AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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「おはよー夏初!昨日どーだった?」
朝の挨拶も程々に、前の席の友達が開口一番そんなことを聞いてきた。
スマホを弄っていた指を止め、前に下がってきた横髪を耳に掛ける。
「......木兎さん、凄かった......スパイクがね、一人だけ音が違くて、打ち上げ花火みたいにドーン!って......床が抜けちゃうんじゃないかって、心配になった......」
「なんの心配してんのwウケるw」
「いや、笑い事じゃなくてね?本当に凄かったんだよ。男バレみんな強くて凄かったんだけど、木兎さんはなんか、初心者から見てもこの人凄い人なんだなって実感できたというか......」
昨日の試合を思い出し、つい熱くなってしまう私を見ながら、友達は「そっかそっかー」と可笑しそうに笑った。
「赤葦は?格好良かった?」
「え」
唐突に聞かれた言葉に思わず目を丸くして彼女を見ると、「大丈夫大丈夫、赤葦まだ来てないから」と赤葦君の座席を小さく指さす。
その方向を見ると席は空っぽで、そろりと教室を見回すも確かに赤葦君の姿はなかった。
「......まさか、木兎さんだけ見て赤葦のことは全然見てなかったとか、そんな酷い事してないよね?」
「まさか!そんな事しないしできないよ!」
「いや、夏初の事だから有り得るかなって......得意技じゃん?心のシャットアウト」
「.............」
グサリと友達の言葉が心に刺さり、だけど反論なんてできるはずもなく結局俯くだけに終わる。
そんな根暗な得意技なんて、なんの足しにもならないじゃないか。
......それに比べて赤葦君は、本当に同い歳かと疑うほどしっかりしていて、バレーも上手くて、三年生にも頼りにされていて、主将の木兎さんからも信頼されていて、とても格好良かった。
「......私も......赤葦君を見習って、しっかりした人になりたいと思いました......」
「何その感想wバレーの試合見に行ったんじゃないの?」
昨日見た赤葦君を思い出し、感じたことを大真面目に答えたら友達はまた可笑しそうにふきだした。
けらけらと笑う友達に昨日の赤葦君が如何に凄かったかを拙いながらに話していれば、時間はあっという間に過ぎていき予鈴と共に担任の先生が教室へ入ってくる。
それを合図に各々が自分の座席へ着席する中、ふと赤葦君の机を見ると珍しいことに彼の姿は未だになかった。
「おはようございます、出席取るぞ~」
教壇に立ち、簡単に朝の挨拶を済ませてから先生は出席簿を開けていつものように淡々と出席を取っていく。
出席確認は名前順の為、赤葦君の名前はものの数分で担任から呼ばれた。
「赤葦、......あ?赤葦~?なんだ、居ないのか?」
名簿から顔を上げ、先生は教室をぐるりと見回す。
空いている座席を見つけ、周りの席の人に「そこ赤葦?」と確認を取ってから、再び名簿に目を向けたところで教室の後ろ側のドアが開く。
反射的にクラスの視線がそちらへ向かい、私もそれに倣って同じ方向を見れば丁度赤葦君が教室へ入って来る姿が見えた。
「おはよう、赤葦。寝坊?部活?」
「おはようございます。すみません、部活です」
「そうか。じゃあ、赤葦にはチャンスをやろう」
黒のリュックを背中から下ろしながら早足で自分の席へ移動する赤葦君に、先生は出席簿を閉じてゆるりと口角を上げた。
「1905年のロシア第一革命。労働者が権利を求め請願活動を行ったが軍が発砲し、多数の死者を出してしまった血の日曜日事件は、誰に対しての農民反乱であったか」
「.............」
世界史が教科担当である先生から突然問題を振られ、赤葦君は座席の前に立ったまま片手を顎の下に付け静かに黙考する。
それに釣られて私も問題の答えを考え始めると、赤葦君はゆっくりと顔を上げた。
「......ニコライ二世?」
クラスのみんなが見守る中、赤葦君は落ち着いた様子で回答を口にする。
