AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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「お、居た居た。大地~!」
バレーボールのコートが2面設置されている体育館。その隅に居る白地のTシャツに赤いゼッケンを付けてる集団が、どうやら宮城から来た烏野高校らしい。
臆することなく声をかけた立嶋先輩に烏野の何人かが顔を向け、その中の短い黒髪の体格のいい男の人が「おお!」と返してこちらへ近寄って来た。
「マジで来たのか!久し振りだな~」
「行くだろ、普通w宮城住みのお前がこっち来るなんて、しかもバレーしに来るとか、そりゃあ見に行くしかねーじゃん?」
先輩の登場に大地さんと呼ばれたその人は大層驚いた顔をしていたが、直ぐに楽しそうに会話に応じている。
従兄弟に当たる人だと聞いていたが、見た目はあんまり似てないように思えた。
「つーか大地、見ない間にガッシリしたな~。今何キロくらいあんの?」
「最近計ってないけど......健康診断の時は、確か70くらいだったか?」
「マジかよ!クソ、絶対俺持てねぇじゃん......!」
「持たんで宜しい」
なぜか悔しがる先輩の言葉に、大地さんはバッサリ切り捨てつつ爽やかに笑った。
二人の仲睦まじい姿を見ながらひっそり先輩の影に隠れていると、私の少し前に居た木兎さんが「ヘイヘイヘイ!」といつもの楽しそうな掛け声をあげる。
「勝った~!俺78~!あと多分、烏野キャプテンなら俺持てるぜ!」
「え」
「は!?木兎お前、そんなにあんの!?どんだけムキムキなんだよ腹立つ!」
「わはは!鍛え方が違うんだよ、立嶋君!」
間に入った木兎さんの発言に対し、二人の驚く所は少し違ったようで、立嶋先輩と木兎さんはそのまま筋肉の話で盛り上がっていた。
一方大地さんの方はおそらく「持てる」という発言に驚いたようで、副部長の赤葦君がひっそりと謝罪している。
そんな赤葦君にも、木兎さんは話題の照準を向けた。
「なぁ、あかーし何キロだっけ?」
「.......俺も70くらいですが、絶対持たないで下さいね」
「え!烏野キャプテンと一緒!?あかーしの方が背ぇ高いのに!?」
「.............」
「ちょwそこは言ってやるなよ木兎wオトコのデリケートゾーンだろw後ほら、大地がデブなだけかもしれねぇし!」
「デブ言うな。ちゃんと筋肉だ!」
烏野の大地さんとは初対面だというに、木兎さんや赤葦君はあっという間にわいわい盛り上がってしまう。
相変わらずのコミュニケーション能力の高さを間近に見て、素直に凄いなぁとしみじみ思った。
「そういう恭平は何キロなんだよ?」
「.......あー、夏初の1.5倍くらい?」
「え?」
自分のことになった途端、歯切れの悪くなった立嶋先輩の返答に大地さん、木兎さん、赤葦君の目が私に向く。
急に集まった視線にどぎまぎしてしまい、反射的に俯いて先輩の影に隠れた。
「ふーん、じゃあ夏初ちゃん何キロ?イッテ!!」
下を向いていたので詳細はわからないが、木兎さんの恐ろしい発言が終わるか否かのタイミングで痛そうな衝撃音と木兎さんの悲鳴が聞こえる。
怖々と顔を上げると、長身を屈めて脇腹をおさえた木兎さんが見えた。
思わず目を丸くすると、木兎さんは涙目になりつつ隣りにいる人物......赤葦君を恨みがましく睨みつける。
「何すんだ赤葦!!すっげぇ痛かったんですけど!?」
「.......どう考えても女性にする質問じゃないでしょう。森に謝ってください」
「!!!」
反撃する木兎さんだったが、赤葦君に絶対零度の視線を向けられビクリと身体を固くさせた。
しょんぼりとした木兎さんから直ぐに「ご、ごめんね......」と頭を下げられ、慌てて首を横に振る。
「......もしかして、この子が園芸部の後輩?」
「そ!夏初、挨拶!」
「!」
木兎さんに大丈夫ですとおざなりなフォローをしていれば、ふいにそんなことを言われ、今度は私の身体がビクリと固くなった。
しかしながら、先輩の従兄弟さんである大地さんに挨拶する為に私はここへ来たので、本来の目的を全うする為に小さく深呼吸を繰り返す。
「.......二年の、森です......初めまして......」
ちらりと大地さんの顔を見てからおずおずと頭を下げると、大地さんは「初めまして、三年の澤村です。恭平がいつもお世話になってます」と丁寧な挨拶を返してくれた。
