AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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「.......あ?」
「え?」
音駒と梟谷の試合を見終わり、次の相手校である埼玉の森然との試合を見ている最中、隣りに居る先輩が不可解な声を上げたので思わずそちらに顔を向けた。
どうしたのかと視線で尋ねれば、先輩は梟谷のコートではなく隣りのコート、宮城の烏野と神奈川の生川との試合をおもむろに指さす。
「烏野の10番、なんか降ろされた」
「.............」
先輩の言葉に私もそちらを確認すると、烏野のコートにはあのオレンジ色の姿はなく、代わってベンチに目を向ければ直ぐに10番さんを発見できた。
「やっぱり、さっきぶつかった時にケガでもしたんでしょうか......?」
ふと思い出すのは、先程の音駒との試合で体格のいい烏野の3番さんとぶつかっていたことだ。
遠目で見た感じでもかなりの勢いでぶつかっていたようだったから、ケガをしてない方が逆に不思議である。
元々遅れてやって来たというのに、ケガまでして満足に試合に出られないなんてあまりにも気の毒過ぎる。
たまらず眉を下げてしまうと、立嶋先輩は「んー......」と何かを考えるように手すりの上で頬杖を付いた。
「.......多分、ケガとかじゃなさそう......?」
「え?そうなんですか?」
「や、わかんねぇけどな?でも、もしケガとかだったらコーチかマネが容態確認するとか、最悪めい子が呼ばれんじゃねぇかな?でも、10番普通に立って試合見てるし、周りもあんま気にしてねぇから、普通に交代させられたんじゃね?」
「.............」
先輩の話に確かにそうだなと頷く。
でも、そうすると別の疑問が頭をもたげる。
先程の音駒との試合を見て、あの強烈な速攻をできるのはあの10番さんしか居ないことがわかった。
まさに神業としか言えない圧倒的な攻撃手段を、烏野はなぜ積極的に使おうとしないのだろうか。
「.......あんまり体力がない、とか?いや、あのプレースタイルからしてそれは無さそうだよな......体力有り余ってますって感じだったし」
「.............」
「もしくは、セッター側の問題か?確かにあれは神経すり減らしそうな大技だもんなぁ......本当かどうかは知らんが、スパイカーは目ぇ瞑って打ってるっつってたし」
烏野の試合を目で追いながら、立嶋先輩は独り言のように思考を口に出してゆっくりと纏めていく。
最後に「ま、後で大地ンとこ行きゃいっか」と結論づけて、私の方へ視線を寄越した。
「夏初どーする?昼休憩になったら俺は烏野突撃するけど、ついて来るか?もし嫌なら木兎やアシ君達と一緒居てもいいぞ?」
「.............」
急にそんなことを聞かれて、たまらずぎくりと身体が固くなる。
烏野の方々は昨日の今日で会ったばかりだし、知らない人の空間には極力長居したくない。
その分梟谷の男バレの方々はいくらか顔馴染みの人も居て、烏野と比べたら幾分か気が楽だ。
だけど、近くに立嶋先輩が居ると居ないのとでは雲泥の差がある。
「.............」
どうしよう。どっちにしよう。
ぐるぐると回る思考に少しずつ焦燥感が募り、視線はあっという間に自分の足元へ滑り落ちる。
こういう時に限って、すぐそばに居る先輩は「こっちに来い」とも「そっちへ行け」とも言わない。
私の負荷が少ないと思う方を、私自身で考えさせて、決断させるのだ。
「.......わ、私......」
「ん?」
自分の足元を情けなく見つめていた矢先、眼下のコートから大きな衝撃音がして反射的にびくりと肩が震えた。
思わず先輩と目を合わせ、その後すぐに音のした方へ視線を寄越すと、どうやら木兎さんの力強いスパイクが相手のブロックにぶつかり、弾かれたボールがそのままギャラリーの手すりへ勢いよくぶつかったらしい。
「ヘイヘイヘーイ!!見てたか立嶋ァ!?」
「あー、悪ィ。見逃したからもっかい頼む」
「おおぉおおぉい!?」
強烈なスパイクをかました木兎さんは意気揚々とこちらへ顔を向けるが、素っ気ない先輩の返答にゲーン!!とショックの色を露わにしていた。
そんな木兎さんと先輩のやり取りに梟谷からどっと笑いが起こり、木葉さんと小見先輩が楽しそうに木兎さんへ声を掛けていた。
何となしに赤葦君を見ると、軽くため息を吐いた後偶然にもこちらへ顔を向け、うっかり視線が重なってしまう。
「.............」
