AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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月曜日、一時間目から次々と期末テストの結果が返ってきて、教室中が軽くお祭り騒ぎになった。
今回はいつもより多めに勉強してみたものの、苦手科目は少し点数が上がったようだったが得意科目は普段とそんなに変わりのない点数で、総合的に見ても少し良くできたかな、くらいの結果だった。
時期的にも付け焼き刃に近い頑張りでもあったので、二学期の中間テストこそ何か変わった結果となるようにこの夏休みはきちんと勉強しようと一人静かに決意を固める。
しっかりした人になるという目標は掲げたものの、それに見合った人になるにはまだまだ先が長いようだ。
「.............」
丁度四時間目の数学が終わり、これから一時間のお昼休みに入る。
教科書を閉じ、板書したノートを眺めながら何となしに赤葦君の方を見ると、赤葦君は近くの席の男子達と仲良さそうにお喋りをしていた。
どうやら今日返却されたテストの話をしているようだ。
「夏初お疲れ~!ご飯食べよ!」
「!」
途端、前の席の友人に明るく声を掛けられ、弾かれたようにそちらへ顔を向ける。
赤葦君を見ていたことに気付かれたらどうしようと一瞬頭が沸騰したが、彼女は私の心配を他所に「あ~、アイス食べた~い」と話してきたので内心でほっとしながらその話に乗っかった。
頭も使ったし暑っついし、確かにアイスが食べたい気持ちになる。
今日の放課後、どこかのアイス食べに行こうかと話しているともう一人の友達がこちらへやってきて、そういうことなら映えるアイス食べに行こうよと楽しそうにスマホを弄り出した。
「ここ行きたいんだけど、どう?めっちゃ可愛くない?」
「え、可愛い。この写真すごいエモい」
「クリームソーダって、こんなに色あるんだね...?ムラサキのってぶどうかな?」
友達が見せてきた喫茶店やスイーツの写真を見ながら思ったことを話すと、「本当にぶどう好きだよね」と笑われてしまった。
だって、ぶどうのクリームソーダとかすごく美味しそうだし、写真に映るムラサキ色がとても綺麗でつい惹かれてしまったのだ。
お昼ご飯を食べ始めながら「じゃあ今日はここに行こうか」という話をしていると、「そういえば今日は部活ないんだ?」と今更ながら聞かれる。
「うん。今日ね、先輩歯医者なんだって」
「え?じゃあ夏初は別に部活出来るんじゃないの?いつもはどっちかが休みでもやってるじゃん?」
「んー......なんかね、“俺が痛い思いしてる時にお前が楽しいことしてるのって狡くない???”って言われて。それで、今日は私も休みになった」
「ふはっw立嶋先輩らしいw笑うw」
「でも夏初、これから楽しいことしちゃうじゃん?wいいの?w」
「いいよ。クリームソーダも写真撮って、後で先輩に送るつもり」
「やだ、夏初ちょっとおこじゃんw」
園芸部のやり取りを話すと、友達二人は楽しそうにけらけらと笑う。
でも、今日部活が休みになったのは本当に不本意だったから、ちょっとくらい先輩に意地悪したってバチは当たらないはずだ。
「だったら“彼氏とデート中です☆”とか送ってみちゃう?w絶対“どこのどいつだ!?”って血相変えて返信くるよw」
「いや、むしろ電話きてからのその場に乗り込んでくるかも?w」
「そんなのやんないよ......ウソ吐いたのバレたら、背中にバッタ入れられるもん」
「え゛!?園芸部怖っ!」
「制裁えげつな~......でも、立嶋先輩なら本当にやりそう......」
ニヤニヤと笑いながらそんな冗談を言ってくる友達二人に真面目な顔でそう返すと、彼女達は途端に嫌そうに顔を顰めた。
立嶋先輩相手にイタズラを仕掛けるなら、それ相当の覚悟をしないと絶対に後悔する。先輩の報復行為は老若男女平等だ。しかもめちゃめちゃ楽しそうに制裁してくるから、余計に怖い。
何時ぞやの先輩の様子を思い出してぶるりと肩が震えたところで、そもそも私に彼氏なんて居ないことは先輩も重々承知してるだろうから、そんなイタズラを仕掛けても直ぐにウソだとバレてしまうことに気が付いた。
悲しいことに今まで恋人も出来たこともなく、デートなんて生まれてこの方したこともない。
人見知りしてしまうこの性格のせいだと思いたいところだが、ただ単に自分の魅力が極端に欠けてることが原因だろうとこの歳になって徐々にわかってきた。
