AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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屋台ではたこ焼きと焼きそば、牛串、焼きとうもろこし、お好み焼きに焼きおにぎりまで買って、立嶋先輩達が待つ河川敷へと足を向けていた。
結構量があるので、本当にこんなに食べられるのかと少し心配したものの、赤葦君からは「え?むしろ八分目くらいにしたんだけど......」と戸惑いの色を浮かべられてしまい、そういえば赤葦君も立嶋先輩と同じタイプの人だったことを思い出す。
確かに赤葦君は背丈もあるし、スポーツ選手だから身体もしっかりしてるし、一般の人より沢山食べないと逆に栄養がとれないのかもと思い直しながら、唯一持ってる焼きとうもろこしをぼんやりと眺めた。
「.............」
この香ばしい匂いがとても好きで、お祭りがあると絶対に買ってしまう。
焼きとうもろこし特有のあまじょっぱいタレと、少しの焦げ目と、甘いコーンの組み合わせがなんと言うか、とても夏らしい味がして大好きだった。
袋に入れたままでもふわりと香る美味しい匂いに、たまらず頬が緩む。
ただ、なかなか上手く食べられなくて、手や口の周りがベタベタになってしまうのが少し難点だけど、それでもこれを見かけると、買わずにはいられなかった。
「......とうもろこし、好き?」
「......うん......!いい匂いするし......香ばしくて美味しいから、大好き」
「.............」
香ばしい匂いにへらへらと笑っていたのを気付かれたのか、赤葦君はそんな質問をしてきた。
ちょっと恥ずかしいなと思いつつ、お祭りの空気に少し浮かれたまま、焼きとうもろこしの好きなところをつい話してしまう。
「......あと、とうもろこしってね、花が2種類咲くんだよ」
「え?そうなの?......あの、ヒゲみたいなヤツ?」
「うん。そこも花なんだけど、もうひとつ、ススキの穂みたいな花も咲くんです。そっちが雄花で、ヒゲみたいな方が雌花で、あのヒゲ1本1本がコーンの粒をつくるんだって」
「へぇ......それは、知らなかった。今度見かけたら、ちゃんと見てみよう......」
焼きとうもろこしの話から、つい植物の話をしてしまえば、赤葦君は興味深そうに相槌を打ってくれる。
立嶋先輩や保健医の先生以外にこういう反応を返してくれる人が居るなんて、驚く反面とても嬉しい気持ちになった。
赤葦君は、やっぱりとても優しいし、とても素敵な人だ。
「......でも、さすが園芸部だな。まるで植物図鑑だ」
「......ううん、全然、そんなことない......まだ全然、知らないことばっかで......先輩は、本当に凄いんだけど......」
「.............」
「......先輩が居なかった時も、失敗ばっかりだったし......やっぱり、まだまだ勉強不足だなって......痛感し、て......」
知識の浅い私なんかには勿体無い程の言葉に、慌ててそうじゃないことを返すと......焼きとうもろこしの袋を持っていない方の手が、温かくて大きな何かにするりと包まれた。
唐突に触れられたものだから、思わずびくりと身体を揺らし、言葉の途中で黙ってしまう。
固まりながらも、おずおずと自分の手元を確認すれば......赤葦君の大きな手が、私の拙いそれをしっかりと包み込んでいた。
「.............」
「.............」
視覚からの情報に、思考回路の速度がどんどん鈍くなる。
......思えば先程、ぶどうのかき氷を食べ終わったら手を繋いでもいいかと聞かれ、どう返事をしたらいいのかすっかり迷ってしまい、結局何も返さず終いになってしまった。
恥ずかしくて、かき氷を少しずつゆっくり食べながらも屋台を廻り、完食したのはこの焼きとうもろこしを購入した辺りで、かき氷のカップと交換するように焼きとうもろこしの袋を貰った為、今まで赤葦君とは手を繋がずにいたのだ。
だけど、今、私の左手は赤葦君の大きな右手にすっぽり包まれている。
途端、ぶわっと顔に熱が集まってきて、視線はおのずと足元へ固定されてしまった。
「.......森が嫌なら、離すよ」
「.............」
ぽつりと静かに上から降ってきた言葉に、胸の奥がきゅっとする。
羞恥心に負けて俯いている為、赤葦君が一体どんな顔でその言葉を寄越したのかはわからないものの、ここで何も反応しなければ、この大きな手をふらりと離されてしまう気がした。
......手を、繋ぐのは恥ずかしいけど、でも、決して嫌じゃない。
「.......っ......」
「!」
そう伝えたいけど、緊張のあまり声が出なくて、恥ずかしくて顔が見れなくて、どうしようかと拙い頭をぐるぐると回して......結局、赤葦君の大きな手を少しだけ握り返すことで、まだ繋いでいたいことを伝えてみた。
