AND OWL!
name change
デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
長いようであっという間な夏休みが過ぎて、二学期が始まった。
宿題は毎日少しずつ進めていたので特に急いでやることもなく終わり、久し振りに学校で会う友達と夏休み中に行った場所とか、夏期講習の話とか、お互いSNSで投稿していたあれこれの話をしていれば、いつの間にか本日最後の授業兼ホームルームの時間になっていた。
世界史の担当である二年六組の担任の先生は、授業開始のチャイムより五分ほど遅く教室へ現れる。
いつもと違い、何やら模造紙を丸めたようなものを持っているのが少しだけ気になった。
「はい、お待たせしましたー。六組のホームルーム始めます」
教卓に両手をつき、いつものようにゆるい調子で始まったホームルームに、何人かの生徒が「先生が遅刻していいんですかー?」「休みボケッすか?」等と茶々を入れていたが、先生は「ハイ、静かにしてくださーい」とのんびりと咎めるだけに終わる。
「今日、欠席者居ないなー?よしよし、偉いぞー」
ぐるりと室内を見回してからそんな感想を述べると、何やらノートのような物を取り出して教卓の上に置く。
そのまま何かのプリントを前から配り、後ろまで回らない内に「時は金なり、って言葉あるだろ?あれってさ、まさにこういう状況で使われると思うんですヨ」と話し始めてしまう。
一体何の話だと思っていれば、回ってきたプリントを見てようやく合点がいった。
そこには「梟谷学園総合学園祭」と大きく書いてあり、今年の大体の日程や昨年の学園祭の様子等がプリントいっぱいに書かれていた。
梟谷学園の学園祭は小学、中学、高校とすべて同じ日程で行われる為、総合学園祭という名称がついている。
そういえば、昨年も夏休みが終わった辺りから色々と準備に入ってたっけと一年前の記憶を呼び起こしていると、先生は相変わらずのんびりとした調子で話を続けた。
「という訳で、総学祭の季節がやってまいりました。この時間で実行委員二人決めて、いけたらこのクラスで何やるかも決めるぞー。はい、立候補者募ります、挙手お願いしまーす」
ゆるい口調ではありながら、さくさくと進めていく先生の言葉に、クラスメイト達はざわめきながらも誰も手を上げようとしない。
......時は金なりと宣言した先生には悪いけど、二年生の秋ともなると徐々に受験勉強や部活動が忙しなくなってくる頃だ。
この時期に結構なウェイトの学祭実行委員をやりたがる人も少ないのではないかと思う。
帰宅部の人がやればいいという意見もあるようだけど、そもそも帰宅部を選ぶ時点でそういうタスクは極力避けたいのだと以前帰宅部の友達から聞いたことがあり、なるほど確かにと妙に納得してしまった。
それに、これはあくまで個人的な意見であるものの......総学祭は梟谷学園でおそらく一番盛り上がる学校行事だ。
自分のクラスの催し物も、他学年や他クラスのそれもなんやかんや楽しみにしている人が多いと思う。
......そんな楽しいお祭りである総学祭の実行委員という重責を担える人なんて、クラスの中心的な存在の生徒じゃないとなかなか務まらないのではと思ってしまうのだ。
少なくとも、私なんかじゃ絶対に無理。だからこそ、実行委員のお二人にはしっかり協力させて頂きます。
「実行委員、やりたい人居ませんか~?......本当に?本当に居ませんか~?内申点稼ぎたいとかでもいいぞ~」
