AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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高校二年生にもなって、顔に青アザが出来た。
帰宅してからも氷とタオルでちゃんと冷やして安静にしていたのだが、翌日洗面台の鏡を見ると右頬骨辺りに直径5センチ程の青アザが綺麗に広がっていた。
触ると痛いし、この酷い顔のまま学校に行くのもとても嫌だ。
どうしたもんかと少し悩んでから、青アザ隠し用に大きめのマスクを着けて家を出た。
「おはよー、どしたの?風邪?」
席に着いた途端、前の席に座る友人が開口一番にマスクのことに触れてくる。
「ちょっと、怪我しちゃって......」
「え、顔を?大丈夫?転けた?」
「うん......まぁ、そんな......でも、大丈夫」
心配してくれる友人にへらりと笑って返す。
まさか昨日の忘れ物の一件で、バレー部のボールが顔にぶつかったなんて話せば朝の話題はこれ一つになってしまうだろう。
バレー部の人も別に悪気があってボールをぶつけた訳では無いし、そもそも私が気を付けてなかったのが悪いのだから、話のネタとして言いふらすようなものではないと思い、私はすぐに話題を変えて友人との会話を楽しんだ。
マスクを着けたまま午前の授業が終わり、昼休みの時間になる。
さすがに飲食をするとなるとマスクを外さないといけないので、いつもの仲良いメンツで集まってからそっとマスクを外した。
「え、なにそれ、やばくない?超痛そう」
「すっごいアザ......大丈夫?」
軽く引いてる友人と心配してくれる友人に「触ると痛いけど大丈夫」と容態を告げる。
「化粧で隠す?コンシーラーとファンデで何とかなるならやったげようか?」
「うーん......ごめん、痛いから、なるべく触りたくない......」
「跡、残らないといいけど......内出血だからそれは大丈夫かな?」
「多分それは大丈夫だろうって、保健室の先生には言われた」
思った通り、私の顔の怪我のことで話題が持ち切りになってしまった。
治るまでは暫く話のネタにされてしまうんだろうと軽く項垂れつつ、お昼ご飯のフルーツサンドを口に運ぶ。
パインやミカンの甘酸っぱさとクリームのまろやかな甘みが口内に広がり、やさぐれかけた気持ちが少し立て直された。
「これは暫くマスク生活だねぇ」
「でも、体育の時は外さないとじゃない?」
「うーん、事情話してもだめかなぁ?ご飯以外ではなるべく外したくない......」
水筒に入れてきた冷たい緑茶を飲みながら、そういえば今の体育の授業はバレーボールだったなとぼんやりと思い出した。
授業の一貫での女子のバレーボールと、きちんとした部活動での男子のバレーボールとでは当然のことながら雲泥の差がある。
バレーボールという球技は生半可な気持ちでやっていいものではないのだと、昨日身を持って理解した。
改めて昨日の自分の愚行をひっそり悔やんでいると、ふと教室の外がやたら賑やかなことに気が付いた。
それは私だけでなく、友人達も不思議に思っているようだ。
「え、なんだろ?誰か来てるのかな?」
「イケメンとか?見に行く?」
「いってらっしゃいませ~」
「夏初が行かないのは知ってる」
廊下が気にならないことはないが、好き好んで知らない人に会いたくない。
まぁ、自分には関係ないだろうと早々に踏んで、のんびり冷たい緑茶を口にしていた矢先、教室のドアが勢いよく開かれた。
「すみませーん!森 夏初サンは居ますかー!?」
教室中に響き渡る程大きな声で自分の名前を呼ばれ、思わずぎょっとする。
一体何かと思ってドアの方を見ると、昨日私にボールを当てたバレー部の三年生、特徴的な髪型の木兎さんが興味深そうに教室を覗いていた。
「ちょっと木兎さん、いきなりそんなこと言ったら怖がりますって......」
少し遅れて木兎さんに声を掛けたのは、どうやらこのクラスの赤葦君のようだ。
背の大きい二人が教室へ入ってくると、なんだか周りの物がとても小さく見えてしまう。
何やら言い合いをしつつもゆっくりとこちらへ向かってくる二人にただ呆然としていると、適当な距離で二人と目が合った。
思わずギクリと身体を強ばらせると、二人はなぜか目を丸くして少し固まる。
