いが起こる中、赤葦君は志摩さんにルーズリーフを一枚渡してから自分の席に座る。
「.............」
自分用のルーズリーフも取り出して、ペンを握るものの直ぐに周りの席の男子達に話し掛けられ、一度顔を顰めたようだったけど楽しそうに談笑していた。
.......ああ、なんか、遠いなぁ......。
「ねぇ、夏初は何書く?やっぱりメイド喫茶?」
「!」
クラスの男子と話してる赤葦君をつい目で追っていれば、ふいに前の席の友達から慌ててそちらへ顔を向ける。
赤葦君をじっと見ていたことに気付かれたらどうしようと強い不安感と羞恥心に苛まれている私に、友達は可笑しそうにふきだした。
「いや、冗談だってwそんな困った顔しないでよw」
「......え......ぁ、変な冗談、やめてよ......!メイド服とか、やだし......」
「ごめんてwでも、夏初似合いそうじゃない?立嶋先輩、喜ぶかもよ?あと木兎さんとか?」
「余計やだよ......絶対からかわれるじゃん......」
どうやらバレていなかったようで、内心ほっとしながら友達の話に興じる。
でも、万が一それを着ることになったら、少なくとも立嶋先輩は絶対見に来るだろう。
隠すことも無くけらけらと笑われるビジョンしか見えなくて、想像しただけで大きなため息が出た。
そんな私に友達はまた笑って、そのまま何を書くかの話で小さく盛り上がる。
「......うーん......クレープ屋さんとか?」
「え、なんでクレープ?」
「......今、食べたいから?」
「そんな理由で?wウソでしょ?ちゃんと考えなよw」
「えー?考えてるよ~」
私の提案に、友達が可笑しそうにツッコミを入れる。
笑う彼女に段々私も可笑しくなってきて、結局二人してふざけ合いながらけらけらと笑ってしまい、志摩さんが掛けたアラームの音で慌てて何をやりたいか書くはめになったのだった。
結局今回のホームルームの時間ではクラスみんなのやりたいことを回収したところで終わった。
次のこの時間は今回の集計と具体的な実施方法等を考えたうえで6組の催し物を決めることになり、今日はこれが最終授業だったのでそのまま解散となった。
友達にまた明日ねと挨拶をして、さぁ部活だと思いながら......未練がましいとは思うものの、ちらりと赤葦君の方を見る。
夏休みが終わって最初の日、同じクラスだから赤葦君の姿は見かけるけど、今日一日全然話すことができなかった。
まぁ、クラスメイトと言えど元々喋る方でもなかったし、赤葦君は大体男子と、私は殆ど決まった女子としか話さないから、会話する機会が無いのも当然なんだけど。
......それでも、夏休みにはちょこちょこ話すことができた赤葦君と、二学期も話したいなと思ってしまうのは......赤葦君が、本当に素敵な人だと知ってしまったからで、私のなりたい憧れの人であるからだろう。
「.............」
......だけど、話したいと思ってるのは私だけなのかな。
自分の席で帰り支度をしている赤葦君を見て、自然と浮かんだ考えに情けなくもチクリと胸が痛んだ。
頑張って話し掛けにいこうか、せめて、帰りの挨拶くらいしても変じゃないだろうかとぐるぐる悩んでいれば......幸か不幸か、渦中の赤葦君がふとこちらへ顔を向けて、思いのほか視線がしっかり重なった。
「!」
「っ、」
途端、あ、というような顔をされて、ぎくりとしつつも一気に顔が熱くなる。
赤葦君と話したいと思っていたのに、いざそのチャンスがくると急に困ってしまうなんて、おかしな話だ。
どうしよう、でも、何か言わなきゃと息を吸った、矢先。
「赤葦ぃ!」
「!」
赤葦君のことを、クラスの男子が呼んだ。
その声に導かれるように、赤葦君は切れ長の瞳をゆるりとクラスメイトの方へ向け、彼との会話に応じてしまった。
......あぁ......せっかく赤葦君と喋れるチャンスだったのに、グズグズしてるから。
のろまな自分に心底ガッカリしてしまうも、再び赤葦君と目が合うことはなく、私と喋れそうな雰囲気でもなかった為、情けないため息を吐きながらひっそりと教室を後にした。
......せめて「また明日」くらい、言いたかったな。
▷▶︎▷
「じゃ、悪いけど赤葦からマネさんと木兎さんに伝えといて。詳細は後日、ウチの先輩から聞くと思うけど」
「了解。わざわざありがとな」
同じクラスの男子バスケ部から体育館使用日の変更を伝えられ、了承とお礼を返すと相手はひらりと手を振って教室を出て行った。