「.............」
「.............」
だけど、言葉じゃないし、顔も見てないし、ちゃんと赤葦君に伝わったかなと少し不安を覚えていれば、赤葦君は少し間を開けて、私の手をゆっくりと握り返してくれた。
「.............」
「.............」
「.............」
「.......きだよ」
「......え......?」
心臓が、どうにかなってしまうんじゃないかと心配になるほどドキドキして、夏の暑さとは別の熱さに頭がくらくらとしていれば、ふいに言葉を落とされたものの上手く聞き取れなくて、反射的に聞き返してしまう。
思わず顔を上げてしまい、その切れ長の目と視線が重なると......赤葦君は、涼しげな目元をゆるりと甘くゆるめた。
「......そろそろ、花火上がっちゃうな。早く戻ろう」
「.............」
そう言って、赤葦君は繋いだ手を少し引っ張って、ゆっくりと歩き出した。
それに釣られるようにして私も歩き出すと、赤葦君はすっかりいつもの調子で世間話を寄越してくれる。
......さっき、赤葦君が何て言ったのかはわからずじまいだったけど、何となく、聞き直す勇気もなくて、結局そのまま別の話を続けてしまうのだった。
▷▶︎▷
河川敷まで戻ると、木兎さんや尾長さん達もすでに戻っていて、後から合流したであろう白福先輩と雀田先輩に「あ。夏初ちゃ~ん、こっちこっち~」と手招きされた。
お二人に会釈を返しながらどうしようと思っていれば、猿杙先輩と話していた赤葦君が先にお二人の方へ行ってくれたので、おたおたとその後に続く。
「はは、赤葦も来た。てか、いいモノ持ってんじゃ~ん」
「残念ですが、あげませんよ。むしろ白福さんの方が沢山あるじゃないですか」
「んふふ。残念だけど、あげないよ~?」
「別に取りませんよ」
赤葦君と白福先輩の会話を聞きながら、そろりと白福先輩のご飯を見ると、屋台の料理特有の容器が山ほどあって思わず目を丸くした。
た、沢山食べる方だと聞いてはいたけど......本当に、こんなに沢山食べるんだなぁ......立嶋先輩みたいだ......。
「夏初ちゃんは何買ったの?もろこしだけじゃないっしょ?」
「あ、はい......これと、お好み焼きと、焼きおにぎりを、買いました......」
「お~、結構ガッツリいくねぇ。そんな食べきれる?」
「......あ......その......お好み焼きと焼きおにぎりは、赤葦君が半分貰ってくれるので......大丈夫です......」
白福先輩のご飯の量にびっくりしていると、雀田先輩が話し掛けてくれて、それに答えると雀田先輩は愉しそうに笑いながら赤葦君を見た。
「へぇ~?赤葦クン優し~い」
「......お互いの利害の一致と、効率化を図ったまでですよ」
「ふーん?そっか~?」
「.............」
「あかーしィ!お前、大阪ってどう思う!?」
「.......木兎さん、重いです」
女子マネージャーのお二人との会話が終わるか終わらないかのところで、今度は木兎さんが座ってる赤葦君の背中に勢いよく伸し掛ってきた。
それにまたびっくりしていると、赤葦君は慣れた様子で小さくため息を吐くだけだ。
「立嶋が言うには、超面白いチームがあるらしくて!でも俺、大阪弁出来ねぇじゃん?だから、もしかしたらこの東京者め!ってツメジキに......ん?ツマジ......?ツマ、ヨウジ?に、される......?」
「ぶっはw爪楊枝w筋肉ゴリラからすげぇスマートになるじゃんw」
何かをひどく心配するような木兎さんの話に、赤葦君よりも先に立嶋先輩が可笑しそうにふきだした。
「ゴリラから爪楊枝とか、結果にコミットし過ぎだろw」
「R●ZAP?wいや逆か?w普通は爪楊枝からゴリラに進化させんだもんな?w」
「木彫りのゴリラってこと?wどんなわざマシン使うんだよw」
「木彫りのゴリラwやべぇw」
「うるせぇー!!ちょっと間違えただけだろ!?というか俺は赤葦に話してるんですぅ!」
立嶋先輩の近くに座る小見先輩と木葉さんもけらけらと笑いながらそんな言葉を続け、明らかにからかわれてる木兎さんが面白くなさそうに声を荒らげる。
そんな木兎さんに、赤葦君は着々と食事の準備をしながら「......とりあえず、落ち着いてください。大阪のプロバレーチームの話でしたら、もう少し情報をください。あと、方言を話せなくても別に爪弾きにはされないと思いますよ」と木兎さんの話を綺麗に整頓した。
「さすがアシ君!ナイスアシスト~」
「......立嶋さん、木兎さんに何を話したんです?大阪、この前行ってましたよね?」
「あー、そうそう。親父の介護やりつつ見てたテレビで、丁度バレーの試合やっててさ。名前忘れたけど、犬っぽいマスコットがいる大阪のチームがいて、その試合が超面白かったんだよね。あとユニフォームが黒でめっちゃ格好良かった」
