AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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試合終了のホイッスルが鳴り響く。
先程の赤葦君のサーブから梟谷、音駒と点をとってとられての繰り返しだったが、元々の点差によって最終的に梟谷が先に25点目を刻み、勝利を掴んだ。
「ヘイヘイヘーイ!ペナルティいってらっしゃーい!」
楽しそうな様子の木兎さんの言葉に、音駒の黒尾さんは「言われなくても行くっての!」と不機嫌そうに返した。
ペナルティという言葉にドキリとしながら、音駒の人達は一体何をやらされるんだろうと眉を下げて見つめていると、主将の黒尾さんを筆頭に音駒の人達は体育館の端っこで床に飛び込むような動きをやり始めた。
飛び込んでは起き上がり、また飛び込む。その動きで少しずつ前へ進み、どうやら体育館の端っこをぐるりと一周するようだ。
試合の後だと余計にキツい動きだろうにと内心恐怖を感じていると、「フライングで一周か......ハードだな......」と隣りに居る先輩も私と同じような感想を口にした。
それでも、音駒の人達は他のチームの邪魔にならないようにさくさくとペナルティを進めていく。本当に凄い体力だ。
「あ!園芸部来てたのか!今の見てたー!?」
「!」
音駒のペナルティの様子をぼんやり見ていると、ふいに木兎さんの元気な声が掛けられ思わずびくりと肩を揺らす。
慌てて梟谷の方へ視線を向ければ、タオルを首にかけてドリンクボトルを片手にした木兎さんがブンブンと手を振っていた。
木兎さんの声に梟谷の何人かがこちらへ視線を寄せる。
「お~、お邪魔しま~。見てた見てた、アシ君ナイッサー!」
「いや、そーだけど!俺は〜!?」
立嶋先輩がニコニコと笑いながら声を張って告げた言葉に、木兎さんは少し眉を寄せて素直に催促してくる。
一方、話題に出た赤葦君は一瞬動きを止めた後、おもむろにこちらへ顔を向けて「ありがとうございます」と律儀に頭を下げた。
「木兎は自分で褒めてたじゃん?俺らが褒める必要なくない?」
「必要ある!俺も褒めて!!」
「あ、木葉さっきのナイスレシーブ!アレよく拾えたな、マジすげぇ」
「お、見てた?いや、俺もよく拾ったなって思ったw」
「立嶋!木葉は後でいいから!俺は〜!?」
「後でいいってなんだよオイ!」
先輩と木兎さん、そして木葉さんも混ざってわいわいと楽しそうに話している中、頭を上げた赤葦君と偶然にも目が合ってしまう。
「.............」
「.............」
一瞬だけ先程の猛禽類のような鋭い視線を感じたものの、私が怖気付く前に赤葦君はひらりと小さく片手を振ってくれた。
ここには私と先輩しか居ないみたいだし、先輩は木兎さんと木葉さんとのお話に夢中になっているから、赤葦君が手を振った相手は私で大丈夫......な、はず。
念の為前後左右を確認してから、私もおずおずと小さく振り返すと、赤葦君はほんの少しだけ笑ったような気がした。
何か話した方がいいかなとも思ったが、直ぐに赤葦君は梟谷の人に呼ばれてそのままこちらへ顔を向けることはなく、そして私も木兎さんに呼ばれた為に赤葦君からそっと視線を外した。
「夏初ちゃん!俺格好良かったよね!?」
唐突に尋ねられた言葉に緊張しつつもしっかりと二回頷けば、木兎さんはパッと顔を明るくする。
木兎さんの隣りにいる木葉さんには「あんま調子乗らすと後が怖いんだよなぁ」と苦笑されてしまったが、木兎さんのバレーはとても格好良いので私にはどうすることも出来なかった。
「なぁ、次どこと?」
「次は......あ〜、どこだっけ?」
「確か烏野だよ~」
「え!烏野?マジで?よっしゃナイスタイミング!」
立嶋先輩の質問に木葉さんが首を傾げ、少し離れた所から猿杙さんがフォローしてくれる。
次の対戦相手が烏野だと聞き、先輩は嬉しそうに笑った。
「立嶋お前、ちゃんと俺らを応援しろよ~!」
「フッフ、約束できかねる!」
「おいコラァ!お前梟谷の生徒だろうが!裏切る気か!」
「うるせぇw観客がどこ応援しようが勝手だろ!」
「うわぁ、ヒドイ奴~!夏初ちゃん、こんな男と絶対付き合っちゃダメだかんね!」
「いやいや、夏初ちゃんにも好みがあるから普通に大丈夫だろw」
「オイ木葉お前どういう意味だゴラァ!!」
「.............」
売り言葉に買い言葉で進む先輩方の会話に極力巻き込まれないように静かにしていれば、梟谷の居るコートへ大地さん率いる烏野が移動してきたのが見えて自然とそちらに視線を寄せる。
