AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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お昼ご飯を食べた後、一旦男バレの皆さんとは別れて午後の部活に入る。
相変わらず焼き付けるような夏の日射しにへこたれそうになりながらも、植木の剪定を着実に進めた。
男バレの皆さんだって、この暑い中体育館で一生懸命ボールを追っている。私だって、負けられない。
夏のバレーボールが楽しいように、夏の園芸だって楽しい。暑くて大変だけど、虫も多いけど、でも、やっぱり楽しいのだ。
無秩序にバサバサと伸びていたレッドロビンが、私と先輩の手によって綺麗にきちんと整えられていく。
この気持ち良さと言ったら、多分何ものにも変えられない。
「......どーした?なんか、随分ご機嫌?」
「.............」
高枝切り鋏を器用に扱い、植木の高い所を切っていた先輩がふいにそんな声をかけてくる。
どうやら、思考がそのまま表情に出ていたらしい。
「.......凄く、楽しいなぁって思って」
「.............」
ふふふ、と零れた笑いに、先輩は少しだけ口を閉じる。
夏の暑さに耐えきれず、汗はとめどなく流れ落ちるし、帽子を被ってるとは言え暑いものは暑い。
だけど、楽しい。園芸自体も楽しいし、それに、多分、立嶋先輩が一緒だから、さらに楽しいんだと思う。
......なんて、恥ずかしいから絶対に言えないけど。
「.......あ゛ぁ~~~~~......嫁に出したくねぇな~~~~~」
途端、立嶋先輩はハサミを片手におかしな事を言いながらしゃがみ込んだ。
俯いたまま黙ってしまった先輩に一体どうしたのかと目を丸くして見ていると、暫くしてゆるりと顔を上げてこちらに視線を寄越した。
その顔は、なぜか少し不満げだ。
「.......少なくとも、俺が居る間は絶対やんねぇから」
「.......あの、何の話ですか?私、結婚する予定なんてないです......」
「うるせー、お前に娘を取られる父親の気持ちがわかるか」
「.......私に父は二人居ません」
切り落とされた枝葉をペッと投げつけられ、なぜか不貞腐れたような態度を取る先輩にため息を吐きながら、投げつけられたそれをゴミ袋に入れる。
そのまま落ちてる枝葉も片付けながら、先程の会話に何か変なところがあったかなと思い出してみるも、部活が楽しいと言っただけで別におかしな話をしてなかったように思う。
どうしていきなり立嶋先輩が不機嫌になったのかがわからず頭を悩ませていると、渦中の先輩はすっくと立ち上がり、再びレッドロビンへハサミを向けた。
「全集中!園芸の呼吸!壱の型!」
「先輩、ハサミで遊ぶのやめてください。危ないです」
「夏初お前そういうとこだぞ!!」
唐突に高枝切り鋏を刀に見立て、ごっこ遊びのようなことを始める先輩に思わず注意すると、勢いよく非難を浴びてしまうのだった。
▷▶︎▷
大方半分程剪定作業が終わったところで、時計は15時に差し掛かった。
「キリもいいし、ここらで今日は終わりにすっかァ」という先輩の一言で、本日の園芸部の活動を終了する。
とは言っても後片付けはしないといけないので、掃除をしてから先輩は枝葉が入った袋をゴミ捨て場へ、私は道具を綺麗にしてから用具倉庫へ向かう。
すっかり汗だくになってしまったので、正直なところシャワーでも浴びたい気分だが、この後は体育館に行って男バレの練習試合を観戦させてもらう為、そんな悠長な時間はない。
せめて化粧するくらいの時間はあるといいなぁと思いながら少し重たい道具を運び終え、用具倉庫の鍵をしっかり施錠してから暑い日差しから逃げるように校舎内へ身を滑らせた。
立嶋先輩とは部室集合となっているので、二年生の自分の下駄箱に部活用のスニーカーを置き、上履きへ履き替える。
部室である第三会議室へ向かう途中、お手洗いに寄って手と顔をしっかり洗った。
髪や顔、指先や腕に土や泥が付いていないか鏡で入念にチェックし、大丈夫そうなことを確認してから廊下へ出る。
体育館に言った時、男バレの方々に......その中でも私の理想である赤葦君に「顔、汚れてるよ」なんてことを言われたら、高校二年生にもなって本当に恥ずかし過ぎる。
