AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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肉の焼ける香ばしい匂いを腹いっぱいに吸い込みながら、自分好みの焼き加減になるまで涎を飲み込みながらただひたすら待つ。
時折油が弾ける音と共に赤い炎がチラリと顔を出すが、元から火を見るのも好きな性分なので、...否、別にそういう性癖はないけど、兎にも角にも焼肉という料理は俺にとって純粋に楽しいものだった。
「雪っぺ、タレ取って~」
「んー。あれ?かおりはもういいの?」
「もういい、お腹いっぱい......アイス頼むけど、雪絵はまだいいよね?木兎と立嶋君も大丈夫?」
「俺はまだ肉いける!」
「おー、俺ももうちょい食いたいからまだいい...つーか雀田、締めの冷麺はいいの?」
「無理、もう入んない。ていうか、アンタらの食事風景見てるだけで胃もたれしそう......」
焼肉屋特有の肉を焼く網が付いたテーブルに俺と木兎、白福と雀田の四人が座り、各々が好きなように肉を焼いている。
一時間過ぎない辺りで平均的な胃袋を持つ雀田が眉間に皺を寄せながら焼肉からの離脱を表明した。
タブレットでさっさとデザートを注文する雀田に見向きもせず、同じ男バレの女子マネージャーである白福は「かおり、本当に少食だよね~」とどこか明後日な発言をし、「雪絵と比べられたら誰でも少食になるわ」とご最もな台詞を返されていた。
そんな女マネーズに軽く笑ってから、食べ頃になった肉をタレにつけて食べる。
新しく出来たこの焼肉屋は炭火焼きを売りにしていて、口に入れた瞬間炭火の香りがふわりと広がる。
やっぱり焼肉は最高だなと満足感と共に肉を噛み締めていると、丁度石焼きビビンバを食い終わった木兎が「あれ?」と不思議そうな声をあげた。
何事かと視線を寄越すと、木兎は烏龍茶を飲みながら片手でスマホを操作し、俺らに見せてくる。
「さっき焼肉の写真送ったじゃん?そしたら、赤葦も焼肉送ってきた」
まさか、赤葦もここに居んのか?
どこかそわそわしながら周りを見回す木兎を他所に、画面を見ると確かに向こうもどこかの店で肉を焼く写真を載せたようで、網の上に綺麗に整頓された肉を見て「うわ、絶対コレ赤葦の焼肉だわw」と白福が可笑しそうにふきだした。
どうやらこれは梟谷男バレメンツのグループラインのようで、木葉やら小見やらが【なに?今日は人類焼肉の日なの?w】【まだ昼飯食ってねぇ!飯テロやめろ!(怒)】等と反応し、楽しく盛り上がっているようだ。
「いや、赤葦のことだからここには居ないでしょ。多分、別の焼肉屋での写真じゃない?」
木兎のスマホを見て、雀田が返答する。
でも、昼飯が焼肉被りなんてちょっと面白いなと思っていれば、雀田の言葉に相槌を打っていた木兎が予想もしない言葉を零した。
「あー、そっかぁ。なんだ、もしここに居たらあかーしと夏初ちゃん誘ってバレーしよう!って思ったのに」
「.......は?」
瞬間、白福と雀田、俺の声が綺麗にハモる。
一様に目を丸くして木兎へ視線を送ると、木兎は俺らの視線を特に気にする様子もなく新たにロースを網へと乗せる。
「雪っぺもかおりんも、俺と立嶋があかーし達のデート邪魔しないようにって、今日誘ったんでしょ?」
「.......え、......え~?うっそ......木兎、わかってたの......?」
「もしくは赤葦から聞いたとか?」
「や、あかーしは教えてくんなかった。でも、今日部活休みってなった時珍しくちょっとそわそわしてたし、今日一緒なのが立嶋だったから、あー、もしかして夏初ちゃんとデートでもすんのかな~って」
「ぼ、木兎のくせに鋭い......」
「オイ!俺のくせにってなんだよ!ちょっと考えればわかるだろ!」
「うわ......その言葉、一番言われたくない相手に言われた......」
「二人ともヒドくね!?なんで急にディスってくんの!?」
思わぬ展開に戸惑いを隠せない女子二人に、木兎は眉を寄せて不服を訴えた。
こいつやっぱ、アホだけどちゃんと見てるところは見てるんだよなと改めて木兎の人間性に舌を巻いていれば、「ちなみに立嶋君も、知ってた感じ?」と苦笑気味に雀田から聞かれる。
「あー......まぁ、なんとなく?夏初からも今日休みたいって連絡来たし。それに、カップルのフリすんなら俺とか木兎よりも木葉とか猿杙の方が上手くやりそうだしな。だから、俺らがアシ君と夏初のデート邪魔しないようにって、お前らが先手打ったんかなとは思ったよね」
「うわ〜、バレバレだよかおり~」
「ハッ!バレー部だけに!?」
「バレバレーってかwなにそれクソ面白くねぇ~w」
「面白くねぇのかよ!いや、笑ってんじゃん!」
俺の言葉に白福が観念したように笑い、白福の言葉に木兎がしょうもないことを言うもんだから思わずふきだしてしまった。