え、何だろう?と首を傾げた途端、木兎さんが慌てた様子でこちらへ走ってきた。勢い余って机を蹴ってるのが気になる。
「うそだろー!?めちゃめちゃアザになってんじゃん!!うわー!!マジでごめん!!」
「ひぃ゛ッ!?」
座っている椅子と前にある机に大きな手をつかれ、囲い込むような形で大規模な謝罪をされた私は、為す術なく思い切りビビるしかなかった。
なるべく距離を取ろうとギリギリまで後ろに下がると、木兎さんの上半身が勢いよく後ろへ下がる。
「木兎さん、森が怖がってます。やめてください」
どうやら赤葦君が木兎さんの身体を後ろへ引っ張ってくれたらしい。
至近距離では無くなったので少しほっとしたが、あまり接点の無い男子二人が自分の対峙しているという事実はどうにも居心地が悪かった。
一体どうすればと友達に視線を送るも、二人とも驚いた顔のまま赤葦君と木兎さんを見ているだけだ。
こんなことになるなら昨日のことを話してしまえばよかった。
「......ごめん、この人、気になる事があるとじっとしてられなくて」
「だって俺がボールぶつけたし、なのにちゃんと謝ってなかったし、大丈夫かなってずっと考えてて!」
「......と、いうことなんだけど......こんなアザになってるなんて俺も知らなかったから、ちょっとびっくりした......」
木兎さんと赤葦君の言葉に、なるほどさっき目を丸くしていたのはそのせいかと思いつつ、カバンから使い捨てマスクを一枚取り出して一先ず口元に装着した。
友達以外に、そしてわざとではなくても私の青アザを作った張本人には、あまり見てもらいたくない代物だ。きっとお互いに気が引けるだろう。
「......あ、あの......本当に、大丈夫、なので......全然、気にしないで、ください......」
マスクを着けてから改めて二人に向き合い、だけど目を合わせることはあまり出来ないので視線を下げた状態でしどろもどろに返答する。
でも、今回のことは自分の不注意と運の悪さが重なって起こったことだと思っているので、バレー部の方々が気にすることは本当に何一つないのだ。
「でも、顔、痛いだろ?本当にごめんな?女の子なのにこんなアザ作らせちゃって......」
「......いえ、全然、大丈夫です......」
「俺、なんかお詫びするよ。あ、焼きそばパン食える?」
「......え、と......本当に、平気なので......大丈夫、です......」
私は本心から問題ないと伝えているのだが、どうやら木兎さんの方はどうしても気にしてしまっているようだ。全く聞く耳を持ってくれない。
そしてどうしていきなり焼きそばパンなんだと心の中で疑問に思っていたら、木兎さんと私のやり取りを見ていた赤葦君が「......木兎さん、ここは一度引きましょう。昼飯を食べる時間がなくなります」と声を挟んでくれた。
「赤葦、でも、」
「森もこう言ってますし、このまま押し問答を続ければ俺らだけじゃなく森の昼休みも奪うことになりかねません」
「!!」
不服そうな顔をしていた木兎さんだったが、赤葦君の最後の言葉でやっと納得してくれたらしい。
赤葦君を少し見てから、木兎さんは再度私に顔を向ける。
意志の強そうな黄金色の瞳は、どことなく猛禽類を彷彿させた。
「......じゃあ俺また明日来るから、それまでに何してほしいか考えといてな!」
「......え......?」
話が思わぬ方向へ転がり、思わず聞き返してしまう私を他所に、木兎さんは人懐こい笑みを浮かべてから颯爽とこの教室を後にした。
まるで酷い嵐に遭ったような心境で呆然としていると、木兎さんに残されたのか、あえて残っているのかはわからない赤葦君が小さくため息を吐く。
「......なんか、重ね重ねごめん。明日も少し付き合って貰うことになるかも」
「......あ、の......赤葦君、私、本心から、言ってるので......本当に、平気なんです......」
「......うん、わかった。でも、今は木兎さん、責任感じてる分だけ暴走してるみたいで......だから多分、今は何言っても聞かないと思う」
「.............」
赤葦君の淡々とした口調で告げられた言葉に、私は何と返せばいいのかわからず、ただ押し黙るしかなかった。
暖簾に腕押し、糠に釘
(僕さんのこと、完全に怖がってるな......)