AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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烏野対音駒の試合をそのまま下から見させてもらい、立嶋先輩と木葉さん、小見先輩の話を聞きながらポンポンと行ったり来たりするボールを目で追う。
展開の早いバレーボールの試合を見逃さないようにと必死に見ていく内に先程の沈んだ気持ちは徐々に薄れていき、試合が終わる頃にはすっかりバレーボールのことで頭がいっぱいになっていた。
その中で少し気掛かりなのが、先程の試合中に烏野の10番さんと背の高い3番さんがスパイクを打つ際に衝突事故を起こしていたことだ。
二人の体格差は如実に現れ、一年生の10番さんが勢いよく弾き飛ばされた。
バラエティ番組なんかでよく見る衝撃映像に近いその光景に驚き、思わずビクリと身体を震わせ無意識に先輩のTシャツの裾を掴んでしまうと、先輩達も驚いた声を上げて烏野の10番さんの安否を確認しようとした。
しかし、床に転がった10番さんは直ぐに身体を起こし、3番さんに向かって大きな声で謝罪をし始めたのでたまらずほっと息を吐く。
その後、念の為にタイムアウトを烏野が取り、そのまま試合を続行していたところを見ると本当に怪我も無かったのだろう。
だけど、残念ながらこの試合は音駒が勝者となって幕を下ろした。
昨日見た背の高い銀髪の選手がブロックもスパイクも大活躍していて、烏野の一年生二人の凄い速攻すら止めてしまうその猛威に烏野は今一歩及ばずという感じだと、興味深そうに先輩達が話していた。
「いやぁ、面白かった!お前ら次どこと?烏野?」
「あ〜、どこだっけ?森然?」
「や、確か音駒だった気がする。そういやあの銀髪ハーフ君、おっそろしいことにまだ一年ボーズで、しかもバレー初めてまだ半年満たないくらいらしい」
「は?マジで?なんだなんだ今年の一年!スーパールーキーばっかじゃん!よかったなぁ、木葉も小見も梟谷で!」
「.......それは、俺らが音駒とか烏野だったらスタメン落ちしてたってことか?」
「だってほら、お前ら二人とも180ないじゃん?」
「......あ゛ァ?ふざけた事抜かしやがって......つーかお前も180ねぇだろうが!」
「は?俺は園芸部だから別にいいんですぅ」
「俺はリベロだからいいんですぅ」
「小見ヤンお前どっちの味方だ!?」
音駒の銀髪の選手が一年生ということに驚いたのも束の間、立嶋先輩の余計な一言で木葉さんを怒らせてしまい再び二人の口喧嘩が幕を開ける。
傍にいる小見先輩は二人の言い合いを止めるつもりもないようで、可笑しそうにニヤニヤと笑いながら付かず離れずの距離で先輩達を煽っていた。
「.............」
わあわあと盛り上がる先輩方に眉を下げながら、とりあえず巻き込まれないように何歩か後退る。
他校の人が何事かとチラチラとこちらを見ているのが酷く心地悪く、いっそのこと御手洗にでも逃げてしまおうかと考えていれば、「園芸部じゃん!おはよー!!」と一際明るい声がこの場に響いた。
「何やってんの?俺も混ぜ......あ、夏初ちゃん二つ結び可愛いね!似合う!昨日のも可愛かったけど!」
「.............」
「何なの?お前イタリア人なの?女性を見たらまず口説きなさいとか教育されてんの?」
軽やかな足取りでこちらに来たのはモノトーンの髪と明るい笑顔が眩しい木兎さんで、目が合った早々に髪型を褒められて思わずぽかんと固まってしまう。
反応の鈍い私に代わり、隣に居る先輩は眉を寄せてそんな冗談を返したが、木兎さんはその金色の目を丸くして「え?俺イタリア行ったことないけど?」と首を傾げるだけだった。
