AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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「夏初ちゃんお疲れ~!昼飯ってもう食べた?」
「!」
立嶋先輩が不在の5日目のお昼過ぎ。
背後から掛けられた、からりとした明るい声にびくりと肩が跳ねる。
麦わら帽子を被ったままおずおずと振り返ると、相手は予想通りの人物で、頭の上で燦々と輝く夏の太陽にも匹敵するであろうきらきらとした笑顔を浮かべた。
「俺らこれから昼休憩なんだけど、一緒に食べない?......あ、その花俺知ってる!キキョウでしょ?キキョウ!うちの姉ちゃん、その花好きなんだよ!青くて綺麗だよな~!」
「.......ぁ......え、と......お、お疲れ様です......お昼は、まだ、食べてません......私も、キキョウ、好きです......」
視線が重なると同時に、木兎さんは私との会話の種をポイポイと一気に寄越してくる。
その数の多さに少し混乱しつつも、木兎さんの言葉を一つ一つ汲み取りノロノロと返答すると、木兎さんは今度は嬉しそうに笑った。
「じゃあ、一緒に食べよ!食堂でいい?あかーしも居るよ!」
「.............」
木兎さんの言葉に思わず目を丸くしたままぼんやりと固まってしまうと、「木兎さん」と落ち着いた声がこの場に聞こえ、反射的にそちらへ顔を向ける。
そこには予想通りの人物......男バレ副主将の赤葦君がこちらへゆっくりと歩いて来た。
おそらく、主将である木兎さんを迎えに来たのだろう。
「おお、あかーし!もしやお前も夏初ちゃん誘いに来たのか?」
「......木兎さんが、森に無茶なこと言ってないか心配で来ました。あと、監督が午後練始める前に少しミーティングをしたいとのことなので、昼休憩終わったら外では無く体育館に集合でお願いします」
「おう、わかった!他の奴らはソレ知ってんの?」
「他の人にはマネージャーのお2人が伝えてくれてます。ていうか、午前練終わった時監督が木兎さんのこと呼んでたのに、アンタさっさと体育館出てったでしょう?監督、ちょっと怒ってましたよ」
「ゲ、全然聞いてなかった......でも、早く行かなきゃ夏初ちゃん休憩入っちゃうって急いでて......」
「何かを思いついたとしても、もう少し周りを見て行動してください。......あと、森は何も悪くないから、気にしなくていいよ」
「.............」
男バレ二人の会話に申し訳なく思っていると、察しのいい赤葦君からそんな言葉を寄越されて、たまらずきゅっと口を閉じた。
でも、木兎さんがわざわざここへ来て私をお昼に誘ってくれた理由は、きっと園芸部の部長の立嶋先輩がお家の都合で暫く不在であることを気にして、一人で部活をする私に声を掛けてくれたんだろう。
木兎さんは本当に優しくて、本当に素敵な人だから。
「.......ぁ、の......お気遣い、頂いて、......ありがとうございます......」
わいわいと仲良さそうに話す二人に口を挟むのは少し心苦しいが、私が何か意思表示をしないとこの二人のお昼休憩をどんどん潰してしまうので、おずおずと声を掛けるとほとんど同時にこちらへ振り向かれた。
「.......今日、は......私、お弁当、なんですが......同席しても......いいんでしょうか......?」
「ドウセキ」
「......同じ席と書いて同席です。会議とか式典とか、何かの集まりに誰かと一緒に参加することを指しますが、今の場合は俺ら男バレの中に園芸部の森が弁当持って一緒に居ていいのかってことを聞かれてるんだと思います」
「あぁ、なんだ、そういう......え、めちゃめちゃ大歓迎だけど!なぁ、あかーし!」
「そうですね。......俺も、森と一緒に食べられたらと思うよ」
「.............」
私の拙い言葉を赤葦君が分かりやすく伝えてくれて、言葉の意味を理解した木兎さんが屈託のない笑顔と真っ直ぐな言葉を返してくれる。
それだけでももう充分なのに、赤葦君にまで優しい言葉を頂戴してしまい、男バレの方は本当に優しい人ばかりだと心の中で深く感服した。
「.......ありがとう、ございます......支度をして、伺います......」
