AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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期末試験明け、最初の休日がやってきた。
今日の予定は満載で、午前中は部活、午後も部活をやりつつ男バレの合同試合の見物、夕方からはバイトが入っている。
水色のTシャツに学校指定のジャージのズボンを履き、麦わら帽子と軍手を付けた私は、同じような格好をした先輩と汗だくになりながらも部活に勤しんでいた。
「でさ、木兎のヤツ、また俺を6時きっかりに叩き起しやがってよ。何、あいつは俺のアラームですか?ムカついたから今日の試合全部負けろって送って直ぐに通知オフった」
「......えぇー......」
昨日植え替えた中等部の花壇に水をやりながら、朝から機嫌の悪い立嶋先輩の話に耳を傾ける。
どうやらまた木兎さんの早朝ラインがトラブルになっているようだ。
木兎さんも木兎さんだが、先輩の対応もなかなか酷い。
そして未だに木兎さんの返信を確認していないらしいので、おそらく通知が凄いことになっているのでないだろうか。
立嶋先輩と木兎さんの相変わらずな関係に苦笑をもらしていると、「お前は何も連絡無かったの?」とホースを持っている先輩が聞いてきた。
「赤葦君からは昨日の夜、土日どっち見にくるのかって聞かれました。一応、どっちも見るつもりですって答えてます」
「おお、やっとアシ君とライン始めたか。じゃあ木兎のも教えっから、ついでにコイツの相手もしてよ」
「.............」
先輩の言葉に思わず押し黙る。
おそらく悪気はないであろう木兎さんをそんなに邪険にしなくても、という気持ちと、木兎さんとのラインは色々な意味で大変そうなので正直遠慮したい気持ちが絶妙に混ざり合い、結局何も言わないで作業に集中した。
そのまま10時までの朝の水やりを終え、花壇の様子をチェックする。
夏枯れしている子達は今のところ居ないようなので、ホースを片付けた後はボサボサになってしまっている植木の草むしりと簡単な剪定作業に移った。
学園内をぐるりと囲む生垣のレッドロビンは、年に2、3回刈り込む必要があり、先輩と校長先生、用務員さんが話し合った結果、今日明日で行うことになったのだ。
剪定バサミと刈り込みバサミ、高枝切りバサミを取り出し、剪定後の処理に使う箒とちり取り、ごみ袋も用意する。
「夏初、今日バイト何時からだっけ?」
「18時からです。なので、17時にはここを出たいです」
「リョーカイ、そしたら今日はMAX15時半までな。で、着替えて男バレの試合見て、解散でいいか?」
「大丈夫です、ありがとうございます」
先輩のたてたスケジュールに異論ないことを示すと、「んじゃ、ちゃっちゃとやっちゃいますか」と先輩は歯を見せてニッと笑った。
「あ、熱中症だけは気ぃ付けろよ。こまめに水飲んで、帽子もちゃんと被っとけな」
「はい、気を付けます」
「よし。じゃ、美味い飯食う為に働くぞ~」
相変わらずブレない先輩の掛け声に思わず笑ってしまいながら、最初に手を付ける生垣へ肩を並べて移動するのだった。
▷▶︎▷
適度に休憩を取りつつ剪定作業に勤しむも、学園内をぐるりと囲む生垣を全て綺麗に揃えるというのはなかなか時間が掛かってしまう。
私も先輩もお互い汗びっしょりな状態であり、これは日中ではなく少し気温が下がる夕方から作業した方が適切なのではと相談していた。
明日は午前中の水やりを終えたら男バレの応援に行き、その後作業に戻るというスケジュールになりそうだ。
日中の一番暑い時間に力仕事をするのは、正直ナンセンスだろう。
「......お、木兎達、これから昼休憩だってよ」
木陰に入り水分補給をしていると、タオルを頭に巻いた先輩がスマホの画面をこちらに寄越した。
どうやら木兎さんとのトーク画面のようで、【園芸部昼メシ食った?俺らこれからなんだけど!どう!?】という木兎さん節全開の文章が並んでいる。
あの元気な声で自然と再生された文章に思わず笑ってしまうと、立嶋先輩は「俺らはお前の彼女かっての。つーか、どう!?ってなんだよw」と可笑しそうにふきだす。
木兎さんも立嶋先輩もどうやら後に引かないタイプらしい。本人同士の話し合いが無くても、早朝ラインのトラブルは既に影も形もなくなってるようだ。
「あ、そうだ。俺、大地に会っときてぇな」
「......先輩のご親戚ですよね?」
「そ、従兄弟。アイツ何処居っかな~」
