AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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金曜日、期末試験の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
「お疲れ様でした。シャーペン置いて、後ろから前へ送ってください」という定型アナウンスを聞きながら、後ろの席から送られてきた答案用紙に自分の分を重ねて前の席へ渡す。
いよいよ12科目全ての試験が終了した。
手応えはあるようでないような微妙な感じではあるが、とにかく今は試験期間が終了し、これからいつも通り部活が出来るのが嬉しくて仕方がない。
悪天候のため延期になっていた中等部の玄関前の花壇の入れ替えをやらなければいけないし、他にも正門近くの花壇の手直しや体育館側のフェンスの蔦むしり、職員室の前の花壇も手直しが必要だった気がする。
試験期間中、やりたかった事は沢山あるので早く部活に行きたくてうずうずしていた。
「つっかれた~!夏初、今回気合い入れてたみたいだけど、どーだった?」
「んー......特別悪いものはないと思うけど......特別良いものも、なさそうかなぁ......」
「自己採点した時点で?」
「うん......今日のはこれからだけど、手応えはあるんだか、ないんだかな感じ......」
前の席の友達の言葉に素直な感想を返すと、「悪いものが無さそうならまぁいいんじゃん?」と笑われた。
これで解答欄がズレてたとか、そういう間抜けなケアレスミスが無いといいんだけど、如何せん、自分にどうしても自信が持てない為、絶対に有り得ないと思えないのが悲しい所だ。
「この後部活?」
「うん!」
「あはは、めちゃめちゃご機嫌じゃんw」
「ふふふ」
少しだけ不安に駆られた心が、部活の話をされたことにより珍しくあっという間に立ち直る。
友達には半分呆れた感じで笑われてしまったが、気にすることなくにこにこと笑い返してしまった。
最後のテスト監督がこのクラスの担任の先生だった為、試験終了後そのまま帰りのホームルームが始まる。
自己採点、テストの返却、フィードバックまでがまるっと期末試験だからなと先生から話されるものの、期末試験からの解放感にそわそわしているクラスの皆にはあまり響いていないようだ。
かく言う私も、確かにそうだなとは思いつつ真っ先にやりたいのは自己採点ではなく部活であり、正直なところもう直ぐにでも部室へ向かいたい気持ちでいっぱいである。
「......まぁ、試験結果が出るまではあんまり羽目外すなよ。あと、赤点ある奴は夏休み中でも補習あっから覚悟しておくように」
浮き足立つ生徒達に先生からグサリと釘を刺すように伝えられた内容に、所々から悲鳴が上がる。
多分赤点は無いと思うんだけど、もしあったら嫌だなぁ......。
眉を下げながら今までのテスト内容を思い出している内に、帰りのホームルームは先生の挨拶と共に終わりを告げた。
いつもならもたもたと立ち上がるところだが、今日は自分でも驚く程素早く席を立ってしまう。
「じゃあ、また月曜ね」
「じゃあね~、いってらっしゃい」
「うん、いってきます」
座ったままでこちらへ手を振る友達に私も手を振り返し、カバンを持って早足で教室のドアへ向かう。
途中、何人かの友達と帰りの挨拶を交わしながら教室を出て、いけないとは思いつつ廊下を小走りした直後、後ろから名前を呼ばれてギクリと動きを止めた。
もしかして、廊下を走ろうとした私への注意だろうか?そうだったら、高校二年生にもなって本当に恥ずかしい。
「.............」
恥ずかしさと後ろめたさに先程までの楽しい気持ちはすっかり萎んでしまい、おずおずと声を掛けられた方へ顔を向ければ、私を呼んだのはどうやら同じクラスの赤葦君のようだった。
ひとまず担任の先生ではなかったことにほっとしてしまう。
「......ごめん、時間ないなら全然構わないんだけど......」
咄嗟の私の反応に、よく気の回る赤葦君は直ぐに気遣ってくれる。
ただ単純に部活が楽しみなだけで、格段急いでる訳ではない為、慌てて首を横に振った。
何か用事でもあるのかなと考え始めた私の頭に、そういえば昨日の部活の時間、園芸部の部長である立嶋先輩が男子バレー部主将である木兎さんと副主将である赤葦君に悪戯に水を掛けてしまったことが思い出される。
その件についてはまだ謝罪していなかったので、青ざめながら勢いよく頭を下げた。
「あ......昨日は立嶋先輩が、ごめんなさい......テスト、終わってなかったのに......風邪とか、引いてないですか......?」
「.............」
先手必勝とばかりに謝罪を申し出た私だったが、赤葦君から何の返答も来ないのですっかり顔を青くしつつ頭を下げたまま立嶋先輩の愚行を恨んだ。
いや、同じ園芸部である私も先輩を止めなかったのだから、責任は私にもあるだろう。
私の中のしっかりした人の理想像である赤葦君のようになりたいのに、そんな彼を困らせたり怒らせたり、呆れられたくないのに、なんだか全てが裏目に出るというか、どうにも上手くいかないことが多いように思う。
そういえば、昨日も私がぼけっとしてる内に赤葦君も木兎さんも体育館へ戻ってしまったし、そして今の今までこれらの事をうっかり忘れてしまっていたし、どれだけ私の脳みそはキャパシティが少ないのかという話である。
「.............」
「.............」
「......いや、それは全然......俺も木兎さんも大丈夫なんだけどさ......」
「.............」
やけに遅れて返ってきた言葉に首を傾げつつ、少しだけほっとする。
これで赤葦君や木兎さんが体調でも崩してしまっていたらどうしようかと思った。
一先ず最悪の事態を引き起こしてないことに安堵していると、赤葦君は小さくため息を吐いてからおもむろに私の方へ足を進めた。
「......その感じだと、森気にしてない?」
「え?」
先程より近くなった赤葦君は、その切れ長の瞳を私に向けてそんな質問を投げてくる。
私が、気にする?え、何を?
