AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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アシ君に夏初を任せて、俺と木兎はひと足早く食堂に向かっていた。
夏場の園芸は体力勝負なところがあり、男バレ程ではないが結構な肉体的負担が掛かる。
身体を動かすということは体内のエネルギーを消費するということであり、そのエネルギーが枯渇すれば人間誰でも腹が減る。
特に俺の身体は相当燃費が悪いようで、消費したエネルギーを補うにはヒトより割りと多めの食事をとらなければならないのだが、隣りに居る木兎もどうやら同じタイプ......もしくはエネルギー消費が俺よりずっと激しいからなのか、俺と同じくらいの量を食べるので木兎と飯を食うのは結構気楽で好きだった。
......なんて事言えばすげぇウザ絡みされそうだから、コイツには絶対言わないけど。
「立嶋何食う?俺は焼肉定食と焼きそばパン!」
「お前本当に焼きそばパン好きな?休日くらい別のもん食えばいいのに。コロッケパンとか」
「じゃあコロッケパンも食おうかな~!あ、でも食い過ぎは午後にシショーが出るって木葉にまたどやされっかな......」
「あぁ、アイツあんま食わねぇからな~。この前さ、木葉のヤツミニ冷やし中華とか食ってて、オイオイどこのOLランチですか?って冗談言ったら汁で目潰しくらった」
「わはは!そりゃ痛ぇな!カワイソ~!」
俺の話に木兎は可笑しそうに明るく笑う。
冷やし中華の汁にあんな殺傷力があるとは思わなかった、お前も気を付けろよと話を纏めると、それで目潰ししてくる木葉の方に気を付けるわと木兎のくせに正論を返され、思わず笑ってしまった。
普段めっちゃバカのくせに、コイツは時々至極まともなことを言う時がある。毎度不意をつかれるので、それが妙に面白い。
「でも、夏初ちゃんお弁当持ってきてたんだな。てっきりコンビニだと思って食堂誘っちゃったけど、なんか悪いことしちゃったなぁ......」
「いや?いいんじゃねぇの?食堂のが涼しいし、部室から弁当持ってくるだけだからそんな手間じゃないだろ。つーか食堂やってるなんて思ってなかったから、俺的には超ラッキーだったわ」
木葉のことから俺の後輩の話に変わり、眉を下げる木兎に気にすんなと軽く手を振る。
人見知りで引っ込み思案の後輩だが、本人が心の底から嫌だと思えば多分「じゃあ、私は部室で食べますので......」くらい言ってくると思う。
ここ最近、何かと積極的になろうとしているのか物事を前向きに検討しようと努力する姿が垣間見えるので、今回男バレと一緒に食堂で昼飯を食うというのも本人的には何とか頑張ろうとしているのかもしれない。
まぁ、なかなか上手くいかないのか勝手にヘコんでるところもよく見るけど。
元々夏初の場合、考えに考え過ぎて結局よく分かんねぇとこに着地することが多い為、ガチヘコみする前に声掛けはするようにしているが......俺は三年でアイツは二年、いつまでも俺が声を掛けてやることはできない。
なので、何が発端になったのかは知らないが、夏初が自分でそういう所を何とかしようと思い立ってくれたのは正直言って少し安心していた。
俺が抜ければ、アイツは一人で園芸部を回さないといけない。
園芸は勿論のこと、大体の年間スケジュール決めたりとか、校長や用務員のおっちゃんの許可取ったりとか、時には論破したりとか、新入部員の勧誘とかも、来年度は全部アイツ一人でやることだ。
まぁ、勧誘の方は無理してやらなくてもいいと俺は思ってる。園芸を第一に考えて、何より気が合う奴なんて早々居るもんじゃないってことは、俺が誰よりも知ってるからだ。
「.......なぁ、木兎。お前にちょっと聞きたいことあんだけどさ」
「ん?なに?」
食堂へ続く階段を昇りながら木兎を見ずに呟くと、木兎は足を止めてちゃんと俺を見てくる。
コイツのこういうとこ、育ちが良いなって思うのはきっと俺だけじゃないだろう。
「.......お前さ、なんでそんなに夏初のこと気に掛けてくれんの?」
木兎と二人きりで話す機会があったらずっと聞こうと思っていた質問を口に出すと、木兎は案の定元から大きな金色の目をきょとんと丸くした。
大方いきなり何の話だと驚いているんだろうが、俺にとってはいつ聞こうかとタイミングを計っていたので、満を持しての発言である。
木兎には悪いが、ここは俺に付き合って貰うぞ。
「......お前がボールぶつけた時の怪我、もう治ってるだろ?夏初も多分全然気にしてねぇし、もし木兎が未だにそれ気にしてやってんなら、もう要らねぇ気遣いだと思うぞ」
「.............」
俺の言葉に、木兎は珍しく口を閉じて静かにしていた。
その名に相応しい猛禽類を彷彿させる金色の瞳にじっと見つめられ、少し居心地が悪くなったものの視線を逸らすことはせずに木兎の答えを静かに待つ。
お互いに黙っている時間が暫く続き、その沈黙を先に破ったのは木兎の方だった。
「.......それってさ、もしかして俺が“夏初ちゃんがカワイソウだから声掛けてる”って、立嶋は思ってるってこと?」
「......まぁ、平たく言えばそうなるな。要はお前が夏初に引け目感じて、話し掛けてやってんのかって聞いてる」
「.......うーーーーーん......?」
木兎はその場で腕を組み、金色の瞳を閉じて小さく唸る。
しかしそれは少しの間のことで、木兎はパッと目を開けてその金色を俺に向けた。
「いや、そうだったのは最初だけだな。今は普通に話したいから話してる。夏初ちゃんいい子だし」
「.............」
「.......夏初ちゃん、俺とあかーしみたいになりたいんだって。お前と」
「は?」
いつか聞こうと思っていた質問の返答は、予想よりかなり斜め上を行く。
たまらず聞き返してしまうと、木兎は何が楽しいのかへらりと笑った。
「前にな、夏初ちゃんから聞いたんだ。あの子、一年の時少しだけ学校に馴染めなかったんだろ?」
「.............」
「でも、お前が声掛けてくれて、園芸部入って......それで友達も出来て、学校楽しくなったって。立嶋に助けて貰ったのに、未だにお前に甘えてばっかりでどうしようって泣いてたよ。お前、知らないと思うけど」
「.............」
突然知らされた後輩の知らない話に、驚きを隠せずただ押し黙る。
何で、いつ、木兎は夏初とそんな話をした?
