AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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私の口にしたお願い事に、木兎さんだけでなく隣りにいる赤葦君も目を丸くした。
友達二人もあ然としているようだが、こればかりは変えられないのだから仕方ない。
木兎さんから何も引かず貰えるお詫びであり、尚且つ木兎さんに頼み易いもの、そして私と木兎さんがなるべく話しやすいものという三つのポイントから懸命に考え抜き、辿り着いたのが今言った「木兎さんが凄いと思うバレーボールの選手を教えてもらうこと」だったのだ。
これならお互い損は無いし、バレーボールのことなら木兎さんも気兼ねなく教えてくれるだろうし、高校バレーボールの強豪校であるこの梟谷でエースと部長を兼任してる木兎さんが凄いと思う選手というのも気になるところではあった。
園芸部の私はバレーボールが特別に好きという訳ではないが、今丁度体育の授業でやってるし、その程度なら面白いなとは思っているので木兎さんから紹介された選手は後でスマホで調べてみるつもりだ。
そして、木兎さんがわざわざ私なんかのお詫びのために二年生の教室へお立ち寄りされるのは今回限りとさせて頂こうと思います。
「え......そんなんでいいの?本当に?」
おそらく見当違いだったのであろう私のお願い事に対し、木兎さんは再度確認をしてきたが、私はマスクをしたまま黙って二回頷く。
「そっかぁ......ん~~、そうだなぁ~~」
私の意思を確認すると、木兎さんはセットしてある頭を躊躇いもなく掻きながら素直に考え始めてくれた。
暫く思案するかと思いきや、案外早く決まったようで「よし!」と楽しそうな声がすぐに聞こえる。
「じゃあ、まずは赤葦!」
「は?」
木兎さんの答えに真っ先に反応したのは、私ではなく当人の赤葦君だった。
驚いた顔を向ける赤葦君に木兎さんは明るく笑ってから、その黄金の瞳を私へ向ける。
「赤葦はすげーよ、マジで。どんな状況でも冷静でさ、チームのことも相手のこともよく見てるし、俺が調子悪くても赤葦が居れば大抵何とかなるしな!赤葦居るとマジで心強い!めちゃめちゃ頭いいし!」
「......あの、木兎さん......森が訊いたのはそういうことではないのでは......」
上機嫌で赤葦君の凄いところを話してくれる木兎さんに、当人からの冷静なツッコミが入る。
木兎さんは目を丸くして「え?そうなの?」と赤葦君を見てから、私を見た。
正直なところ私もプロのバレーボール選手を想定していたのだが、木兎さんが凄いと思う人なら例え現在のチームメイトであっても質問の意図には反していないので別に問題ないと返した。
私の返答に気を良くしたのか、木兎さんは満足そうに歯を見せて笑う。
「でさ、赤葦はセッターなんだけど、いっつもいいトス寄越すんだよ。こう、ここで打ちたいってとこにドンピシャでボールが来るというか、俺のタイミングすげー考えてくれてる感じ!赤葦のトスでスパイク打つのめちゃめちゃ気持ちいいしマジ最高だから!夏初ちゃんも赤葦にトス上げてもらえば絶対わかる!」
「......ちょっと、木兎さん......」
「レシーブ乱れても強気に速攻仕掛けるとこもすげー最高だし!あ、でもトス以外もすげー上手くてさ!赤葦のツーは毎回シビれるし、レシーブの安定感とかすげーし、スパイクも結構手首のスナップがきいててこう、上手いんだよな!相手の位置とかよく見てるし、こう、冷静に?いいとこ打つんだよ!」
「.............」
スパイクを打つジェスチャーを交えながら意気揚々と話し続ける木兎さんは本当に楽しそうで、思わず話を聞き入ってしまう。
話の内容は少し難しくてよくわからないが、とにかく木兎さんが赤葦君を敬愛していることはよくわかった。