なかなか上がらない手に、先生は再度確認をとる。
手を替え品を替え、それを何度か繰り返したものの......結局自ら学祭実行委員を立候補するクラスメイトは現れなかった。
やっぱり、みんなそれぞれ忙しいらしい。
「.......立候補が居ないんなら、仕方ないな。じゃ、別の方法で決めます」
一向に進まない話し合いに痺れを切らしたのか、先生は軽くため息を吐いてから、持参した模造紙を手に取った。
クラスの皆が首を傾げつつ様子を見守る中、広い黒板にマグネットでそれを貼り付けていく。
横長の模造紙の底辺が前側に折られていて、いくつもの縦線とランダムに書かれた横線がまるでハシゴのようになっている。
誰もが一度は目にしたことのあるそれに、もしかしてと思っていると......模造紙を広げ終わった先生が再び教卓についた。
「ヨシ、公平にあみだくじで決めるぞー。引く順番はジャンケン勝ち抜き戦な。俺に勝った人だけ前に出て名前書きに来て下さい。アイコはダメです」
「先生めっちゃ準備してんじゃん!立候補居なくてよかったね!?w」
「全然よかないわ。こんなん使わないのが一番なんだよ。けど、立候補居ないのにダラダラ話し合うよりかはよっぽど効率的だろ?」
「コレ、夜なべして作ったんすか?w」
「や、去年の使い回し。前ん時はちゃんと立候補居たから使わなかったんだよ」
「えー、学実とか絶対無理なんですけど。バイト入れちゃってるしぃ」
「じゃあ頑張って自力でハズレを勝ち取ってくださーい。はい、じゃあ一回戦目始めるぞ~。全員片手上げろ~」
「.............」
まさかの展開に教室が騒然とする中、先生の言葉を無視する訳にもいかず、おずおずと小さく手を上げる。
一番最初、先生が「時は金なり」と言っていた本当の意味がようやくわかった。
二年六組の担任であるこの人は、ダラダラと長引く会議やホームルームが大の苦手で、特にこういった生徒同士の話し合いが停滞してしまう時には、半ば強引に、しかしフォローは忘れずにことを進める傾向があるのだ。
「さーいしょーはグー、ジャーンケーンポン」
「!」
担任の先生とのジャンケン大会が唐突に始まり、悲鳴と歓喜の声が混ざり合う。
ちなみに先生が出したのはグー、私はチョキだ。
大体クラスの四分の一くらいの人が勝ったようで、パーを出した勝者達が黒板に貼られたあみだくじに名前を書いていく。
その中の一人に赤葦君の姿を発見して、運もしっかり引き寄せるなんて流石だなぁと改めて尊敬してしまった。
......夏休み中は、部活中にちょこちょこ話したり、一緒に出掛けたりできたけど、学校が始まってしまえばいくら同じクラスと言えど、やっぱり話す機会は少なくなってしまう。
「.............」
あみだくじに名前を書きながら、男友達と喋ってる赤葦君に何となく距離を感じてしまい、それがちょっと寂しくはあるものの......元々赤葦君はクラスの男子達と一緒に居ることが多いし、それを抜きにしても何かと人気のある人だから、彼と話す機会が少なくなるのもまぁ仕方の無いことだろう。
むしろ、この夏休みに赤葦君と一緒に出掛けられたことの方が、とても珍しいことであり、奇跡的なことだったのではないだろうか?
シェイクスピアの喜劇の1つ、“夏の夜の夢”みたいに、色々なヒトやコトがあべこべになってしまうのが、まさに夏休みである、みたいな......原作は夏至だけど...