着替え終わったら一応もう一回チェックしようと一人頷き、辿り着いた部室のドアを開けると先輩の姿はまだなかった。
ゴミ袋、重かったし沢山あったから、やっぱり私も手伝えばよかったかな......。ううん、明日は私がゴミ捨てに行こう。
何やかんやあるけど、こういう所はちゃんと後輩扱い、あるいは女の子扱いしてくれる先輩に心の中で頭を下げながら、タオルと着替え、制汗シートと化粧ポーチを持って再びお手洗いへと足を向かわせた。
朝に着てきた制服に着替えながらしっかり汗を拭き、化粧と髪の毛を整えて部室へ戻ると、立嶋先輩も有名なスポーツメーカーのTシャツとハーフパンツに着替えていた。
その姿だと、どこかの運動部の人かと見間違えそうだ。
「お待たせしました」
「おー。その髪型、なんか夏っぽくていいな。制服だけど」
「まとめ髪ですね。首が涼しいので、夏はよくやります」
「つーかわざわざ化粧したの?ご苦労だな~」
「いいんです!一種の自己暗示みたいなものなので!」
「緊張しないための?」
「いえ、緊張はするのでせめて鎧になってくれればと......」
「鎧wウケるw」
先程のおさげから三つ編みのまとめ髪に直し、化粧をした私に先輩が声を掛ける。
それを私なりの準備運動だと答えれば、先輩は可笑しそうにふきだした。
ちなみに今日も制服なのは、部活があったからだ。部活のある土日祝日は基本的に制服で来て、部活中は汚れてもいいジャージに着替えている。
「じゃ、行きますか」
「......あ、ごめんなさい。私、用具倉庫の鍵返してないです」
「あ、そうなの?そいじゃァ職員室寄ってから行くかァ」
すみませんと小さく頭を下げると、先輩は私の頭を軽くぽんぽんと叩き、自分のリュックを片側の肩へ掛けた。
「忘れもんないなァ?行くぞー」
私もジャージが入った学生カバンを肩に掛け、簡単に荷物置き場を確認してから先輩の後に続いて部室を出るのだった。
▷▶︎▷
職員室へ寄って用具倉庫の鍵を返してから、再び体育館へやって来た。
ローファーを袋に入れ、アリーナの方へ向かうとどんどん色んな音が聞こえてくる。
ドキドキと忙しなく鳴り響く心臓を深呼吸で抑えつつ、先輩の背中を追うように駆け足で後ろについて行った。
そのまま前回観戦させてもらった2階部分のギャラリーまで移動し、見る場所を落ち着けた所で大きくため息を吐く。
「今日は2面使ってやってんだな。何チーム居るんだっけ?」
「......確か、赤葦君、うちを入れて5校だって言ってました」
「はーん......じゃあ、1チームは審判とか諸々やってんのか」
先輩の言葉を聞きながら眼下のアリーナを見下ろすと、確かに得点板やコートの四隅にいる線審は学生と思える方が執り行っている。
今は丁度梟谷が以前対戦していた音駒と試合をしているみたいだ。
ちらりと得点板を確認すると、2セット目で19対15、梟谷が少しリードしてるらしい。
「.......あれ......?先輩、前見た時、音駒に外国の方っていらっしゃいましたっけ......?」
音駒のコートを見て、真っ先に背の高い銀色が目に留まり、思わず立嶋先輩に確認してしまう。
全体的に色素の薄い、日本人離れした顔立ちのその人を先輩も確認すると、「いや、前は居なかったな」と返事をくれる。
私の記憶違いではなかったことに少しほっとしつつ、改めて銀髪のその人に視線を寄せる。
とにかく背が高い。まるでモデルさんのようなスタイルだ。よく見れば、瞳は宝石のエメラルドのような綺麗な緑色で、色素の薄い肌やサラサラの銀髪と合わさって誰もが目を引くような美しさを持っていた。
こんなに容姿端麗なのに、あのバレーボールの上手い音駒でレギュラーの座を奪えるくらい運動神経もいいなんて、世の中って本当に不公平だ。
たまらず卑屈に傾いた思考を振り払うべく小さなため息を吐くと、丁度その人がスパイクモーションを取った。
「.............っ、」
大きな身体が宙を飛び、さらに高くなった打点で一気に打ち落とす。
まるで鞭のようなしなりを見せるモーションに思わず息を飲めば......その長い腕は空を切り、遅れてボールが床に転がった。
「.............?」
あまりに予想外の事態に、首を傾げる。
......え、え?今、もしかして、空振りした?
