AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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「おい、そのマスクはなんだ?風邪か?」
放課後、部活に来た私の顔を見て園芸部の先輩は開口一番そんなことを聞いてきた。
「昨日休んだのはそれが原因だな?なんだよ、無断欠勤のバツとして背中にバッタ入れてやろうと思ったのに」
「やめてください、バッタが可哀想です」
「え、そっち?」
学校指定のジャージ姿で用具倉庫から必要な道具を用意していた先輩は、棒付きの飴を口にくわえながら私の顔をまじまじと見る。
先輩の視線に耐えきれず、私は早々と頭を下げて謝罪に入った。
「......昨日はお休みしてすみませんでした......風邪とかではないので、今日はしっかり働きます」
「あー、あれだろ?バレー部の木兎のスパイクぶち当たったんだって?それくらい避けろよなぁ、顔見せて」
「え、なんで知ってるんですか?」
「めい子に聞いた、顔見せて」
先輩が私の顔のアザの詳細を知っていたことに驚くも、その理由を知ってすぐに納得する。
めい子さんというのは昨日お世話になった保健の先生のことで、破天荒な先輩と穏やかな先生は見た目に反してよく話す仲だ。
「だったらさっきの質問は何だったんですか......」
「オイ、スルーすんなよ傷付くだろ。マスク外せっつってんだよ」
「嫌だからスルーしてたんです。先輩絶対笑うじゃないですか」
「笑わない笑わない。だから早く見せて」
顔のアザを見たがる先輩のしつこさにげんなりしながら、私は嫌々ながら口元のマスクを外す。
その数秒後、先輩は大きくふき出した。
「だっはっはっ!すげぇ青タン!ボクサーみてぇだな!」
「.............」
「普段おっとなしい夏初チャンだから余計面白ぇわ!俺だったらこんなにウケねーよ!」
「.............」
先程の「笑わない」という言葉は一体何だったのか。
はなから信じてなかったけど、実際しっかり笑われるとこれが大変腹が立つ。
文字通り笑い転げる先輩に不服の目を無言で向けていると、先輩はようやく笑いがおさまってきたのか満足そうなため息を吐いた。
「......は~、笑った笑った。んじゃ、ぼちぼち始めっか~。軍手持ったか?」
「.............」
「軍手!持ちましたか!?」
「......持ちました」
「よし、じゃあ出発!」
私との口約を破り笑うだけ笑ってすっきりしている先輩を恨みがましく思うも、この人には何を言っても無駄なことを今までの付き合いで充分身に染みてわかっている為、結局私もため息を吐くだけで何も言わずにマスクをつけ直すのだった。
▷▶︎▷
本日の活動場所はグラウンドと校舎の間にある長方形の花壇だ。
校舎に沿って2辺が長く伸びる花壇には縦横無尽に雑草君達が居候していた。
のびのびと育っている雑草君達にはたいへん恐縮ですが、本日を持ってご退居して頂きます。
「そういやさ、木兎からは何も無かったの?謝罪会見とか」
「......お昼休みに、謝って頂きました。それよりも先輩、木兎さんと仲良いんですか?」
蔓延る雑草君達を根こそぎ引っこ抜きながら、なるべく不自然にならないように論点を逸らした。
三年生の木兎さんが二年の教室に来た挙げ句大きな声で私の名前を呼び、唐突に謝罪をしてきたのだから注目されない筈がない。
木兎さんと赤葦君が教室を出ていってからは友達含めクラス中からなんだなんだとひっきりなしに声を掛けられた。
マスクをつけていたおかげで何とかバレなかったものの、かなりしんどい顔をしていたと思う。実際本当にしんどかった。
あまり思い出したくないことなので先輩の話に繋げようとすると、先輩は手を動かしながら少し首を傾げる。
「んー、会ったらちょっと喋る程度?でもアイツの場合大抵の奴がそれだろ?コミュ力、カンストしてっから」
「......あー......」
「え、なに?夏初、木兎と何かあったの?報復とかするんだったら俺も参加させて」