それに手を振り返して、その後直ぐに彼女の方へ顔を向けると......そこにはもう目的の人は居なくて、自分のものと同じ机と椅子があるだけだった。
部活熱心な彼女のことだ。放課後、長々と教室に居ることはないだろうと充分考えられるものの、どうしても諦めきれなくて教室をぐるりと見回し、廊下にも出て探してみたがその後ろ姿を確認することができなかった。
「.............」
さっき、せっかく目が合ったのに、そのチャンスをみすみす逃すなんて。
夏休み明けの二学期初日、クラスの特定の女子としか喋らない森に何とかして自然に話しかける機会を探り......ようやく巡って来た好機だったというのに、タイミング悪くバスケ部の友達に呼ばれてしまったのだ。
正直、今じゃなくてもいいだろうと思ってしまったが、部活に関する話だったので流石に聞かない訳にもいかず、そちらの会話に応じてしまった。
連絡事項を聞き終わり、直ぐに森に話しかけようとしたものの......彼女は部活へ行ってしまい、俺の情けない未練だけがこの場に残った。
「.............」
「あ、よかった!赤葦まだ居た!」
「!」
廊下に出たまま、堪らずため息を吐いていると再び声を掛けられる。
先程までずっと聞いていた声音に予測をつけつつそちらへ顔を向けると、思った通りのクラスメイト......同じ学祭実行委員の志摩が、制服姿でパタパタとこちらへ駆け寄ってくる姿が見えた。
「先生からなんだけど、来週の水曜放課後に学実の会議あるって。赤葦にも伝えてくれって、さっき急に言われてさァ」
「わかった、ありがとう......でも、来週の水曜か......それ、何時くらいに終わるとかわかる?」
「えーと、顔合わせと、各クラスの出し物の確認って言ってたから......ヨソと被らなければ、そんな時間掛かんないんじゃない?」
「......被っていいのって2クラスまでだっけ?」
「そうそう。三年生優先で、後はくじ引きって言ってたかな......万一被ったら、赤葦引いてね?私クジ運無いから」
「......何言ってんの。志摩、このあみだくじ当たっただろ」
「はー!?コレはどう考えてもハズレでしょ!?そっちこそ何言ってんの!」
志摩から担任の先生の伝言を聞き、その流れでそんな雑談に興じてしまうと、俺の冗談に志摩はちょっと怒った。
表情の乏しい俺とは違い、己の感情を鮮やかに見せる志摩が少し可笑しくて、謝りつつもつい笑ってしまう。
「......まぁ、お互い部活あるけど、一緒に頑張ろう。なるべく少ない負担で効率的に取り組める方法、少し考えとくよ」
「.............」
小さく笑いながらも、学祭実行委員という役職に立たされた者同士、協力し合っていきたいことを志摩に伝えれば、その大きな瞳をきょとんと丸くさせた。
しかしそれは数秒のことで、志摩は首を傾けながらゆるりと自分の腕を組む。
「.......うーん......もしかして、本当に当たりだったかも......?」
「え?」
相手の声は聞こえたものの、内容がよくわからなくて思わず聞き返してしまえば、志摩はおもむろにこちらへ視線を寄越し、にっこりと可愛らしく笑った。
「.......学実。赤葦と一緒なの、私めっちゃ当たりじゃん」
「.............」
「.......ああ、でも、部活は最優先でいきましょ。じゃ、また明日ね〜」
告げられた言葉に、今度は俺の方が目を丸くしていると、志摩はそんな言葉を付け加えてから俺の返答も聞かずにこの場から走り去ってしまった。
おそらく、先程の言葉は俺の冗談に「ハズレ」だと返したことを、やっぱり「当たり」だったとわざわざ言い換えてくれたんだろう。
「.............」
......もし、今日のあみだくじで森が当たってたら、彼女も「当たり」だと言ってくれただろうか?
今の話からふいにそんなことを考えてしまい、直ぐに苦笑がもれた。
人見知りで、引っ込み思案で、内向的な彼女はきっと、顔を青くしてすっかり困った顔をするに違いない。
......だけど、本当にそうなっても、森は頑張るんだろう。
「ハズレ」を「ハズレ」のままにせず、悩んで、考えて、少しずつ「当たり」に変える努力をするはずだ。
夏休み、立嶋先輩不在の中、たった一人で懸命に園芸活動をしていた時のように。
「.......俺も、頑張るしかないな」
周りに人が居ないのをいいことに、小さく口にした俺の決意は、放課後の廊下の陽射しに紛れ、夏と秋の間の空気にゆっくりと溶けていった。
提灯に釣鐘
(近くて、遠くて、話せない。)