AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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月曜日が過ぎて、いよいよ火曜日から期末試験が始まった。
私達二年生は四日間で12科目の試験を受ける訳だが、テスト期間は早くに学校が終わるので園芸部の活動を少しだけ行なうことができた。
3教科ずつ試験を受けた後は立嶋先輩とお昼ご飯を食べて、学園内の花壇の水やりと簡単に植物の様子をチェックして、夕方より少し前に下校するというスケジュールになっている。
試験期間は文字通りあっという間に時間が過ぎて行き、木曜日の教科の試験が終わった。
いよいよ明日が期末テスト最終日だ。
明日の試験が終われば、また普通にめいっぱい部活をすることが出来る。
早く終わらないかなという気持ちとは裏腹に、今まで受けてきた試験の中でこれは上手くいったと思うものがあまりなかった為、明日までにもう少し勉強しなければと焦る気持ちが綯い交ぜになり、たまらず大きなため息をもらした。
「オイオイ、そんな辛気臭い顔するんじゃないよ」
シャワーノズルが付いたホースを片手に、立嶋先輩がそんな声を掛けてくる。
それに直ぐすみませんと謝れば、「ま、俺もあんまり期待できない感じだけどなぁ」と眉を下げて笑った。
私はまだ二年生だけど、三年生の先輩がそれだとまずいのでは......と少し不安に思いながらも、ヒトの心配をしてる場合ではないことを思い出し、再びため息を吐きそうになるのを寸前で止めて広々とした夏の空をあおいだ。
「.............」
どこまでも高く続く青空と、夏特有の大きな入道雲が瞳に映り、本当に良い天気だなぁと無意識に思考回路が切り替えられる。
強烈な光と茹だるような暑さを届けてくる夏の太陽に目を細めながら、人間も光合成が出来たらもっと気持ちいいだろうにと少々おかしなことを考えてしまった。
「おーい!園芸部~!」
麦わら帽子を片手で抑えながら夏の青空を眺めていると、遠くの方から耳馴染んだ明るい声がホースの水越しに聞こえて、相手の予想をつけながらそちらへ顔を向ける。
少し離れたところから元気に駆けてくるその人は、やはり思った通りの相手だった。
「園芸部も部活あるんだな!」
「おう、時短営業だけどな。お疲れ木兎、汗すげーぞ」
「わはは!外走ってきたから!超あっちー!」
「............!」
男子バレー部の主将、三年生の木兎さんはTシャツの首元をガバリと大胆に上げて顔の汗を拭う。
露出した綺麗な腹筋が見事で思わず目を丸くして見てしまうと、私の視線に気付いた木兎さんが悪戯に笑った。
「イヤン、夏初ちゃんのえっち♡」
「あっ、ご、ごめんなさい......!」
Tシャツを元に戻しつつ木兎さんから言われた言葉にギョッとして慌てて頭を下げた。自然と麦わら帽子が地面に落ちる。
無意識だったとは言え、他人の、しかも異性の先輩の腹部に視線を寄せてしまうなんて失礼極まりない!
羞恥心と罪悪感で大混乱しながらも頭を下げて目を瞑っていれば、木兎さんは可笑しそうにふきだした。
「ジョーダンジョーダン!wていうか、夏初ちゃんにだったら俺、もっと見せてもイイよ?」
「.............」
「おい木兎、お前ビッシャビシャだけどそれ着替えあんの?」
木兎さんの冗談に更に驚き、だけど上手く返すことが出来ず思わず口を閉ざしてしまうと、ホースを持った立嶋先輩が唐突にそんなことを言い出した。
驚きのあまり木兎さんを無視したみたいになってしまったから、おそらく咄嗟にフォローしてくれたんだろう。
先輩の行動に有難みを感じつつ、しっかりした人になるにはまだまだ全然修行が足りないなと少し項垂れていると、木兎さんは自身のTシャツの裾を両手で下に伸ばす。
「おお、部活着だったらあと二枚持ってるぞ。あかーしがそんくらい持っとけって!」
「......そっか、じゃあ心配ねぇな」
夏の太陽に負けないくらい明るく笑う木兎さんに思わず目を細めてしまえば、立嶋先輩はなぜか愉しそうにニッコリと笑った。
「ハイ、天誅~」
「うおあああああッ!!??」
「!?」
あろうことか、立嶋先輩は片手で持っているシャワーノズル付きのホースを木兎さんへ向け、思い切り水を掛け始める。
当然木兎さんは悲鳴を上げ、襲ってくる水から逃げようとするも立嶋先輩は容赦なく追撃していた。