驚いて目を丸くしたまま黙っていると、隣りで見ていた先輩が可笑しそうにふきだしたのと、音駒のモヒカンの人が「オイ!!リエーフ!!せめて手には当てろや!!」と今しがた空振りした銀髪のその人に怒鳴ったのはほとんど同時だった。
「だっはっは!すげ〜フルスイング!w速攻でもなくオープンでアレはやべぇな!伸びしろしかねぇな!w」
「.......え、と......オープン?って、なんですか......?」
「は~、笑える......wオープンってのは、一番オーソドックスな攻撃、みたいな。こう、セッターが山なりのトスを上げて、スパイカーが自分のタイミングで打つんだ。反対に、速攻はセッターのタイミングに合わせてスパイカーが変則的に打つ。ほら、前の試合でアシ君が木兎囮にして猿杙に打たせてたヤツ、覚えてるか?アレが速攻。で、アシ君が木兎にボール集める時は、オープンが多い印象。まぁ、ブロックの位置によって速攻も使ってたけど、多分極力木兎の打ちやすいオープン寄りのトス上げてたな」
先輩の説明に軽く頷きながら、以前の練習試合を思い出す。
要はスパイカーの余裕が少し多いのがオープンという攻撃なんだろう。
そして、その攻撃で空振りをしてしまうというのは、あまり見ないケースらしいこともわかった。
「.............」
てっきり何でもできる完璧超人なのかと思ってしまったが、どうやら彼も地道な努力を積み重ねている最中らしい。
勝手な思い込みで卑屈に考えてしまった自分を反省し、心の中でごめんなさいとひっそりと頭を下げた。
「ヘイヘイ赤葦!ナイッサー!」
木兎さんの掛け声が聞こえ、音駒から梟谷のコートに視線を寄せると赤葦君がサーブポジションに立っていた。
審判のホイッスルが鳴り、ボールを両手でスルスルと回していた赤葦君が静かに音駒のコートを見据える。
ゆっくりと足を進め、助走が十分に整った所で飛び上がり、その反動を使って勢いよくボールを打ち放った。
赤葦君が撃ったボールは鋭い軌道を描きながら音駒のコートへ向かい、先程のスパイクを空振りしていた銀髪の彼へ真っ直ぐに落ちていく。
「ッ!!」
咄嗟にアンダーレシーブで受けたものの、勢いに負けてボールはコートの外へ大きく弾かれてしまった。
「リエーフ!!手だけで取ろうとすんな!!脚使え!!」
「赤葦ナイッサ!もう一本決めたれ~!」
音駒のリベロさんの怒声と木葉さんの声援が合わさり、たまらずそわそわとしながらも再び赤葦君へ視線を戻す。
赤葦君は顎の下の汗を片手で拭いながら、寄越されたボールを片手でキャッチしてサーブポジションへ戻っていく。
再びホイッスルが鳴り、赤葦君の二度目のサーブが放たられる。ボールが向かう先にはやはり銀色の彼が居て、今回はボールが上がったもののそのまま梟谷のコートへ戻してしまっていた。
「チャンスボール~!」
「木兎さん!」
返ってきたボールを猿杙さんが拾い、いつの間にかネット際に移動していた赤葦君へボールを繋げる。
赤葦君から上がったボールを見て、これがオープン攻撃というものなのかと一瞬考えてしまえば、あっという間に木兎さんが力強いスパイクを音駒のコートへ叩き付けた。
「ヘイヘイヘーイ!!ナイスキー!!」
「ぶはっw自分で言ったよアイツw」
綺麗に決まった攻撃に嬉しそうな木兎さんの声が館内に響き渡れば、立嶋先輩がケラケラと笑う。
コートの中でも小見先輩が面白そうに笑っていて、木葉さんは呆れた目を向けながらも木兎さんと片手でハイタッチを交わしていた。
一方で赤葦君は黙々とサーブポジションへ戻り、待機の姿勢を取る。
さっきは自分が点を取り、今はエースの木兎さんが点を取ったというのに、赤葦君はいつも通りすっかり落ち着いていた。
例え優勢な状態であっても、勝負が着くまで決して気を緩めないその姿勢に感嘆しつつ、相手を射止めるような鋭い視線にたまらず心臓がキュッと縮こまった。
その姿はまるで、猛禽類が獲物を狩っている様によく似ていて、何処と無く空気が張り詰めている気がする。
「.............」
体育館で見る赤葦君は、教室で会う赤葦君とやっぱり全然違うなと改めて感じてしまうのだった。
内兜を見透かす
(......コートに居る赤葦君は、ほんの少しだけ、怖い。)