AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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「そういや、アシ君とのデートはどうだった?」
植木の水やりをしている最中に思いがけない言葉を寄越され、思わずホースを落としかけて慌てて握り直した。
ぎょっとしながら立嶋先輩の方へ向くと、先輩は特にこちらを見ることなくせっせと植木の手入れをしている。
「......え......な......ど......ッ!?」
「ぶはっw“え?なんで?どうして?”とかか?w」
「っ、」
驚きのあまり変な声が出てしまえば、先輩は可笑しそうにふきだしながらこちらに顔を向けた。
すっかりバカにされてしまい、腹が立つのと恥ずかしいのとでたまらず先輩を睨むも、効果は今ひとつのようだった。
でも、どうして先輩が赤葦君と私が出掛けたことを知っているんだろう?
友達にも、誰にも言ってなかったのに。
「俺、人の心が読めるから」
「.......絶対、ウソ......」
「本当だぞ。アシ君とのデート、昼飯焼肉だったろ?」
「!?」
ニヤニヤと愉しそうに笑う先輩にうろんな目を向けていると、本当にその通りのことを言われたので再びぎょっとしてしまう。
しかし、その日に男バレの皆さんが焼肉の話をスマホのトークアプリでしていたことを思い出し、それを指摘すると先輩はまた可笑しそうに「流石にそこまで抜けてなかったかw」と笑った。
「それより、デートじゃないです。変なこと言うのやめてください」
「あ?だってお前、二人で出掛けたんだろ?どこ行ったかは知らねぇけど、普通にデートじゃん」
「全然違います」
「......頑なかよ。逆にさァ、なんでお前そんな否定すんの?」
「.............」
私の態度が鼻についたのか、今度は立嶋先輩が少しだけ眉を顰めながら尋ねてきた。
からかってきたのはそっちのくせに、どうしてそんな不満そうな顔を向けられないといけないのと内心ムッとしながらも、ひとつため息を吐いてからゆっくりと言葉を返す。
「......そんなことを思うなんて自意識過剰もいいところですし、貴重な休日を割いてくれた赤葦君に凄く失礼です」
「.......貴重な休日だからこそ、お前と居たかったんじゃないの?」
「違います。......私が、赤葦君みたいな人になりたいなんて、言ったから......赤葦君は優しいから、気を利かせてくれたんです」
先輩に向けて言った言葉が、鋭利なブーメランとなって自分に返ってくる。
赤葦君みたいな、頼れるしっかりとした人になりたいのに、動けば動く程裏目に出るというか、終始迷惑ばかり掛けてしまっていた。
それなのに、赤葦君は寛大な心で私の失敗を受けとめて、何度転んでも優しく起き上がらせてくれる。
だけど、差し出される手がいつまでもあるとは限らない。
次転んだら、もしかしたらその手はもう目の前には無いかもしれない。
だから、手を差し伸べてもらっている内に、転ばなくなる方法を習得しないといけなくて、その為の1歩が、先日赤葦君と一緒に出掛けたあの日なのである。
だから、デートという言葉で表現するのはあまりにも図々しいというか、見当違いが過ぎると言うか、兎に角赤葦君に対してとても失礼だと感じてしまうのだ。
そのことを素直に先輩に伝えると、「そりゃあ難儀ですこと......」とため息を吐かれてしまった。
「ま、小難しい話は置いといて......お前は楽しかったの?」
「.............」
暑い大気をかき混ぜるような夏風が、先輩と私の間を滑り抜ける。
それに少しだけ目を細めながら、赤葦君と出かけた時のことを思い出した。
色々と不慣れで、迷惑ばかり掛けてしまった私に、赤葦君は「ゆっくりでいいよ」と声を掛けてくれた。のろまな私を、待っていてくれた。
本屋さんの下で小さな化石を見た時も、焼肉を食べた時も、庭園のベンチで色々話した時も、......いつだって優しくて、温かくて、一緒に居て、とても。
「.......とても......楽しかったです......」
「.............」
言葉にした途端、赤葦君と繋いだ左手がじんと熱を持った気がして、思わず指先をさする。
......手を繋いだり、肩を貸したりして凄く緊張したし、心臓がドキドキし過ぎてどうにかなるかと思ったけど、......怖いとか、嫌だとか、そういう風には全然思わなかった。
それはやっぱり、赤葦君がしっかりした頼れる人だからなのかな。
「.......ハイハイ、ご馳走様~」
「何ですか、その言い方......」
手元のホースから次々と飛び出していく無色透明な水の行方をぼんやりと目で追っていると、若干呆れたような声音でなげやりな言葉を掛けられたので、たまらずムッとした顔を先輩に向けた。
