AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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赤葦君と共に食堂に着くと、そこには梟谷の人以外にも沢山の人がいくつかのグループに分かれてお昼ご飯を食べていた。
おそらく他校の男バレさん達なんだろうが、みんなTシャツにハーフパンツという同じような格好をしているので、誰がどの高校なのかはよく分からない。
そもそもあまり知らない人達に視線を向ける訳にもいかず、そして何より男バレでない自分がここに居るのが恐ろしく場違いな気がして、思わず赤葦君の後ろにおずおずと隠れた。
「.............」
「.......木兎さんと立嶋さんのとこ、行こっか」
食堂の様子に一瞬にして怯んだ私を見逃さず、赤葦君は安心させるようにそんな気遣いを寄越してくれる。
また情けない所を晒してしまったと落胆しながらも、控えめに頷いてから赤葦君の後に続いて梟谷生が集まるテーブルへ足を進めた。
「あ、あかーし!こっちこっちー!」
幾分か距離が近くなったところで、こちらに気付いた木兎さんが赤葦君に手を振る。
木兎さんの大きな声に梟谷の人のみならず、他校の人達までもがなんだなんだと視線を寄せる中、赤葦君は表情一つ変えずにテーブルまで辿り着き、木兎さんの食事メニューを見て直ぐに「食べ過ぎです。パンはどちらか一つにして下さい」と開口一番に言い放った。
「大丈夫!ちゃんと動ける!」
「......どっちも今食べたいなら、せめて半分ずつにしましょう」
「あ、じゃあ半分俺が食べてやるよ」
「誰がやるか!俺の焼きそばコロッケパンだ!」
赤葦君の言葉に木兎さんは不服を示し、それならばと出した折衷案に今度は隣に座る立嶋先輩が悪ノリして一気に騒がしくなる。
ちらりと木兎さんのメニューを見ると焼肉定食のトレーに焼きそばパンとコロッケパンが無理やり乗せられていて、先輩以外にもお昼ご飯をこんなに食べる人が居るんだなぁとうっかりしみじみと思ってしまった。
「こんにちは、夏初ちゃん。具合はもういいの?」
「!」
木兎さんの食事メニューをぼんやりと見ていたらそんな声をかけられ、弾かれたようにそちらへ顔を向けると木兎さんの向かいの席には猿杙先輩が座っていて、相変わらず柔和な笑顔でこちらを窺っていた。
一瞬なんの事かと思ったが、そういえば先程先輩と体育館まで競走し、くたくたに疲れてスポーツドリンクを頂いてしまったことを思い出す。
慌てて頭を下げて「はい、大丈夫です......」と答えれば、猿杙先輩は「ならよかった」と優しく笑ってくれた。
「どこ座る?立嶋の隣りいく?」
「夏初ちゃん俺の隣りおいでよ!立嶋1個そっちズレて!」
「は?お前の隣りなら空いてんだろ」
「ここは赤葦だから!」
「え、俺こっちでいいですけど」
「オイオイ、セッターは常にエースの隣りだろー?夏初ちゃんこっち座れば?」
「ハイ、木葉くんザンネーン。園芸部はニコイチなんで、夏初は俺の隣りですぅ」
「.............」
猿杙さんの言葉を筆頭にあれよあれよと話が進み、最終的に私は立嶋先輩の隣りへ着席することになった。
角席だから先輩と隣り合うだけで済むし、向かい席には小見先輩が座っていて、同じクラスの立嶋先輩と楽しそうに会話しつつ時折話を振ってくれる。
赤葦君は結局用意されていた木兎さんの隣りへ座り、少し話してからメニューを選びに席を立ってしまった。
私も手を洗いに行きたいのとお茶を買いに行きたいので、先輩に声を掛けてから一旦席を外し、食堂から直ぐ近くの御手洗へ向かう。
一人になった瞬間、思わずほっとしてしまい肩の力が少し抜けた。
やっぱりまだ男バレの方々と話すと緊張してしまうなぁと自分の低能さに落胆しながら手を洗い、再び食堂へ戻る。
