AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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立嶋先輩に買ってもらったぶどうのかき氷は、思いのほかしっかりとぶどうの味がしてとても美味しかった。
段々と日も落ちてきて、夜の空気へ変わりつつあるもののまだまだ暑さを感じる中、ひんやりと甘く溶けるそれをゆっくりと食しながら、先輩方の後に着いていく。
男バレの先輩方も、立嶋先輩も各々食べたいものを粗方購入してから、それらを持って屋台の集まる通路から外れ、どうやら近くの河原の方へ向かうようだった。
「.............!」
河川敷まで到着すると、そこには沢山の人が居て、各々レジャーシートを広げて屋台で買ったのだろう食べ物を食していたり、お酒を飲んで盛り上がっていたり、わいわいとスマホや携帯ゲームで遊んでいたりと非常に賑やかな空間が広がっていた。
この景色を見れば、頭の回転が悪い私でも一つの夏のイベントを思い付く。
.......もしかして、今日は花火大会があるんじゃないだろうか?
立嶋先輩が早上がりにこだわったのは、この花火の時間に合わせてここに来る為だったのでは......。
「......あ、居た居た!おーい!あかーしー!!尾長ー!!」
「!」
突然のことにおどおどしながらも予想を立てていれば、先頭にいる木兎さんがここに居ない男バレ二人の名前を呼んだ。
こんなに沢山の人が居るのによく直ぐに見つけられるなぁと場違いながらも驚いてしまうと、木兎さんは見つけた二人の元へしっかりと辿り着く。
「場所取りお疲れ!まじサンキューな!めっちゃ良い位置じゃん!」
「いや、花火がどこから上がるのかちょっと自信ないんですが......まぁ、見れない位置では無いと思います」
「あれ?これってもしや部活のヤツ?なるほど、考えたな」
「一応監督に許可は取ってます。全員で座れるレジャーシートって、これしか浮かばなかったんで」
大きなブルーシートの上に座っていた赤葦君に木兎さんと木葉さんが話しかける。
その会話を聞いて、赤葦君達が先輩方の為にこの場所を取っておいてくれたことが分かり、私一人何もしてないことにサァッと顔を青ざめた。
「.......」
「.......あの、大丈夫ですか?なんか、顔色悪いですけど......」
「!」
しまった、どうしよう......と眉を下げていれば、赤葦君と場所取りをしていた男バレの一年生......背の高い尾長さんが、目敏く私の変化に気付き心配そうに声を掛けてくる。
おずおずと尾長さんの方を見て、視線を下に落としながら軽い頭をすごすごと下げた。
「.......ぁ......私、二年なのに、......何もしなくて......申し訳ありません......」
「え!?いやいや!そんな、大丈夫ですよ!」
情けない程小さな声で謝罪を述べると、尾長さんは驚いたような声を上げ、パタパタと両手を振った。
「じ、実は俺も、赤葦さんから何も言われなければ、全然動けなかったんで......」
「.............」
「......本当は、一年の俺が赤葦さんより早くに動くべきなのに、俺、全然気が利かなくて......ちゃんと、赤葦さんみたいに手際良く動けるようにならないとって、反省しました」
「.............」
片手で頭をかきながら、声を潜めて話す尾長さんの言葉に、たまらずきょとんと目を丸くする。
私と視線が重なると、背の高い彼は眉を下げてへらりと笑い、一年生という年相応の笑顔を見せた。
その笑顔に釣られて、思考がするりと口から零れる。
「.......私、も......」
「え?」
「.......私も、赤葦君、お手本にしてます......」
「.............」
「......赤葦君は、本当、凄いです......」
私の言葉に、今度は尾長さんがきょとんと目を丸くする。
しかし、直ぐにまたにっこりと笑ってくれて、そして、少し誇らしげに私に告げた。
「.......はい。尊敬する、自慢の先輩です!」
「.............」
はっきりとそう告げられて、何だか私まで嬉しくなり、へらりと頬が緩む。
私の憧れである赤葦君は、後輩の方から見てもやはり憧れの存在であり、そしてこんな風に素直に自慢できるほど、とても素敵な人なのだなと改めて理解した。
赤葦君は、やっぱり凄いな。本当に、本当に立派な人だ。
「尾長」
「!」
噂をすれば影がさすとはよく言うものの、本当にタイミングよく渦中の赤葦君がこちらへ来たので、尾長さんと二人でびくりと肩を揺らしてしまう。
「花火までもう少しだけ時間あるから、俺達も屋台見に行こう。猿杙さんと鷲尾さんが荷物番してくれるって」