外見も、内面も、全てにおいて平均値以下の私だ。それを補う努力をしない限り、誰かに好きなってもらうなんてことは絶対にない。
ましてや自分自身がすでにもう、自分のことが好きじゃないのだ。
自分のことが心底嫌だと思う人間に、誰が好んで恋情を向けてくれるというのか。
『.......夏休み、どこか一緒に出掛けない?』
ふと、思い出した甘いテノールに思わずお弁当の卵焼きが箸から落ちる。
......そうだ、そうだった。返ってきたテストに頭がつい持ってかれてしまって、うっかりしてた。
この流れで思い出してしまったのは図々しいことこの上ないが、けれども私は、あの時の返事をまだ返していないのだ。
「.............」
ちらりと教室内を見回せば、少しクセのある黒髪にすらりと背の高い彼の姿はどこにもなかった。
どうやら、教室ではないところでお昼ご飯を食べているらしい。
もしかしたら、今日は男バレの皆さんと一緒なのかもしれない。
「.............」
この土日、男バレの練習試合を見に行った時は赤葦君と話す機会が何度もあったが、平日の学校生活に戻ってしまえば人気者の赤葦君と私が話す機会なんてすっかり無くなってしまう。
元々仲が良かった訳でもなく、木兎さんのスパイクにぶつかってしまうあの事故さえ無ければ、きっとずっと話さないままでいたに違いない。
そんな雲の上の存在のような赤葦君が、恐れ多くも私なんかに「ゆっくり話してみたい」と言ってくれた。
きっと私の「赤葦君みたいな人になりたい」という言葉を聞いたからこその発言なんだろうが、その優しさが、心遣いがひどく恐縮であり、だけど、それと同じくらい感動したのも事実だった。
......だけど、どうしても頭の隅で色々な心配事がぽっかりと口を開けてしまうもので。
ずっと二人でちゃんと話せるのかとか、無言の時間が長くなって気まずくならないかとか、赤葦君を困らせて、そのまま嫌われてしまわないかとか。
そんなことを次々と考えてしまうと、どうにも返事をすることが出来ずにいた。
「.......ぁ、の......あの、ね......?」
「ん?」
「.............」
ぐるぐると同じ考えばかりに行き着いてしまう思考回路をどうにかしたい一心で、友達二人に今悩んでいることを打ち明けることにした。
勿論、その相手が同じクラスの赤葦君であることはしっかり伏せて、「自分がこうなりたいと思う憧れの人」という名称にする。
その人と今度出掛けられるかもしれないのだけど、自分の口下手で嫌な思いをさせてしまうのではないか。
憧れの人だから聞いてみたいことは沢山あるけど、あれこれ聞いてしまうのは迷惑なのではないか。
そんな私の話を聞いた二人はきょとんと目を丸くした後、直ぐにパッと顔を明るくした。
「え〜!なに、なに?もしかしてデート?相手、私の知ってる人?というか男子?女子?」
「い、言わない......あと、デートじゃないから!」
「じゃあ、せめてどんな人?」
「......凛と、してて、大人っぽくて......しっかりしてて、誰とでもきちんと話せて......頭も良くて、気配り上手で、運動できて......誰にでも、本当に優しい......」
「.......歳上と見た」
「あ!わかった!男バレの先輩の誰かでしょ?」
「だから!言わないって!」
相手を探る言葉に思わず声を大きくしてしまうと、二人は悪びれる様子もなく可笑しそうに笑う。
もしかしたら相談相手を失敗したかもと軽く後悔していれば、「でも、相手は夏初の性格知ってるんでしょ?」とあっけらかんと聞かれ、おずおずと頷いた。
「じゃあ、口下手なのも知ってるんだし大丈夫なんじゃないの?それに、聞きたいことあるんなら話題には困らないじゃん」
「そ、そうかな......?」
「ていうか夏初、どういうこと聞きたいの?」
「え......だ、誰とでも、その、きちんと話すにはどうしたらいいのか、とか......何か、普段の生活で気を付けてることはありますか、とか......」
「何それ、デートっていうより講習会じゃんw」
「コミュ障直そうの講義かなw」
「だ、だから!デートじゃないって最初から言ってる!」
真面目に答えたのに再び笑われて、何かもうやるせなくなってきた。
そもそも、これがデートだなんて図々しいにも程がある。本当、講習会の方がずっと合っていると思うし、折角多忙な赤葦君の時間を頂けるのだから、今後の参考になるような話を聞けたらとは思うけど、それ以外は何も望まな......