世話になってるのは私の方ですとまた慌てて首を横に振れば、「俺の親みたいに言うんじゃねぇよw」と立嶋先輩が可笑しそうにふきだす。
「コイツ、自由奔放だから相手にするの大変でしょ?疲れてきたら全部無視していいから」
「.............」
「オイ大地、余計なこと言うんじゃねぇよ。夏初が本気にしたらどうすんだ」
「恭平が誠実にしてれば何の問題もないだろ」
私を気遣うような大地さんの発言に驚いて目を丸くしていれば、直ぐに先輩が不服を訴えたが見事な返り討ちにあっていた。
大地さんは背丈は先輩と同じくらいだけどとても逞しい体付きであり、対面すると少し緊張を覚えたが笑った顔が非常に優しく、とても爽やかな印象を受ける人だ。
どことなくヒトを安心させる空気を携えていて、そこは立嶋先輩と一緒だなぁと密かに思ってしまった。
「そういやさ、烏野の戦況はどうなの?なんかすげぇ一年が入ったって聞いたけど、どの子?」
「え?そうなの?」
唐突に話題を変えた先輩の言葉に、真っ先に反応したのは大地さんではなく木兎さんだ。
ワクワクした様子を見せる二人とは対照的に、大地さんは頭を掻きながら「......あー......それなんだけど......」と何とも形容しづらい反応を示した。
「実は、期末テストの結果が悪くて、今日は補習受けてるんだ......」
「は?」
「補習ぅ?何、今日来ないの?」
「いや、多分夕方くらいには間に合うと思う。まぁ、高速が混んでなければの話なんだが......」
至極言いにくそうに訳を話す大地さんに、先輩と木兎さんはお互いちらりと目を合わせると、ほとんど同時にふきだした。
「だっはっは!補習で来られないとかすげぇなw頭、バレーに全振りしてる感じかw」
「オイオイオイ、一年でそれとか大丈夫か~?w俺早く100パーの烏野と試合してぇな~?」
「くッ......」
「木兎さん、俺達はまだテスト返ってきてないでしょう。笑ってられるってことは、今回は大丈夫なんでしょうね?」
「ぐぬっ......」
立嶋先輩と大笑いしていた木兎さんだったが、赤葦君の一言でピタリと笑うのを止めた。
そんな木兎さんの様子を見て、「ぼっくんお前もかw」と先輩は更に笑う。
でも、先輩も以前私にあんまり期待できないって言ってたと思うけど......受験生として大丈夫なんだろうか。
「とにかく!そのすげぇ一年ってのがこれから来る訳だな!そいつら来たら教えてくれ!」
「ちなみに今どこら辺に居んの?宮城からだと東北自動車道使って......川口から来んのかな?もう関東には入ってるのか?」
「そうだな......おーい、誰か日向達と連絡取ってるヤツ居るかー?」
赤葦君の冷めた視線から逃げるように、木兎さんは大地さんに声を掛ける。
その隣りで立嶋先輩が質問すると、大地さんは顎に手を当て少し考えてからおもむろに烏野メンバーの方へ振り返った。
大地さんの声に反応したのは、色素の薄い綺麗なアイボリーの髪の男の人だ。
目元の泣きぼくろが印象的なその人は、自分の携帯を持ってこちらへやって来た。
「お邪魔しますよ~っと。これ、さっき来た日向からのメール」
そんな言葉と共にパッと差し出された携帯の画面を見ると、【カンバンの漢字が難しくて読めないです!(泣)冴子姉さんに聞いても“根性で読みな!”しか言ってくれなくて!(泣)影山はバカだし!】という、何とも気の毒な文章が打たれていた。
「いや、漢字読めなくても下にローマ字で書いてあんだろ......動体視力はどうしたバレー部」
「.......残念ながら、ローマ字も怪しいかもしれない......」
「マジか」
立嶋先輩の言葉に、携帯を見せてくれた男の人は目元を片手で覆いながら苦渋の表情を浮かべた。
高校生にもなって地名もローマ字も読めないって、本当にどういうことなんだろう。
今まで本当にバレーボール以外のことをしてこなかったのだろうか。
「あ、恭平、コイツがスガ。うちの副主将」
「おお、どうも!大地の従兄弟の立嶋恭平です、よろしく!」
「え、従兄弟なの?全然似てないな......って、当たり前か。菅原孝支です、初めまして~」
大地さんが立嶋先輩に紹介したその人......菅原さんは先輩と大地さんを見比べた後、眉を下げて笑う。
確かに従兄弟と言っても、血縁関係はあるけどそっくりという場合は少ないよなと一人で考えていると、菅原さんはふいにこちらへ視線を寄せてきて思わずギクリと身体を固くした。