「あとすげー努力家!人一倍練習するし、すげー苦しい時でも泣き言言わねぇし、クールそうに見えるけど、でも内心はめちゃめちゃ熱い奴で、あと夜練とかいつも付き合ってくれるし、自分のだけじゃなくて俺の分析もめちゃめちゃしてくれるし、本当にすげー奴なんだよ!こんなにバレー好きな奴早々居ねぇな!」
「.............」
ニカッという音が聞こえるのではないかと錯覚するくらい、木兎さんは明るく笑う。
その顔は本当に嬉しそうで、なんだかこちらまで嬉しくなってきた。
木兎さんの話自体は非常にとっちらかった内容だとは思うが、聞いていてとても心地が良く楽しい気分になる。
それはきっと、木兎さんが心から赤葦君を凄いと思い、褒めているからだろう。
木兎さんの笑顔や言葉の一つ一つが、キラキラと輝いていた。
「............木兎さん、そろそろ行きましょう。昼飯食いっぱぐれますよ」
そんな和やかな時間は、赤葦君の落ち着いた声で静かに終わりを迎える。
「えー!俺まだあかーしの話しかしてねぇよ!?あと木葉とかコミヤンとか」
「昼飯食えなくてもいいんですか?」
「よくない!けど、もっと話したい!」
「だったらもっと簡潔に話すべきです。森もこの時間にご飯食べないといけないんですから、俺達が時間をとる訳にいきません」
渋る木兎さんの腕を掴み「いいから行きますよ」と赤葦君が淡々とした様子で撤退を促す。
あれだけ真正面で褒められても全く動揺しないなんて、赤葦君て凄い。
木兎さんトークショーの突然のお開きに目を丸くしつつ内心で少しほっとしていると、ふいに木兎さんと目が合ってしまった。
思わずぎくりと身体を強ばらせる私に対し、木兎さんは太陽のような笑顔を向ける。
「じゃあ夏初ちゃん、また明日な~!」
「え......」
ひらひらと手を振られながら、木兎さんは赤葦君に教室の外へ連れて行かれてしまった。
二人の姿が見えなくなってからもあ然とする私を他所に、友達二人は可笑しそうにふきだす。
「あははっ、すっごい惚気られたね~。木兎さんどんだけ赤葦のこと好きなの」
「赤葦めちゃめちゃ照れてたね~。最後とかもう無理やり連行してたじゃん」
「え、赤葦君照れてた?」
「え~?真顔だったけど耳真っ赤だったじゃん」
「わかりづらいようで、かなりわかり易かったよね」
「......うそ、全然わかんなかった......」
友達二人の話に驚きを隠せないでいれば「夏初はもう少し人の顔を見た方がいいよ」と少し呆れ気味に言われてしまった。
「でも、まさかあんなことお願いするとは思わなかったわ。というか、別にお詫びでも何でもないじゃん」
「だって元々お詫びなんて要らなかったし......」
「まぁ、バレーの選手教えてくださいって頼んだ経緯はなんとなくわかるけど......本当、夏初は欲が無いというかなんと言うか、折角木兎さんが何でもしてくれたのに、ちょっと勿体ないよねぇ......」
「結局美味しい思いしたの赤葦だけじゃない?」
「今度は赤葦から何かしら御礼されたりしてねぇ?木兎さんもまた明日来るみたいだし?」
「や、そういうの本当にいい......とりあえずご飯食べようよ......」
好き勝手なことを言う二人に今度は私が少し呆れながら、おかかのおにぎりの包みを開ける。
木兎さんと赤葦君が居なくなったことでいくらか緊張がほぐれたらしく、通常運転をし出したお腹が空腹を訴え始めた。
口元のマスクを外してから水筒の緑茶を飲み、おにぎりを食べ始めると二人も各々のお昼ご飯に手を付け始める。
相変わらず私の顔には直径5センチ程の青アザが健在していた。
「もう少ししたら、化粧で隠せるかな......」
ちらりと友達二人に相談すると、彼女達は「任せなさい」と楽しそうに笑った。
瓢箪から駒
(......こんなはずじゃなかったのに、)