「つめてー!!何すんだ立嶋ー!!」
「うちの後輩にふしだらなこと言うんじゃねぇ。お前は見せていいかもしれねぇが、夏初が見ていいものは何一つねぇんだよ」
「かーほーごー!!ぎゃー!!w」
「.............」
炎天下のなか逃げ回る木兎さんはなぜか楽しそうで、追撃の手を緩めない立嶋先輩もけらけらと笑いながら木兎さんを追う。
まるで少年のような笑顔を浮かべる二人をぼう然と眺めながら、そういえば小学生の時に同じようなことをクラスの男子がしてたなとぼんやりと思い出した。
時折ホースの水飛沫に虹を含ませつつ、この暑い中走り回る先輩方を見てたまらずふきだした。
......しかしながら、うっかり楽しく眺めてしまったものの、今は男子バレー部も園芸部もれっきとした部活の時間である。
木兎さんは今、ここに居てはいけない存在だった。
「あ゛ッ......」
「ゲッ」
立嶋先輩のホースの水を木兎さんがしなやかに避けた、矢先。
その水は木兎さんと同じ格好をした別の人......おそらく木兎さんを迎えに来たのであろう、男バレ副部長の赤葦君に直撃してしまった。
「.............」
「あ、あ、あかーし!?おま、なぜここに!?つーか大丈夫!?」
赤葦君の登場に木兎さんは目を丸くしてそちらを見るが、今しがた水をかけられた赤葦君はポタポタと滴り落ちる水滴を気にすることなく静寂を貫いている。
あっという間にずぶ濡れになったにも関わらず微動だにしない赤葦君を見て、木兎さんも立嶋先輩もさすがにまずいと感じたらしい。
心配そうに赤葦君の様子を窺っていた。
「ご、ごめんなアシ君?大丈夫?木兎狙ってたんだけど、コイツが避けるから......」
「俺のせいかよ!?そもそも立嶋が赤葦に気付けばよかった話じゃん!」
先輩方の話が聞こえているのかいないのか、赤葦君は真顔のまま何も言わずにその場に立ちっぱなしでいる。
衝撃的な展開にすっかりぼんやりと立ち尽くしてしまったが、木兎さんと赤葦君はびしょ濡れの状態だ。
夏とは言えど、濡れたままで居るのはあまりよくないだろう。
「.......あ、あの......私、保健室から、バスタオル、借りてきます......」
小さな声でそう伝えてから、とりあえずこの場を離れて保健室へ走る。
あまり足が速い方では無いので少し時間を要してしまったが、保健室の先生に事情を伝え念の為三枚バスタオルを借りて来た道を走って戻ると......なぜか、ホースを持って水をかけているのは立嶋先輩ではなく赤葦君に代わっていた。
「あっ、夏初!!ちょ、アシ君!!アシ君止めて差し上げて!!」
「あかーしごめん!!マジごめんてー!!」
「.............」
ずぶ濡れになった立嶋先輩と木兎さんの悲鳴を聞きながら、更によくわからないことになっている現状にバスタオルを抱えたままぼう然と立ち尽くしてしまえば、容赦なくホースで水を掛けていた赤葦君が静かにこちらへ視線を寄越した。
いつも以上に温度が低い切れ長の瞳にたまらずギクリと身体が震え、心臓がきゅっと縮こまる。
「.............」
「.............」
まさに蛇に睨まれた蛙さながら、恐怖で心拍数が上がり額や手のひらに大量の冷や汗をかいていると、赤葦君はふいに私から目を背け、ホースを持ったままどこかへ歩いていく。
その姿を目で追うと、どうやらホースの水を止めるために地中水道管のコックを閉めに行ったようだ。
鬼のように怒っていても理性的な動きをする赤葦君に流石だなと思わず感心してしまえば、ずぶ濡れになった木兎さんと立嶋先輩が私の傍へ来て「助かった~」「アシ君超怖ぇ~」等と小声で言いながらバスタオルを一枚ずつ取っていく。
「......だ、大丈夫、ですか......?」
「ンー、多分......鼻に水入って超いってぇけど......」
「.............」
バスタオルで顔を拭く先輩に声をかければそんな返答がきて、一体どんな勢いで水を掛けられたんだと目を丸くしてしまう。
「あかーしってさ、滅多にマジギレしないんだけど、たまにキレると超怖いんだよな......」
「.............」
立嶋先輩の隣りで豪快に頭を拭いていた木兎さんが、珍しく低いテンションでぼそっと話してきた。
バスタオルを外すと、トレードマークにもなっているモノトーンの髪が水に濡れたことによりいつものセットが崩れ、髪を下ろした状態になっている。
