AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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音駒二人の襲来......否、話し掛けて頂いた後、何とかよろよろと立ち上がり体育館を離れた。
黒尾さんがナンパしていた人だと完全に誤った情報を持っていたから、私からそこを正せればよかったのだが、ダメだった。全然話せなかった。
銀髪の方は近くで見ると本当に背が高くて、そして本当に端正な顔をしていたからそれにも気圧されてしまい、一言も発言することができなかった。
......一体どうやったら、人見知りって治るんだろう。
そんな途方も無いことを鬱々と考えながら部室まで戻り、目当ての黄色い水筒をカバンから取り出して再び来た道をゆっくり歩き出した。
「.............!」
先輩と待ち合わせている食堂までの道を辿る途中、丁度二階の渡り廊下のところで見知った白衣姿が見えて、思わず「先生!」と声を掛けた。
初老の保健医の先生はおもむろにこちらへ振り返り、私の顔を見るとにっこりと穏やかな微笑みを浮かべる。
「あらあら、夏初ちゃん。こんにちは、今日も部活?」
「こんにちは、部活です。昨日と今日で学園周りの植木を剪定します」
小走りで先生の近くまで行き、足を止めてくれた先生に笑い返す。
休日である今日に先生と会えた喜びに、沈みかけた気持ちがまるで上昇気流にでも乗ったように一気に舞い上がった。
「この暑い中大変ね......本当にご苦労様。ちゃんと帽子被って、適度に休憩して、水分補給をしっかりね?」
「はい、気をつけます」
心配そうに眉を下げる優しい先生の言葉にありがたみを感じつつ素直に頷くと、「まぁ、あの立嶋君が居るから、そこはきっと大丈夫ね」と口元に手を当てて小さく笑う。
先生特有の温かな陽だまりのような空気にたまらずほっと息を吐くと、先生はゆるりと私へ視線を寄越し、穏やかな笑みを携えたまま再び口を開いた。
「.......でも、よかった。夏初ちゃん、本当に元気そうで」
「え?」
柔らかな声音で告げられた言葉に、きょとんと目を丸くする。
何かあったっけ......?と少し黙考した後、パッと思い当たったのは保健室でめそめそと泣いた日のことだ。
木兎さんと赤葦君の関係性が羨ましくて、私も先輩とそうなりたいのだと先生に相談したあの日から、こんな感じで先生とゆっくり話す機会なんて、そういえばなかった気がする。
「あっ......せ、先日は、本当に、すみませんでした......!あの、と、とりあえず?大丈夫です......!」
一連のくだりを思い出した途端、急速に申し訳ない気持ちが加速していき、慌てて頭を下げると先生は可笑しそうに笑った。
「あらあら......私、謝ってもらうことなんて全くないわ」
「あ......で、でも......私、先生にご迷惑を......」
「あらあら......何の事かしら?いやねぇ、この歳になると直ぐ忘れちゃうんだから」
「.............」
くすくすと楽しそうに笑う先生に、眉を下げながらもどこか安心してしまう。
......ああ、私、この人のことがとても好きだな。
改めてそう思うと同時に、胸の奥の方がじんわりと温かくなるのを確かに感じた。
「.......あ、の、......あの、先生......」
ゆっくりと深呼吸をして、黄色い水筒を両手で持つ。
急に言葉がつっかえる私に対しても、優しい先生は穏やかな態度を崩さないまま、話の続きを待ってくれていた。
「.......私、その......だ、大それた目標には、なるんですが......あ、赤葦君、みたいに......なりたくて......」
「あらあら......赤葦君て、男子バレー部の副主将で、夏初ちゃんと同じクラスの、あの赤葦君?」
「.............っ、」
私の言葉の確認を取る先生にたまらず顔に熱が集まり、恥ずかしさと後ろめたさがどんどん増幅されていく。
でも、先生が不思議に思うのも無理はない。
赤葦君といえば、本当に色んな人から一目置かれる凄い人だ。
頭が良くて、運動もできて、凛々しくて、強くて、だけどとても優しくて、誰からも信頼を置かれる、本当に素敵な人。
そんな赤葦君みたいになりたいなんて、下手をすると大いに笑われてしまうかもしれない。
「それは、とても素敵ね!私も赤葦君、凄く素敵な人だと思うわ」
「!」
ぱちんと両手を胸の前に合わせて、先生は本当に嬉しそうに笑った。
揶揄う素振りも苦笑いをするでもなく、瞳をきらりと光らせる先生に思わず気を取られてしまい、ぽかんと口を開けたままうっかり呆けてしまう。
「真面目で、頑張り屋で、とても誠実な人よね。そう考えると、根っこは夏初ちゃんと少し似てるのかも」
「......え......」
「あぁ、そういえば今日、男子バレー部の合同合宿練習をやってるって聞いたわ。夏初ちゃん、よかったら立嶋君と見て来たらどうかしら?」
「.......あ......実は、昨日と今日、お邪魔してまして......」
「あらあら、そうだったの。どうだった?」
「え、と......赤葦君は、三年生の中でもとても凛としてて、改めて凄い人だなと思いました......あと、話が少しズレますが、宮城から来てる烏野高校の一年生の二人が本当に凄くて、目が追い付かないくらいの速攻をするのでびっくりしました」
「まぁ......宮城からも来てるの......遠路遥々、本当に有難いわねぇ......」
「凄いですよね......。あの、それで、その烏野に実は立嶋先輩のご親戚が......」
先生と男バレの話をしていると、ジャージのポケットにしまっていたスマホが着信を知らせた。
途端、先程言われた先輩の言葉を思い出す。