腰に片手を当て、スマホを弄る先輩をぼんやりと見ていると、立嶋先輩はすぐにパッと顔を明るくした。
「おお、烏野も梟谷もまだ体育館居るってよ!ちょっくら顔出し行こうぜ!」
「え......」
「俺、大地に夏初のこと少し話してんだよ。だから1回会ってやって?で、俺の勤勉さをとくと教えてやってくれ。後は適当に褒めてくれればいいから」
「.......それ、完全にやらせじゃないですか......」
「いいんだよ。だってアイツ、俺が真面目にやってるっつっても全然信じてくれねぇんだもん」
「.............」
拗ねたように口をとがらす先輩を横目に見つつ、思ったよりも早く訪れた事態にひっそりと戸惑っていた。
梟谷男バレの試合を見るのは本当に楽しみなのだが、如何せん、昨日の今日で人見知りが治るはずも無く私の心身は情けなくもどんどん強張っていく。
以前はうちと音駒高校のみだった体育館が、今日は他県3校のバレー部員が集う空間になっている。
知らない人だらけの空間に行くことが心底苦手な私にとって、これからすることは憂鬱以外の何ものでもなかった。
「.............」
心身共に縮こまる自身の情けなさにがっかりしながら、マフラータオルに顔を埋める。
ああ、もう、しっかりして。
今日は自分で行きたいと思って来たんだから、ここで怖気付いてどうするの。
「.............」
「.......ま、大地にはお前が人見知りってこと話してるし、別に無理して話さなくていいけど」
「.............」
ざわざわと騒ぎ出した心臓にたまらず俯いたままでいると、頭の上に先輩の大きな手が乗っけられ、ぽんぽんと何度か軽く叩かれる。
まるで親が子をあやす様なその手つきに、安心感と申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
おずおずとタオルから顔を上げ、先輩を見上げる。
おそらくとても情けない顔をしている私と視線を重ね、立嶋先輩は可笑しそうにふきだした。
「ったく......お前は本当に手のかかるやっちゃな~」
「.......すみません......」
「声ちっさw......ほら、行くぞ!」
落ち込む私とは対象的に立嶋先輩は明るく笑いながら、しゃがんでいる私の腕を引っ張り立ち上がらせる。
その際被っていた麦わら帽子が落ちてしまい、それを拾い上げていると地面を蹴る音がして思わず顔を向けた。
まさかと思って見てみれば、立嶋先輩はこの暑い中颯爽と体育館へ走っていく姿が見える。
「夏初~!体育館まで競走な!負けたら昼飯のアイス奢ること!」
「え......えぇ~!?わ、私足遅いからムリです!せめてハンデください!」
「じゃあ今から10秒待ってやるよ!はい、いーち、にー、さーん、」
「!!」
突然過ぎる開戦宣言に混乱しつつ、私は慌てて体育館の方へ走り出した。
木陰から出た瞬間、身を焦がすような夏の太陽に軽く悲鳴を上げながらも懸命に足を動かす。
何でこんなことになったんだと考えれば考える程夏の暑さがしんどくなり、とりあえず走ることに専念しようとすれば一瞬の風を背中に感じ、あっという間に後から駆けてきた立嶋先輩に抜かされてしまった。
「.............っ、」
私よりもずっと足が速い先輩の背中はどんどん遠くなる。このまま置いて行かれてしまうことが急に不安になり、無意識にじわりと涙の膜が張った。
「先輩......!待って......!」
息も絶え絶えに叫んだ言葉に、綺麗なフォームで走っていた先輩がふいにこちらへ振り返る。
「早く来いよ!夏初!」
炎天下の校庭で楽しそうに笑う立嶋先輩は、夏の青空と太陽光に合わさってきらきらと輝いて見えた。
▷▶︎▷
「このクソ暑い中、何してんの?園芸部は馬鹿なの?」
体育館に着いた早々、出会い頭に木葉さんは鋭い正論を言い放った。
ぜぇぜぇと肩で息をしながら、先輩は「うるせぇ、ちょっと青春したかったんだよ」と完全に負け惜しみを返す。
「いいから水寄越せや」
「いや、文化部が運動部にたかるんじゃねぇよw」
「じゃないと死ぬぞ、夏初が」
「.......ちょっと待ってなさい」
立嶋先輩と木葉さんのやり取りをぼんやりと聞きながら、荒い呼吸を何とか整えようと奮闘するもなかなか思うようにいかず、目の前がぐるぐると回りだすばかりだ。
熱中症に気を付けようと言っていたのに、うっかり二人してバカなことをしてしまった。
とめどなく流れてくる額の汗を手の甲で拭い、今更ながら自分の浅はかな行動を後悔していると、しゃがみ込んでいる私の頭に冷たいものが当てられる。
