AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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烏野と梟谷の試合が始まり、先輩と一緒に観戦させてもらう。
先輩の従兄弟である大地さんと先程少し話した菅原さん、坊主頭のあの人に色素の薄い髪で背が高い眼鏡の人、男の人にしては長めな髪を結んでる体格のいい人、さらさらとした黒髪の温和そうな雰囲気を持つ人が烏野のスタメンみたいだ。
あ、小柄で髪の毛を立てたリベロの人もそうだった。
立嶋先輩は試合を見ながら烏野のリベロのことをとても褒めていたので、おそらく凄くレシーブが上手い人なんだろうと思う。
まだあんまりバレーボールを知らない私から見たら全員とても凄いと思うので、その違いが全然分からないのが少し残念だ。
「うちってやっぱ超強いのな~。烏野が弱い訳じゃねぇけど......なんだろう、うちと比べたらこう、火力がちょい足りない感じ?」
「.............」
落下防止の手すりに頬杖をつき、試合を見ながら先輩が口を開く。
確かに先輩の言う通り、烏野と梟谷の点差は徐々に離れていき、30分程見ているともうすぐで梟谷が1セット目を先取しそうだ。
「リベロも大地もレシーブ上手いし、ボーズ君もロン毛の兄ちゃんもパワー十分だと思うし、眼鏡君も黒髪君もスガ君も綺麗な動きするけど......アレかな、うちとは変に相性がいいんだろうな。音駒ン時も思ったけど」
「......相性......?」
「烏野って多分、攻撃特化のパワー型なんじゃねぇかな。スパイカーが力でガンガン行く感じ。で、対するうちも攻撃重視の編成だろ?だから、そのタイプの攻撃にはどっちも“慣れてる”訳よ。自分がされて嫌なことってのが相手もそのまま嫌な訳だから、ある程度コースが分かれば守備もしやすいだろ?」
「.......確かに......」
先輩の話になるほどと思う。
要はお互いの手の内が見えやすいということだろう。
そしてそれが“相性”というものなのかもしれない。
「で、多分うちの方が烏野よりそれが上手いんじゃねぇかな......すなわち、梟谷のが性格が悪い」
「.......先輩、その言い方はちょっと......」
真顔できっぱり言い切る先輩に思わず眉を下げれば、先輩は可笑しそうに笑った。
「ま、今の烏野は欠員が居るみたいだから、フルで揃ったらまた変わるかもだけどな~」
「......確か、一年生って言ってましたね......」
「ポジションどこなんだろうな?ウィングスパイカーは多分大地とボーズ君とロン毛の兄ちゃんだと思うし......ミドルブロッカーか?セッターは多分スガ君だよなぁ......」
「.............?」
次々出てくるポジションの名前に首を傾げるも、立嶋先輩は自分の世界に入ってしまったようで烏野の選手達を見ながら静かになってしまった。
気になるところではあるが先輩の考え事の邪魔もしたくないので、私も黙って試合を見ていると、ここで鷲尾先輩の強烈なスパイクが烏野のコートへ決まり、1セット目は梟谷が先取した。
「ナイスキー鷲尾!」
「あ~~!!最後は俺が決めたかったのに!!」
木葉さんの明るい掛け声と木兎さんの悔しがる声を聞きながら、梟谷と烏野のコートを交互に見る。
髪の長い人と眼鏡の人の二人が烏野の高さだとして、梟谷の方は木兎さん、鷲尾先輩、猿杙先輩、赤葦君、一年生の尾長君がとても背が高いように思う。
バレーボールは高さというのも強さの一つだろうから、もしかしたらこれから来る凄い一年生というのは凄く背が高いのかなとぼんやりと考えた。
「あ~、烏野の一年、まだ来ねぇのかな~」
「......宮城から来るんですし、時間掛かるのは仕方ないんじゃないですか?」
「そうなんだけどさぁ......木兎しょぼくれさしてくんねぇかな~」
「.............」
ハーフタイムの両選手陣を見ながら鼻歌でも歌うような口振りで零した先輩の言葉に、またそういうことを......と呆れた目を向けていれば、先輩は子供みたいに楽しそうに笑った。
「.......音駒と梟谷は、相性悪いんですか?」
ご機嫌な先輩を見ながら、そういえばさっきの言葉でそんなことを言ってたなと思い出して口にすると、先輩は「んー」と考えるように一度目を閉じた。
「あくまで俺個人の見解だけど。音駒とうちはある意味相性が抜群に悪いと思う。お互いにな」
「.............」