さっきから自分で聞いといて、私が答えると不服そうな様子を見せるのはちょっとやめてほしい。
眉を寄せて先輩を見ていると、立嶋先輩は頭を左右に倒してポキポキと首を鳴らした。
「夏初チャン、無自覚だなぁって思って」
「はい?」
「......ま、そういうとこなんだろうなァ」
軍手を着けた手で頬杖をつき、どっかりと脚を広げてしゃがんだ状態で、先輩はやれやれと言ったように首を振った。
いまいち要点を得ない言葉に首を傾げるも、話はこれで終わりだとでも言うように「昼飯、コンビニ行こうぜ」と全く別の話を切り出されてしまい、結局うやむやになったままお昼ご飯の話に変わってしまう。
「カップ焼きそばとお好み焼きだな。あとおにぎりに唐揚げだろ......あ、あとアイス食おうアイス!」
「......野菜もちゃんと食べてください」
「いやいや、キャベツ入ってますんで」
「アレは野菜としてカウントされません」
「いや、でもさァ?野菜は腹持ち悪ィんだよ......同じ値段なら肉食いたい」
「......この前焼肉食べたばっかじゃないですか...」
「俺は三食肉でもいける」
「.............」
どうだと言わんばかりに鼻で息をつく立嶋先輩には何を言っても無駄なことを理解して、三食お肉はさすがに胃がもたれそうだなと思いながらも黙ったまま水やりに専念するのだった。
▷▶︎▷
「あれ?園芸部じゃん!なに、どっか行くの?」
キリのいいところで午前中の部活動を終わりにし、一度校内で新しい部活着に着替えてから先輩とコンビニへ向かう途中、校門付近で男バレの先輩方とばったり出会した。
真っ先に声を掛けてきたのは男バレ主将でエースの木兎さんで、立嶋先輩と私がそちらを向くと直ぐに駆け寄ってくる。
「おー、お疲れ。俺ら今から昼休憩で、コンビニ行くとこ」
「え、マジで?俺らもこれから昼飯なんだけど、コンビニ行くなら炭酸買ってきて!後でお金払うから!」
「はぁ?普通に嫌ですけど。つーか炭酸なら自販機あんだろ」
「今飲みたいの学校に無いんだよ~!」
こちらへ来た途端、立嶋先輩と木兎さんはあっと言う間にわいわいと盛り上がってしまった。
相変わらず仲が良いなぁと思いながらぼんやりと先輩の後ろに突っ立っていれば、木兎さんの様子を見に来たのか他の先輩方もこちらへ歩いてくる。
「クソ暑いのにお前ら随分楽しそうだなァ?」
「あ、木葉!よし、お前もなんか立嶋に頼め!」
「は?」
「ふっざけんなよw多勢に無勢で勝とうとすんなw」
この場に現れた木葉さんに、木兎さんはしめたと言わんばかりにそんな提案をする。
木葉さんからは怪訝な目を向けられ、立嶋先輩からはいい加減にしろと笑われていた。
「小見ヤンとサルと鷲尾もお願いしとけ!今なら立嶋がコンビニ行ってくれるぞ!」
「オイ木兎お前!」
「え!マジで?じゃあ唐揚げよろ~」
「立嶋優し~。さっぱり系のアイスよろしく~」
「じゃあ俺もアイスで。チョコかバニラか食いたいでーす」
「......かき氷があったら頼む。抹茶がいいが、なければ何でもいい」
「.......まさかの全員かよ......」
明るい木兎さんの声を筆頭に、小見先輩と猿杙先輩、木葉さんに鷲尾先輩まで立嶋先輩へのお使いを頼み出した。
とても自由な男バレの先輩方を前に面白くなさそうな顔をしていた先輩だったが、大きくため息を吐きながら頭の後ろを少々乱暴に掻く。
「......ん?そういやアシ君居ねぇじゃん。お前らの唯一の良心、どこ行った?」
「!」
「お前めちゃくちゃ失礼だぞ。うちの一番の良心は尾長だ」
「一年出してくんなやwでも、三年がクソしか居ねぇのは自覚あったんですね?よかったです」
「いやいや、おま言うだけどなw」
「は?小見の唐揚げだけトッピング砂にしてやろうか?」
瞬間、立嶋先輩から出て来た名前にどきりと心臓が跳ねたが、すぐに木葉さんと小見先輩の軽口が入り、その答えを聞くことが出来なかった。
でも、確かにここに赤葦君が居ないのは少し珍しい気がして、そろりと周囲を見回すも、赤葦君の姿はどこにも無いようだ。
「あかーしなら、尾長と一緒に外周遅れてるヤツらの補助やってるよ。俺らは先終わったから、体育館戻ってクールダウンしとけって」
「......あー、要はお前らうるせぇから先戻ってろってことか」
「やめろw赤葦の言葉から本音を抜き出すなw」
「あ、じゃああかーしと尾長の分も何か買ってきてくれよ。多分アイスとかでいいと思う」
「はぁ?マジかよ......」
木兎さんの言葉にそういうことかと一人納得していると、先輩へのお使いリストがまたプラスされて、先輩は再び顔を顰めた。
そんな立嶋先輩に明るく笑ってから、木兎さんは楽しそうに片手を上げる。
「んじゃ、園芸部よろしく~!」
「おなしゃーす」