「......で、木兎が大阪云々言い出した訳。まぁ、お前絶対一般受験は無理だろうから、スポ薦で大学行くか実業団のチームに入るかしか無いだろうしなァ」
「俺はバレーだけやりたいから、プロチームに入りたい!」
「つーかプロ入りって、それがもう就職みたいなもん?そもそも高卒OKなのかよ?」
「でも、野球とかって高卒でプロ入りするヤツ結構居ない?甲子園の実績からそのままドラフト会議して、チーム入りっていうのよく見る気がするけど......」
「野球とバレーはまた別なんじゃねぇの?......木兎お前、プロ目指すんならちゃんとそういうのも自分で調べろよ?赤葦頼らずに!」
「わかってるよ!......でも、わかんなかったら一緒に調べて?」
「お前なぁ......」
「調べるのは別にいいですけど......木兎さん、ちゃんと勉強してくださいよ?夏休み、もう終わりますけど宿題進んでます?今年は大丈夫なんでしょうね?」
「..............ダ、ダイジョウブ......」
「オイオイオイ目ぇ泳いでんぞ木兎!お前また監督にドヤされても知らねぇからな!?」
大阪のプロバレーチームの話から木兎さんの宿題事情に変わり、どうやらあまり芳しくない状況に男バレの皆さんがガクリと肩を落とした、矢先。
広大な夏の夜空に、大きな花火が一つ咲いた。
遅れて届く大きな音にぎくりとしつつも、次から次へと上がる光の花々に視線を、意識を、心を奪われてただただそれを眺めてしまう。
「おぉーッ!すっげぇ綺麗!最高じゃん!」
「生だとやっぱ迫力あんな~」
「これ、スマホで上手く撮れるかなァ?」
「えー?ムービーならいけるんじゃん?」
打ち上げ花火に奪われたのは私だけでなく、男バレの皆さんも、立嶋先輩もわっと盛り上がり、全員夏の夜空の大輪を楽しそうに眺めていた。
「.............」
きらきらと光り輝く色とりどりの蛍光色が、濃紺の夏の夜空によく映えてとても綺麗だ。
遠く離れているにも関わらず、お腹に響く火薬の破裂音がより一層夏の風物詩としての存在感を強める。
鮮やかで、強烈で、一瞬見ただけで全てを奪われるようなそれを眺めながら、何だか最近似たような体験をしたなとぼんやりと思い出した。
でも、打ち上げ花火なんて久しぶりに見たし......と最近の記憶を探すこと、数分。
いつかの体育館で見た、スパイクを打つ木兎さんの姿が思い当たった。
そうだ、それだ。高く高く跳んで、大きな音を響かせながらボールを打つその姿は、今見ている打ち上げ花火にそっくりだ。
「.............」
出し惜しみもせず、次々に上がる花火を見ながら、ぼんやりと考える。
さっき、木兎さんの将来のことを皆で話していたけど......来年、梟谷を卒業した木兎さんは、もしかしたらプロのバレーボール選手になっているかもしれない。
あんなに凄いバレーをする人だから、きっと木兎さんを欲しがるチームは沢山いるだろう。
......でも、裏を返せば、来年の今日。
先輩方は、誰一人ここには居ない。木兎さんも、木葉さんも、白福先輩も雀田先輩も、小見先輩や猿杙先輩、鷲尾先輩、......そして、立嶋先輩だって、来年の今日、私の隣りには居ないのだ。
......今だけ、なんだ。先輩方とこんな風に一緒に居られて、手を伸ばせば触れられて、綺麗だねとはしゃいで、笑い合えるのは。
「.......っ......」
途端に胸の奥がきゅっとして、大きな花火がゆらりと滲む。
あぁ、それはなんて寂しくて、悲しくて、苦しいことだろう。
こんなに辛くて耐え難いのに、どうしようも出来ないなんて。
......先輩達と、ずっと一緒に居たい。今日がずっと続けばいいのにと、そう願わずにいられない。
「.............!」
みっともなく、へこたれそうになってる最中...隣に座る赤葦君が、まるで私を支えるようにこちらへ身体を寄せてきた。
思わず私の情けない思考を読まれたのかと思い、ぎくりとしながらそちらを見るも、赤葦君は花火を見たままで、私の方へ視線を寄越すことはなかった。
だけど、赤葦君のしっかりとした身体は、私にそっと寄り添ってくれる。
何だかそれが、来年になっても自分は居るよと、だから頑張れと言ってくれてるような、そんな気がした。
「.............っ、」
「.............」
その優しさと心強さにたまらず胸が熱くなり、情けない涙がはらはらと頬を伝う。
本当に自分は弱虫で甘えただなと心底嫌になりながらも、それでも赤葦君は隣に居てくれて、支えてくれるから......来年に向けて、ちゃんとしっかりしなければと思い直す。
みっともない涙を拭いて、今ある美しい光景をきちんと目に焼き付けようと、光の大輪が咲き誇る夏の夜空を再び見上げた。
年年歳歳、花相似たり
(歳歳年年、人同じからず)