けらけらと笑いながらも俺も網の上に牛カルビを並べ、肉の焼ける良い匂いをゆっくりと吸い込んだところで、雀田が小さくため息を吐く。
「.......まぁ、そういうことならもういいか。じゃ、折角だしちょっと野暮なこと聞いていい?」
「え、もしや下ネタ?ヤダ、どうしよう木兎......」
「ぶはっw立嶋今日はスパダリなんだろw演じてみせろよw」
「雪絵、この肉全部食べていいよ」
「え~、本当?ありがとう~」
「「それ俺の肉だから!!」」
ちょっとふざけただけなのに、今焼いてる肉を横取りされそうになり慌てて木兎と自分達の肉を死守する。
雀田は冗談で済むかもしれないが、白福の方は隙さえあれば本当に横取りしてくるからマジで気を付けないといけない。
にこにこと可愛い笑顔を浮かべる暴食の魔女、白福を警戒していると、雀田は俺の気を逸らそうとしているのか、それとも白福の恐ろしさを未だ理解してないのか、なかなかスルーできない話題を持ってくる。
「立嶋君はさ、夏初ちゃんのことどう思ってるの?やたら彼氏ごっこしてるけど、本当に好きじゃない訳?」
「.......どストレートで来たなオイ......せめてクロスで打ってこいよ...」
「え!立嶋、夏初ちゃん好きなの!?じゃああかーしのライバル!?」
「ほら、絶対木兎こうなるじゃん」
「でもさ~?夏初ちゃんて、あの堅物バレー馬鹿な赤葦がやっと見つけた好きな子じゃん?こちらとしてはめちゃめちゃ応援してあげたいんだけど、どうしても立嶋君の意向は気になるっていうか~」
「え、というか園芸部って本当に付き合ってないんだよな?めちゃめちゃ仲良いのは知ってるけど、大丈夫だよな?」
「.......なんだよ、お前ら全員アシ君の味方かよ。まぁ、知ってましたケド」
雀田の質問を筆頭にあれよあれよと好き好きに言葉を口にするチーム男バレに、たった一人の園芸部である俺は大きくため息を吐いた。
で、実際どうなの?と言わんばかりの目を向けられ、口をとがらせながらもカルビをゆっくりとひっくり返す。
「心配しなくても、俺は夏初のこと可愛い後輩としか思ってねぇよ。でもすげー複雑だから、ガッツリ邪魔すんぞ」
「うわ、粘着系キモ〜。ないわ〜......」
「やめてやれよ!赤葦可哀想だろ!」
俺の返答に白福は遠慮の欠片も無い意見を述べ、木兎は己の後輩を庇うような言葉を返す。
そんな二人の反応に、さすがの俺もカチンときた。
「うるせぇ!お前らに俺の気持ちがわかるか!手塩をかけて大事に育てた後輩をイケメンサラブレッドに取られるんだぞ!?普通にムッカつくわ!」
「イケメンサラブレッドなら問題ねぇじゃん!」
「馬鹿かお前!イケメンサラブレッドだからこそムカつくんだろうが!そこそこの男だったらガツンと言えるのに相手は非の打ち所のないあのアシ君だぞ!?面良し頭良し運動神経も良し、おまけに性格も申し分無し!マジで何も言えねぇわ!」
「うん、だろ?だから、赤葦なら何も心配要らねぇって話じゃないの?」
「.......貴方じゃお話になりませんわ!弁護士の木葉を呼んでくださる!?」
「立嶋君w木兎は赤葦大好きマンだから、いくら話したって無駄だよ~w」
木兎と言い合いになり、俺の胸の内を曝したもののコイツの性格上全く聞き入れてもらえず、ムカついて木葉の名前を呼べば白福が可笑しそうにふきだした。
木兎がアシ君大好きなのは百も承知だが、いや、俺だって別に嫌いじゃないけど、でも、園芸部の後輩を狙う輩というポジショニングは、部長としてどうしても見過ごせない案件なのだ。
「でも、夏初ちゃんのことはちゃんと考えてあげてよね」
「!」
うだうだと言い訳じみたことを考える俺に、雀田が落ち着いた声でピシャリと言い放つ。
「恋人にする気が無いなら無いでいいけど、線引きはちゃんとしてあげた方がいいよ。......じゃないと、いつか夏初ちゃんを傷付けるかもしれない」
「.............」
「.......まぁ、要は度の過ぎた思わせ振りな態度はするなって話だよねぇ。余計なお世話だとは分かってるけど、......園芸部見てると、ちょっとその辺心配にはなるかな......」
「.............」
雀田の言葉に続くように、白福がおっとりとした口調で意見を述べる。
「.......男女の友情って、時々なんでこんなに難しいんだろうねぇ......」
「.............」
俺に向けたような、白福自身に向けたようなその発言は、焼肉の煙と共に換気扇へと静かに吸い込まれた。
おそらく、男バレの女子マネージャーという位置に居る二人も、同様の件で悩んだことがあるのだろう。
同性同士なら普通に出来ることも、異性となると変に意識したり、感覚の相違で誤解が生じたりすることも少なくないと思う。