「ウソだろ、コイツ天然かよ......」
「ちがう、木兎の場合は天然人タラシだから。老若男女平等」
「うわァ、一番タチ悪ィ......」
「なんでいきなり悪口言うの!?俺なんかした!?」
木兎さんの返答に先輩は更に顔を顰めると、小見先輩が面白そうに情報の補填をし、ついに物理的に距離をとった立嶋先輩に木兎さんは眉を下げて抗議する。
そのまま少しだけわいわい言い合いをしていた木兎さんだったが、フン!と一度鼻を鳴らした後、切り替えるように立嶋先輩へ真っ直ぐ指を差した。
「とりあえず、次俺ら試合だから!今日こそ俺を応援しろよ立嶋ァ!」
「うわァ、根に持ってやがる......」
「んで、夏初ちゃんは今日もいっぱい応援してな!」
「.............」
ビシッと先輩に喝を入れてから、木兎さんは私へ視線を移しずずいと顔を近付けてにっこりと笑う。
その勢いに気圧されて少しだけ後退りながらも何とか控えめに頷くと、木葉さんが気を遣ってくれた。
「オイ木兎、パーソナルスペースは守れって......」
「おわッ!?」
「木兎さん、近いです」
「.............」
木葉さんが声を挟んでくれたのとほぼ同時に、随分と近くにあった木兎さんの顔があっという間に離れていく。
そのことに少しほっとしながら、聞き馴染んだ新しい声にそろりと視線を向けると、先程姿を拝見していた赤葦君が木兎さんのTシャツの項側を離すところが見えた。
「あかーし!今一瞬首締まったぞ!」
「それはどうもすみませんでした」
「棒読み!!」
「アシ君審判お疲れ~。イケメンが更に格好良かったぞ、なぁ夏初」
「え?あ、はい......とても......」
「.............」
少々荒っぽい赤葦君の行動に木兎さんは非難の声を上げたが、立嶋先輩はそれを無視して赤葦君を労った後、流れるように私へ声を掛ける。
突然話を振られたおかげでつい咄嗟に頷いてしまったが、もう少しまともな受け答えは出来ないのかと一気に後悔の波に襲われた。
気の利いた言葉ひとつ返せない自分をやるせなく感じながら、おずおずと赤葦君の方へ顔を向けると、視線が一瞬重なって直ぐに離れる。
「.......それは、恐れ入ります」
「あ、あかーし耳赤い!照れてる!?」
「木兎さんは黙っててください」
「.............」
赤葦君の返答に木兎さんがからかう様な言葉を掛けたが、真顔の赤葦君にピシャリと言い切られてしまい、おとなしく口を閉じたようだった。
「お前ら上行くの?それともここで見てく感じか?」
「あ~......次は上で見るわ。また誰かさんが顔面レシーブしたら困るしなぁ」
「せ、先輩......!その話はやめてください......!」
小見先輩の言葉に立嶋先輩はとんでもないことをあっけらかんと返し、思わず先輩のTシャツの裾を再び引っ張ってしまう。
恥ずかしいのと気まずいのとでおたおたと慌てふためく私を見てか、小見先輩は小さく笑いながら「まぁ、確かに上なら安全だよな」と会話を繋げてくれた。
「たまに木兎のスパイク飛ぶけどなぁ。ブロックアウトの二次災害」
「そん時は俺がギャラリーからスーパーレシーブ返してやんよ」
「言ったな?木兎、お前絶対ブロックアウトで立嶋の方にボール飛ばせよ」
「木葉さん、無茶言わないでくださいよ。木兎さんもイメトレするのやめてください。試合前に余計なこと考えないでください」
立嶋先輩の一言に木葉さんが悪ノリし、木兎さんが真剣な顔でスパイクの素振りをし始めたところで赤葦君が口を挟んだ。
もしかしたら、私よりひとつ上の学年は自由気ままな性格の人が多いのかもしれない。
「でも、大抵そういう事言ってる奴がまっさきに避けちゃうんだよなぁ」