「......で、後ろの子は恭平君の彼女?」
「!?」
「フッフ、そう思うだろ?......実は、彼女なんだわ」
「!?」
予想外の質問に否定するのも忘れて驚いていれば、立嶋先輩はまた訳の分からない冗談をかましてくる。
慌てて違いますと口に出そうとすると、私より先に木兎さんが驚きの声を上げた。
「え!?やっぱそうなの!?前に違うって言ってたじゃん!」
「おい、梟谷の主将がびっくりしてるぞ」
「違います。立嶋さんが所属する園芸部の後輩です」
「そして副主将が説明してくれたぞw」
木兎さんの反応に大地さんが、赤葦君の発言に菅原さんが息ぴったりでツッコミを入れると、立嶋先輩は顔に手を当てながら「も~~~、身内~~~!」と面白くなさそうに嘆いた。
先輩の大層残念そうな姿を見て、烏野の二人は可笑しそうにふきだす。
私がなにかを言う前に事実確認が取れてしまったので、結局何も言わないまま先輩の後ろにひっそりと立っていた。
「そうだ、俺らこれから食堂行くけど、烏野場所わかる?もしあれなら連れてってやろうか?」
ここで木兎さんが思い出したように話題を変える。
木兎さんの言葉に一頻り笑い終わった大地さんは、「いや、大丈夫だ」とおもむろに片手を振った。
「黒尾に聞いてるから場所はわかる。ストレッチだけしときたいから、俺らは後から行くよ」
ありがとな、と最後にお礼で締められた言葉に、木兎さんも快く「わかった!」という返事だけして立嶋先輩と赤葦君に顔を向けた。
「ていうことだから、俺らは先に行こうぜ!腹減っちゃった!」
「いや、木兎さんが勝手に着いてきたんでしょう。決定権は立嶋さんにあります」
「じゃあ立嶋、食堂行こうぜ」
「.............」
「ぶはっwいいよアシ君、あんま気にすんなw」
いつも通りとても自由な木兎さんに赤葦君は顔を顰めるが、立嶋先輩が大して気にしてない様子を見て諦めたように小さくため息を吐く。
「じゃあな大地、夕方頃試合見に行くからよろしく!」
「おう、また後でな」
先輩と大地さんの軽い挨拶を最後に、烏野の方々とは一旦離れて体育館の出口へ向かった。
見慣れない人達と離れたことでひっそりほっと息を吐くと、隣に居る赤葦君が「大丈夫?」と気にかけてくれる。
赤葦君の気遣う能力の高さは本当に凄いなぁと思いつつ、「大丈夫です......」と小さく頭を下げた。
そして、食堂へ向かう立嶋先輩と木兎さんに伝えないといけないことがあるので、前を歩く先輩に声を掛ける。
「あの、立嶋先輩......私、今日、お弁当持ってきちゃいました......」
「あら、そうなの?」
「すみません......」
私のお弁当箱は園芸部の部室である第三会議室にある。
このまま食堂へ向かってしまえばお昼ご飯が食べられないことを伝えると、立嶋先輩はなぜか赤葦君を見た。
「じゃあアシ君、悪いけど夏初についてってやってくんね?」
「え?」
立嶋先輩の発言に私と赤葦君が同時に聞き返す。
言葉が聞こえなかったのではなくて、意味がわからなかったからだ。
「......あの、私、一人で行けます......先輩が食堂で食べるなら、私も食堂に行きますよ......?」
「いや、そらわかるんだけどさ。今って色んな高校がここに居るんだろ?しかも運動部男子。万一絡まれたらお前、どうすんの?一人で対処出来るか?」
「.............」
先輩の言葉に思わず押し黙ってしまう。
絡まれるようなことはおそらく無いだろうけど、万が一にもそうなった場合、正直言って上手く対応出来る気がしない。
「.............」
だけど、休憩時間である赤葦君の手を煩わせるのも非常に気が引けて、結局何の返答もできないまま顔を俯かせた。
......ああ、まただ。また、自分の嫌いな所が浮き彫りになってしまった。
こんな調子じゃ、自分を好きになるなんて一生できないんじゃないか。
「わかりました。森、行こう」
「.......すみません......ありがとうございます......」
優しい赤葦君は勿論断ることはせず、先輩からの面倒事を快く引き受けてくれる。
それにただ甘えるだけしかできない自分の情けなさに心底辟易しながら、先輩と木兎さんとは一旦別れ、赤葦君と一緒に第三会議室へゆっくりと足を向けるのだった。
棒ほど願って針ほど叶う
(......立嶋さん、もしかして気付いてるのか......?)