食堂と隣接している売店は本日休業のようだが、自販機だけは使えるみたいで一先ず安堵した。
小型ペットボトルの緑茶にしようと思い、お金を入れようとした矢先......後ろから自分のものでは無い筋張った腕が伸びてきて、先にお金を入れられてしまう。
「.............」
購入可能となった自販機のボタンが点灯するのを前に、突然起こった出来事に反応出来ずすっかり固まってしまった。
......も、もしかして、私が選ぶのが遅いから、後ろで待ってる人が痺れを切らしてお金を入れてしまったのでは。
そんな結論に考え付いた途端、サッと顔が青くなり、謝らなければと思うものの緊張で凝り固まった身体は思うように動いてくれず、謝罪の声も出なかった。
「.............」
「.............あー、ナツハちゃん、どれがいい?」
「!」
頭の上から降ってきたのはどこかで聞いたことがある声で、怖々と後ろを振り返る。
顔を上げると、そこに居たのは先日の練習試合で帰り際に少しだけお話した、音駒の主将さんだった。
片側だけ立てた黒髪にスっと上がった目尻、バレー選手ならではの高身長も手伝って、どことなく迫力のある主将さんの登場に、たまらず心臓がきゅっと縮こまる。
「.............」
「......コンニチハ。音駒の主将の黒尾鉄朗デス。この前ちょっとだけ話したんだけど、憶えてる?」
「.............」
固まる私を見て、黒尾さんは苦笑気味に笑いながら小さく首を傾ける。
どきどきと緊張と不安を伝えてくる心臓に苛まれつつ、何か返事をしなければと脳から必死に伝令が出され、身体がようやく動き出した。
「.............こん、にち、は......憶えて、ます......」
辛うじて出てきた挨拶は酷く拙いものだったが、何とか黒尾さんには伝わったらしい。
「よかった」と軽く胸を撫で下ろしてから、黒尾さんは私から自販機へ視線を寄越した。
「......ああ、ほら、早くしないと。ナツハちゃん、どれ押そうとした?」
「......え......あ......お茶、を......」
「お茶ね~、緑茶かな?コレ?」
「......は、い......」
促されたままに答えてしまうと、黒尾さんは私の後ろから目的のボタンを押し、出てきた緑茶を渡してくれる。
その後直ぐに出てきたお釣りを取り出す黒尾さんを見て、慌ててお財布から緑茶の代金を渡そうとすれば、なぜか黒尾さんは片手でそれを制してきた。
「いいよ、あげちゃう」
「......え......で、でも......」
「いいのいいの。この前無駄にビビらせちゃったし、そのお詫びってことで」
「.............」
黒尾さんの言葉に思わず目を丸くする。
もしかして、そのことを気にしてわざわざ話し掛けてくれたのだろうか。
そもそも私が人見知りをするせいで会話が弾まず、迷惑を掛けてお詫びをしないといけないのはこちらの方だと言うのに。
「......あ......こちらこそ、先日は......失礼な、態度を取って、しまい......申し訳ありませんでした......」
受け取った緑茶を両手で持ち、深々と頭を下げて謝罪する。
この間はせっかく話し掛けてくれたというのに私が不甲斐ないせいで上手く話せず、結局赤葦君を呼んできてもらうという本当に失礼なことをしてしまった。
「いやいや!ナツハちゃんが謝ること一つもないからね?だからハイ、頭上げる!」
「.............」
焦り混じりの黒尾さんの声におずおずと顔を上げると、黒尾さんはなぜか可笑しそうにふきだした。
「本当、ナツハちゃん可愛いな~。初期研磨っつーか、チビ研磨にそっくりだわ」
「.............?」
「あ、研磨ってウチのセッターね。あのプリン頭の......ああ、ほら、あそこでゲームしてる奴」
「.............」