『.......森が嫌なら、離すよ』
そんなことを考えながらぼんやりと赤葦君を見つめていたせいか、いつかの夜の花火大会のことを思い出し、急速に体温が上がった。
屋台を一緒に見て廻って、多分、人が多いから気を利かせて寄越してくれた言動だと思うものの、思い出すだけで心臓が速くなり、顔に熱が集まる。
慌てて赤葦君から視線を逸らし、自分の図々しさにたまらず俯いて顔を覆っていれば、前の席に座る友人が「え、大丈夫だって!次は勝てるよ!あとあみだなんだし、ジャンケン負けても当選確率そんなに変わんないって!」と励ましてくれた。
それにお礼を返しながら、迎えた二回戦。再び負けて迎えた三回戦。それにも負けて、もしかしてずっと先生に勝てなかったらどうしようと半ば本気で考えていれば、「......残り物には福があると言います。まだ名前書いて無い人、書きに来て下さい」と情けを頂いてしまった。
最後まで勝てなかったのは本当に数人だったようで、各々ちょっとした羞恥を覚えながら余っているくじに名前を記入していく。
クラス全員の記名が終わると、先生はさっさと下の折り曲げた部分を開示した。
左右の一番端と端に“学祭実行委員”と書いてあり、ざわめく教室内をスルーして赤マジックを取り出す。
まずは右端の当選者を決める為、くじの下から上方向へなぞっていく。
キュッ、キュッと特有の音を立てながら上へ伸びていく赤マジックの先を、全員が固唾を飲んで見守り......そしてついに、一人目の当選者が表示された。
「......おお、赤葦だ。よろしく頼むなァ」
「......え......」
赤マジックがなぞった先にあったのは、赤葦君の名前だった。
途端、赤葦君本人は戸惑うような声をもらしたものの、クラスの皆は「流石赤葦!持ってる男~!」等と盛り上がり、学祭実行委員が赤葦君であることに不安や不満は全くないようだ。
「......じゃ、もう一人も決めるぞー」
わっと盛り上がる生徒達を他所に、先生は今度は青マジックで左端のくじをなぞり出した。
下から上へのぼっていく青マジックに、心臓がドキドキと高鳴る。
学祭実行委員なんてとてもじゃないけどコミュ障な自分には出来ないし、絶対当たりたくない。
.......でも、もしこれで、本当に赤葦君と一緒の委員会になれたら。
そんな相反する気持ちが同時に発生してしまい、すっかり混乱してしまいながらも、青マジックの先を懸命に目で追った。
「......志摩だな。うん、宜しく頼むぞ~」
「えぇっ!?うそぉッ!?」
「.............」
青マジックが辿り着いた場所は、女性らしいタッチで書かれている志摩さんの名前だった。
再び教室内がわっと盛り上がりを見せる中、外れたことに心底ほっとしたような、......それでいて、少しだけ胸がチクリと痛んだような、何とも複雑な気分に陥る。
「無理無理無理!私部活あるもん!めっちゃ忙しいし!てか、赤葦も男バレじゃないですか!私も赤葦も厳しいと思いますケド!」
「......と、いうことだそうだ。みんな、志摩と赤葦の為にもしっかり協力してやるんだぞー」
「えぇ〜!?そうじゃなくてぇ!いや、そうなんだけど!」
元気の良い志摩さんと先生のやり取りに、クラスの皆はどっと笑う。
「先生!もう一回やろう!?」
「残念だが、もうあみだくじがありません」
「私作るし!」
「そんな時間もありません」
「えぇ~!?そんなァ!」
まさに取り付く島もないといった感じの先生の態度に志摩さんが悲鳴を上げると、もう一人の当選者である赤葦君がおもむろに口を開いた。
「.......わかりました......」
「お、赤葦えらい」
「赤葦!?ウソでしょ!?春高三年生も出るんじゃないの!?」
「出るよ」
赤葦君は片手で頭を押えながら難しい顔をしていたが、小さくため息を吐いてから、その手を下ろした。
「.......でも、当たったものはもう仕方ないだろ。決め方も公平だったし......だから、志摩も観念して、協力してくれないか?」
「......えぇ~......その言い方、ずるくない......?」
赤葦君の言葉に、志摩さんは眉を下げながら言い淀む。
しかしながら、同じ境遇である赤葦君からの一言は、的確に志摩さんの心に響いたようだ。
「.......わかりましたァ、やればいいんでしょやれば!先に言っとくけど話し合いとかはマジで巻くからね!秒で終わらせるから、皆マジ頼むよぉ!」
半ばヤケになっているような調子で白旗を上げた志摩さんに、先生とクラスの皆からは「志摩よく言った!」「ちゃんと協力するから、頑張れ~!」等という声援と拍手が沸き起こる。
「学実が赤葦と志摩ちゃんとか、マジで当たりだよね。これから絶対楽しくなるじゃん」
「......うん、そうだね」
そんな中、前の席の友人がにこにこと笑いながら楽しそうに寄越してきたので、拍手をしつつもへらりと笑い小さく相槌を打った。
適材適所
(夏の魔法は、泡となってぱちんと解けた。)