「え!本当ですか!すんません、ありがとうございます!」
「.............」
赤葦君の言葉に、尾長さんはパッと顔を明るくして素直に喜んだ。
そんな彼に木葉さんが「尾長、俺と行こうぜ。さっきロープライスなたこ焼き屋見つけたから、案内してやるよ」と声を掛け、尾長さんも嬉しそうにお礼を返す。
「あ!俺も俺も!まだ時間あるならもうちょい屋台見たい!小見やんと立嶋はー?」
「俺は腹減ったからまず飯。量足んなかったら木兎か木葉に連絡するわ」
「右に同じで~」
「はぁ?それちょっとせこくね?」
「つーかお前ら自分で行けよ」
木兎さんも屋台をもう少し見たいらしく、だけど立嶋先輩と小見先輩はここに残って食事をするみたいだ。
先輩方はまた小競り合いのようなものを始めてしまっているが、立嶋先輩がここに残るなら、私もここでかき氷食べようと思っていると、猿杙先輩が思いがけない言葉を寄越してくる。
「......あぁ、そういえば、夏初ちゃんもまだそれしか買ってないよね?疲れてなければ、夏初ちゃんも行っておいでよ」
「......ぇ......」
「ナンパとか怖かったら、赤葦の隣り歩けばいいし。......ね、赤葦。頼んでいいよね?夏初ちゃんのこと」
「.............」
「......はい、問題無いです。......じゃあ、一緒に行く?」
「.............」
前半は猿杙先輩に、後半は私に向けられた赤葦の言葉に、おたおたとしながらそろりと立嶋先輩を見ると、先輩は今だに木兎さんや木葉さんと騒いでいてこちらの会話を全く聞いてないようだった。
ど、どうしよう......と悩みつつ、手元にある綺麗な紫色に視線を落とす。
......でも、そうだな......コレだけじゃ、確かに後からお腹空くかもしれないし......もし、お腹が鳴ってそれを先輩に聞かれたら、絶対笑われる。それはやだな......。
「......い、行きます......」
男バレの皆さんが居る中で笑い物になるのは嫌だなと思い直して、顔を上げてそう返すと、赤葦と視線が重なった。
すると、切れ長の目元がほんの少しだけ甘くゆるみ、小さく笑ってくれる。
その笑顔にどきりと心臓が跳ねて、とっさに視線を逸らしてしまった。
「.............」
「.............」
「.......ほら、早く行かないと花火始まっちゃうよ?」
「!」
何だかひどく居た堪れない沈黙が赤葦君との間に訪れたものの、猿杙先輩が助け舟を出してくれたおかげで何とか気まずくならずに済んだ。
「じゃあ、行こうか」と促してくれる赤葦君に小さく頷き、少し溶けた紫色の氷を持って一旦河川敷から離れることにするのだった。
「......猿杙クンのそういう小賢しいとこ、マジでムカつくわァ......」
「いやぁ、見事な手腕でしたな」
「俺、結構あの二人応援してんだよねぇ」
「......あまり邪魔してやるなよ、立嶋」
「はぁ?今俺全然邪魔してなかったろうが。冤罪だぞ鷲尾」
「今だけの話じゃない......」
そんな先輩方の話は、河川敷を離れてしまった私や赤葦君には一つも聞こえなかった。
▷▶︎▷
木兎さんと木葉さん、尾長さんと赤葦君、おまけで私の五人で屋台の方まで来たものの、木葉さんのスマホに男バレの女子マネージャーから連絡が入ったらしい。
どうやら白福先輩と雀田先輩もここにいるようで、先程赤葦君と尾長さんが場所取りをしたところまで連れて行ってほしいという内容だったようだ。
どうして最初から一緒に居なかったんだろうとひっそり思っていると、尾長さんが同じ質問を木葉さんにしてくれた。
「俺ら居るとうるせぇから女子二人だけで見ようとしたらしい。けど、ナンパがウザ過ぎてやっぱこっち来るってサ」ということらしい。
確かに、雀田先輩も白福先輩も美人さんだし、スタイルも素敵だし、外見だけでもお二人に惹かれる男の人は多いだろうなと思う。
でも、女子マネージャーのお二人は外見もさながらとても優しいので、同性から見ても本当に素敵な先輩だ。なので、ナンパのくだりは気の毒に感じつつも、先輩方とも一緒に花火が見られるということが少し嬉しかった。
「じゃあ、俺らは合流してくっから、赤葦、夏初ちゃん頼んだぞ」
「え?」
矢先、木葉さんから寄越された言葉がよくわからなくて、赤葦君と一緒に首を傾げてしまえば、木葉さんと木兎さんは呆れたようにため息を吐いた。
「かおりんも雪っぺも夏初ちゃん好きだから、このままだと絶対女子三人でイチャイチャしちゃうぞ?いいの?ダメでしょ?」
「.............」
「まぁ、俺と木兎と尾長が居れば事足りるから、お前は夏初ちゃんとまわってこいよ」
「.............」
じゃあ、また後でな!
