AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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日曜日である本日の天気は、あいにくの雨だった。
今日の部活は午前中だけであり、中等部の玄関口近くの花壇の入れ替えを行う予定だったが、この空模様なので残念ながら延期することになった。
その為今日は一応園芸部の部室である第三会議室で今回のスケジュール調整と、これから始まる夏休み中の活動内容を簡単に考える為の室内ミーティングとなった。
「あ、そうそう。夏初さ、テスト明けの土日何か予定あるか?小見から聞いたんだけど、男バレがうちで合同合宿すんだと」
「......ちょっと、確認します」
ミーティングの途中で突然先輩が全然違う話を持ち込んできて、少し混乱しつつもカバンから手帳を取り出す。
私が予定を確認する合間にも、立嶋先輩の話はどんどん進んでいった。
「それでさ、すげー奇跡あって。なんとその合宿、俺の従兄弟が来るんだわw」
「え、そうなんですか。凄いですね」
予想外の話に思わず手帳から先輩へ顔を向ければ、立嶋先輩は「だろ?ウケるよなw」とまるで少年のように楽しそうに笑う。
「宮城のさ、烏野っていう県立高校のバレー部なんだけど、なんか色々あって東京の合宿に参加すんだと。まさかと思って連絡取ったらマジで来るっぽくてすげー笑ったw」
「......先輩と同い年の方でしたっけ?」
「そうそう!澤村大地っつーんだけど、なんだろ?なんか、昭和生まれ?あ、九州男児っぽいつーの?とにかく、すっげー男らしいオトコ!」
「......九州男児、って......東北とほぼ真逆じゃないですか......」
「いやいや、今のはニュアンスで捉えてほしいところで......そんな、コイツ何言ってんだって顔で見るんじゃないよ。俺、一応先輩だからな?」
先輩の言葉に適当に相槌を打ちつつ、とりあえずテスト明けの土日は夕方からバイトが入ってるくらいだと返す。
梟谷のバレーボールもまた見たいと思っていたし、先輩の従兄弟さんに会えるというのも少しばかり興味がある。
話すとなると話はまた別だが、立嶋先輩が一緒に居てくれればおそらく大丈夫だろう。
「じゃ、期末終わったらまた男バレ覗きに行こうぜ。小見と木兎には話しとくな」
「ありがとうございます」
「夏初も一応アカアシ君に言っとけよ?アシ君、副部長だろ?」
「.............」
先輩に言われて、確かにそうだなと気が付く。
赤葦君は以前、またおいでと言ってくれたと思うので、例えそれが気を遣って言ってくれたことであっても、おそらくそこまでは嫌悪されないことだろう。
むしろ勝手に行く方がクラスメイトのマナーとしてどうかとも思うので、先輩の言葉には素直に頷いた。
「......というか、今行くか。アイツら今日も体育館居んだろ」
「え」
「そしたら一回で済むしな。よし、そーしよ。行くぞ夏初」
「え、え、ちょ、先輩っ」
思い立ったが吉日!とさっさと立ち上がる先輩の言動にたまらず戸惑いながら先輩を呼ぶと、返ってきたのは愉しそうな笑顔だった。
「それとも人見知りの夏初チャンはお留守番してますか~?」
「.............」
あきらかにからかいを含んだ言い方に少し腹が立つ。
先輩の挑発にのるのは些か不愉快ではあるが、じゃあ待ってますと答えるのもあまりに子供じみた返事だと感じ、思わずため息がもれた。
「......私も行きます......」
結局私も椅子から立ち上がり、貴重品だけ身に付けて先輩の後ろについて行く。
あからさまにテンションの低い私に対して、立嶋先輩は可笑しそうに笑いながら、私の頭をまるで動物相手のようにぐりぐりと乱暴に撫でるのだった。
▷▶︎▷
男バレの練習の邪魔にならないかという私の不安に対し、先輩は「だったら女マネーズに伝えときゃいいだろ」とあっけらかんと答えてきた。
マネージャーさん方も忙しいのではと眉を下げていたものの、体育館をそろりと覗くとタイミングよく休憩時間のようで、男バレの方々は水分補給をしたりタオルで汗を拭いたりしていた。