「.............」
相変わらず感情が読みにくい赤葦君の切れ長の目に射抜かれ心臓がきゅっと縮こまるものの、眉を下げたまま赤葦君から視線を逸らさず見つめていると、赤葦君はおもむろに左手の指先で口元を拭った。
小さな動作ではあったもののやけにゆっくりとした動きだったので、何かを私に伝えようとしているのではと少し考えて、咄嗟に思い当たる。
.......左手の指先。赤葦君の、口元。
今朝、赤葦君の唇が少しだけ触れた左手の指先がじんと熱くなり、それに伝熱するかのように顔が熱くなった。
「.............っ、」
思わず赤葦君から視線を背け、手すりから何歩か後ずさる。
そんな私の奇行に直ぐに気が付いた先輩が「え、どうした?」と尋ねてくるが、それに答える余裕すらなくひたすら視線を自分の足元に向ける。
赤葦君がどういう意図で先程の行動をとったのかはわからないが、勝手に今朝の一件と結び付けてしまった自分の浅はかな思考回路が本当に恥ずかしい。
だって、もしかしたら、否、もしかしなくても、今朝の赤葦君は寝不足気味で、寝惚けた状態で、私と誰かを間違えて、そういう事をしたのかもしれないのに、むしろその確率の方がずっとずっと高いのに、こんな変に意識してしまうなんて、能天気にも程がある。
そんなことはとっくに分かってるはずなのに、顔の熱も胸の動悸も全く治まってくれず、ついにはじわりと涙の膜が張り出した。
ポンコツ人間のくせに、自意識だけは一丁前なんて、そんなの呆れてものも言えない。
「おい、夏初?」
「す、水筒......!」
「は?」
私の様子を窺う先輩に対してパッと口をついたのがそんな単語で、あまりにも急な話題転換に先輩は当然眉を寄せる。
しかし、今の私は羞恥心と自己嫌悪でいっぱいいっぱいになっていて、とにかく何か話さなければとひどく焦っていた。
「私、水筒、部室に置きっぱなしなので......!お昼休みは、それを取りに行きます......!」
「......あぁ、さっきの話の続きか。じゃあ、まずは1回部室戻って......」
「いえ、一人で行けます......!先輩は大地さんのところへ行ってください......!」
「え、本気か?だってお前、昨日はアシ君に着いてってもらってたじゃん」
「大丈夫ですっ!」
「.......あ、そぉ......?」
思わずいつもより大きい声を出してしまうと、先輩は気迫負けしたのかきょとんと目を丸くしつつも一旦言葉を切ってくれる。
「.............」
「.............」
「.......もしかして、アシ君と何かあった?」
「っ、.......いえ。何も、ないです......」
妙に鋭い先輩の質問に心も身体もぎくりとしつつ、何とか言葉を絞り出して返答すると、立嶋先輩はまた「あ、そぉ......」と軽い相槌だけを打った。
この空気が居た堪れなくて逃げるようにバレーの試合に目を向ければ、丁度リベロの小見先輩が森然のスパイクを綺麗なレシーブで拾い上げるところが見える。
「コミヤン、ナイスレシーブ!」
「あかーし寄越せ!」
猿杙先輩の声援とほぼ同時に木兎さんの催促が掛かる。
小見先輩が上げたボールはセッターである赤葦君の元へ不思議な程正確に送られ、そのボールを受け取った赤葦君は木兎さんをちらりと見た直後、片手で器用にボールを相手コートへ落とした。
途端、梟谷からは非難と賞賛の声が上がる。
「あかーしいぃぃ!!俺今行けたじゃん!!ブロック1枚だったじゃん!!」
「木兎ガン無視のツーアタックとか、アシ君絶好調かよ~!w」
得点はしたものの自分へトスが来なかったことへの不満をそのままぶつける木兎さんと、今の赤葦君のプレーに楽しそうに笑う立嶋先輩の声を聞きながら、やっぱり赤葦君は凄い人なんだと改めて実感した。
「.............」
世界が、違う。そんな言葉が自分の中にストンと落ちてきて、焦燥感や羞恥心が徐々に落ち着いていく。
赤葦君は私の理想で、憧れで、こんな人になりたいと思う素敵な人だ。
強くて、優しくて、しっかりしてて、頼りなる。
そんな赤葦君と、何も出来ない甘えたな自分が同じ世界に立つなんて、考えるだけでも烏滸がましい。
もはや、赤葦君みたいになりたいと思うことすらレベルに合っていないというのに。
「夏初」
「!」
赤葦君のプレーに魅入ったまま、少しずつ下降する思考回路を先輩が止める。
弾かれたようにそちらへ顔を向けると、立嶋先輩は何かを考えるように一つ息を吐いてから、その大きな手でぐりぐりと私の頭を撫でた。