何だよ、アイツ、そんなこと全然言ってなかったじゃんか。
「その時に、あー、この子マジでいい子だなって思ってさ。あと、俺とあかーしみたいになりたいって言われたのも嬉しかったし」
「.............」
「あかーしは、マジで最高のヤツだから。......まぁ、ちょっと変なとことか?頭硬ぇとこもあるけど、とにかくすっげー良い奴でさ。で、そんなヤツと俺が、夏初ちゃんの目には、......こう、理想的?に見えるんだなって」
「.............」
「......そんな風に言われたの初めてだったから......なんか、超嬉しくてさ!俺の自慢の後輩だし?最高のセッターだし!」
話しの途中でしれっと木兎の後輩自慢が挟まり、今は俺の後輩の話をしていたはずなんだがと思いつつ、真っ直ぐにアシ君を褒めるその姿勢にはとても好感が持てた。
......お互いに好きなことを、自分と同じ熱量で取り組んでくれる相手が居るということは、そんなヤツに出逢えるということは本当に稀であり、心底嬉しいことだと思う。
「で、俺はあかーし以外にもバレー部のヤツら沢山居るけど......園芸部ってお前ら二人しか居ないじゃん?なのに、片方がなんか、甘えてばっかで申し訳ないって思ってるのは違うんじゃないかって思って」
「.............!」
「だから、どんどん甘えてけって言っといた。園芸部二人しか居ないんなら、一緒に居て楽しいヤツ誘うに決まってんじゃんって」
「.............」
「......あとはまぁ、夏初ちゃん可愛いし?園芸部頑張ってるし?俺は仲良くしたいと思ってるけど......それじゃあダメか?心配?」
180センチオーバーの男子高校生が小首を傾げるなんてワザ、普通は鳥肌モノだと思うが不思議と木兎がやると何の違和感も覚えない。
気になっていた疑問を投げたら思いもよらないところへ話が転がってしまい、自分でまいた種なのに色々と驚きを隠せなかった。
木兎の話を完全に消化できた訳では無いが、ひとまず最悪の展開にはならなかったのでゆっくりと息を吐く。
「.......いや、十分。もしこれでお前が困った素振り見せたり、罪悪感の惰性でズルズル夏初に声掛けてるとかだったらブチ切れ案件だったけど......」
一度言葉を切り、俯いてもう一度息を吐く。
再び顔を上げると、少し戸惑うような木兎の顔があり、その情けない面構えにたまらずふきだしてしまった。
「オイ!人の顔見て笑うんじゃねぇ!つーか今大事な話してんじゃないの!?」
「いや、だっておま、すげービビってんじゃん...w」
「はぁ!?だってお前、顔怖いんだよ!なんか普通に殴ってきそうだし!」
俺よりタッパもある上、ガタイもいいはずなのに、素でビビってる木兎の姿が面白くて笑いが止まらなくなる。
実際喧嘩したら多分、筋肉ゴリラの木兎君の圧勝だろう。
本気で殴られたら1発KOだろうなとアホなことを考えていると、いつまで笑ってんだと恨みがましい目で睨まれ、軽く謝りながらも少しずつ呼吸を整える。
そういえば、話の途中だった。
「.......お前、マジで格好良し男だよなぁ......」
「いや、この流れで言われても全然嬉しくないんですけど?」
俺の言葉に、木兎は心外だと言うように顔を顰める。
それに軽く笑いながら「いやいや、心からの言葉デスヨ?w」と返しつつ階段をゆっくりと昇る。
不満顔の木兎がその位置から全く動かないのを見て、俺は木兎を見下ろして笑った。
「......夏初共々、これからもよろしくな。男バレ主将サン」
右手を差し出し、ニッと歯を見せて笑う俺に対して、木兎も直ぐに顔を明るくした。
「こちらこそどーぞよろしく!園芸部部長サン!」
俺の右手と木兎の右手が小気味良い音を立て、ハイタッチを交わす。
その直後、お互いの腹の虫が盛大に鳴り響き、あまりの締りのなさにどちらからともなくふきだした。
「あー、腹減った。俺は味噌ラーメンとおにぎりにするわ」
「お、いいねぇ、夏なのにラーメン!木葉嫌がりそうだけどな!」
「アイツには一生ミニ冷やし中華食わしとけ」
俺の言葉に木兎が笑い、それに釣られて俺も笑う。
空腹時に大笑いなんかすればどんどん腹は減っていく一方で、早く昼飯にありつく為に二人で残りの階段を一気に駆け上がった。
待てば海路の日和あり
(大丈夫、もう一人ぼっちじゃないよ。)