「.............」
髪を上げていない木兎さんを初めて見た為、案外幼く見えてしまうその容姿に再び目を丸くしてしまう。
あまりにも雰囲気ががらりと変わってしまっている為、なんだか別の人のように見えた。
「.............」
「............森」
「!!」
木兎さんの変わりように視線を奪われていると、背後から名前を呼ばれて大きく心臓と肩が跳ねた。
とっさに振り返れば、いつの間にか赤葦君がすぐそばに居て、顔にかかる水滴を邪魔そうに片手で拭っている。
「......ごめん、俺にもバスタオルください」
「......あ......ご、ごめんなさい......どうぞ......」
言われた言葉に慌てて我に返り、急いで最後の一枚を赤葦君に寄越す。
赤葦君は「ありがとう」とそれを受け取り、顔を拭いてから濡れた黒髪を豪快に後ろへ流した。
「.............」
木兎さんとは対照的に、髪を上げた赤葦君を見るのも初めてだった為、普段と雰囲気が違う赤葦君の綺麗な顔をぼんやりと眺めてしまう。
濡れた状態が気持ち悪いのか、はたまた木兎さんと立嶋先輩に腹を立てているのか、赤葦君は眉をひそめて遠くの方を見ている。
......水も滴るいい男という諺は、きっと赤葦君のような人のこと言うんだろうなぁ。
「.............」
「.......ん?」
ついついぼけっと見惚れてしまった私に、赤葦君は不思議そうな顔を向けてくる。
その顔は先程見た絶対零度の怒りはなく、いつも通りの落ち着いた、涼しい顔つきだ。
しかし、直ぐに何かに気が付いたのか、赤葦君は唐突に私の頭に右手を乗せた。
「......帽子は?頭、あっつくなってる」
「.......え、......と......?」
赤葦君の言動にどぎまぎしながら、そういえばどうしたんだっけ?と帽子の行方を懸命に記憶から探した。
とっさに頭に両手を当てると確かに自分の黒い頭は熱を持っていて、慌てて赤葦君の手から熱い頭を離す。
「.............」
「.......あ、花壇の、とこ......落として......きちゃった......」
木兎さんに頭を下げた時に確か帽子を落としてきたことを思い出し、反射的に花壇の方へ顔を向けると、ひっくり返った麦わら帽子がぽつんと置き去りにされていた。
「......帽子、ちゃんと被ってて。倒れてからじゃ遅いよ」
「......あ......ご、ごめんなさい......」
「.............」
赤葦君からの忠告に頭を下げて数秒......何も反応がないもののおずおずと頭を上げて顔色を窺うと、目の前に居る赤葦君はその切れ長の瞳をほんの少し緩めて小さく微笑んだ。
まるで赤葦君の内面の優しさが滲み出たかのような優しい笑みに、たまらず目を丸くしてしまう。
先程までの冷水の如く怒っていた赤葦君はすっかり居なくなっているようで、そのギャップに頭がついていかず、ただぼう然と赤葦君を見つめてしまった。
「.............」
「.............」
「.............ぁ......」
「............」
お互いに何も喋らない時間が続き、何か喋らないとと咄嗟に赤葦君の名前を呼ぼうとした、矢先。
赤葦君は緩やかな動きで私に顔を近付けた。顔に影が掛かり、ふいに近くなった距離に驚いて反射的に少し後ろに下がってしまえば、赤葦君はピタリと動きを停めた後、直ぐにその綺麗な顔を離した。
「.......ごめん。俺、そろそろ戻るね」
「.............」
私を見ずにそう言うと、「タオルありがとう」という言葉を最後に体育館の方へ走って行ってしまう。
「えッ!?ちょ、あかーし待って!?」
あっという間に遠くなる赤葦君の背中を追うように、木兎さんも全速力でこの場から走り去っていった。
残された私はぽかんとした顔でその場に突っ立っていると、後ろから頭をぽんぽんと撫でられる。
「.......いやぁ、アシ君意外と肉食系だなぁ。夏初お前、気を付けなさいよ?」
ああいうの、ロールキャベツ男子って言うんだっけ?ボケっとしてたら秒で食われんぞ?
面白そうに笑う先輩の言葉をぼんやりと聞きながら、ああ、今夜はロールキャベツが食べたいなとおかしな思考回路でそんなことを考えてしまった。
思い内にあれば、色外に現る
(............や、......ってしまった......)