AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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本日全ての授業が終了し、最後のホームルームも手短に終わったので友達に挨拶をしてからさっさと教室を出た。
一応園芸部の部室である第三会議室で手早くジャージに着替え、髪を二つに分けて三つ編みにし、ヘアピンで簡単なまとめ髪にする。
貴重品と軍手、本日使用する備品をポケットに入れ、用具倉庫に向かおうと立ち上がったところで先輩が緩い挨拶をしながら室内へ入って来た。
「おーす、今日は早ぇな。ちょい待ち、直ぐ着替えっから」
「おはようございます、じゃあ外で待ってますね」
「別にここ居てもいーのよ?」
「じゃあ先に行ってますね」
「嘘だろお前、ドーラでさえ40秒は待ってくれんのに」
部室に来るなり早々おかしな発言をする先輩に「じゃあ早くしてくださいね」と端的に返し、そのまま廊下に出る。
スマホを弄りながら待っていること数分後、カーキ色のTシャツにジャージのズボンを膝下に捲った先輩が脇腹を掻きながら出てきた。
「お、待、た、せ♡」
「.............」
「......夏初お前、たまにはノッてこいよ......」
「.......ううん、今来たところ♡?」
「ぶはっw最高w」
私の返しに先輩は可笑しそうにふきだす。
お互い妙にテンションが高い理由は、今日の部活内容にあった。
先日ずっと草むしりを頑張った長方形の花壇に、植える花がやっと納品されたのだ。
そして今日、その花々を一気に植えるのである。
ガーデニングのセンスが試される、園芸部の腕の見せどころだ。
「めい子がさ、今日は日差し強いから帽子かぶれって」
「じゃあ、麦わら帽子も借りてきましょう。用具倉庫にありましたよね?」
「あるある。あ、そういや今日小見と昨日のこと話してたんだけどよォ」
「......こみさん......」
「リベロな。ちっちゃい奴、ツーブロ」
廊下を歩きながら先輩と話し、かなりおざなりな説明ながらも小見さんの顔と名前を一致することが出来て小さく頷くと、「まあ、ちっちゃいっつっても夏初よりはでかいけどな」とフォローなのか補足説明なのかわからないことを付け加えた。
「なんか、俺らが帰ってから木兎大荒れだったらしいぞ。途中すげぇしょぼくれて大変だったって」
「......赤葦君にも、似たようなこと言われました」
「あ、そうなの?折角だし、木兎のしょぼくれモードも見ときたかったよな~。あ~、惜しいことをした」
「............」
隣りを歩く先輩は決して冗談ではなく本気で言っている。
他人の不調な時を見たがるなんて趣味が悪いと思ってしまうが、男の人って時々言葉の殴り合いでコミュニケーションを取るところがあるから、これもそういう一種なのだろうと勝手に思うことにした。
「でもま、結構面白かったしまた行けばいいわな。夏初ももう1回くらい見たいだろ?」
「.......そう、ですね......機会があれば......」
「じゃ、また観に行こうぜ、機会があれば」
「.............」
言葉を真似されてちらりと横目で先輩を見れば、立嶋先輩はまるで子供のように楽しそうに笑い、「今度俺もバレーしてぇな~」とふざけてスパイクのモーションを取る。
「......先輩、私今、体育の授業バレーボールなんですよ」
「え、マジで?昨日の今日でタイムリーヒットじゃん」
「はい。それで、今日の体育ちょっと頑張ったんですが......全然上手く出来なくて、おまけに腕がとても痛いです」
「そういや夏初チャン、あんまり運動できねぇもんなぁw」
「そうなんですけど、皆さん簡単にやっていたので、もう少し何とかなるかと思ったんですが......ただの勘違いでした。凄く難しかったです」
先程赤葦君に話した内容に似たことを先輩にも話せば、立嶋先輩は赤葦君と違い、心底可笑しそうにけらけらと笑った。
▷▶︎▷
用具倉庫で必要な物を借り、それらを校舎沿いの長方形の花壇へ置いてから今度は納品された花々を取りに行く。
何往復かして全ての花の準備が整え終わり、やっとシャベルを持って花壇へ移し替える作業へ入った。
無数のカップに入った花々を、先輩が描いたレイアウト通りに次々と植えていく。
先輩と選んだのは百日草と呼ばれるジニア、ポーチュラカ、センニチコウの三種類で、夏から秋までしっかり花を咲かせてくれる子達を植えることにした。
暑さや乾燥にも強いので、これから訪れる夏休みによって定期的に学校に来られなくなっても、この子達なら自分達の力で元気に育ってくれる。
ここまで考えたのは立嶋先輩で、ここの花壇に植える植物の提案や説明を校長先生や用務員さん達へ伝えている姿は、園芸部の部長として非の打ち所も無いほど頼もしかった。
「.............」
自由奔放な所ばかりが目立つ人だけど、やっぱり立嶋先輩はとても格好良い。