「そんなことしませんよ......ただ、少し困ったことになりまして......」
私の顔にボールを当てたことを気にしている木兎さんが何かお詫びをすると言って聞かないことを話すと、先輩はまた楽しそうな笑みを浮かべた。
「何だそれ、超いいじゃん。あの木兎へのオネダリ券とか欲しい女子いっぱい居るぞ~?」
「......だったら差し上げます。私は要りません」
「まあまあ、そう怒んなって。転売はご法度だしな。つーかそこまでお固く考えなくていいんじゃねぇの?昼飯奢ってもらうとか、課題やってもらうとか。あ、折角だしデートしてください♡とか言ってみれば?あいつイケメンじゃん、喋るとアレだけど」
「.............」
「あらら、夏初チャンのタイプじゃない感じ?」
「......そういうことじゃなくてですね、お詫びその物が要らないって話をしてるんです」
ぶちりと雑草君を引っこ抜きながら、相談相手を間違えたなと早々に後悔する。
でも、先に友達に相談したら「なんて贅沢な!」と怒られ全然助言を貰えなかった。
先輩なら何か別の意見をくれるかと思って悩みを打ち明けてみたのだが、「は~、勿体ねぇの」と友達と同じような反応をされ小さくため息が出る。
「......別に、木兎さんも悪気があってぶつけた訳じゃないし、そもそも部活の邪魔をしたのは私なんです。だから逆に私がお詫びをするべきだと思うし、木兎さんは全然気にしなくていいんじゃないかと思うんですが」
「いや、それもどうかと思うけどな?」
「どうしてですか?」
自分の考えを速攻で否定され、たまらず不満の目を先輩に向けた。
私の視線を受け、先輩は少し手を止めてどっこいしょとしゃがみ方を変える。
「仮に事故って誰かを怪我させちまったとして。だけどその相手が赤信号無視したからってのがそもそもの原因でも、事故起こした方が全く気にしないっていうのは無理があんだろ。俺だったらめちゃめちゃ気が引けるね、まだ無事故無違反だけど」
「.............」
「お前が木兎の詫びを突っ撥ねることで、また別の問題が生まれることも無きにしも非ずだぞ?」
「.............」
先程のふざけた発言は何処へやら、案外真面目に取り合ってくれた先輩に若干驚きながらも、言われた言葉に悔しくも納得してしまう。
だけど、殆ど顔と名前しか知らない木兎さんに一体何をして貰えばいいというのか。
「......どうすればいいんだろう......」
「マジかよ、途方に暮れるなよ、プレミア付きのすげーモン持ってるくせに」
思考がそのまま口に出てしまい、先輩からは引っこ抜かれた雑草君を投げられた。
それをごみ袋に入れながら、二度目のため息を吐く。
「......木兎さんから何も引かずに貰えるお詫びって何があるでしょうか......」
「......お詫びのチュー♡とか?」
「.............」
「ウソウソちょっと待って、真面目に考えるからそんな目で見ないで」
白けた視線を向けると、先輩はすぐに根を上げてわざとらしく草むしりに勤しみ始めた。
「あ、じゃあさ、何か教えて貰うとかどうだ?」
「......どういうことですか?」
「例えば、うまいラーメン屋とか笑える漫画とか。これなら別に木兎のマイナスにならないだろ?」
「なるほど......!」
確かにそれなら木兎さんからは何も引かないし、お互い損得無くこの件を終わりにすることが出来そうだ。
「......あ、でも、美味しいお店とかだと意図せず連れてかれる可能性があるから無しですね......漫画は貸し借りがあるからこれも無し......慎重に厳選しないとですね......」
「お前どんだけ木兎とこれっきりにしたいの?山○百恵ですか?」
「人見知りなめないでください」
「は~、なんか、面倒くせぇな」
「面倒くさくない人見知りなんて居ませんよ」
「おー、正論だわ」
感心してるんだか呆れてるんだかよく分からない先輩の相槌をスルーしながら、木兎さんに何を教えて貰うかの検討と雑草君達の駆除を同時進行するのだった。
傍目八目
(園芸部による対男バレ主将会議)