AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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「なぁなぁ、俺に似てる花ってある?」
男バレの方々とお昼ご飯を食べていると、これまでバレーボールの話をしていた木兎さんが唐突にそんなことを聞いてきた。
急な話題転換に驚き進めていた箸を止めて、思わず木兎さんを見る。
大きな金色の瞳とぱちりと重なり、次には夏の太陽のような眩しい笑顔が向けられた。
「その話題、いきなりどこから来たよ......」
「木兎の話って本当、脈絡ないよね」
木兎さんの言葉に木葉さんと猿杙先輩がどこか呆れた目を向けると、木兎さんは「いつか園芸部に聞こうと思ってたの今思い出した!あとミャクラクってなに?」と元気に返す。
「......脈絡は、物事の繋がりですね。木兎さん、今までバレーの話をしていたのに突然花の話をしたら、前後の繋がりがないでしょう」
木葉さんと猿杙先輩がため息を吐いて黙ってしまったのを見越してか、木兎さんの隣りに座る赤葦君が代わりに答える。
そのわかり易い説明に流石だなと思っていると、隣りに居る先輩が「どっちが歳上だよw」と可笑しそうにふきだした。
「......でも、そうだなぁ......木兎は......ウツボカズラとか?」
「!?」
一頻り笑い終わった先輩が木兎さんに告げた植物の名前に、たまらずぎょっとする。
しかし、言われた木兎さん含め男バレの方々はウツボカズラを知らないみたいで、あまりピンときてないようだった。
スマホで検索をかける木葉さんに視線は集まり、ウツボカズラの画像と説明を見た途端、木兎さん以外の人達はどっと笑った。
「食虫植物じゃねぇか!w」
「えー!?こんなんヤダー!!」
「なるほど、言い得て妙ですね」
「赤葦、その心は?」
「......どちらも奇抜で、精気を摂られます」
猿杙先輩からの謎掛けにも、赤葦君はきちんと答えてみせる。
その上手い応えに再びどっと笑いが起きた。
「赤葦も立嶋も天才かよ!w」
「恐れ入ります」
「おう、園芸部部長なめんな」
「全っ然違うだろ!俺虫食わねぇし!!」
笑い転げる小見先輩の言葉に、赤葦君は相変わらず淡々とした様子で軽く頭を下げ、立嶋先輩は得意げな顔でグッと親指を立てる。
それに不服を申し立てたのは、言われた本人である木兎さんだ。
大きな声でそんなことを言うものだから、食堂にいる周りの人達からもなんだなんだと目線が集まった。
「もっと綺麗で格好良いやつがいい!!」
「......じゃあ、ハエトリソウとか?あれカッケェーぞ?貝みたいな捕虫葉にセンサーが付いてて、虫が止まったら見事にパクッと閉じるんだよ」
「だから!食虫植物から離れろって言ってんの!!」
立嶋先輩の言葉に、木兎さんは眉を吊り上げて猛反発する。
完全に楽しんでる先輩と必死に抵抗する木兎さんのやり取りに周りが可笑しそうに笑い続ける中......ふいに木兎さんはその金色を私へ向けた。
「もういい!夏初ちゃんに聞く!!」
「!?」
散々からかわれて少し機嫌を損ねている木兎さんから唐突にそんなことを言われ、反射的にビクリと肩が跳ねる。
「おい、夏初ちゃん困らせんなよ」
「困らせねーよ!夏初ちゃんは、立嶋と違ってちゃんと答えてくれるよな?」
「.............」
「無茶振りすんな~、ウツボカズラ~」
「それで呼ぶな!!」
木葉さんと立嶋先輩に一喝した木兎さんは、期待に満ちた目で私を見てくる。
その視線に耐えきれず咄嗟に立嶋先輩を見れば、にっこりと楽しそうに笑うだけで助け舟は出してくれないようだ。
「.............」
「......森、無理して考えなくてもいいよ」
現状にすっかり困ってしまって何も言えずにいると、木兎さんの隣りに座る赤葦君が気遣ってそんな言葉をかけてくれる。
その後直ぐに木兎さんから「あかーし冷たい!」との非難を浴びていたが、赤葦君は全く動じずに食後のお茶をゆっくり飲んでいた。
「.............ポーチュラカ......とか......」
赤葦君が気遣ってくれたものの、何も答えないままでいるというのも何だか気が引けてしまい、少し考えて思い付いた植物の名を小さく口にする。
