AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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食堂まで辿り着き、相変わらずバレー部ばかりの空間にアウェイ感を覚えながらも梟谷生が集まるテーブルへ向かう。
昨日と同じ席につくと、隣りの先輩から「おっせーよ」と手刀を頭に落とされ、少し痛む前頭部を両手でおさえながら「すみませんでした......」と謝れば軽く笑われた。
早く飯選んでこいと促され、持ってきた水筒をテーブルに置き食券販売機にもたもたと向かうと赤葦君も隣りに並んでくる。
「ごめん、もしかして遅いって怒られた?」
「......あ......でも、全然......気にしないでください......」
「............」
聞かれた内容に、思わずへらりと笑う。
どうやら先程の先輩とのやりとりを見られていたらしい。
ちょっと恥ずかしいので、誤魔化すように前髪を少し直した。
券売機に向き直り、ここに来るまでの間に赤葦君と話しながら決めた冷やしたぬきうどんのボタンを押す。
会計をしてから一足先に厨房の方へ食券を渡して、二人分のトレーとお箸を用意しながらうどんを待っていれば、赤葦君も私に続いて食券を出した。
その際、私がトレーとお箸を用意していたことに丁寧にお礼を言ってくれて、少し恐縮しつつこちらも軽く頭を下げる。
「......赤葦君は、さっき言ってた日替わり定食......?」
「うん。アジフライ絶対食べたくて。あ、ご飯大盛りでお願いします」
私の質問に少しだけ瞳をきらりと輝かせて赤葦君が答える。さっきここに来るまでに食べることが好きだと話してたから、アジフライを本当に楽しみにしていたんだろう。
いつもより少しだけそわそわとした様子で厨房へご飯の注文をする姿に思わず和んでしまえば、私の頼んだ冷やしたぬきうどんが先に出てきた。
赤葦君を待つべきかどうするか考えていたら、それを察してくれたのか「先に行ってていいよ」と言われ、少し悩んでからお言葉に甘えて先に席に戻ることにした。
梟谷の席へ戻ると先輩達は先に食べ始めていて、それでも私が戻ってきたことに気が付いてくれた猿杙先輩が「おかえり~」と笑って声を掛けてくれる。
「夏初ちゃん、冷やしたぬきか。美味しいよね~」
「お、マジで?夏初一口ちょーだい」
「......お前それ、女子に対してどうなんだよ......」
猿杙先輩の言葉に続くように立嶋先輩がそんな催促をしてきて、それに対して木葉さんが少し顔を顰めた。
「木葉お前、そんなん言ってっから“なんか、思ってたのと違う......”ってフラれんだよ」
「喧しいわ!!つーかなんでソレ知ってんだ!?小見ヤンか!?」
「アレ?俺立嶋にも喋ったっけ?わりーわりー」
「にも!?ちょ、あと誰に話した!?」
「あ、俺聞いた〜!」
「......木兎......だと......!コイツ歩くスピーカーじゃねぇか......!」
「あ、ひっでぇの!そんなんしねーし!」
「木兎はデフォで声がデカいからなぁ......ドンマイ木葉」
立嶋先輩の暴露を筆頭に、小見先輩や木兎さんまで一緒になってわいわい話し出す。
盛り上がる先輩方を前にして普通にご飯を食べてもいいものなのか頭を悩ませていると、日替わり定食を頼んだ赤葦君が戻って来て、ごく自然に着席してから「いただきます」と手を合わせてご飯を食べ始めたので、少しだけそれに驚きつつも私もそれに倣うことにした。
さすが二年生で副主将を担ってるだけある。全く狼狽えてない。
「......あ、そういや立嶋さァ、さっき烏野んとこ行ってたろ?あのスゲー速攻する一年と話した?」
暫く木葉さんの話題で盛り上がっていた先輩方だったが、ふいに小見先輩が立嶋先輩に違う話題を提供した。
それを皮切りに、先輩方の話は一気にバレーボール方面へ向いた。
「あぁ、ちょっとだけな。スパイカーがヒナタ君、セッターがカゲヤマ君というらしい」
「おお、“ヒナタ”と“カゲ”って、なんか出来過ぎじゃね?」
「まさに“名は体を表す“だな~」
立嶋先輩の情報に木兎さんと小見先輩がそんな感想を述べる。