「たのもー!」
良くも悪くも物怖じしない立嶋先輩が威勢よく声を掛けると、男バレの方々がこちらへ顔を向ける。
「立嶋じゃん。どしたー?」
真っ先に返事をしたのは先輩と同じクラスの小見先輩だ。
私が木兎さんのボールにぶつかってしまった日よりも以前から先輩と交流があったらしい小見先輩は、よく立嶋先輩の話に出てくる人であり、私が木兎さんと赤葦君以外で初めてしっかり覚えた男バレの人だった。
茶髪のツーブロックが特徴的である小見先輩はわざわざこちらへ駆け寄ってくれる。
「お、夏初ちゃんも居んじゃん。コンチハ~、元気?」
「......こんにちは......」
先輩の後ろに居た私の存在にも直ぐに気付いてくれて、声を掛けてくれる小見先輩におずおずと会釈しつつ挨拶を返す。
相変わらず会話が広げられない上に愛想の欠けらも無い私に対し、小見先輩はにっこりと明るく笑ってから立嶋先輩の方を向いた。
「で、今日はどーした園芸部。もしやおサボりですか?」
「おう、絶賛サボり中。でさ、この間期末明けに合同合宿うちでやるっつってたじゃん?その件で、少し話があって......」
「おーす!立嶋!なになに、どーした、の......夏初ちゃん!こんちはー!元気?」
「うるせぇ木兎、それ今俺が聞いたわ」
「マジか!わりーわりー!」
「うるせぇ木兎、ムダにうちの子ビビらせんのマジでやめて」
「えー、俺怖くないよ?なー?」
「それw完全にちっちゃい子にやるやつじゃねぇかwやめとけ馬鹿w」
小見さんの後ろから男バレの主将、木兎さんが元気に現れたと思いきや、三年生同士で会話がどんどん進んでいく。
声を挟む隙もなく、ただただ先輩の後ろに突っ立っていれば、木兎さんの後ろから新たな男バレ部員さんがひょこりと顔を出した。
「こんにちは、夏初ちゃん。昨日はどーも」
その穏やかな笑顔と声音の持ち主、昨日お世話になった三年生の猿杙先輩の登場に、私は慌てて頭を下げて挨拶を返す。
猿杙先輩と私の僅かなやり取りに、今まで私を抜きに話をしていた三年生の御三方が一気にこちらへ興味を示した。
「え!?何!?昨日って何!?」
「大和クン?きみ、いつのまに夏初ちゃんと仲良くなったの......?」
「おい夏初、お前猿杙と何かあったの?俺聞いてないよ?」
「.............」
男バレの小見先輩と木兎さんは猿杙先輩へ、立嶋先輩は私へ視線を向ける中、猿杙先輩は相変わらずにっこりと朗らかに笑う。
「......で、園芸部は何しに来たの?もしかして、テスト明けの合同練習の見学申請?」
「えー!?このまま話進めんの!?うそだろ!?」
「おいサル!笑って誤魔化してんじゃねぇぞ!」
「いやいや、元からこういう顔なんだって」
あえてなのか、それともただ単に面倒なのかは判断付かないが、昨日の件を全く説明しないまま話の先を促した猿杙先輩に、木兎さんと小見先輩、立嶋先輩は盛大にずっこける。
高いテンションのまま展開される先輩方のお喋りにはやはり口を挟むタイミングはなく、仲の良さそうなそのやり取りを傍から眺めていることしか出来なかった。
「まぁ、詳細は後で聞くとして。さっき猿杙が言った通り、期末明けの合同練習俺らまた見に行くんで、勝ち試合宜しく!」
暫くわいわいと楽しそうにはしゃいでいたが、立嶋先輩の一声で一旦この話題は幕を下ろしたようだ。
「ついでに宮城から来るとこの主将、俺の従兄弟だからそこも宜しくな!」
「え!?そうなの!?世間狭ぇー!」
「なんだっけ、ウシワカ君?」
「ふはっw小見やんそれ白鳥沢だからwたしか来るの、烏野ってとこでしょ?」
「あ!しら“とり”と“からす”のってどっちも鳥じゃん!宮城は鳥ばっかだなー!」
「いや、俺らが言えたギリねぇからな?“ふくろう“だにの主将だろお前w」
先輩方の会話を流し聞きしながら、そういえば赤葦君は居ないのかなとそろりと体育館の中を見回す。
バレーボール仕様になっている体育館には人が沢山居たが、赤葦君の姿を発見することは出来なかった。
「.............」
「......ああ、赤葦なら今ここに居ないよ」
「!」
頭の上から降ってきた声に思わずぎくりと身体を硬くすると、私に声を掛けた猿杙先輩は小さく笑った。