先輩の従兄弟である三年生の大地さんと、先程少しだけ話した菅原さん、金髪で眼鏡の背の高い人に、男にしては長めの髪を結んだ体格の良い人。
他にも坊主頭の人や前髪だけ金色に染めた人も居て、宮城といえどなかなか印象的な人が多いなと感じた。
「.............!」
その中で、綺麗な黒髪を靡かせた眼鏡の女子生徒が目に入り、その美しさに自然と目を奪われる。
凄く綺麗な人だ。顔だけではなくて、姿勢も歩き方も凛としていて、とても美しいと思った。
長くてさらさらとした黒髪に烏野の真っ黒なジャージがよく似合っている。
なにかの本で黒は女性を引き立たせる色だと書いてあったが、烏野のマネージャーさんを見て心の底から納得してしまった。
「.......綺麗な人......」
無意識に思考が口から零れてしまい、それを聞いた先輩も「おー、すげー美人......」と小さくもらす。
二人して烏野のマネージャーに見惚れてしまえば、ふいに坊主頭の人がこちらへ顔を向けた。
その鋭い視線にぎくりと身体が強張り、たまらず先輩の後ろに隠れると、なぜかその人はひどく焦ったような顔を浮かべる。
「.............?」
その対応の変化に首を傾げながらもおずおずと先輩の背中から顔を出し、もしかして立嶋先輩が何かしたのかと思って顔を向けるも、先輩は楽しそうににこにこと笑っているだけだった。
先輩の笑顔に余計頭が混乱し、先輩と坊主頭の人を代わる代わる見ていると、坊主頭の人が烏野の副主将、菅原さんに呼ばれてそのまますたこらとベンチの方へ行ってしまう。
「.......ブハッwなんだあのボーズ、めちゃめちゃ面白ぇなw」
「.......なんか、すごく、睨んでましたね......」
可笑しそうにふきだす先輩とは対照的に、恐怖と緊張でドキドキと速くなっている心臓をおさえながらおずおずと返すと、立嶋先輩は落下防止の手すりに両腕を置きながら上機嫌で話を続ける。
「大方アレじゃね?烏野の美人マネを俺らが見てたから、牽制がてらガン飛ばしたけど夏初が女だったから焦ったんだろ、多分」
「.............」
先輩の予測にあぁなるほどと思いつつ、他校のマネージャーさんをついジロジロと見てしまったのは確かに失礼だったなと考え、こちらを見ていない状態ではあったがひっそりと坊主頭の人に頭を下げた。
あれだけの美人さんだから、きっと好奇や恍惚の視線を向けられることも多いに違いない。
多数の感情が入り交じった視線から、あの坊主頭の人がマネージャーさんを護っているのだとしたら、厳つい見た目とは裏腹に優しい一面を持つ人なんだろう。
「大地~!頑張れよ~!」
「!」
綺麗なマネージャーさんと坊主頭の人のことをぼんやりと感じえていると、横から立嶋先輩は楽しそうにそんな声援を送った。
梟谷の応援であるはずの先輩が烏野の主将を応援したことにひどく驚いたようで、烏野の何人かが一体何事かと目を丸くしてこちらを見る。
「おう、ありがと!けど、次は梟谷とだぞ?」
「知ってる知ってるwだからめっちゃ頑張ってよ」
「.............」
声を掛けられた大地さんが苦笑気味に笑いつつそう返すも、先輩は何も気にせずけろりとそんな言葉を告げた。
途端、梟谷のコートから「立嶋の浮気者~!」「二股野郎~!」等の罵声が飛んでくるが、先輩は楽しそうに笑うだけで梟谷の方には一切対応しないようだ。
「.......俺んとこ、すげー強いからさ!」
「!」
立嶋先輩の一言に、大地さんを含め烏野の人達が一様に口を閉じる。
茶化すような口調で、だけど心の底から真っ直ぐに告げた先輩の言葉に、私も驚いてしまってただ目を丸くして立嶋先輩を見ていた。
「.......た......立嶋ぁああ!!!」
「ズルいだろ!!それはズルいだろ!!」
「惚れるだろうが!!イケメンかよ!!抱いて!!」
真っ先に反応したのは先程まで先輩に罵声を浴びせていた梟谷の先輩方で、感極まったように騒ぐ木兎さん達に「ホンットうるせぇなw黙ってアップしとけよw」と立嶋先輩は可笑しそうにふきだす。
「.............」
楽しそうに笑う立嶋先輩を見ながら、やっぱり先輩は格好良いなと改めて先輩の魅力を思い知った。
素敵な人が多い男バレに負けず劣らず、園芸部の先輩もとても魅力的な人である。
先輩の格好良さが男バレの先輩方に伝わったことが嬉しくて、たまらず私もにこにこと笑いを零してしまう。
そうでしょう。うちの先輩、格好良いでしょう!
