AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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「大地~!」
アリーナに下りて、先輩は直ぐに烏野の選手がいる方へ向かい、大地さんに声をかけた。
先輩の声に大地さん以外にも烏野の何人かがこちらへ顔を向け、少しだけ目を丸くするが、先輩は全てスルーだ。
「俺らそろそろ部活行くから、挨拶しにきた。烏野は何時くらいまで居んの?」
「あー......結構距離あるし、遅くても16時くらいだろうな......」
「そっかぁ、じゃああと2、3試合ってとこ?」
「そうなるな」
タオルで汗を拭いていた大地さんは先輩の言葉に軽く頷いた後、ゆるりと私の方へ視線を移した。
「恭平も夏初ちゃんも、わざわざありがとな。まさか東京での練習試合で応援されるとは思わなかった」
律儀にそんなことを言ってくれる大地さんに恐縮しておたおたと頭を下げると、先輩は「いや、だって烏野超面白ぇもん」と楽しそうに笑う。
「つーかさァ、俺、ぶっちゃけ大地は春高までは残んないんじゃねぇかなって思ってたんだけど...烏野のバレー見て、お前が残った理由すげー納得したわ」
「......あー......それは、まぁ......」
「でも大地、最初は残んないっつってたべや?」
「ちょっ、スガ!!」
先輩の言葉に大地さんが少し言葉を濁した矢先、大地さんの背後からするりと菅原さんが会話に入ってくる。
にやにやと愉しそうに笑う菅原さんの登場に、大地さんは焦ったような仕草をするが、菅原さんの言葉はばっちり先輩の耳に入ってしまった。
「やっぱそれ言ってた?wさっすが大地、裏切らねぇオトコだな~w」
「う、うるさい!裏切らないって何だよそれ!」
「それがさァ、“俺は、ここで退いた方がいいと思ってる......”とか格好付けちゃって。本当は誰よりもバレーやりたいクセにさァ」
「だっはっは!未練タラッタラな奴が何言ってんだって話だな~!w」
「ッ、うるさいうるさい!!あの時は本当に悩んでたんだよ!!」
「へなちょこ旭だって残ること即決してたのにな~?w」
「ちょっとスガ!?俺までディスる必要あった!?」
立嶋先輩と菅原さんはお腹を抱えてケラケラと大笑いしていて、時折大地さんのモノマネのような事をして楽しそうにはしゃいでいる。
当の本人である大地さんは顔を真っ赤にしながら二人を怒り、そしてなぜかいらぬ火の粉を烏野のエースさんが被っていた。
「っはーw笑った笑った......wスガ君、後でで全然いいから、大地経由で連絡先教えてくんない?」
「お、いーね!じゃあ大地に恭平君の連絡先聞いとくな!」
「この流れで誰が教えるか!!」
「あ、よかったら旭君も交換しようぜ!大丈夫、悪用しないから!」
「え、あ、ど、どうも......?」
「ヒゲチョコお前俺より恭平の方につくのかいい度胸だな......」
「えぇ!?俺が怒られるの!?」
「.............」
烏野三年生の御三方と立嶋先輩はまるで昔からの友達同士のような雰囲気でわいわいと盛り上がっていて、人見知りをする私にとっては正直なところぎょっとすることしかできない。
だけど、例え遠い他校の人とでも直ぐに仲良くなってしまう先輩のコミュニケーション能力の高さは、本当に尊敬してやまないばかりだ。
「昔から大地は、たま~にポンコツになるから......スガ君も旭君もどうか、宮城でもご指導ご鞭撻の程、宜しくお願い致します」
「ちょ、やめろ!お前は俺の何なんだ!」
「可愛い従兄弟ですけど何か?」
「全然可愛くねーよ!」
折り目正しく頭を下げる立嶋先輩に大地さんはまた嫌そうな声を上げ、二人のやり取りに菅原さんとアサヒさんがどっと笑う。
先輩と大地さん、本当に仲が良いんだなぁと傍観しながらしみじみ思っていれば、立嶋先輩はからりとした明るい声で楽しそうに言葉を続けた。
「さっきも言ったけど烏野のバレー超面白くて好きだから、大地達、めちゃめちゃ頑張れな!」
「!」
「で、ユースに勝って春高決めて、また東京来てよ。そしたら、梟谷園芸部が全力で烏野応援しに行くから!」
「.............」
にっこりと笑う先輩の言葉に、大地さん達は目を丸くしたままぽかんとほうけてしまっていた。
反応の鈍い三人を前にして、立嶋先輩はアレ?と首を傾げてから小声で「え、俺なんか変なこと言った?」と私に尋ねてくる。
「......えと、ちょっと、わかりませんが......先輩、そんなこと言って、梟谷と烏野が試合で当たってしまったら、どうするんですか......?」
「え?そりゃあ烏野応援するけど?」
「......そこは、もう少し悩みましょうよ......」
先輩が少し屈んでくれているので、口元に手を当てながらひそひそと思ったことを話す。