途端、男バレの方々は一様に目を丸くしてこちらを見た。
たまらず逃げるように下を向くと、唯一話が通じているであろう先輩が「はぁ?」と不思議そうな声を上げる。
「ポーチュラカぁ?木兎が?......あぁ、もしかしてアレか。花言葉の方か?」
「.............」
「待て待て、園芸部で話進めんな。全然わかんねぇよ」
最初は首を傾げていたものの、直ぐに気が付いてくれた先輩に控えめに頷けば、木葉さんがそんな言葉を挟んでくる。
どうやらスマホでポーチュラカも調べてくれてるらしい。
「......へー、カラフルで可愛い花だね」
「いや、可愛過ぎるだろ。木兎だぞ?」
「.............」
「あ?これ、学校のどっかで見た気がする」
「お、さっすが木葉。実は高等部校舎沿いの花壇に植えてあるんだな~」
木葉さんのスマホを覗き込み、男バレの皆さんと立嶋先輩がわいわいと思い思いの発言をする。
何となくジャッジされている心地がして、少しドキドキしながら事の行く末を見守っていると、木葉さんはポーチュラカの花言葉を見つけたようだ。
「これか?......“いつも元気、無邪気、自然を愛する”」
「確かにwいつも元気w無駄になw」
「これこれ!こういうのを期待してたの!もー!立嶋が変なヤツ出すから!」
「は?ウツボカズラの何が悪いんだよ?」
「少なくともヒトの例えで出すヤツじゃねぇだろ!」
花言葉の話題から飛び火して、木兎さんは何やら立嶋先輩と言い合っていたが、おそらく私の発言には不平不満を挙げてないようだったのでひっそりと胸を撫で下ろした。
実際、ポーチュラカを植えている時に少し木兎さんに似ているなぁと密かに考えていたのだ。
一つ一つの花は小さいがたくさんの色に富んでいて、可愛い外見とは裏腹に夏の暑さにも負けない強い生命力を持つ。
無邪気で、いつも元気。そんなポーチュラカは、木兎さんにぴったりだと思った。
「はい、じゃあ次!赤葦は?」
「え......?」
一人で勝手に考えていた事をまさか本人に伝えることになるとは思いもよらなかったが、一先ず木兎さんに否定されなかったので小さくほっとしていると、まさかの次の案件が舞い降りてくる。
思わず聞き返してしまった私に対し、真っ先に反応したのは木兎さんではなく本人の赤葦君だった。
「いや、俺はいいですよ」
「えー?いいじゃんいいじゃん、減るもんじゃないし」
「考えるのは木兎さんじゃなくて森でしょう?勝手なことを言わないでください」
「そ、そりゃそうだけど......だめ?」
「.............」
淡々と続く赤葦君の言葉にグサリと釘を刺されたのか、木兎さんは赤葦君から逃げるように視線を逸らし......私に向かって小さく首を傾けた。
しゅんとした顔をしていることも合わさり、なんだか大きなワンちゃんがしょげているように見えて、慌てて目を瞑り軽く頭を振る。
「.......あ、赤葦君は......もう、植物の、名前が......入ってるので......」
うっかり木兎さんをワンちゃんに変換してしまった後ろめたさからか、私の口からは取り繕うようにそんな言葉が零れ落ちた。
それを聞き、木兎さんは元から大きな目を更に丸くする。
「へ?そうなの?どれ?」
「マジかよ木兎......普通に“葦”だろ」
「え、アシ?って、植物なの?え、どんなん?」
木兎さんの発言にひくりと口元を引き攣らせた木葉さんだが、直ぐにスマホで検索をかけてくれるところが流石である。
「......確か、水辺によくあるヤツだよね?日本人ならではの、ヨシとも呼ばれるヤツ」
「あー、これか。うん、見たことあるわー」
「へぇ、これがあかーしか!なんかひょろっこいな!あと地味!」
「.............」
出てきた画像に各々が再び言い合うが、すっかり黙ってしまった赤葦君を見て、余計なことを言ってしまったとひっそりと顔を青くするも、後悔先に立たずである。
赤葦君の様子に気付いているのかいないのかはわからないが、男バレの先輩方のお話しが止まる様子はなかった。
「いや、木兎と同じく花言葉の方なんじゃね?えーと......ぶはっw“神の信頼”とかあるぞw」
「え!どこどこ?ハッ!神ってもしや、俺......!?」
