AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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木兎さんの所から駆け足で離れながら、園芸部の彼女......森は何処に居るんだろうとぐるりとグラウンド付近を見回すも、それらしい人影は見つけられなかった。
無作為で探すのは愚策かと思い、木兎さんにならってスマホで連絡してみるも、既読も付かないし電話にも出ない。
もしかしたら、スマホを持たずに部活をしている可能性がある。
もし部室に置きっぱなしとかだったら、鍵の掛からない部屋にそれを長時間放置するのはあまり感心しないな......。
うっすらそんなことを考えてしまい、いや、今はそれより優先することがあるだろうと小さく息を吐く。
連絡が付かないのなら、闇雲でもとにかく探すしか無い。
おそらく、学園内にはまだ居るはずだ。
「.......あら、赤葦君?」
「!」
高等部の校舎に沿うように長く伸びる花壇の前で、記憶の中の植込みや花壇の配置を思い出していると、女性特有の柔らかい声で名前を呼ばれた。
弾かれたように顔を向けると、そこにはこの学園の保健医の先生が居て、視線が重なると穏やかに微笑んだ。
「おかえりなさい。合宿、今日までだったのね?お疲れ様でした」
「あ......はい、本日戻りました。ありがとうございます」
これから帰るところなのか、初老の保健医の先生はいつもの白衣姿ではなくブラウスとスラックスという格好で、おそらくたまたま見かけた俺にわざわざ声を掛けに来てくれたらしい。
こういう細かな気遣いをする人だから、保健医の先生は学園の生徒達にとても人気がある。
俺の所属する男子バレー部も活動内容上お世話になることが非常に多いので、保健医の先生を見掛けると話しかけに行く部員も少なくないし、そもそも主将である木兎さんが先生にとても懐いている......非常に好意的なので、筆頭して話しかけに行くのだ。
それに漏れず、俺も先生のことを好ましく思っているので、労いの言葉を寄越してくれる相手に頭を下げてお礼を返した。
「きっと有意義な、素敵な合宿だったんでしょうね」
「......はい。とても充実した一週間でした」
ふわりと穏やかな笑顔を向けられて、思わず釣られて少し頬がゆるむ。
常に温かな空気を携えるこの先生は、どこか人を丸くする魔法みたいなものを持っているようだ。
「......でも......赤葦君は、どうしてここに?」
「.............」
そんな先生の言葉に、一瞬にして言葉が詰まる。
合宿が終わったのであれば帰宅するか、もしくは居残り練習をするにしても体育館とは離れた所に居る俺を、先生は不思議に思ったのだろう。
俺がここに居る理由を素直に話すか、それとも曖昧に流してしまうか少し黙考してから、改めて先生の方へ向き直った。
「.......園芸部が何処に居るか、探しています。何か心当たりはありますか?」
どうしようかと悩む時間は直ぐに終わり、今一番気になっていることを先生に聞く。
保健医の先生と園芸部は、確か親交が深かったはずだ。もしかしたら、この人なら森の居場所を知っているかもしれない。
「.......木兎さんから、園芸部の立嶋さんが大阪に居ることを聞きました。......あの、森はいつから一人で部活をしていたんですか?」
「......あらあら......そうね、確か......今日で四日目、だったかしら......?」
「.......四日......」
俺の言葉に先生は少し目を丸くした後、頬に片手を当てながら思い出すようにゆっくりと応答した。
返された日数に、たまらずため息が漏れる。
たった四日。だけど、されど四日だ。
いつも立嶋さんと二人で話しながら、仲良く部活をしている森にとって、......たった二人しか居ない園芸部にとって、彼女一人でやる部活はきっとそれなりの厳しさがあったに違いない。
「.......夏初ちゃん、とっても頑張ってたわ」
「.............」
「.......でも、やっぱり寂しそうだった......」
「.............」
少し眉を下げ、ふっと灯りを落とすように小さく笑うその表情に、森の泣きそうな顔を重ねてしまい、ぎしりと心が軋んだ。
.......そういえば、合宿中に木兎さんとクワガタの写真を彼女に送った日は、一体いつだった?
森は一人で部活をしているのに、よりにもよって己の先輩である木兎さんの写真を送ってしまうなんて......相手の傷口に塩を塗るようなもんじゃないか!