私の抱いた心配事に対して、あまりにもあっけらかんと先輩が答えるものだから、思わず眉を下げて先輩を見つめてしまった。
先輩の言葉が本気かどうかはさておき、今の会話を木兎さんや木葉さんが聞いたらまた大騒ぎになるだろうなとひっそり肩を落としていれば、今まで黙っていた大地さんがおもむろにふきだし、可笑しそうに笑いだした。
「全く......ユースに勝てとか春高行けとか、そんな簡単に言いやがって......」
「いやいや、簡単だとは微塵も思ってねぇよ?......でも大地、この16人なら、って思ってるだろ?」
「.............!」
先輩の言葉に、大地さんは一瞬目を見張る。
16人という数字が気になりそろりと烏野のメンバーを数えれば、選手は12人しか居なくて思わずもう一度数え直した。
しかしそれでも12人のままで、あとの4人は......と考え出した途端、ハッとする。
綺麗系と可愛い系の女子マネージャーさん2人と、顧問の先生だろう眼鏡の男の人と、コーチっぽい金髪の男の人を含めれば、丁度16人だ。
「.............本当、恭平にはお見逸れするよ」
思わず先輩の方へ顔を上げた途端、大地さんがまるで降参だと言わんばかりに苦笑しながら頭をかく姿が目に入った。
そして、その手をゆっくりと頭から外し......先輩の前へ、拳にして突き出す。
「......このメンバーで、絶対に春高へ行く。だから、次会う時も東京だ」
ニッと口角を上げて凛々しい表情をみせる大地さんの言葉は、あまりにも真っ直ぐであまりにも厳かだった。
先程まで先輩や菅原さんにからかわれていた人とは思えなくて、その変わりようにたまらず背筋がシャンと伸びる。
烏野の主将として力強いオーラを放つ大地さんのこの姿が、きっとバレーボール選手としてのこの人の姿なのだろう。
気持ちをギュッと引き締められるような、この感覚。やっぱり大地さんは立嶋先輩の従兄弟なんだなと、改めて感じてしまった。
「そん時は人形焼きでも差し入れしてやっからな」
そんな言葉を返しながら、立嶋先輩はにやりと笑って自分の拳を大地さんに軽くぶつける。
従兄弟同士である二人の格好良いやり取りに心を奪われつつ、頭の片隅でスポーツ選手への差し入れに和菓子ってどうなんだろうとぼんやりと考えてしまうと、ふいに大きな拳が私の前に差し出され、ピクリと肩が震えた。
「.............」
「......夏初ちゃんも、恭平のこと宜しく頼むな」
予想していない事態に目を白黒とさせつつおずおずと拳の先を追えば、丁度私と視線が重なってから大地さんはゆるりと笑ってくれる。
まさか私にも声を掛けてくれるとは思わず、暫く呆然としてしまったものの、この状況で何も返さないのは失礼だろうと気が付き、慌てて私も右手で拙い拳を作った。
「......あ......えと、......あ、あの......道中、お気を、つけて......お帰り、ください......」
喋ろうとすると相変わらずひどく緊張してしまい、情けない程どもりながらも何とか言葉を伝え、大地さんの大きな拳と私の拳をほんの少しだけくっ付ける。
慣れないことをしているせいか冷や汗が至る所から噴き出していて、顔も熱いからきっと真っ赤になっているだろう。
立嶋先輩みたいにもっとスマートに出来ればもう少し格好も付くだろうにと不出来な己にガッカリしていると、前にいる大地さんは私と合わせた拳を大事そうにもう片方の手で摩った。
「......うん。ありがとう」
「.............」
そう言って優しく笑う大地さんの笑顔は、やっぱり立嶋先輩とよく似ていて、たまらず私もへらりと笑ってしまうのだった。
▷▶︎▷
「ちょっとちょっと。なんで澤村がナツハちゃんと仲良さげに話してんの?」
烏野とうちの試合が先に終わり、隣でやっている森然と生川の試合を待つ間、審判等の補佐作業を行なっていた音駒の主将、三年生の黒尾さんがいつ間にか背後にいて、そんな声を掛けてきた。
「......いや、なんで俺に聞くんスか......」
今まで遠目で眺めていた光景に、むしろ俺が聞きたいと思う傍ら、嫌な人物に背後を取られたなと内心で舌打ちする。
瞳だけそちらに寄越しながらちらりと様子を窺うと、黒尾さんは烏野の方を見ながらなぜか面白くなさそうな顔をしていて、一瞬ぎくりとした。
てっきり俺をからかいにきたのかと思っていたが、どうやら様子が違うようだ。
「俺だってまだあんな風に笑ってもらえたことないのに......澤村のヤツ、一体どんな手を使ったんだ......!」
「.............」
眉間に皺を寄せて悔しそうに話す黒尾さんの視線の先には、烏野の主将と話す森の姿がはっきりと見えた。
内気な性格の彼女が慣れない相手と話す時、ひどく人見知りをするはずなのに、烏野の主将である澤村さんとはどこか親しげな様子を見せている。
