AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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四時間目の終わりを告げるチャイムが鳴り響き、世界史の先生はのんびりと自身の仕事道具を片付け始めた。
これから一時間のお昼休みだ。
憂鬱な気分になりながらも授業終了時の日課である、今の時間のノートをもう一度よく見直す。
これだけでまるっと覚えられたら万々歳なのだがそう上手くはいかず、けれど少なくとも今日の復習にはなるので毎回必ずやるようにしている。
「夏初、今日も木兎さん来るんでしょ?」
ノートの見直しをしていると、前の席の友達が実に楽しそうな声音で恐ろしいことを聞いて来た。
そのことをなるべく考えないようにしていた私は、マスクの下で軽く唇を噛む。
「背ぇ高いし、本当にイケメンだよね~。怪我させちゃったからってわざわざお詫びしにくるとか、性格良過ぎだし」
「......ソウデスネ......」
ノートに視線を固定したまま小さく相槌を打つと、友達はちらりと私を見て盛大に溜息を吐いた。
「木兎さんに会うの、今日で三回目でしょ?まだ人見知ってんの?」
「.............」
「ちょっと、昨日木兎さんに言われたこと忘れてないよね?何してほしいか考えといてって......」
「......それは、決めた」
「何にしたの?」
ここでやっとノートから友達へ視線を移し、小さく息を吸ったところでもう一人の仲の良い友達がやってきて「とりあえず、ご飯食べながらにしない?」と口を挟む。
確かにその通りだと思い、私も前の席の友達もお昼ご飯の準備を始めた。
これからのことを考えると全然お腹なんか空かないのだが、この時間を逃すと放課後まで何も口にしないことになるので、少しでも何かを食べておかなければ。
今日のお弁当はおかかと梅しそのおにぎり2つと金平ごぼう、鶏肉の味噌焼き、きゅうりとキャベツの浅漬けのおかず3点だ。
おにぎり以外は昨日の晩御飯をそのまま詰めてきたのだが、自分で食べるだけならなんの問題もない。
昨日は唐突にフルーツサンドが食べたくなってコンビニに頼ってしまったが、今日は晩御飯の残り物といえどちゃんとお弁当だ。昨日遣ってしまった分は今日で相殺させないと。
「で、木兎さんに何お願いするの?」
「デートしてください♡とか?」
「.............」
「......夏初、死にそうな顔してるけど」
「ごめんごめん、夏初はそんな子じゃないってわかってます」
友達の心無い一言がグサリと刺さる。
私がもし人見知りをしない人間だったらノリでそういうことを言えるのかもしれないが、残念ながらかなりの人見知りをする人間なのでとてもじゃないけどそんなこと言えない。
それだから、昨日の部活で先輩と木兎さんに何をして貰うかを必死に考えたのだ。
「で、木兎さんには何を頼むの?」
再度聞かれた言葉に、まるで木兎さんが神様みたいに聞こえるなとぼんやりバカなことを考えてしまえば、教室のドアが勢いよく開いた。
「あかーしー!!」
教室中に響き渡る元気な大声にクラスの何人かが盛大に驚く。
なんだなんだと視線がドアの方へ集まり、その中の何人かの視線が私へ向けられた。
私は今関係ないでしょうよとマスクの下で声に出さずぼやいてから、椅子に深く座り直す。
その間に教室へ入って来た先程の人物......三年生の木兎さんは赤葦君の席へ辿り着いたようだ。
「......木兎さん、大声で名前を呼ぶのはやめてください。みんな驚いてるでしょう?」
「悪ぃ悪ぃ!次は気を付ける!」
「そうやって返事だけじゃないですか......」
明るく笑う木兎さんに対し、赤葦君はどこか諦めたようにため息を吐く。
そしてゆっくりと立ち上がり、今しがた入室した木兎さんを後ろに連れて私の席へやって来た。
「ごめん森、今日も少しいい?」
「ヘイヘイヘーイ!夏初ちゃん、何して欲しいか決まった?」
こちらへ来る予測はしていたが、実際来られると心臓が早鐘のようにバクバクと脈打つ。
心が折れたらこのまま押し黙ってしまいそうで、それを避けるためにマスクの下の口を敢えて少しだけ開けておき、浅い呼吸を繰り返した。
私が緊張しているのをわかっている友達二人は「木兎さんこんにちは~」「今日もイケメンですね」等と場を繋いでくれている。
木兎さんが友達二人と話してくれている内に、兎に角何か喋らなければと思い、自分の鞄を探る。
木兎さんへのお願い事を伝える前に、一先ず赤葦君へお借りしたものを返そう。
そう考え、昨日クリーニングから戻ってきた新品同様のタオルを赤葦君へお返しする。
「......あ、あの、これ......長らく、お借り、してて......すみませんでした......」
「え、もしかしてクリーニング出してくれたの?別によかったのに」
「......でも、汚し、ちゃったから......」
クリーニング屋さんの袋を見て赤葦君は目を丸くしたが、少し間を置いてから「わざわざありがとう」と受け取ってくれた。
「なんか、逆に気を遣わせちゃって悪かったね」
「そんな、とんでもない......本当に、すみませんでした......」
「.............」
バレーボールが顔に当たった衝撃で、赤葦君に借りたタオルには私の涙やら鼻水やら鼻血やらが付着してしまっていた。
本当は買い替えるのが適切なのだろうが、もしかしたら何か思い入れのあるタオルなのかもしれないし勝手に私が処分してしまうのはどうかと思い、結局クリーニングという手段を選んだのだ。
まさか赤葦君からタオルを借りる日が来ようとは微塵も思ってなかったので、人生というものは本当に摩訶不思議なものである。
「......少し、気になってたんだけど、森ってさ......」
「そーだ夏初ちゃん!決まった?俺にして欲しいこと!」
「ひッ......」
タオルを受け取った後、赤葦君が何か言いかけたがすぐに木兎さんが間に入り、その勢いに反射的に体が仰け反る。
完全に怖気付く私を気にしてか、赤葦君は木兎さんに「......木兎さん、近いです」と注意してくれた。
木兎さんは素直に身体を引いてくれ、適切な距離感になってから眩しいくらいの笑顔を私に向ける。
「俺が出来ることなら何でもいいぞ!バレー教えるとかでもいいし!」
「それは木兎さんがやりたいだけでしょう。またボールぶつける気ですか?」
「赤葦たまにはノッてきて!」
木兎さんと赤葦君の漫才のようなやり取りに、そばに居る友達含めクラスの人達が可笑しそうに笑う。
その光景を見て、木兎さんは場の空気に馴染むのが上手い人だなと感じた。
私とはまるで正反対の人柄で、きっと人見知りなんてしたこともないんだろう。
羨ましいを通り越して、素直に凄いと思う。
「............あ、あの......」
深呼吸をして、どもりながらも何とか声を出す。
懸命に出した声は情けないくらい小さいものだったが、木兎さんは相変わらず人懐こい笑顔を見せたまま、私の言葉を待ってくれている。
両手をスカートの上で握り締め、無意識に目を瞑ってしまいながらも昨日必死に考えたお願い事を口にした。
「......あの、その......ぼ、木兎さん?が......凄いと、思う......バレーボールの、選手......教えてください......」
無いものねだり
(ねだったところで、どうしようもないけれど。)