「そうだな、お前は神がかったバカだな」
「なんだとー!?」
「あとは、“音楽”?“従順”、は......確かに赤葦っぽい。ちょっと頑固だけど」
「おい、“哀愁”とか“後悔”、“不謹慎”とかもあるぞ?w」
「あ......そうでは、なくて......あの、パスカル、の......」
「え?」
段々と雲行きが怪しくなってきて、たまらず口を挟んでしまった。
人の話に横槍を入れるのはよくないことであるとは思うが、考えなしにアシを出した訳では無いのである。
「.......“人間は考える葦である”」
「!」
矢先、落ち着いた低い声が私の考えを見事に代弁してくれて、思わず動きを止める。
一体誰が言ったんだろうとおずおずそちらへ顔を向けると......短い黒髪をきっちり立たせた強面の三年生、鷲尾先輩が静かにこちらへ視線を重ねてきた。
「......違ったか?」
「.............っ、」
殆ど話したことのない先輩なこともあり、身体が一瞬にして凍り付きそうになるも何とか首を振ることが出来た。
ギクシャクとしながらも合っていることを伝えると、「え、何それ?よくわかんねーけどカッケェー!」と木兎さんが楽しそうにはしゃぐ。
「......人間は葦のように弱くて小さい存在だが、それでも唯一、思考力や理性という尊いものを持っている。考えることの大切さを、表した言葉だったと思うが......確かに、赤葦っぽいな」
「.............」
「おお......鷲尾が珍しくよく喋る......」
「でも何言ってるかよくわかんねぇ......」
「.......お前らはもう少し本を読め」
鷲尾先輩の説明に、小見先輩と木兎さんはゴクリと唾を飲み込みながらそんな発言をする。
二人の顔を見て、鷲尾先輩は呆れたように小さくため息を吐いてからおもむろに立ち上がった。
「そろそろ昼休憩も終わりだろ。食器下げてくる」
「え?もうそんな時間?」
鷲尾先輩の一言にそれぞれが時間を確認し、お昼ご飯の食器を下げにバタバタと動き出す。
そういえば私のお弁当はあと少しだけ食べ残しがあったことを思い出し、慌てて箸をつけると「お前はいいから、ゆっくり食えよ」と立嶋先輩に軽く頭を小突かれた。
口に物を入れてしまっていたので、行儀が悪いとは思いつつもごもごと咀嚼しながら何度か頷くと、そんな間抜けな私の様子に立嶋先輩は可笑しそうにふきだした。
男バレの方々は食器を下げに行っている為、このテーブルに残っているのは私と先輩の二人だけだ。
とは言っても、あまり先輩を待たせる訳にはいかないのでなるべく早くお昼ご飯を片付けようとこっそり奮闘していると、突然大きな手で頭をワシャワシャと撫でられ、驚きの余りご飯が少し喉につかえてしまった。
慌てて先程頂いた緑茶を飲み、大事にならなかったことに安堵しながらも立嶋先輩に「な、なんですか?」と戸惑いの視線を向けると、先輩は少しだけ眉を下げて、だけど嬉しそうに笑った。
「んー......別に。何となく?」
「.............」
返された言葉に思わず何だそれと思ってしまうが、先輩の表情から何となく詮索することも阻まれ、結局何も言わないままお昼ご飯を食べきることに専念する。
先程勢いよく撫でられたことで髪の毛が乱れてしまっただろうが、食事中に髪を触るのもあまりよくないかなと考えてそのままにしてしまった。
そういえば、赤葦君。途中からずっとだんまりだったけど、そのままにしてしまって大丈夫だろうか?
私の発言で機嫌を損ねてしまったのなら、本当に申し訳なかった。
「.............」
「......あー、アシ君なら問題ねぇよ」
「!」
赤葦君のことを思い出して沈み始めた思考回路だったが、立嶋先輩の鋭い一言でそれはブツリと遮断される。
咄嗟に先輩を見ると、立嶋先輩はまた可笑しそうに笑い、私の頭をまるで動物相手か何かのようにグリグリと勢いよく撫でくりまわす。
流石にそれは勘弁してほしくて慌てて大きな手から逃げれば、案外簡単に解放してくれた。
立嶋先輩の考えがわからず目を白黒とさせている私を他所に、先輩は明るく笑いながら相変わらずよくわからないことを口にするのだった。
磯の鮑の片思い
(とか、させていい相手じゃないのよ?)