でも、先程の烏野の一年生二人のコンビネーションを思い出してみると、小さな身体で誰よりも高く飛んでいた“ヒナタ”さんと、コートから誰よりも高く彼を飛ばす“カゲヤマ”さんという構図は、確かに二人の名前にピッタリだなと思ってしまった。
「ていうか、途中からそのヒナタ君試合に出てなかったみたいだけど、その件については何か話した?さすがにそこまでは聞けない?」
「あぁ、それ俺も地味に気になってた」
猿杙先輩の質問に、木葉さんが同意を示す。
自然と梟谷男バレの視線を集めた立嶋先輩は、何とも言いづらい表情で「......あー......」と曖昧に言葉を濁し、少し間を置いてから箸をトレーの上に置いた。
「......いや、俺もあんま詳しいことは聞いてねぇけどな?とりあえずケガとかではないらしい。......まぁ、なんだ......んー......あ、アレだ、要は“摘蕾”みたいな」
「うん?立嶋、テキライって何?」
「ヘイ夏初、摘蕾の説明して」
「えっ......」
立嶋先輩の言葉に木兎さんが首を傾げ、そのまま話しの矛先がまさかの私へ向けられる。
思わずおたおたと動揺してしまうものの、話の続きを待つ金色の瞳に見つめられてゴクリと唾を飲み込んだ。
深呼吸をして、だけど木兎さんの目を見て話すと緊張するので、おのずと視線は冷やしたぬきうどんへ向かってしまった。
「......て、摘蕾は、“蕾”を“摘”むと、書きます......園芸用法の1つで......蕾の数を制限することで、花や実により多くの養分を与えることができます......」
たどたどしい私の説明に、木兎さんはその金色を丸くして「え、蕾のまま摘んじゃうの?」と素直な感想を口にした。
「それってちょっと可哀想じゃない?花が咲く前に摘んじゃうなんて......」
「.............」
「まぁ、そういう見解もあるわな......どうやっても所詮、人間のエゴだし」
「.............」
木兎さんの言葉と、先輩の言葉にたまらず口を噤む。
確かに摘蕾をするのは人間側の都合であり、蕾を取られる植物側にとってはいい迷惑でしかないのかもしれない。
.......だけど。
「.......そ、それでも......!私は、大きく元気に、育ってほしいです......!す、少ない花をつけて、小さいまま、枯れてしまう、より......大きくなって、ちゃんと元気で、沢山の花をつけて、色んな人に愛でて、もらえたら......それはとても、意義のあることだと、思います......!」
「.............」
先輩方の話をぐるぐると考えている内に、思考回路がぱちんと弾けて気が付いたらそんな言葉を口にしていた。
この場で私が意見したのがどうやら予想外だったようで、梟谷男バレの方々は皆一様に目を丸くしてこちらに視線を寄せる。
まさに呆気に取られるという言葉を具現化したような空気になり、しんと静まる食卓を前に焦りと不安でじわりと瞳が潤むが、今回ばかりは「やっぱりなんでもないです」と逃げたくなくて、唇をぎゅっと噛み締めて冷やしたぬきうどんを見ていた。
......だって、あんまりじゃないか。確かに人間側の都合であることは、どうやったって免れない事実ではある。
だけど、摘蕾をすることで養分を全体に行き届かせ、元気にさせることだってできるのだ。
植物は自分で動くことが出来ない。だからその分、人間の私が少しでも何か彼らに手を貸すことが出来たらと常日頃思っている。
その思いを、願いを、“可哀想”だなんて言わないでほしかった。
「......俺さぁ、こういうのって、視点の問題だと思うんだよなァ」
「!」
静かになってしまった空間に、ぽつりと声を零したのは私の隣に座る立嶋先輩だった。
「花1つだけ見れば、確かに摘むのは可哀想だって思う人が多いだろうよ。でも、その植物全体を見れば、摘蕾することで丈夫になるしデカくもなれる。花が大きく立派に咲けば虫だって寄ってくるだろうし、受粉もしやすいかもしれない。子孫を残すことが植物側の使命なら、摘蕾してやった方がむしろ好都合かもしれないだろ?植物は基本、自分で蕾を落とせないしな」
「.......おぉ......なるほど......!」
立嶋先輩のわかりやすい話に、木兎さんがきらりと目を輝かせながら何度も頷く。