「おう、じゃあ食堂で待ってるな!腹減ったから先食ってるかもだけど!」
「はい......それは、全然、......気にしないで、ください......」
「別に急がなくて大丈夫だから、ゆっくりおいで」
「......はい......ありがとうございます」
改めて二人に頭を下げてお礼を述べると、木兎さんと赤葦君はヒラリと手を振ってこの場から離れて行った。
一人になったところで、たまらず小さく息を吐く。
「.............」
......赤葦君と話すの、何だか凄く緊張する。
原因はきっと昨日のことだろうけど、これではまるで、赤葦君と徐々に話す機会が増えてきた辺りに戻ってしまったかのようだ。
緊張のあまりなかなか顔を見て話せなくて、上手く言葉が出なくて、俯いたままボソボソと喋ってしまう。
相手に不快感を与えて無ければいいのだけど......やっと少しはまともに話せるようになったのに、自分の対人スキルの低さにたまらずガックリと肩を落とした。
大体、赤葦君の方は至って普通に接してくれてるのに、私だけ変に意識してしまうのも正直どうかと思うし......私がコミュ障なだけで、世の普通の高校生は普通にそういうことをするのかもしれない。
.......だから、赤葦君が、もしかしたら、......なんて、自意識過剰にも程があるし、あまりにも不遜な考えだ。
立嶋先輩がここに居たら、きっと心底楽しそうに笑い飛ばしてくれるだろうに。
「.............」
けらけらと明るく笑う先輩の笑顔を思い出しながら、先輩が休みになって明日で丁度一週間だから、きっともう直ぐ帰って来てくれるだろうと思い、少しだけ心がほっとした。
先輩に早く会いたいと思う気持ちと、先輩がお帰りになる前にやるべきことは全部やらなければという気持ちが同時に湧き上がり、とにかく今はお昼ご飯を食べようと少し急ぎめに道具の片付けを始めるのだった。
▷▶︎▷
食堂へ行くと男バレの方々がいくつかのグループに別れてテーブルに座っていて、一瞬の疎外感にたじろいでしまえば直ぐに小見先輩が声を掛けてくれた。
そちらへ顔を向けると、小見先輩と木兎さんが「オツカレ!こっちこっち!」と笑いながら手を振ってくれて、そのテーブルのグループに居る赤葦君が立ち上がるのが見えた。
そのまま私の方へ向かってくれた、矢先。「夏初ちゃんおつ~」と背中から柔らかいソプラノが掛けられて、びくりと肩を揺らす。
振り向くと、そこには紅茶色の長い髪が特徴的な男バレのマネージャー、白福先輩が居て、視線が重なると可愛らしく笑ってくれた。
「立嶋君、暫くお休みしてるんだって?一人でもちゃんと部活やるとか、超偉いよね~」
「......い、いえ......全然、ちゃんとなんて、出来なくて......」
「そんなことないよ。立嶋君は、夏初ちゃんが頑張ってくれて、すごくありがたいと思うよ~?」
「.............」
白福先輩の言葉に、思わず胸がきゅっとなり、眉が下がる。
不安に思う私の心を全て見透かして、欲しい言葉を寄越してくれる白福先輩は、さすが男子バレーの強豪校のマネージャー務めてるだけあって、颯爽と私の心を救ってくれた。
「と、いうことで~、女子会しよ?女子会~」
「え.........?」
「あッ!?雪っぺコラ!夏初ちゃん、ここで俺らと昼飯食べる約束してるんですけど!横取りはズルいぞ!」
にこりと綺麗な笑顔を向けられ、言われた言葉に目を丸くしていると、食堂のテーブルにつく木兎さんが抗議の声を上げてガタリと立ち上がった。
その勢いに釣られてそちらを見ると、木兎さんのムスッとした顔と赤葦君の少しだけ驚いたような顔がこちらを向いていて、どうしようと一気に困ってしまった。
みっともなくおたおたと戸惑ってしまえば、白福先輩から優しく肩に手を置かれ、距離を詰められて思わずぎくりと固まる。
ふわりと香るいい匂いは、きっと白福先輩のものだろう。
「残念だけど、夏初ちゃんはもうレモンで買収済みなの~。だから木兎はまた明日ね?」
「!」
レモンという単語に思い当たるのは、いつかの部活中に差し入れとして頂いたレモンのはちみつ漬けだった。
確かあの時、一緒にレモンを食べた立嶋先輩に焼き肉に付き合ってほしいと白福先輩達がお願いしていて、私には後日何かをお願いすると仰っていた気がする。
そのお願いを、今日執行するということなんだろうか?