『.......ゆっくり考えて』
瞬間、頭の上から降ってきた落ち着いた声音と、頭の後ろをさらりと柔らかに撫でられた感触、視界一面の濃紺を思い出して、思わずぎくりと身体が固まった。
なんで、今。どうして、このタイミングで、そんなことを思い出すの。
「.......ごめん。やっぱり、なんでもない......」
「え?やだ、ウソウソごめんて。私らちょっと笑い過ぎたね?本当にごめん」
「.......や、別に、そういうんじゃなくて......」
何とも言いようのない羞恥心と自己嫌悪に挟まれて、咄嗟に俯くと友達の声が心配そうなものに変わる。
それに緩く否定を述べながら己の浅はかさに堪らずため息を吐いてしまうと、もう一人の友達が「ねぇ、とりあえずさぁ」と口を挟んだ。
「1回出掛けてみたら?その人と」
「.......え......で、でも......」
「今後また出掛けられるかなんて、そんなのわかんないでしょ?夏初が少しでもその人と出掛けてみたいって思うなら、私は行ってこーいって思うけど」
「.............」
「でもまぁ万一、相手が沈黙に耐えられなくて夏初に嫌気が差したとかなら、それはもうご縁が無かったって話だけど......夏初の話聞く限り、そういう事もしなさそうな感じの人だよね?」
「.............」
彼女の言葉に、思わず押し黙る。
気遣い上手の人だから、一緒に出掛けることになればきっと私のペースに合わせて色々してくれるに違いない。
私も相手に対して何か出来ればいいのだけど、今のところ迷惑しか掛けてないというのに、二人で出掛けたところで急に気が回るような立ち振る舞いなんて出来る訳もなかった。
「.............」
「.......と、いうことで。今からその人に連絡しなさい」
「え?......え!やだよ!?」
未だうじうじと湿ったことを考える自分に嫌気が差していると、急にそんな提案をされて反射的に首を横に振る。
しかし、彼女の方が一枚上手だった。
「どうせ夏初のことだから時間空くとうだうだ考えて“やっぱ、やめる......”ってなるのが目に見えてるわ」
「う......っ」
「あー、確かにありそ~......」
「.......ぁ、あの、でも、」
「相手の詮索はしないから、連絡はしなさい。今。」
「.............」
にっこりと笑う強気な友達に押し切られる形で、私はおずおずとスマホを鞄から取り出すのだった。
▷▶︎▷
昼休みに木兎さん達と土日のミーティングを兼ねた昼飯を食べていると、ふいに制服のポケットにしまっていたスマホが震えた。
箸を一旦食べかけの弁当箱に置き、誰からの連絡だろうとスマホの画面を確認した矢先、予想外の人物からのメッセージに思わずスマホを落としかける。
何とか落下するのを防いだものの、落ち着かない気持ちでこの場にいるのは嫌だったので「すみません、ちょっと抜けます」と隣に居る猿杙さんに一声掛けて一旦この場から離れた。
後ろから「あ?あかーし便所か?」等と騒ぐ木兎さん達の声が聞こえたが、今はそれに構ってる時間すら惜しくてわざと聞こえないふりをして足早に人気ない方へ向かう。
もしかしたら、色々と鋭い猿杙さんには悟られているかもしれないが、兎に角今は彼女からのメッセージを早く確認したかった。
「.............!」
逸る気持ちを携えながらスマホのロックを外し、メッセージアプリを起動させる。
まだ見慣れないアイコンをタップすると、メッセージの相手......森らしい文面が控えめに並んでいた。
【お疲れ様です。返事が遅くなってごめんなさい】
【私も出掛けたいです。ゆっくりお話ししたいです】
少ないメッセージを読み終え、思わず小さなガッツポーズが出る。
自分から「返事は直ぐじゃなくていい」やら「ゆっくり考えて」とは言ったものの、自分で思ってた以上に不安に感じていたようだ。
断られなかったことにほっとしたと同時に、内側からじわじわと嬉しさが膨らんできてたまらずにやけそうになる口元を左手の甲で隠す。
だけど、スマホのトーク画面からずっと目を離せずにいた。
【返信ありがとう。部活の予定がわかったら、また連絡する】
初めて向こうからの連絡に浮き足立ちながらも、それが悟られないようにいつも通りを装った返信を送る。
数秒後に直ぐに既読が付いたことから、おそらく森も手元にスマホがある状態なんだろう。
「.............」
彼女の性格からして、断られる可能性は十分あった。
もう少し交流を深めてから誘えばよかったかなと、少し反省したくらいだ。
だけど彼女は、俺の言った通りゆっくり考えて、行くという結論を出してくれた。
何が決め手になったのかはさておき、一時の感情に流されないでしっかり考えてから返事をくれる、森のそういうところがやっぱりいいなと思ってしまう。
なんだか俺ばかりがどんどん惹かれていくなと苦笑しつつも、一緒に出掛けられることに嬉しさは増すばかりだ。
【夏休み、楽しみにしてる】
普段よりずっと高いテンションのまま、自分の気持ちを素直に送ってしまった。
既読がついて、その後の返信は無かったものの、おそらく眉を下げてきょとんと目を丸くしているだろう森の顔が頭に浮かび、たまらず口元がゆるりと綻んでしまうのだった。
果報は寝て待て
(生意気言ってるのはわかる。だけど、恋愛ってこんなに難しかったのか。)