「えぇ......夏初ちゃん庇わないとか、立嶋サイテー......」
「ヨシきた、木兎お前ちゃんとこっちボール飛ばせよ?全集中した俺を見せてやる」
「全集中wえ、ちなみに何の呼吸?w」
「園芸の呼吸」
「園芸wじゃあ草柱かw」
「草柱wマジで草しか生えねぇなw」
「オイ夏初、次は全力で音駒応援するぞ。拒否権は無ぇ、先輩命令だ」
「.............」
途端にどっと笑いだした男バレの方々に目を丸くしていれば、あからさまにへそを曲げた先輩は吐き捨てるようにそう言うと体育館の二階部分、ギャラリーへと続く階段へさっさと向かってしまう。
急な展開についていけず、けれども先輩と離れる訳にはいかないので、男バレの方々に「すみません、失礼します......」と軽く頭を下げてから慌てて先輩の背中を追った。
「試合だ試合~!ヘイヘイヘーイ!!」
「.......アイツずりぃよな......何も言わなくても夏初ちゃんが追いかけてくれるとか、くそ羨ましい」
「つーか先ず、夏初ちゃんが健気で可愛いよなぁ......今時ああいうタイプ珍しくね?なんかあれ、控えめな感じがこう、つい構ってあげたくなるっつーか」
「それな。本当、立嶋には勿体ねぇくらいのいい子だよなぁ」
「.............」
「......頑張れよ赤葦、お前ならできる!」
「立嶋よりも赤葦の方がずっとモテるからな!自信持ってけ~!」
「.......次の試合の俺のサーブ、後頭部に気をつけてくださいね」
「すんませんでした!!!」
そんな会話を主に木葉さんと小見さん、赤葦君がしていたようだが、立嶋先輩の後を小走りで追いかけていた私の耳にはどれもこれも全く入ってこなかった。
▷▶︎▷
先輩の後を追いながらギャラリーへ到着し、試合が始まると立嶋先輩は本当に音駒の応援しかしなかった。
その事に木兎さんや木葉さんは不服を申し立てていたが、意思の固い先輩のことである。おそらくこの試合中に梟谷の選手を応援することはないだろうと思い、ひっそりと溜息を吐きながら音駒対梟谷の試合を上から眺めた。
先輩の件を抜きにすれば、梟谷のバレーボールはやはりとても面白くて、見れば見るほどその魅力にどんどんハマっていく気がした。まるで底無し沼のようだ。
「レフトレフト!!」
「ブロック3枚!!」
ここで赤葦君のトスが上がり、木兎さんが力強いスパイクが炸裂する。
先程の烏野一年生の凄い速攻を仕留めていたあの音駒の銀髪の一年生がブロックを試みたが、木兎さんの強靭なスパイクの威力や巧みにコースを打ち分ける技術には力が及ばなかったらしく、ボールは勢いを保ったまま音駒のコートへ叩き付けられた。
「あッ......」
その直後、バウンドしたボールの先には誰かが歩いていて、咄嗟に腕で防いだもののバシンと痛そうな音がこちらまで聞こえた。
よく見ると、烏野の選手のようだ。短い金髪に黒縁メガネを掛け、すらりと背が高いその人は、ボールがぶつかった腕を擦りながらちらりと梟谷の方へ視線を寄越す。
過去に私も木兎さんの打ったボールに当たってしまったことがある為、大丈夫かなと少し心配していれば、その人はメガネを掛け直すだけで特に何も言わずにさっさとこの場を後にしてしまった。
運動能力が低い私とは違い、反射神経の良い彼は腕でちゃんとガードしていたので、体格差を抜きにしても大した怪我にならずにすんだのだろう。
たまらず安堵した反面、木兎さんの打ったボールをあの時の私がちゃんとガード出来ていれば、男バレの方々に何も迷惑を掛けなかったのだなということが分かり、また少し自分にがっかりしてしまうのだった。
雨後の筍
(なんだか今日は、色んなことがいっぱい起きてる気がする......)