木兎さんは納得していないようだったけど、白福先輩は楽しそうにニコニコと笑いながら私の背中を押し、物理的に促される形で食堂を後にするのだった。
「え!立嶋君と一回も連絡取ってないの?どうして?ケンカでもした?」
男バレのマネージャーのお二人とお昼ご飯を食べることになり、少しだけ緊張しながらもお話ししていると、ミルクティー色の髪をポニーテールにした雀田先輩がそんなことを聞いてきたので、慌てて首を横に振った。
「いえ、してません......ただ、その、先輩の力を借りるのは、本当にどうにもならない時だけにしようと、思いまして......」
「そっか~......でも、それって5日間ずっと話してないってことだよね?顔も合わせてない訳だし、寂しくない?」
「.............」
「いや、むしろ立嶋君の方が心配だわ。今頃すごく拗ねてそう。“一回も連絡寄越さねぇとか無いだろ!”とか言って」
「有り得る~。寂しいなら自分から連絡すればいいのに、くっだらない男のプライドとやらが許さないってやつ~」
「それな~。帰って来たら多分、暫くはずっと離して貰えないだろうから、夏初ちゃん覚悟しといた方がいいかもよ?」
「立嶋君、意外と寂しがり屋の粘着質だからね~。夏初ちゃんのことめちゃめちゃ可愛がってるし~」
「.............」
木兎さん達とは少し方向が違うものの容赦のない言葉に、三年生の先輩方の関係性ってちょっと不思議だなと的外れなことを思っていれば、「そういえばさ」と雀田先輩が話を続けた。
「夏初ちゃん、好きな人とか居ないの?というか、立嶋君てどうなの?」
「え......」
「かおり直球過ぎ~w夏初ちゃんびっくりしてるじゃん」
質問の内容に思わず目を丸くしてしまえば、白福先輩が可笑しそうにふきだした。
急にそんなことを聞かれて少し驚いたものの、今までクラスの友達にも何度か聞かれたことがあったので、私の返事は特別何かを考えずに口に出る。
「......先輩は、私のヒーローなので......とても尊敬していますが、その、......恋人になりたいとは、思いません」
「え、ヒーロー?」
今度は雀田先輩が目を丸くしたので、恥ずかしながら一年生初頭のことをお二人にお話しすると、どちらともなく感慨深そうに何度か頷いた。
「なるほど......そんなことがあったの。ていうか立嶋君、超格好良いじゃん」
「だから園芸部、めちゃめちゃ仲良しなんだね~」
「.............」
雀田先輩と白福先輩の言葉に少し照れくさくなって、視線が下にさがる。
しかしふと大事なことに気付き、「恥ずかしいので、先輩にはどうか秘密にしてください」とお願いすると、お二人は「オッケー、絶対言わない」と楽しそうに笑った。
先輩方の了承が取れたことに思わずほっとしていると、矢継ぎ早に違う話題を投げられてまたどきりとした。
「じゃあ、赤葦のことはどう~?」
「え......?」
「ちょっ、雪絵!w」
「.............」
白福先輩が口にした名前に、たまらず聞き返してしまえば今度は雀田先輩が可笑しそうにふきだす。
いきなりどうして赤葦君なんだろうとは思ったが、同い歳だし同じクラスだし、男バレの人達の中では多分一番話す人でもあるので、そういったことで話題に出されたのかなと勝手に解釈した。
「.......赤葦君、は......とても、尊敬していて......私も、赤葦君のようになれたらと、思います......」
「え?赤葦みたいに?」
「.......赤葦君、主将の木兎さんの、ちゃんと力に、なっていて......先輩方からも、信頼されていて......優しくて、しっかりしてて、頼りになる、人だから......私も、そういう人になりたいです......」
「.............」
赤葦君のことを思い出しながら、改めて本当にすごい人だなぁと実感する。
赤葦君なら、今の私と同じような状況...先輩が不在の状況でも、きっときちんと部活をすることができるんだろう。
私みたいにめそめそと一人で泣くことも、きっと無いんだろうな。
「.......赤葦のこと、格好良いと思う?」
ぼんやりとそんなことを考えていたら、少し間を置いて雀田先輩から聞かれた言葉に、思わずきょとんと目を丸くした。
どうしてそんなことを聞くんだろうと思いながら、直ぐに同意を返すはずだったのに、...昨日、西門近くの花壇で力強く抱き締められたことと、指先に軽く口付けられたことをふと思い出してしまい、反射的に顔に熱が集まった。
「.............っ、」
「.............」
思わず言葉が詰まり、顔を赤くしたまま少しばかり黙ってしまうと、白福先輩と雀田先輩はお互いちらりと視線を合わせる。
「......赤葦の誕生日、12月5日ね」
「......ぇ......」
「ちなみに、好きな食べ物は菜の花のからし和えだよ~」
「.............」
少しの沈黙の後、いきなりそんなことを言い出した先輩方に何事かとぼんやりとしたまま、赤葦君の好きな食べ物が菜の花らしいということにすっかり面食らってしまうのだった。
好いた水仙好かれた柳
(ああもう、なんてもどかしい!)