心の中でそう思うものの、それを口に出来る程の度胸は持ち合わせていない為、ただ感情のままにこにこと誇らしげに笑ってしまうのだった。
▷▶︎▷
「.............」
「.......なんかさ、似てるよね。赤葦と夏初ちゃん」
「え?」
先程の立嶋さんの一言で大いに盛り上がっている木兎さん達の背中に視線をやりつつ、その延長線に居る園芸部......同じクラスの森のことを見ていると、ふいに隣りから声を掛けられ、思わず間抜けな返事をしてしまう。
急に話し掛けられて驚いたのもあるが、その話の内容がよくわからず変な声を出してしまった。
「.......あの、すみません。ちょっと意味がわかりません......」
頭を混乱させながらも、一先ずなにか返答をしなければと辛うじて出てきた言葉を返すと、俺に話しかけてきた相手、猿杙さんはおかしそうにふきだす。
「おっかし......w赤葦、そんな顔もできるんだ?w」
「いや、だって、本当に意味がわからなくて......俺と森ですよ?共通点なんて国籍と生物学的なものしか出てこないんですが......」
とりあえず素直に思ったことを述べると、猿杙さんはまた面白そうに笑ってからゆるりと頭を傾ける。
「そういうことじゃなくて......んー、精神的なとこ?」
「.............」
「ほら、赤葦って木兎のことスター選手とか言うじゃん?で、夏初ちゃんは立嶋のこと、自分のヒーローだって思ってるらしいよ?」
「.............」
猿杙さんの言葉に、いつかの朝練時に木兎さんと森と三人で話したことを思い出した。
俺と木兎さんの関係が羨ましい、自分も立嶋さんとそうなりたいと泣いた森に驚きつつも胸の奥が熱くなったのはまだ記憶に新しい。
正直に言うと、俺は木兎さんの足元にも及ばないし、釣り合いが取れているとは到底思えない。
だけど、それでも木兎さんの隣りに居たいと思うし、その為の努力は一切妥協せず行う覚悟でいる。
そんな俺を、森はただ真っ直ぐに見て、「自分もそうなりたい」と言うのだ。
俺が木兎さんに憧れを抱くように、森も俺をそんな対象に見てくれている。
本当に恐れ多い話ではあるが、少なくとも森の視線の中で、俺は木兎さんに相応しい存在であると認識されている。
その事が、どんなに嬉しかったかなんて、森は今も全く知らないんだろう。
「......エース大好きってとこ、本当似てるよなぁって思って。今の夏初ちゃん、木兎がすげースパイクかました時のお前の顔にそっくりよ?」
「.............」
色々と思う所はあったが、再びギャラリーの方へ視線を向ける。
相変わらずわいわい盛り上がっている木兎さん達に立嶋さんが面白可笑しく返し、その隣りで森が嬉しそうにほんのりと笑っている。
.......俺、あんな風に笑ってるのか。
完全に無意識だったというか、試合中の自分の顔なんて意識したこともないので、あんな風に満足そうに笑っているなんて全然知らなかった。
「.............」
段々なんとも言えない恥ずかしさが滲み出てきて、自然と顔を顰めてしまう。
少なくとも猿杙さんにはそう見えるというだけの話ではあるものの、自分の無意識下での一面を他人に教えてもらうというのは、なかなかに居た堪れないことのようだ。
「.......せめて......大好き、ではなく......尊敬......いや、信頼してると言ってくれませんか......?」
じわじわと熱を持っていく顔を隠すように片手で覆い、苦し紛れにそう述べると、猿杙さんはまたおかしそうにふきだすのだった。
旱天の慈雨
(見つけた一番星の話を、君なら笑うことなく聞いてくれるだろうか。)