「.............?」
自分の足元に固定していた視線をゆるりと上へあげれば、いつの間にか目の前に赤葦君の綺麗な顔があった。
切れ長の瞳と私のそれが重なり、少し遅れて驚きが来る。
「.......あ、赤葦、君......?」
「木葉さんから聞いた。炎天下の中走り回ってたんだって?」
「.............」
相変わらず無表情に近い顔で、呆れた口振りで話された内容に思わず言葉を詰まらせた。
赤葦君の鋭い視線を前にしれっと肯定することも出来ず、かと言って何か上手い言い訳も思い付かなかった私は、結局また視線を下にさげて「.......すみません......」と謝ることしか出来なかった。
そんな私の最悪な返答に、赤葦君は小さくため息を吐く。
「......とりあえず、これ飲んで。気持ち悪いとか目眩がするとか、そういうのはない?」
手渡されたのは紙コップに入ったスポーツ飲料で、先程頭の上に置かれた冷たいものがこれであったことがわかる。
紙コップを受け取りながらおずおずと「大丈夫です......」と答えると、赤葦君は再度ため息を吐きながらおもむろに私の顔色を眺めた。
おそらく私が体調を崩してないか見てくれてるのだろう。ありがたい気持ちと申し訳ない気持ちがないまぜになり、沈んだ思考のままゆっくりと紙コップに口をつけた。
「木葉クン、おかわり~」
「残念だが、二杯目からは金取るってよ」
「はぁ?せっこい商売しやがって。スポーツマンシップはどーした?」
「ちなみにこれ作ったの、白福と雀田。立嶋の言葉、ちゃ~んと二人に伝えておくからな」
「超美味しかったです、ご馳走様でした。で、烏野どこ居る?」
「.............」
自分の立場が不利になった時の先輩の変わり身の速さときたら......ある意味、本当に潔く切り替えが出来る人である。
そんな先輩に木葉さんは可笑しそうに笑ってから、「そういやお前の従兄弟なんだっけ?烏野のキャプテン」と話を繋いだ。
「多分まだ中に居ると思うけど......」
「あ!園芸部じゃん!何だよ来てたんなら言えよ~!」
先輩と木葉さんの話を遮るように元気な声が響き渡り、この場にいる全員の視線は自然とそちらへ向く。
声の正体は予想通りの人物、男バレ主将でエースの木兎さんだ。
「これから昼?じゃあ一緒に食堂行こうぜ!」
「いや、その前に俺、烏野キャプテンに用あんだわ」
「あ、そうなの?じゃあ夏初ちゃん、一緒行こ!」
「残念ながら園芸部はニコイチなんでダメです。ぼっくんお先にどーぞ」
先輩の言葉に木兎さんは「えー!なんだそれー!」と不服の声をあげる。
しかしながら、まさか自分にそんな誘いがくるとは思ってなかったので、そしてもしそんな事態になったらおそらく耐えられないので、今は先輩の一刀両断の判断に感謝しかなかった。
「俺、声掛けてきましょうか?」
文句を垂れる木兎さんを無視して赤葦君が提案すると、立嶋先輩は「や、完全に私用だからいいよ。ありがとな」と柔らかく笑う。
「んじゃ、ちょっくらお邪魔してきますよ~」
立嶋先輩が動き出したので私も慌てて紙コップの残りを飲み干し、赤葦君に「ご馳走様でした」と頭を下げてから立ち上がる。
「コップ預かるよ」と気遣ってくれた赤葦君を丁重に断り、じゃあまた後でと簡単な挨拶をしてから先輩の後を追った。
「待て立嶋!俺も行く!」
先輩に追い付いた矢先、背中からそんな大きな声が聞こえて思わず二人揃って後ろを振り返った。
今の発言をしたのは木兎さんであり、駆け足でこちらへ向かってくる。
「.......一応聞くけど、なんで?」
「なんでも!」
「.............」
突然の木兎さんの同伴に先輩が質問したが、返ってきたのはとても木兎さんらしい答えだった。
私と先輩が黙ってしまうと、また一人こちらへ足を向ける人物が出て来る。
「.......粗相のないようにしますので、何卒ご容赦ください」
「.............」
木兎さんの後ろにつき、立嶋先輩へ頭を下げる赤葦君だったが、その瞳にはまるで「手綱はしっかり握ってますので」と書いてあるかのように見えた。
「......俺は先に食堂行ってるからな」
そんな木葉さんの声を最後に、私達園芸部と梟谷男バレの主将と副主将の四人は宮城から来た烏野高校の元へ向かうのだった。
旅は道連れ世は情け
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