パッと思い当たることが無くて思わず目を丸くしてしまうと、赤葦君は何かを考えるように少しだけ黙ってから、また小さくため息を吐いた。
「............それなら、大丈夫。呼び止めてごめん」
「.............」
片手で口元をおさえながら窓の外に視線を移す赤葦君の姿を見て、おそらく私に何かを聞こうとして、だけど私がピンと来てないから止めたんだろうなということが簡単にわかってしまった。
しかしながら、赤葦君が今何を私に聞こうと思っていたのかまではわからず何とも歯痒い気持ちになるものの、赤葦君はこの話は終わりだと言うように「やっと今日からちゃんと部活できるな」と違う話題を私に差し出す。
自分の不甲斐なさにがっかりするものの、赤葦君が退いた案件を私が掘り返すのもしのびない気がして、結局差し出された新しい話題に素直に頷いた。
「......明日から男バレ、合同合宿?あるって......」
「ああ、うん。この前試合した音駒と、埼玉と神奈川と宮城の学校がうちに来て、ローテーション組んで練習試合するんだ」
「......そんなに来るんだ......凄いね......」
東京の学校のみならず、他県の学校が3校も来訪することに驚きを隠せず思ったままの発言をすると、赤葦君は小さく笑って「うん、本当に有難いよ」と返してくる。
普段は淡々としていて考えがわかりにくい赤葦君だが、今はこれからの合同合宿が楽しみで仕方ないという顔をしているように見えた。
赤葦君の部活に対する思い入れがよく感じられて、それに感化されたのか私にも先程のわくわくした感じが戻ってくる。
「......試合、楽しみだね......」
「......うん」
「......私も、見に行くの、楽しみです......」
「.............」
またあの梟谷の楽しいバレーボールが見られるのが嬉しくて、たまらず笑ってしまう。
その中でも木兎さんのスパイクや赤葦君のトス、二人の信頼度抜群の掛け合いがとても楽しみだ。
「.......あの、さ。森が嫌じゃなければ、連絡先交換しない?」
「.............」
以前の音駒との練習試合を思い出していると、赤葦君からそんな申し出を受け、思わず目を丸くする。
私の反応が鈍いのを気にしてか、赤葦君は「ああ、無理にとは言わないけど」と直ぐにフォローしてくれる。
「.......あ......ありがとう、ございます......お願いします......」
「いや、この場合お礼言うのは俺の方だから」
「.............」
断る理由は特に思い至らなかったので、おずおずと頭を下げてこちらからもお願いすると、赤葦君は少し苦笑気味に笑った。
お互いスマホを取り出して、QRコードを読み取る。
出てきたアイコンを確認して登録すると、直ぐに【赤葦です。】というメッセージが律儀に送られてきた。
「......ありがとう。じゃあ、また連絡する」
「.............」
「森も部活、頑張って」
「.......うん......赤葦君も......頑張ってください......」
スマホを両手で持ちながら言葉を返すと、赤葦君は片手を緩く振ってそのまま教室へ戻っていった。
「.............」
赤葦君の姿が完全に見えなくなると、小さくため息を吐いてちらりと手元のスマホを見る。
真新しいトークルームには先程確認のために送られた【赤葦です。】という簡単な一文だけが浮かんでいる。
まさか、クラスで人気の高い赤葦君の連絡先をこのスマホに入れる日が来るなんて。
スマホ画面を見ながらふと左手首につけたホワイトカラーの腕時計が目に入り、人生は本当にどう転ぶかわからないものだなとしみじみ思ってしまった。
木兎さんのボールにぶつかってしまうまで、同じクラスとはいえ、赤葦君とは全く話さなかったのに。
「.............」
あの事件がなければ、きっと今もお互いに話さないままだっただろう。
勿論、木兎さんとも、男バレの先輩方とも。
バレーボールの試合を見に行くことも、その面白さや凄さを感じることも、きっとなかったはずだ。
「.............」
全てのきっかけとなった腕時計を指で軽く撫でてから、深呼吸を2回する。
意を決してスマホ画面に指を滑らせ、【森です。よろしくお願いします。】と短いメッセージを送信してから、直ぐにカバンの中にしまった。
いつもより少しだけテンポの速い心音を携えて、私は園芸部の部室である第三会議室へ足を進めるのだった。
災い転じて福となす
(なんかあかーし、今日機嫌良い?)