「いわば最強の盾と最強の矛をぶつかり合わせる感じ?烏野とは矛対矛だから、うちにとってはやり易い相手だと思うけど......音駒は兎に角レシーブに特化してるチームだから、うちも烏野もかなりやりづれぇ相手なんじゃねぇかな。攻撃が調子乗りにくいだろうし」
「......じゃあ、一番強いのは音駒ですか......?」
先輩の見解を聞きながら思ったことを聞いてみると、先輩はニヤリと口角を上げて私に視線を寄越す。
「......それが、やってみないとわかんないもんなのよ。勝負は水物だからな」
そういうとこ、本当に面白いよなぁ。
そう言って楽しそうに笑う先輩を隣に見ながら、改めてアリーナの方へ顔を向けると丁度ハーフタイムが終わるところだった。
ホイッスルが鳴ると、両チームの選手達がゆっくりとした足取りでコートに入っていく。
そんな中、ふと目に止まったのはコートの中で軽やかに何度かジャンプする梟谷のエース、木兎さんだ。
「ヘイヘイヘーイ!2セット目もうちが勝つぜ~!目指せノーペナルティ!!」
両手を突き上げながら元気いっぱいに宣戦布告する木兎さんの隣りで、木葉さんが「少しは落ち着け?」と眉を下げて笑った。
二人の様子がなんだか微笑ましくてつい小さく笑ってしまうと、隣りに居る先輩がゆっくりと片手を口元に当てた。
「烏野頑張れ~!!あのうるせーの黙らしてやれ!!」
「!?」
「立嶋コラァ!!俺を応援しろよ!?」
先輩の野次なんだか応援なんだかの言葉に烏野の方々は一様に目を丸くし、梟谷の木兎さんは真っ先に不服を申し立てた。
そんな木兎さんに先輩は目もくれず、楽しそうに笑いながら「大地しっかりな~!」と従兄弟の大地さんに声援を送る。
先輩の態度に余計腹を立てる木兎さんにヒヤヒヤしながら、もしかして木兎さんの機嫌を損ねる為にわざとやってるのではと思い始めた矢先、「もういい!!」という少し怒った声が下から聞こえる。
「夏初ちゃん!!応援して!!」
「!」
突然大きな声で名前を呼ばれ、ビクリと肩が跳ねる。
両手で手すりを掴んだままおずおずと木兎さんの方を見ると、「さぁ、どうぞ!」とでも言うような期待に満ちた金色の瞳と重なった。
「.............」
咄嗟に眉を下げてどうしよう、と思ってしまえば、それ察してくれたのか木葉さんが「夏初ちゃん困ってんだろヤメロ」と木兎さんのお尻を軽く蹴飛ばす。
途端に言い争いが始まり一気に騒がしくなる梟谷のコートを見ながらおたおたと狼狽えていると、赤葦君が二人の間に入った。どうやら仲裁役をしているようだ。
その様子を見て申し訳ないと思うと同時に、先程のお昼休憩の時間に「いっぱい応援する」と彼に告げたことを思い出した。
「.............」
木兎さんも、応援してと言ってくれた。
このまま口を閉じて流れに任せてしまいたい気持ちもあるけれど、いつまでもそうしていたら自分なんて絶対に変えられない。
三年生同士の言い合いでもちゃんと間に入る、しっかり者の赤葦君みたいになんて絶対なれない。
「.............が、頑張ってください......!」
「!!」
目を瞑り、深呼吸を2回してから大きめの声を出す。
少し上擦ってしまったものの木兎さん達にちゃんと届いたらしく、木兎さんと木葉さん、そして二人の間に入っていた赤葦君がパッとこちらに顔を向けた。
集まった視線に耐えきれず早々に俯いてしまうと、少しして「おう!!」と元気な声が下から聞こえる。
「ありがとー!!頑張るー!!」
「.............」
私と視線を重ねた木兎さんは、嬉しそうな笑顔を浮かべてこちらにブンブンと手を振る。
その様が一瞬大きなわんちゃんがしっぽをブンブン振っているように見えてしまい、いけないと思いつつ何とも可愛らしく思えて思わず笑いが零れた。
本当に、木兎さんは話していて楽しくなる人だ。
きっとこういう人のことを天賦の才というんだろうなと思いながら、男バレの人達と楽しそうにはしゃぐ木兎さんを第2セットが始まるまでずっと眺めていた。
▷▶︎▷
梟谷対宮城の烏野の試合は第2セットも見事に梟谷が勝利し、勝ち星を増やす結果に終わった。
相変わらず木兎さんのスパイクは、見ていて気持ちがいい程鮮やかで迫力があった。
赤葦君との連携も変わりなくスムーズで、二人の信頼関係は本当に憧れる。
それと、梟谷のバレーボールは本当に楽しそうだなと改めて感じた。
単純にバレー部の仲が良いこともあるんだろうけど、一つ一つのプレーがのびのびとしているというか、それぞれがバレーボールを心の底から楽しんでいる感じがして、見ていてとても心地が良い。