あっという間に髪の毛が大惨事になり慌てて先輩から距離をとると、今度は可笑しそうにふきだす。
「.......水筒取ったら、食堂集合な。遅いと思ったら電話すっから、スマホ手に持っとけよ」
「.............」
「万一出なかったら迎え行く。多分、俺以外にも木兎とかアシ君とかオマケが諸々ついて来るだろうから、説教されたくなきゃ早く戻って来い」
俺は大地に要点だけ聞いて、直ぐ食堂行くからな。
そう言って、立嶋先輩はにっこりと楽しそうに笑った。
唐突な展開に目を白黒とさせながらも先輩の言葉をゆっくりと咀嚼し、理解が追い付いた時点で「......わかりました......」とおずおずと返答すると、先輩はまた明るい笑顔を見せてくれるのだった。
▷▶︎▷
そのまま暫くギャラリーから何試合か見て、キリのいいところでお昼休憩に差し掛かった。
先輩とは「じゃあ、また後で」と一旦別れ、私は一人で部室へと向かう。
ギャラリーからの階段を降りて、知らない人ばかりのアリーナを小走りで通り過ぎ、緊張する心身を携えたまま体育館の出入口へ何とか辿り着いた。
靴を履き替え、校舎に入ってしまえば後は部室を目指すだけである。
大丈夫、大丈夫と自己暗示のように心の中で唱えながら靴を履き替え、体育館からお暇しようとした、瞬間。
「あッ、待って待って!確か、昨日黒尾さんがナンパしてた人っスよね!?」
「ひぃッ!?」
突然背中から掛けられた言葉に何事かと思っていると、振り返る前に後ろから右腕を取られてたまらず引き攣った悲鳴がもれた。
突如襲ってきた非常事態に訳も分からず固まってしまうと、私の腕を掴んだ相手......見上げるほど背の高い銀髪の男子は、私と対峙するなりその綺麗なエメラルドをきらりと光らせる。
「あ、俺、音駒の一年の灰羽リエーフです!日本語しか喋れないんで安心してください!」
「.............」
明るい声と眩しい笑顔で自己紹介をする彼を見て、顔を青ざめつつも「あ、この人知ってる」と一部の通常な思考回路が既視感を告げた。
昨日、綺麗にボールを空振りしてた人。そして今日、対烏野の試合でたくさん得点していた人だ。
しかし、それは私が一方的に見ていただけであって、この人との接点は全く無かったはずである。
それなのに一体どうして今腕を掴まれ、声を掛けられているのだろうと考えれば考える程、私の心身は急速にフリーズしていった。
「で、黒尾さんと昨日、食堂で話してたでしょ?ほら、自販機の前で!」
「.............」
私の様子を他所に、綺麗な容姿をした彼はとても楽しそうに話を続ける。
黒尾さんは音駒の主将さんで、昨日のお昼休憩の時にお話ししたことは確かに覚えているが、人見知り故の驚きと緊張、恐怖が先に来てしまい言葉を返すことが全く出来なかった。
「.......リエーフ、何してるの」
「!」
彼と会話をすることも、逃げることも出来ずにただ固まっていると、今度も知らない声が聞こえて心が更にベコッとヘコむ。
もう勘弁してくれと泣き出したい気持ちと必死に戦っていれば、私の腕を掴んでいた彼はパッとその手を離し、己の名前を呼んだその人へ綺麗な顔を向けた。
「研磨さん!この人、昨日黒尾さんがナンパしてた人ですよ!」
「.......え、クロが?」
彼一人の勘違いがあっという間にもう一人の音駒の方...サラサラとした金髪のセッターさんへ伝わってしまい、金色の彼はわずかに瞳を丸くさせる。
ここは声を大にして否定の言葉を述べるべきところではあるが、見知らぬ男子二人を前にした状況で、私の声は完全に喉に張り付いてしまっていた。
「.......あぁ......」
どうしよう、どうしようと自分の足元を見つめながら顔を青くしていると、何かを思い当たったのか、金色の彼は小さく声をもらした。
「.......多分、それ違うから......怒られる前に、離した方がいいよ......」
「え?どういうことっすか?」
音駒のセッターさんから告げられた言葉に銀色の彼がきょとんと目を丸くすると、その金色は少しだけ可笑しそうに笑った。
「.......猛禽類が怖いって話。......俺はちゃんと忠告したからね......」
そんな不可解な発言を残して、金髪の男子はまるで猫のようにするりとこの場を後にした。
彼の意図は汲めなかったものの、何となく不安を感じ取ったのだろう。「ちょ、待ってください研磨さん!意味わかんないから!」と金色の後に続くようにして背の高い銀色の彼も私の傍から離れて行き、二人の背中が体育館へ消えてから、へなへなと尻餅をつくのだった。
たまに出る子は風に遭う
(くわばら、くわばら。)