そうだった、あまり遅いと電話するぞと言われていたのに、すっかり忘れていた。
「もしかして、立嶋君かしら?」
「う、あ、そ、そうです......!ごめんなさい、ちょっと失礼しますっ」
察しのいい先生に頭を下げて断りを入れてから、少し離れて通話ボタンに指を滑らせる。
「はい、あの、ごめんなさい......」
《お前さァ、ごめんで済んだら警察も何も要らねぇんだけど?》
「っ、す、すみません......」
先手必勝という訳では無いが、開口一番に謝罪を述べた私に、電話の向こうの先輩は呆れた声でそんな言葉を述べた。
もうこれは自分の不甲斐なさ以外何もないのでひたすらに謝罪を重ねると、立嶋先輩は大きなため息を吐く。
《......で、何?その調子だと、他校のヤツらに絡まれてるとかではないんだな?》
「......わ、渡り廊下で、先生とお会いして......嬉しくて、お喋りしてしまいました......」
《.......なるほど、めい子か......》
私の返答に、立嶋先輩は呆れながらもどこか納得したように相槌を打った。
不要な心配を掛けてしまったことに本当に申し訳なく思っていると、先輩は思わぬことを告げてくる。
《夏初、めい子まだ近くに居る?居るならちょい代わって》
「え?......あ、はい......代わります......」
先輩の発言に目を丸くしながらも、おずおずと言われた通りスマホを先生に差し出すと、先生は「あらあら......」と眉を下げて笑いつつ、それを受け取った。
「こんにちは、立嶋君。ごめんなさいね、夏初ちゃんと会えたのが嬉しくて、ついお話ししてしまったの」
「.............っ、」
先生の言葉に、思わず胸が熱くなる。
いや、きっとさっきの私の言葉を引用しただけなのだろうが、それでも先生の穏やかな声音で告げられるとたまらなくじんときてしまうのだ。
「......ええ、そうね。......え?私?これから一つやる事があって......あらあら、今の声は木兎君ね?ふふ、よく通る元気な声だから、すぐわかるわ」
先輩と先生の会話を断片的に聞きつつ、唐突に現れた木兎さんの名前に驚きながらも小さく笑ってしまった。
会話は全然聞こえないけど、きっと通話中の先輩の近くで楽しく話しているのだろう。
「......あら......そうねぇ......業務上、約束は出来ないけど、最善を尽くすわ。......あらあら、それは困ったわねぇ......」
「.............」
「......はい、じゃあ、夏初ちゃんにお返しするわね?......ありがとう。立嶋君も、暑さに気を付けて」
「.............」
瞳を伏せて楽しそうに笑う先生は最後に先輩を気遣う言葉を述べると、再びスマホをこちらへ渡してきた。
差し出されたそれを受け取り、「......お電話、代わりました......」と告げると耳元に先輩の声が戻る。
《もしもし夏初サン?そういうことだから、時間掛かりそうな時はちゃんと連絡しなさいよ?》
「はい、すみません。必ずします」
先生と話したおかげか先輩の声は先程よりも明るくなっていて、それに少しほっとしながらもう一度謝罪を告げると、《ならヨーシ》と緩いお許しの言葉を貰うことができた。
《で、今お前、二階の渡り廊下だろ?迎え行くからちょっとそこで待ってろ》
「え?いえ、そんな、大丈夫ですよ!直ぐ食堂行きますので!」
《間違っても動くんじゃねぇぞ?万一すれ違ったら、今日の昼飯代全部夏初につけるかんな》
「.............」
先輩の言葉にぎょっとして反論すれば、有無を言わさずそんな提案をされ、たまらずぐっと口を閉じる。
どう答えようか考える間もなく《じゃあ待ってろよ》という言葉を最後に通話を強制終了されてしまい、半ば混乱した状態のままゆるゆるとスマホを耳元から外した。
「お迎え、来るって?きっと夏初ちゃんのこと、本当に大切にしてるのね」
「.......そんな......恐れ、多い......」
穏やかに笑う先生の言葉にもごもごと返答するが、先生は柔らかに「ふふふ」と笑って、それ以外は何も言わなかった。
立嶋先輩にここで待ってるように言いつけられてしまった為、先輩が来るまでこの場で待機することとなった私は、今更ながら先生の仕事の邪魔をしているのではと心配になる。
慌てて尋ねると、先生は朗らかに笑って「全く問題ないわ」と返してくれた。
しかし、これ以上先生の時間を奪ってしまっても申し訳ない気がして、一人で待ってますということを告げると、先生も「それじゃあ、私はお暇するわね」と嫌味なく別れを告げ、手を振りながらこの場をゆっくりと後にした。
「.............」
優しい先生の背中が完全に見えなくなると、渡り廊下には休日特有の静けさが戻ってきて、いつも騒がしい校内と比べてなんだかとても不思議な感じがした。
まるで一人だけ違う空間に飛ばされてしまったような、何処と無くもの寂しい気持ちになる。
「.............」
改めて静かだなぁと感じつつ、夏の日差しが差し込む窓の外をぼんやりと見ていると、雲ひとつない青い空を丁度横切るようにひこうき雲が発生していて、何となしにそれを目で追っていた。
「.............森」
「!」
潔い程に真っ直ぐな白線に気を取られていると、まるでこの夏の青空から降ってきたような爽やかな声が、私の名前を呼んだ。
明らかに先輩の声ではないものに驚いてしまい、無意識にビクリと肩が震える。
「.......あ......赤葦、君......?」
耳が覚えてしまった声におずおずとそちらへ顔を向けると、やはり予想通りの相手......私の憧れの人である赤葦君の姿がそこにあり、想定外の展開にたまらず名前を呼んでしまうのだった。
思えば思わるる
(最初に保健室で見た時は、二人共ぎこちなかったのに......なんだか、感慨深いものがあるわねぇ......。)