そんな素直な男子バレー部の主将に、園芸部の部長はニヤリと口角を上げた。
「ま、話が少し逸れたが、今の烏野が大体そんな感じなのかなって思ったんデスヨ。だから、もし次やる時にはもっと手強くなってるかもよ~?って話」
「.............」
「あ、ちなみに烏野にはそれ聞かねぇ方がいいぞ。やっぱ若干ごたついてるみたいで、聞いた瞬間ドリルで墓穴掘ることになる」
「.......あぁ、園芸部なだけに?」
「園芸じゃドリル使わねーよwお前俺らをなんだと思ってんだw」
小見先輩の本気なんだか冗談なんだかよくわからない言葉に、立嶋先輩が可笑しそうにふきだす。
それを皮切りに、他の人達も楽しそうに笑い出し、止まっていた昼食もゆっくりと再開された。
「立嶋って時々深いこと言うよね。下げられてる烏野の10番の件を“摘蕾”に例えるとか、なんかすげ〜って思っちゃった」
「おお、猿杙君、もっと褒めてくれていいのよ?」
「いつもがペラッペラ過ぎるんじゃねぇの?」
「あー、確かに。立嶋、いつもテキトーなことしか言わねぇもんなぁ」
「いやいや、マジで木葉と木兎にだけは言われたくねぇんだけど?」
お昼ご飯を食べながら交わされる先輩方のやり取りを流し聞きつつ、やっぱり立嶋先輩は凄いなぁと密かに実感する。
先程の会話は私の主張を踏まえつつ、双方の理解が得やすい方向に話を纏めてくれた。
咄嗟に感情的になってしまった私とは違い、立嶋先輩は落ち着いたまま、シンプルでわかりやすい結論に落とし込んだのだ。
摘蕾の話と、バレーボールの話。一見すれば全く関係のないようにも思えるけど、先輩の話を聞いた後では何となくこの二つにも通ずるものがあるのではと思えてしまう。
また、“摘蕾”状態の烏野のバレーボールが、この先どうなっていくのかというのもずっと気になってしまった。
この人は知り合った当初からずっと、話し上手の聞き上手なのだ。
「春高で烏野と当たったら、案外いい試合したりしてなァ?」
「したらお前、流石に俺らの方応援しろよ?」
「フッフ、約束できかねる!」
「おっ前!そこはウソでも俺らって言え!!」
「いやウソはダメだろ!心の底から俺らって言え!!」
おそらく天邪鬼な先輩の発言に、木葉さんと木兎さんが不服そうな顔を向けてそんな言葉を返す。
「.............」
「お、赤葦。また何か考え過ぎてる?」
「!」
立嶋先輩達がわいわいと騒ぐ中、ふいに猿杙先輩が赤葦君にそんな声を掛け、周りの視線が自然と赤葦君へ集まった。
「.......いえ、大したことではないんですが......あの烏野のセッターと10番の超速攻は見事だったので......アレが使えないとなると、フラストレーションが溜まるのはセッターも同じだろうなと......」
「ふら、んす......?」
「フラストレーション、端的に言うと欲求不満な状態を指します。何かをしたいという気持ちに現状が追い付かないもどかしさ、とでも言いましょうか......。木兎さんも時々あるでしょう?」
「おぉ、あるある!それはわかる!」
「お前の場合、そのまましょぼくれモードに入るからなァ」
赤葦君のわかりやすい説明に木兎さんは何度も相槌を打つ。
そんな木兎さんに小見先輩が茶々を入れ、木葉さんと猿杙先輩が無言でうんうんと頷いた。
「......で?赤葦は同じセッターとして烏野のセッターを憐れんでたの?」
「いえ、憐れむとかじゃなくて......その、さっき立嶋さんが“摘蕾”って言ったじゃないですか。だから、10番という蕾を摘まれて、烏野のセッターはあの超速攻とは違う、何か別の養分をこれから取り入れるのだとしたら......本当に、末恐ろしいなと考えてました」
話を戻した猿杙先輩に、赤葦君は今後の烏野の展望を見据え、小さくため息を吐いた。
......あの神業のような超速攻という蕾を落としてまで、烏野が求めるものとは一体何なんだろう。
「摘蕾っつーか、もうそれ進化の域かもしれねぇな」
「!」
からりとした明るい声で、立嶋先輩が笑う。
切れ長の目を少し丸くした赤葦君と目が合うと、先輩は「すげー楽しみだな」と無邪気に返していた。
臥薪嘗胆
(だけど、ハイリスクハイリターンは性に合わないんです。)