AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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本日の授業が全て終わり、帰りのホームルームも何事も無くお開きになったので、私は友達に挨拶だけしてさっさと教室を出た。
部活の先輩から所用で遅れると連絡を貰っていたので、了承の返事をしてから意気揚々と部活へ向かう。
別に先輩が居ないから浮かれている訳ではなく、部活の時間がとても好きなので自然とテンションが上がってしまうのである。
前回やった校舎沿いの花壇の草むしりがまだ途中なので、今日はそれから始めよう。
今日で終わったらどうしようかな、何を植えるかの提案書でも作ろうかな。
パンジーとかヴィオラだとカラフルで可愛いし、マリーゴールドとか菜の花でも綺麗かも。
「森」
楽しい考え事をしながら廊下を歩いていると、背中から声を掛けられた。
その落ち着いた声音には聞き覚えがあり、相手を予想しながら振り向く。
視線の先にはやはり予想通りの相手、同じクラスの赤葦君がこちらへ歩いてきた。
バレー部特有のエナメルバッグを肩にかけているということは、赤葦君もこれから部活なんだろう。
「ごめん、急いでる?」
「......大丈夫です......」
律儀に私の都合を訊いてくれる赤葦君に問題ないと返してから、何の用だろうと少し思案する。
やっぱり、木兎さんの件だろうか。
「昼間はごめん。勝手に話終わらせて、木兎さん連れ出しちゃって」
「......ああ......いえ、全然......」
予感的中。申し訳なさそうに視線を逸らす赤葦君の謝罪に、そんなことないと首を振る。
実際、木兎さんがあのタイミングで退出してくれてほっとしたところもあったし、別に赤葦君が謝る必要なんて全然ないのだ。
「......赤葦君、凄いんですね......」
昼間の一件を思い出しながら、木兎さんの話を聞いた感想を素直に伝えると赤葦君は少しの間を置いてから小さくため息をついた。
「いや、あの人が大きく話してるだけで、俺は至って普通だよ」
「.............」
少し眉を寄せながらも淡々と話す赤葦は、本当にいつも通りに見える。
......そういえば、耳が赤いとか言われてたな。
友達二人の会話を思い出し、そろりと赤葦君の耳元に視線を滑らせる。
自分より大分高い位置にあるのでどうしても顔を上げないと見ることが出来ないが、丁度赤葦君がこちらを見ていないので注視することが出来た。
......あ、確かに少し赤くなってるかも。
「......照れてる......?」
「!」
思考がそのまま口に出てしまい、慌てて口を噤むも時すでに遅し。
赤葦君にはばっちり聞こえてしまったようで、珍しく動揺の色が見て取れた。
「......あ......ごめん、なさい......何でもないです......」
「.............」
うっかり発してしまった失言に即座に謝るも、何のフォローにもならずにただ口を閉じる。
そのまま自分の足元に視線をやり、もうさっさとこの場からおいとましてしまおうかと失礼千万なことを考え出すと、頭の上から赤葦君の声が聞こえた。
「......俺、そんなにわかりやすかった?」
「.............」
半分逃げ腰になりつつ尋ねられた内容を少し考え、首を振る。
「......ううん......わかり、づらい......」
「でも、森にはバレた」
「.............」
それは私が友達にヒントを貰っていたからであるが、普通に考えてそのことを本人に伝えるのはどうかと思う。
それなりに仲が良ければ問題ないのかもしれないが、私と赤葦君は最近になって少し喋るようになったくらいの間柄である。
どうしたもんかと頭を悩ます間も、赤葦君はその切れ長の瞳をこちらへ向けたまま私の返答を待っていた。
「.............」
「.............」
「......木兎さん......赤葦君の、前で......赤葦君のこと、凄く、褒めてたから......もしかして、照れてたり......とか......するのかなぁって......ちょっと、思って......」
「.............」
「......すみません......」
自分の足元を見ながら、しどろもどろにそれらしい答えを返す。
赤葦君からの相槌や返答はないが、おそらくこちらが赤葦君の耳の赤さで判断したということはバレていないだろう。
内心で少しヒヤヒヤしながらも、昼間に聞いた木兎さんの話を思い出す。
赤葦君のことを話す木兎さんは本当に嬉しそうで、心底楽しそうだった。
「......お昼の、木兎さんの、話は......少し、難しかったけど......木兎さんが、赤葦君の、ことを......凄く尊敬してて......凄く、信頼してるんだなって、ことは......よくわかりました......」
「.............」
「......なんか、良いね、そういうの......」
「............!」
キラキラと瞳を輝かせながら楽しそうに赤葦君の話をする木兎さんを思い出し、自然と小さな笑いが零れた。
マスクをつけているから、赤葦君にはきっと気づかれなかっただろう。
男バレのことはあまり知らないけれど、木兎さんと赤葦君の様子から見て、きっととても雰囲気の良いチームなんだろうなと思う。
凄いと思う選手は誰かと訊かれて、真っ先に己のチームメイトの名前を挙げる主将が、この梟谷学園に果たして何人居るのか。
「────森、あのさ......」
「あ、赤葦~」
赤葦君が何かを言いかけたところで、誰かが赤葦君のことを呼んだ。
見ると、同じクラスの男子が教室からこちらへ出てきた所だった。
彼は赤葦君の前に私がいた事に気が付くと、「わり、後ででいいわ」と直ぐに気を遣ってくれる。
「......あ......じゃあ、私、部活、あるので......また明日......」
「......うん、また明日」
途端に居心地が悪くなり、赤葦君にはおざなりな挨拶と会釈だけしてから少し早足でこの場を離れた。
こういう時、人見知りって本当に面倒くさいなと自分でも思う。
それを変えることが出来れば万々歳なのだが、生まれてこの方17年、人見知りをしなかった試しが一度もない私には無理難題に等しいことだった。
......でも、赤葦君は一体何を言おうとしてたんだろうな。
▷▶︎▷
赤葦君と別れてから部室という名ばかりの第三会議室に入り、制服から学校指定のジャージに着替える。
貴重品と軍手だけポケットに入れて、髪を下の位置で2つに簡単に結んでから鞄を部屋の端に寄せた。
途中用具倉庫に寄って必要な物を借り、目的地の花壇へ辿りつく。
人の目がないのをいいことに軽くストレッチをし、軍手を装着してからよっこいしょと花壇へしゃがみ込んだ。
さぁ、今日も頑張ってむしるぞ。
元気に蔓延る雑草君達をひたすらブチブチと抜いていく中、愛用の腕時計がふと目についた。
......そういえば、この腕時計を体育館に忘れたところから色々始まったんだよな。
木兎さんのボールが当たってしまった顔にはまだ青々としたアザが出来ているが、最初の頃よりずっと痛みはない。
この調子なら、明日くらいに化粧で隠せるのではないだろうか。
そしたらこのマスク生活とはおさらばだ。
病気の時ならまだしも、健康体でマスクをつけるのは少々息苦しくて厄介だった。
風邪が流行る時期でもないから、何となく浮いてる気もする。
「あのぉ、森 夏初ちゃんですか~?」
マスクを付けた状態でせっせと花壇の手入れをしている私の背中から、聞き馴染みの無いおっとりとした女の人の声が聞こえた。
途端、ぎくりと身体が強張る。なんだろう、誰だろうと不安に思いながらゆっくり後ろを振り向くと、そこには白地に黒のラインが入った梟谷学園高校のジャージを着た髪の長い綺麗な女の人と、以前体育館で会ったポニーテールの美人な先輩がこちらを見ていた。
立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花
(赤葦君といい、木兎さんといい......バレー部って、美男美女ばっかりだな......)