それだけ言って、木兎さんと木葉さんは一年生の尾長さんを連れて、おそらく女マネのお二人が待っているであろう場所へさっさと向かってしまった。
残された私と赤葦君は特に何も話すこともなく、人混みの中にぽつんと二人で立っている。
「.......なんか、ごめん。森の意見、全く聞けてないね」
「......ぇ......ぁ、いえ......」
突然のことに驚いてしまいすっかり呆けてしまっていると、赤葦君から話し掛けられ、おたおたとしながらも手持ち無沙汰に紫色の氷をスプーンで混ぜる。
いつのまにか半分ほど溶けてしまっているそれに気付き、早く食べてしまわないとと思っていると、赤葦君が少しだけ距離を詰めた。
「......気になってたんだけど、それってぶどう味とか?紫色のかき氷って珍しいよな」
「......あ、うん......ぶどう味、見つけて......」
「もしかして、ぶどう好き?」
「うん。好き......」
「.............」
意味もなくぐるぐるとスプーンで掻き混ぜながら、赤葦君との会話を繋ぐ。
思えば、ここ最近は暫く二人きりになっていなかった気がして、なんだか妙に緊張してきてしまった。
「......それ、美味しかった?」
「うん。あ、溶けちゃってるけど、よかったら、ひと口食べ......る......?」
「.............」
それでも、優しい赤葦君が会話を寄越してくれるので、失礼にならないように何とかそれを繋いでいれば...何気無く言った一言が、とんでもないものだったことに言ってから気付き、ゆっくりと顔が青ざめていく。
お、女の子の友達じゃないんだから、スプーン1つしか無いのにひと口食べる?なんて、気軽に聞いていい質問じゃなかった。
とっさに赤葦君を見ると、切れ長の目を丸くして驚いている様子が見えたので、自分がひどくおかしな事を口にしてしまった事実に心がすっかり打ちのめされた。
「.......あ、えと、ごめん......なさい......」
「.............」
おそらく困惑しているだろう相手に結局謝ることしかできず、自分の低過ぎるコミュ力にがっかりしていれば...今まで黙っていた赤葦君が、ゆっくりと上半身を屈めた。
「────うん、食べる」
「え......」
目の前にふと影が差したことと、予想してない赤葦君の言葉に思わずぎくりと固まると、赤葦君は私の右手からスプーンを攫って、紫色の氷をひと欠片掬い、何の躊躇いもなくそれをぱくりと食べてしまった。
「.............」
「.......あ、美味い。ちゃんとぶどうの味がする。果汁入ってるのかな?」
「.............」
びっくりして固まったままの私に、赤葦君は至って普通の様子でぶどうのかき氷の感想を述べると、スプーンをカップの中に戻してくれる。
「......ありがと。ご馳走様」
「.............っ、」
その際、屈んだ状態でまた小さく笑われて、いつもよりずっと近い距離だったことと、...その、今のやり取りのことで頭がいっぱいになり、じわじわと顔に集まる熱にたまらずきゅっと口を結ぶ。
両手で持ってる紫色の氷は確かに冷たいはずなのに、身体の内側からじりじりと焦がすような熱が夏の暑さと合わさって、なんだか頭がひどくクラクラした。
「.............」
「.............」
「.......それ、食べ終わったらでいいんだけど......」
「.............」
「.......手、繋いでもいい?」
「.............」
将を射んと欲すればまず馬を射よ
(バレーも恋愛もチームプレーだからな!)