いつもと同じような返信がきたからといって、本当に彼女が何も思わなかったのかなんて、ほんの数行の文面からでは絶対にわからない。
「.......赤葦君の顔見たら、きっと元気が出ると思うの」
「.............」
「夏初ちゃんは多分、西門の方の花壇に居ると思うわ。今日の最後はそこの花壇のお手入れだって、用務員さんに話してたみたいだから」
「.......西門......」
自分のタイミングの悪さにすっかり嫌になりつつも、先生からの情報に耳を傾ける。
とにかく、あれこれ想像するだけでは事態は何も変わらない。まずはちゃんと森に会って、直接話を聞くことが肝心だ。
「ありがとうございます。行ってみます」
園芸部のことを話してくれた先生に再び頭を下げてお礼を述べると、先生は優しく笑い、小さく手を振りながら送り出してくれた。
夏といえど、18時を過ぎると太陽は徐々に西に傾き、夕焼け空と夜空を混ぜたような色合いになっていた。
先生に聞いた西門付近の花壇を目指して足を進めると......人気の無い、静かな場所に一人、花壇の前にしゃがみこんで作業する小さな背中を見つけた。
日差しがある内は被っていたのだろう麦わら帽子は、天地が反対になった状態で彼女の背後へ置きっぱなしになっている。
ちらりとそれを見ると、帽子の中にタオルとスマホを入れていたようで、先程の俺からのものだろう着信を知らせるランプが小さく光っていた。
「.............」
あれじゃあ気が付かないだろうなと頭の端で思いながら、少し離れた所でせっせと作業する小さな背中を静かに眺める。
その後ろ姿見て、器用にまとめた髪が見事だなと思ったのと、自分のものと比べて圧倒的に身体のつくりが違うことに、今更ながらひどく驚いてしまった。
頭、首、肩幅、腕、背中、腰、腎部、両脚。
普段の環境......男バレ部員のそれをすっかり見慣れているせいなのか、改めてちゃんと見る彼女の後ろ姿は正直心配になるほど小さく、薄く、心許無いように見えた。
「.............」
.......その身体で、小さな手で、四日もの間たった一人で部活をしてきたというのか。
寂しさも、不安も、恐怖も、悲しさも、きっと沢山あって、それでも自分の中で葛藤しながら、この四日間逃げることなく頑張ってきたんだろう。
果たして、自分がもし彼女と同じ状況だったら、同じように一人で部活をやることが出来るだろうか?
.......来年、木兎さん達が卒業してしまった後。俺がチームを牽引することが、鼓舞することが本当に出来るだろうか?
「.............っ、」
途端に胸がざわついて、たまらず息を飲む。
その際、情けなくも後ずさるように足元を鳴らしてしまい、その靴音に彼女の肩がぴくりと反応する。
「先輩......?」
「!」
途端、パッとこちらへ振り向いたその顔には、この数日間の期待と嬉しさが溢れていた。
ぱちり、と音が鳴りそうな程勢いよく視線が重なって、思わずドキリと心臓が跳ねる。
たった一週間程度会ってないだけなのに、まるで長年会っていない相手にやっと再会できたかのような、不思議な感覚が全身に走った。
「.......え......ぁ......赤葦君、だった......?」
「.............」
彼女は俺を認識すると、その丸い瞳を更にきょとんと丸くさせ、理解が追い付いていないのかほんの少し首を傾けた。
このやり取り、以前どこかで同じようなことをしたなとぼんやり思い出せば......一番最初、出会い頭の記憶が一気に蘇る。
俺が上げたトスを木兎さんが打って、ワンバウンドした豪速球が森の顔にぶつかってしまった、あの日。
衝撃に耐え切れずひっくり返ってしまった彼女にタオルを寄越して、保健室へ連れて行こうと声を掛けた俺に、森は今と同じような反応を見せた。
.......あの時はまさか、この女の子が自分の好きな人になるなんて、露ほども考えてなかったのに。
「.......あれ?なんで......あ、もしかして、合宿って今日まで......?......おかえりなさ......ん?違う......?......お疲れ様でした......?」
「.............」
俺の登場に未だ混乱しているのか、その場に立ち上がりゆっくりとこちらへ向かいながらも、森は覚束無い様子で挨拶をしてくる。
1メートル程距離を空けて足を止めたので、不自然にならないようにもう少しだけ俺から距離を詰めた。
「.......さっき......立嶋さんのこと、聞いて......心配で、会いに来た」
「.............!」
この場に訪れた理由を素直に話すと、森は再びその顔に驚きの色を浮かべる。