「.......澤村さん、うちの園芸部の部長の立嶋さんと従兄弟らしいです。だから、この中では比較的話しやすい相手なのかもしれません」
一応自分が持っている情報を開示すれば、黒尾さんは目を丸くしつつも「あ~、ナルホド?そういうこと?」と納得したように何度か頷いた。
しかし、どうして黒尾さんが森のことをそこまで気にするのかがいまいちわからない。
「.......黒尾さん、やたら森に構いますよね。孤爪に似てるからですか?」
「いや~?ナツハちゃん可愛いし、好きだから?」
「.............」
あまりにもさらりと返ってきた答えに、まるで鈍器で頭を殴られたような衝撃を受ける。
それでも何とか表には出なかったようで、ドクドクと嫌な音を立てる心臓を携えながら黒尾さんの顔を確認すると......俺と視線が重なった途端、ニヤリと愉しそうに笑われた。
......あぁ、これは完全にからかわれただけだな。
「.......なんてな。赤葦クン、ビビった?」
「.............」
ま、お友達として?仲良くなりたいってのはあるけどナァ。
そんな言葉を付け加えて、黒尾さんはわざとらしく俺の肩をポンポンと軽く叩く。
それに対して何も喋らずにいると、黒尾さんは可笑しそうに笑った。
「......でも、ナツハちゃんて赤葦にはよく笑うし、脈アリなんじゃねぇの?」
「.............」
腐っても音駒の主将であるこの人は、敵味方関係無く色んなことをよく見ている為、その観察眼の鋭さに時折ひどく驚くことがある。
しかしながら今回の件は少し事情が違うようで、思わず小さくため息を吐いた。
「.......残念ながら、森が俺に向ける気持ちは全くの別物なんですよ」
「え?」
言葉を返しながら、口に出すことでそのことを胸にかみしめてしまい、知らずのうちに苦笑がもれる。
そんな俺の様子が意外だったのか、黒尾さんは少し目を丸くして俺の顔を見た。
だけど、実際問題そうであるのだから、これ以上は何とも言い様がないのだ。
森から向けられるものは、恐れ多くも憧憬や尊敬等の気持ちであり、黒尾さんが思っているような恋慕の感情は未だに汲み取ることができずにいた。
......だから、少しずつでもそういう方面へ意識させたくて、逃げられない程度に彼女に触れたり、言葉で伝えたりしている訳だが、どうやら許容量を超えると一旦水に流してしまうタイプのようで、果たして効果があるのかどうかは現時点では判断できずにいる。
「......ですが、俺は“お友達”として仲良くしたい訳ではないので」
「.............」
「......まぁ、俺が勝手に想ってるだけなんで、ヘンに森を困らせるのは絶対やめてくださいね。......聞いてますか、木兎さんもですよ」
「!!!」
黒尾さんと話している間、ひっそりと近くで盗み聞きしている白黒頭にピシャリと忠告すると、黒尾さんと木兎さんは大袈裟なほどビクッと肩を揺らした。
その姿は一つ歳上の先輩のものとは到底思えない。
「......あー......やっぱバレてた?」
「すげーな赤葦、後ろに目でも付いてんのかよ」
「......こういうことばかりしてると、いつかヒトの信用を無くしますよ」
居心地悪そうに苦笑する黒尾さんと、イタズラに失敗した子供のような顔をする木兎さんの二人に本心からの言葉を告げると、声を揃えて「すみませんでした」と素直に謝ってきた。
この二人の悪癖に慣れてる俺はため息を吐くだけで終わりにすることができるが、根が真面目で自尊心の高そうなタイプには絶対やってほしくないシロモノだ。
例えば、そう......烏野のミドルブロッカーの月島みたいなタイプには、絶対やらない方がいい。多分相当怒るだろうし、その後も気にしてしまうだろう。
「でも、あかーしは夏初ちゃんのこと、好きなんだよな?」
「.............」
人目を憚っているのか、木兎さんはぎょっとする程の至近距離でぼそりとそんな確認をしてくる。
何事もシロクロはっきり付けたがるこの人のことだ。ここで曖昧な返事をすれば、はぐらかすなよ!とこの場で騒ぎ出す可能性も否定できない。
最悪、森に被害が及ぶ可能性だってある。それはあまりにも可哀想だ。
「......そうですね。好きです」
「!!!」
「だから、この練習試合負けたくありません。格好付けたいんで」
「おう、わかった!!」
俺の返答に勢いよく上がった木兎さんのテンションは、そのまま上手い具合にバレーの方へシフトしてくれたようだ。
「ヘイヘイヘーイ!次も勝つぜー!」とボールを取りに行く木兎さんの背中を見てたまらずほっと息を吐くと、隣に居る黒尾さんから「赤葦お前...本当、敏腕セッターだな......」と苦笑気味に言われたので、「それ程でも」と笑って返しておいた。
清水の舞台から飛び降りる
(烏も梟も、羽根があるから問題無し!)