「クッソ......手数料高くつくからな!行くぞ夏初!」
「あ、はい......」
相変わらずきらきらとした眩しい笑顔にたまらず目が眩むと、機嫌の悪そうな先輩に呼ばれて慌てて返事をする。
普段よりもずっと歩くペースが速い先輩に若干駆け足になりながら後ろに着いて行くと、ふいに背中から木兎さんに名前を呼ばれた。
「赤葦のアイス、夏初ちゃんが選んであげて!」
「え?」
振り向くと同時にそんなことを言われ、思わずきょとんと目を丸くすれば「頼むな~!」とだけ言われ、木兎さん達はそのまま体育館の方へ歩いていってしまうのだった。
▷▶︎▷
「アイツらマジで何なの?運動部が文化部パシるとか普通になくない?スポーツマンシップはどうしたあのバレー馬鹿共」
「.............」
最寄りのコンビニに辿り着き、自分達のお昼ご飯と男バレの先輩方に頼まれた物をカゴに入れながら、立嶋先輩は腹の虫が治まらない様子でぶつくさと文句を吐いていた。
「......あれ?木葉は何だっけ?味噌汁とかだっけ?」
「......確か、アイスのバニラとか、チョコとかだったような......」
「ああ、そうそう。じゃあダッツにしよ。どーせ後で請求するし」
「.............」
自分のお昼ご飯を決めてから、先輩は男バレの先輩方のお使い品をポイポイと乱暴にカゴに入れていく。
木兎さんの炭酸飲料はうっかり商品名を聞き忘れてしまい、連絡した方がいいのではという私の意見をまるっと無視して「マッチでいいよマッチで。今俺が飲みたいから」という非常に勝手な理由で決めてしまっていた。
これで違かったら木兎さん怒るんじゃ...と心配にはなるものの、いまだにうっすら機嫌の悪い先輩にはあまり強く意見を言うことはできなかった。
「で、お前は決まったの?」
「はい、今日のお昼はこれにします」
「いや、アシ君のアイスの話。お前が選べって木兎に言われたろ」
「.............」
先輩の言葉に、はたと思い出す。
そういえば、そんなことを木兎さんから言われていた。
「あ、赤葦君、何が好きなんでしょう......?」
「知らねぇ。けど、早く決めて。腹減ってマジで死にそう」
「.............」
アイスが並ぶ冷凍ケースに改めて目を滑らすも、隣りに立つ先輩がいつもよりずっと余裕が無さそうな様子を見せたので、殆ど直感的にそれを選んでカゴの中に入れる。
「よし、じゃあ会計すんぞォ」
その言葉と共にお財布を用意すれば、男バレのお使い分は立嶋先輩がスマホでさっさと支払ってしまい、私は自分のお昼ご飯代を支払うだけだった。
じゃあ買い物袋を持ちますと声を掛けるも、片手で軽くあしらわれてしまう。
結局私は何もしないまま、先輩の隣りを少し早足で歩いていれば......梟谷学園の校門の前に見慣れた人物の姿が見えて、思わず目を丸くした。
「......あ?アシ君じゃん。こんなとこでどしたの」
「おかえりなさい。暑い中すみません、お疲れ様でした」
「え、もしや受け取りに来てくれたん?ずっとここ居たの?」
「いえ、そんなに長い時間待ってないので。あ、レシート貰えますか?」
私達の姿を確認すると、部活着の赤葦君は立嶋先輩と話しながらてきぱきと買い物袋やレシートを貰う。
「はい、どーぞ。あ、手数料とアシ君尾長君分はアイツらに貰うから、金出さなくていーよ」
「え?俺の分もあるんですか?」
「おう。ちなみに選んだの夏初な。俺は尾長君のを選びました」
「.............」
「......あ、......こ、これ、なんだけど......好きじゃなかったら、ごめんなさい......」
話の流れで私が選んだそれ......スイカを模した棒アイスを袋から取り出し、赤葦君におずおずと確認を取る。
これであんまり好きじゃないとかだったらどうしようと不安に駆られていると、赤葦君はそのパッケージを暫し眺めてから、切れ長の瞳を私へ寄越した。
「.......うん、大丈夫。好きだよ」
「.............っ、」
真っ直ぐに視線を重ねられて、告げられた言葉に馬鹿みたいに心臓が跳ねた。
.......な、にを、勘違いしてるの!?ああ、もう、馬鹿じゃないの!?
あまりの自意識過剰な思考回路に羞恥心と嫌悪感が一気にせり上がり、咄嗟に下を向いてしまえば、頭の上で赤葦君と先輩がいくつか言葉を交わし、その後赤葦君はすぐに木兎さん達の所へ走って行ってしまった。
「......夏初サン?さっきのは多分、アイスの話デスヨ?」
「っ、......そんなの、わかってます......!」
赤葦君の姿が完全に見えなくなると同時に、明らかにからかいを含んだ先輩の声が頭の上から降ってきて、再び襲ってきた羞恥心と嫌悪感にたまらず両手で顔を隠すのだった。
恋は盲目
(あぁ、もう......っ......ああもう、あっつい......!)