何度か瞬きをしてから、ゆるりと俺から視線を外して俺の足元へ落とした。
「.......ぁ......ぇ、と......す、すみません......わざわざ、そんな......」
「謝らなくていい。俺がしたくてしてることだから」
「.............」
相変わらず、まずは相手の事情を優先する彼女の言葉に今回ばかりは直ぐに休止符を打つと、その細い肩がぴくりと揺れる。
少し口調が強かったかもしれないが、今は俺のことより森の話を、気持ちを聞きたかった。
「......何日か前に、木兎さんとクワガタの写真、送っただろ?......あれ、もしかして追い討ち掛けることになったんじゃないかって......」
「そっ、そんなことない!絶対ない!」
「!」
相手が黙ってしまったので、先程心配したことを思い切って打ち明けると、予想以上の勢いで否定の言葉が返ってきた。
弾かれたようにこちらへ顔を上げた彼女と更に距離が縮まり、驚きつつも密かに歓喜してしまうヨコシマな思考回路に少し呆れたが、向こうはそれに全く気付いてないようだったので、正直ほっとした。
「......木兎さんも、クワガタも、本当に嬉しかった......!」
「.............」
「.......あ、そうだ......これ、見て......!」
「.............!」
珍しく少し強めな態度をとる彼女にたまらずあっけに取られていれば、森は何かを思い出したように先程の麦わら帽子から何かを取り出し、俺の前へパッとかざしてみせた。
軍手を外した小さな手で見せてきたのは、彼女のスマホのロック画面だ。
そこには俺が送った、木兎さんとクワガタの写真があった。
ただ、メッセージやら着信やらを知らせる通知で今は腰から下しか見えなくなってはいるが......これをロック画面にするくらい、彼女はこの写真を気に入っていたということだろう。
「.......あの、私......まだ少しだけ、なんだけど......一人で部活、やってみて......分かってたけど、全然、上手くいかなくて......」
「.............」
俺にスマホを見せてから、おずおずとそれを両手に戻し......俯いた状態で、ぽつりぽつりと話し出した森の言葉に集中して耳を澄ます。
これから聞くのはきっと、彼女の気持ちそのものだからだ。
「.......お昼は、食べ損ないそうになるし、......要領が、悪いから、......進捗も遅くて......あっという間に、時間、過ぎちゃって......なのに、天気予報すら、見てなくて、......スケジュールどんどん、狂っちゃうし......もう、何もかもダメで、......いかに自分が、先輩に頼りっきりだったか、......痛感しました......」
「.............」
「.............」
「.............」
「.......でも、......だから、この前赤葦君が、教えてくれたこと......実践してみたんです......!」
「え?」
ここで、彼女の話の雰囲気が変わったことに驚いて思わず声を漏らすと、森はゆるりと俺へ視線を向けた。
「......全然出来ない原因は、私がダメな奴だから......それは思考放棄だから、ちゃんと物理的な原因と対策を考えろって......だからそれ、思い出して......部活、やってました......!」
「.............」
「沢山落ち込んだけど、でも、何がダメなのか考えて......そうしてたら、少しだけ......ほんの少しだけど、上手く出来たこともあって......だから、赤葦君はやっぱり凄いなって、思って......!」
「.............」
「クワガタも、すごく嬉しかったし......赤葦君に、ちゃんとお礼言わなきゃって、さっき考えてて......そしたら、振り向いたら赤葦君居て、びっくりしちゃった......」
「.............」
「......ありがとう、ございます......!赤葦君の言葉が無かったら......この四日間、きっと泣いて、逃げてばっかりだった......」
「.............」
「だから、本当に、ありがとう......!」
「.............っ、」
夏の熱い大気が、夕闇が連れてきた涼風によって少しだけ雲散されるのを、Tシャツから覗く両腕に仄かに感じた。
己の理性のキャパシティをすっかり踏み抜かれた俺は、目の前で拙く笑う森のことがどうしようもなく好きだという気持ちでいっぱいになり、その心許無い身体を引き寄せ僅かな隙間も無いほどきつく抱き締めた。
言葉は心の使い
(欲しい、欲しい。愛しいこの子が欲しくて、たまらない。)