黒尾さんが指さした方を見れば、少し離れたテーブルにおそらく音駒の方々であろう団体様が座っていて、その中で携帯ゲーム機を持っている金髪の人が対象の人なのだろうと直ぐに認識できた。
しかしながら、私と似てるという点に関しては全く理解出来ず、どう返事をしようかすっかり悩んでしまい、結局何も言えずにただ押し黙ってしまう。
「.............」
「.............」
「......何してんすか、黒尾さん」
「!」
黒尾さんとの沈黙にどうしようかと思っていると、聞き馴染んだ落ち着いた声が後ろから聞こえて反射的に振り返った。
そこにはカツカレーとおにぎりが乗ったトレーを持つ赤葦君が、少しだけ眉を寄せてこちらに歩いてきていた。
「......森にちょっかい掛けないでください」
「いや、そういうんじゃなくてな?この前のお詫びしてただけだから」
ね、ナツハちゃん?と同意を求められ、控えめに頷くと赤葦君は小さくため息を吐きながら私の直ぐ隣りまでくる。
カツカレーの良い匂いに惹かれて思わずそちらへ顔を向けると、周りに聞こえない程度の音でお腹が鳴り、慌ててカレーから目を背けた。
ああ、でも、カレーって本当に良い匂いだな。
「じゃ、お迎え来たみたいだから戻るけど......ナツハちゃん、もしや午後から観戦とかする?」
「.............」
“お迎え”という言葉が引っ掛かり、そんな幼稚園児みたいな扱いをしないでほしいとも思ったが、前回はまさに赤葦君に“お迎え”に来てもらったようなものなので、結局何も言えずに黙って頷くだけに終わる。
「そっか、じゃあついででいいから音駒の応援もどーぞヨロシク」
「.............」
複雑な気持ちであったものの、黒尾さんが明るく笑ってそんな要求をしてくるものだから、思わず目を丸くして黒尾さんを見てしまった。
......今しがたお茶を貰ってしまった手前、どうにも断りにくい。
でも、梟谷の赤葦君を前にして他校のチームの応援要求に「はい分かりました」と了承してもいいものだろうか?
「.............」
「......あー......そこ、悩んじゃうか~w」
「.............」
肯定も否定も出来ないまま眉を下げて俯いてしまえば、黒尾さんはなぜか楽しそうに笑った。
もしかして、リップサービスとか社交辞令とかそういう類の言葉だったのではと遅れて気が付き、真面目に取り合ってしまったことに今更恥ずかしくなってくる。
「.............っ、」
徐々に顔が熱くなってきて、黙って俯いたまま顔を上げられなくなっていると、隣りから「申し訳ないんですが、」という凛とした声が聞こえた。
「森は俺達以外、どこも応援しませんよ」
「.............」
黒尾さんに真っ直ぐに意見した赤葦君は、最後に「......梟谷の、生徒ですので」と付け加えて、トレーを少し持ち替えた。
「じゃあ、飯食ってきます。森、行こう」
赤葦君の言葉にびっくりしていれば、直ぐに名前を呼ばれて慌てて顔を上げる。
赤葦君は黒尾さんに軽く頭を下げてから梟谷のテーブルへ歩き出してしまったので、私も置いていかれないように後に続いた。
「.......あ、お茶、ありがとうございました......!」
ここでようやくお茶の御礼を伝えてないことを思い出し、今更かとは思ったが黒尾さんに頭を下げて感謝の言葉を述べる。
その間も赤葦君はどんどん進んでしまうので、黒尾さんの反応を待つ前に急いで赤葦君の後を追った。
「.......マジかよ赤葦......わっかりやす......w」
自販機の前に一人残った黒尾さんが可笑しそうにふきだしたが、早足で歩く赤葦君の後を追うことに必死だった私の耳には、その言葉は全く届かなかった。
鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍が身を焦がす
(淡白そうに見えて、意外と独占欲強いのね......)