勿論、たまにミスをして言い合う時もあるが、その様子は互いを叱咤激励し合っているようにも見える。
もしかしたら、信頼し合えるということも強さの一つなのかもしれない。
「夏初、時間大丈夫か?今日バイト何時からだっけ?」
隣りにいる先輩から寄越された言葉にドキリとしながら腕時計を確認すれば、後10分程で学校を出る予定の17時になるところだった。
もう少し見たい気持ちはあるが丁度キリもいいし、ここでお暇させてもらおうと先輩にその旨を告げると、「じゃあ俺も帰るわ」とあっさり撤退宣言を出されてしまう。
「え......見て行かなくていいんですか?多分まだ試合ありますよ?」
「いいだろ別に、明日も見るんだし」
先に一人で帰るつもりだったので思わず目を丸くすれば、立嶋先輩はあっけらかんとした様子でさくさくと帰宅準備を整えた。
「明日はどうせなら他の2校との試合見たいな。あ、でもフルメンバーの烏野も気になるよな......明日は少し多めにこっち来るか。最悪剪定の方は明後日以降も継続にしてさ。それでもいいか?」
リュックを肩に掛けながら階段に向かう先輩の後に続き、寄越された質問に軽く頷く。
私も梟谷のバレーボールをもっと見たいと思ったので、そうして頂けるととても嬉しい。
私の返答に「じゃあ決まりな~」とゆるい調子で決定を下した後、「ついでにトイレ行っていい?」とこちらを見ずに聞かれ、私も一応行っておこうとこちらも二つ返事で了承するのだった。
▷▶︎▷
体育館の出入り口を待ち合わせ場所にしたが、先に来たのは私の方で少し気落ちしつつ邪魔にならない所で立嶋先輩を待つことにした。
手持ち無沙汰にスマホを取り出し適当に弄っていると、「森」と聞き馴染んだ声で名前を呼ばれ、直ぐに顔を向けた。
「......赤葦君......お疲れ様です」
私に声を掛けてきたのは予想通りの相手であり、労いの言葉をかけると赤葦君は「ありがとう」と小さく笑った。
「今日はもう帰るの?立嶋さんも一緒?」
「うん......ごめんなさい、これからバイトがあって......」
「いやいや、それは全然構わないんだけど......むしろ、バイトがあるのに試合見に来させてごめん」
「え、そんなことないです......!好きで来てるし、とても楽しかったので......!」
「.............」
「あと、先輩は今、お手洗いに行ってまし、て......」
赤葦君の優しい気遣いに慌てて首を横に振りながら返答していると、赤葦君の後ろから特徴的なモノトーンの髪が見えた。
直ぐに木兎さんだとわかったが、何やらにこにこと楽しそうに笑いながら音を立てずにこちらへ向かっているので、たまらずきょとんと目を丸くすると木兎さんは人差し指を自分の口元に当てた。
赤葦君の背後からこちらに近付いているので、どうやら赤葦君には内緒にしてくれということらしい。
「.............」
「.......森?どうしたの?」
木兎さんの行動が気になってしまい、たまらず変なところで話を切ってしまうと、赤葦君は当然不思議に思い私の様子を窺ってくる。
その一瞬の隙を見逃さず、木兎さんは素早い動きで間合いを詰めた後......あろうことか、背の高い赤葦君をひょいと持ち上げた。
「ッ!!??」
「ヘイヘイヘーイ!!見たか立嶋ー!?ほら、ラクショーだろ!?」
「だっはっは!!wマジで持ち上げやがった!!すげーな木兎!!超ゴリラじゃん!!w」
「.............」
突然持ち上げられた赤葦君はとても驚いた顔を見せたものの、大きく騒ぐことはしなかった。
反対に、持ち上げた方の木兎さんと先輩が楽しそうにはしゃいでいる。
どうやら、お昼休憩の最初の方に話していた体重の件を再び話しているようだ。
「よいせー!っと!あかーし、びっくりした!?」
「.............」
先輩に見せ付けてから直ぐに赤葦君を下ろし、木兎さんはイタズラが成功した子供のようなきらきらとした笑顔を赤葦君に向ける。
「..............木兎さん......」
そんな木兎さんとは対照的に、いつか見た絶対零度の表情を通り越し、もはや無感情に近い顔色をした赤葦君が静かに口を開いた。
「.......今日はもう、木兎さんにトス上げません。」
「ッ!!??」
赤葦君の静かな宣言に、木兎さんの声にならない悲鳴と先輩の可笑しそうな笑い声が同時に聞こえる。
その後血相を変えて赤葦君に謝る木兎さんだったが、本当にあの後木兎さんにトスをあげなかったのかは、途中で帰ってしまった私にはわからないことだった。
心の駒に手網許すな
(木兎さん......本当に、力持ちなんだな......)