男バレの木兎さんも赤葦君もとても素敵で格好良いけど、うちの立嶋先輩だってきっと負けてないはずだ。
「おあ、見ろよ夏初!立派なミミズ先輩が居たぞ!ほら!」
「.......見せなくていいので、早く戻して差し上げて下さい......」
前言撤回。やっぱり男バレの皆さんの方が、きっとずっと大人で素敵なんだろうな。
▷▶︎▷
最後の花のカップを植え替え、全体のバランスを最終調整する。
初夏の太陽は既に夕日となっていて、幾つかの星が確認できるくらいの時間になっていた。
「......よし、いいだろ。お疲れさん」
最終OKを出した先輩の言葉に私も「お疲れ様でした」と返し、しゃがんだ状態でグッと上半身を伸ばすとポキポキと小さく骨が鳴る。
これはお風呂でしっかり身体を解さないと、明日身体が痛くなるやつだ。
疲労感を携えながらよっこらしょと立ち上がり、植え替えが終了した長方形の花壇を見渡す。
つい先日まで雑草だらけだったこの場所が、今は色とりどりの3種類の花が綺麗に咲き誇っている。
果たしてこの変化に何人の生徒が気付いてくれるのかは分からないけど、またひとつ梟谷学園の素敵スポットを作る事ができた。
きちんと整えられた花壇の花々を一番最初に見るこの達成感は、たぶん何物にも代えられない。
「じゃ、後片付けして帰るか~。夏初、飯食ってく?直帰する?」
「そうですね......植え替え終了記念に、ご飯行きたいです」
「よっしゃ、じゃあさっさと片付けんべ。あ~、腹減った~」
「私あんまりお金無いので、安いとこでお願いします」
「俺が奢ってやるよ!とか言いたいとこだけど、俺もあんま金無いから牛丼とかでいい?」
「並盛だと確か500円でいけますよね?予算内です」
「夏初のそういうとこ、俺結構好きよ?」
そうと決まれば善は急げだ!と花のカップを入れたゴミ袋を三つ持ち上げる先輩に続き、私も使用したシャベルやスコップを洗う為にそれらを持ち、ゴミ置き場の傍の水道へ一緒に行こうとすれば目の端にチラリと灯りが見えた。
何となく気になってそちらを確認すれば、その灯りは体育館の室内灯だったようだ。
体育館の照明器具は高い天井から光を届けないといけないため、一際明るいものを使っていると誰かに聞いた事がある。
その体育館の灯りがついているということは、どこかの運動部が......たぶん、男バレの方々がまだ練習をしているのだろう。
「.............」
「男バレ、まだやってんだな~」
ぼんやりと体育館の灯りを見ていると、私の視線に気付いた先輩が頭の上からそんな声を掛けてくる。
毎日こんなに遅くまで、本当にお疲れ様だ。
「.............」
「────努力をしても、報われない奴は居る。間違いなく、居る。」
「!」
高校バレーの強豪校と謳われるだけの努力をしているんだなと脱帽していると、隣りに居る立嶋先輩から先輩らしからぬ厳しい言葉が放たれ、思わず目を丸くして先輩の顔を見る。
夕影によって先輩の表情は少しだけ読みづらくなっていて、たまらずぎくりと身体が強ばった。
そんな私と視線を合わせ、立嶋先輩はゆるりと口角を上げる。
「ただ、成功した奴は必ず努力している。」
「.............」
「コレ、すげぇ有名なプロレスラーの言葉なんだけど、バレーボールとかまんまそれだよな」
一体何を言い出すのかと思えば、誰かの名言を借りた発言だったらしい。
いつも通りの先輩に内心ほっとしつつも、先程の言葉が頭の中でもう一度再生された。
どんなに力を尽くしても、報われる努力もあれば、報われない努力もある。
勝つか負けるか、100か0しかない勝負の世界というものは、私が想像する以上に無慈悲で残酷なものなんだろう。
「......最後まで勝ち続けて、笑って引退できるのは、全国の高校の中のたった一校だ。マジで途方も無い話だけど......木兎達はその一校になる為に、毎日遅くまでああやって頑張ってんだよな」
「.............」
体育館の灯りは、まだまだ消えそうにない。
全国の高校の中の、たった一校になる為に、ただひたすらに前を見る。
「......ホント、すげぇ格好良いと思わねぇ?三年間の高校生活全部賭けて勝負に出るとか、生半可な気持ちじゃ出来ねーよ」
「.............」
「......と、いうことで、夏初もそういう強い子になるんだぞ」
「......え、私ですか?先輩じゃなくて?」
珍しく真面目な話をされ、その内容に感慨深い気持ちを抱いていれば、先輩はさらりとおかしな方向へ結論を着地させた。
思わず眉を寄せる私に、立嶋先輩はけろっとした態度で「俺はほら、もう望み薄だから」とまるで意味がわからないことを返してくる。
先輩と私、一つしか変わらないんですけど。
「よし、男バレの努力が報われることを願って、園芸部は牛丼を食べに行くぞ~」
「......男バレの方々が聞いたら、多分皆さん怒りますよ......」
支離滅裂な発言に呆れを含んだため息を吐けば、立嶋先輩は相変わらず楽しそうに笑った。
玉磨かざれば光なし
(その光が、最後の最後まで輝いていますように。)