そんなあからさまだったかな......と恥ずかしく思いつつ猿杙先輩の顔を窺うと、「マネージャーの仕事手伝いに職員室行ってるんだ」と補足説明をつけてくれる。
赤葦君は二年生ながらに梟谷男バレの副主将を担う凄い人だ。
バレーをすること以外にもきっと仕事は沢山あって、忙しいに違いない。
「何か話すことあるなら、俺らが赤葦に伝えとこーか?」
「......い、いえ......大丈夫です......」
小見先輩の言葉に慌てて首を横に振る。
別に要件があった訳ではなく、ただ何となく、赤葦君居ないのかなと探してしまっただけなのだ。
思えば、赤葦君が居ない時に男バレの方々と話すのは今日が初めてな気がする。
「じゃ、そういうことだから。アシ君にも言っといて」
「ちょっと待て、アシ君てなんだ。立嶋お前、いつの間に赤葦とそんなに仲良くなった?」
「.............」
話の締めに入る先輩の言葉に真っ先に反応したのは木兎さんで、どうやら今度は赤葦君と立嶋先輩が自分の知らないところで交流を深めているのかを訝しがっているらしい。
立嶋先輩のことだから多分勝手にあだ名で呼んでるだけだろうとは思うが、先輩は木兎さんの視線を受け取り、にっこりと爽やかに笑った。
「......じゃ、お邪魔さんでした~。夏初、帰るぞ~」
「えー!?立嶋も言わねぇの!?さっきのサルといい、何なのお前ら!?」
「オイ立嶋ぁ、胡散臭い顔で誤魔化してんじゃねぇぞ」
「残念ながら、元からこういう顔なんだわw」
詳細を話さない立嶋先輩に木兎さんはうそだろー!?と騒いでいるが、先輩は可笑しそうに笑いながらさっさと体育館を離れていく。
先輩が動くなら私もここに居る理由はないので、「お邪魔しました......」と男バレの先輩方に頭を下げてから小走りで立嶋先輩の後ろについていく。
不服を訴える木兎さんの大きな声が聞こえなくなった頃合で、先輩に赤葦君の呼び名のことを聞くと、「いや、俺が勝手に呼んでるだけwアカアシ君には無許可w」と予想通りの答えをくれた。
「木兎のヤツ、めちゃめちゃびっくりしてたな~wあ~、すげぇ笑ったw」
「.............」
いまだに笑いが治まらないのかくつくつと楽しそうに喉を鳴らす先輩の少し後ろを歩きながら、この人はどうしてこんなに人をからかうんだろうなぁと不思議に思ってしまう。
少し考えて、これが立嶋先輩の悪癖であり、それと同時に沢山の人とコミュニケーションが取れる秘訣でもあるんだろうということに気が付いた。
人をからかうということは、良くも悪くもその人に関心を向けているということである。
先輩は常に、色んな人に関心を向けるのだ。
それを向けられれば、大多数の人は何かしらの反応を返すだろうし、その中には立嶋先輩へ関心を向ける人もきっと居るはずだ。
だから、立嶋先輩の周りには常に人が沢山居て、そしてとても仲が良さそうに見えるのだ。
さっきの男バレの先輩方とも、立嶋先輩は楽しそうに、仲が良さそうに話していた。
何事もつい無関心に装ってしまう私とは本当に対照的で、やっぱり立嶋先輩は凄いなぁと改めて思ってしまう。
「よし、昼飯どっかで食おうぜ!その後カラオケとかどーよ?」
「お昼ご飯はご一緒しますが、カラオケはバイトがあるから無理です。先輩も確か今日、バイト入ってるって言ってましたよね?ちなみに今は期末テスト前で、先輩は受験生です」
「くっ......この正論モンスターめ......!」
楽しそうな先輩から言われた一言に首を傾げながら答えると、立嶋先輩は途端に眉間に皺を寄せて訳の分からないことを言ってきた。
先輩は確かに凄い人だけど、時々おかしな発言をするんだよなぁと少しばかり頭が混乱したものの、もしかしたらこれも一種のコミュ力を高める魔法なのかもしれないと思い直し、先輩について考える思考回路からお昼ご飯は何を食べようかと考える回路にシフトチェンジして、先輩の後ろをゆっくりとついていった。
真相は藪の中
(え?園芸部が来てたんですか?ちょ、木兎さんうるさいです。それで、森が?俺を探......ちょっと、木兎さんさっきから何なんですか。え、立嶋先輩?知りませんけど。)