男女の間に友情なんか無いと言い張るつもりは無いが、同性の友情関係よりもずっと難しく、ずっと複雑で繊細なものであるとは考えている。
お互いの距離が近ければ近い程、それは如実に表れていくものだ。
「.......俺は、好きなヤツには好きだって全力で言いたいし、それが伝わってほしいと思う」
「!」
香ばしい匂いに包まれつつも、何処と無く空気が重くなってきたこの静かな空間を切り替えたのは、男バレ主将である木兎だった。
「だって好きなんだもん。雪っぺも、かおりんも、赤葦も......男バレだけじゃなくて、立嶋も夏初ちゃんも、俺、すげー好きだよ」
「.............」
「確かに、恋人としての好きとは違うけど......でも、好きの種類が違くても、それ全部ひっくるめて自分の“好きなもの”だろ?それって変に我慢しないといけないこと?」
「.............」
「だから、こう、何と言うか......上手く言えないけど、でも、俺は園芸部のあの仲良しな感じ、すげー良いと思ってるよ!」
「.............」
木兎の言葉に俺も女子二人も、揃って目を丸くする。
俺らの視線を集めた木兎は、楽しそうに歯を見せて笑った。
「だけど、もし、夏初ちゃんが立嶋のこと好きになっちゃったら、......その時はお前、ちゃんと腹括れよ?赤葦は多分、すげー怒ると思うけど」
「.............」
まるで太陽のようなきらきらとした笑顔を向けながら、鋭利な言葉を喉元に突き付けてくる。
それなりのリスクを認めた上で、好きな奴には好きと言えと諭す木兎の言葉は、横暴なようにも聞こえるが、きっとコイツの信念みたいなものなんだろうなと漠然と感じた。
好きなものは好き。それはあまりにもシンプルな考え方で、だけど、余計な付属品をゴチャゴチャと考えるより、ずっと納得のいくものだった。
「全く......木兎は本当に真っ直ぐというか、何というか......」
「なんかこう、ここまで単純明快に言われちゃうと今まで何に悩んでたんだろうって、逆に不安になるよね」
「え?なんか俺、間違ったこと言った?」
「間違えかどうかはわかんないけど、天然人たらし発言ではあったと思う」
「ねぇ、前から思ってたんだけど、その天然人たらしって何なの?悪口?」
木兎の発言に女子二人もどこか思い知らされたようで、やれやれと言ったようにため息を吐き、ゆるく首を横に振る。
そんな二人の反応に不満そうに口をとがらせる木兎だが、白福も雀田も木兎の質問に全く取り合わなかった。
「.......うん、まぁ、そうだよなぁ......」
「?」
「.......迷ったら、やりたい方やって後悔する。まさに、だな」
チーム男バレに言われたことを少し考えて、おもむろに頷く。
俺の言葉に木兎達の視線が集まるのを確認してから、ニヤリと口角を上げた。
「ということで、今後も夏初のことは可愛がるし、別に嫌いじゃねぇけどアシ君の邪魔もします」
「.............」
「結局、今までと変わんないってこと?粘着系怖~」
「立嶋君、度が過ぎると本当に夏初ちゃんに嫌われると思うから、気を付けなね?」
導き出した結論を話すと、木兎は元から丸い目をさらに丸くし、白福は可笑しそうにふきだした。
雀田からは少しマジなトーンで静かに釘を刺されたので、肝に銘じておきますよとゆるく相槌を打てば、隣に座る木兎からも低い声を掛けられる。
「.......でも、立嶋。もし赤葦のこと傷付けたら、......俺、怒るよ?」
「.............」
先程までの陽気キャラはどこ行ったと戸惑いを覚える程、至極真剣な木兎の様子に思わずぎくりとした。
その名の通り猛禽類を彷彿させる、射抜くような鋭い視線を浴びつつも......俺も負けじと睨み返して小さく笑う。
「おう。そっちこそ、夏初のことガチ泣きさせてみろ。即迎撃すっからな」
「.............」
「.......木兎~、立嶋君~。お肉、焦げてるよ~?」
「「きゃあああああああ!!??」」
俺と木兎の間に火花が散ったのはほんの一瞬で、白福ののんびりとした声にお互い悲鳴をあげながら己の肉を見ると、長い時間焼いてしまったそれはすっかり炭と化していた。
「ウソだろ俺のカルビ......こんな姿になっちゃって......」
「うえ、苦......あと立嶋、げーげきってなに?」
「ググれ。今それどころじゃねぇ」
「.......というか、二人は赤葦離れと夏初ちゃん離れをした方がいいと思う」
「「は?」」
「確かに。二人がそんなんだから、赤葦も夏初ちゃんも落ち着いて恋愛出来ないんじゃない?」
「人の恋路を邪魔する奴は、って、よく言うよね~」
「.............」
どこか含みのある顔でにっこりと笑う二人に、俺も木兎も口を閉じる以外何も出来なかった。
馬に蹴られる
(馬より何より、梟女子の方がずっと怖い!)