赤葦君の回答に、ああ、そうだったかもしれないと一人勝手に納得していれば、教壇に立つ先生は「はい、正解です」と緩い拍手を送った。
クラスの人達も同じように拍手を送り、「赤葦すげー!」「さすが~」等の感嘆する声があちこちから聞こえる。
「正解したから今日は遅刻にしないけど、朝練は程々にしろよ~」
「ありがとうございます、気を付けます」
「えー!先生昨日俺が遅れた時チャンスくれなかったじゃん!赤葦だけずりー!」
「あ?だってお前はただの寝坊だろ?それに今の問題の答えわかったのか?」
「いや、全然わかんねーけど」
「だったらチャンスやっても全く意味ないだろうが。文句付けんならもっとお勉強してからにしてくださーい」
クラスの男子と先生のやり取りにどっと笑いが起こる。
私も前の席の友達と楽しく笑いつつ、先程の赤葦君が答えた問題と解答をひっそりとノートに記録した。
一時間目が現代文なのでそのノートに書いてしまったが、後で世界史のものに書き写しておけば問題ないだろう。
ちらりと赤葦君の方へ視線を向ければ、近くの席の男子達とわいわい話している姿が見えた。
「.............」
教室で見る赤葦君と体育館で見る赤葦君は、何となくちょっと違うように見える。
それは制服と部活着ということの違いなのか、それとも先輩方と話しているか同学年と話しているかの違いなのかはよくわからないが、昨日のバレーボールをしている赤葦君とは決定的に何かが違った。
だけど、どちらにしても赤葦君が非常に優秀で頼もしい人ということは変わらない。
バレーも出来て、勉強も出来て、文武両道とはまさにこういう人のことを指すんだろうな。
赤葦君が凄いということを再び実感しながら、とりあえずまずは1905年のロシア第一革命前後を復習しなければと、メモした現代文のノートのページ上を三角に折るのだった。
▷▶︎▷
一時間目の現代文、二時間目の数学、三時間目の世界史と続き、四時間目の体育は体育館でのバレーボールだ。
昨日の男バレの試合を見たことで、私のやる気ゲージはいつも以上に盛り上がっていた。
それに対して運動神経がついていかないのが非常に残念だ。
「痛い......!え、レシーブって難しい......!」
「腕は振るんじゃなくて......こう、腕を動かさないで、膝を曲げてボールを受けるイメージかな?ちゃんと両腕で受ければそこまで痛くないよ」
「......真っ直ぐ飛ばないのはなんで......?」
「うーん、多分ボール受ける位置が悪いんだねぇ......ちゃんと正面で受ければ、こうやって真っ直ぐ飛んでくよ」
「ほ、本当だ......!凄い......!」
幸運なことに女バレの子と同じチームになれたので、昨日男バレの練習試合を見に行ったことを話せば快くバレーボールのレクチャーをしてくれた。
私がレシーブをしてもてんでバラバラの方向に飛んでいくボールが、女バレの子の手に掛かれば綺麗な放物線を描き私の元へストンと返ってくる。
まるで手品でも見せられているようで頻りにどういう仕組みなのかあれこれ聞いてしまえば、「そんな気になるなら女バレ入る?w」と笑われてしまった。
園芸部は掛け持ち禁止なのでと丁重にお断りさせて頂いたが、実際に自分がバレーをやるとこんなに難しいことがわかったので、仮に女バレに入ったとしてもきっと何のお役にも立てないだろう。
男バレの皆さんも女バレの子も簡単そうにやってしまうからうっかりしてたけど、バレーボールは本当に難しい競技だ。
オーバーの方は多少返せるようになったがアンダーの方は全く上手く出来なくて、体育の授業が終わる頃には腕がじりじりと痛みだしていた。
レシーブだけでなく、最後に少しだけスパイクもやらせてもらったものの、トスしてもらったボールを追ってジャンプしながら打つ、という行為が如何に難しいかがよく分かり、改めてバレー部の凄さを痛感した時間となった。
▷▶︎▷
体育の授業が終わり、お昼休みが始まる。
いつも以上に張り切って動いたからか喉がからからになり、教室へ戻る途中に自販機に寄り道して青い缶のポカリを買ってしまった。
友達は先に教室へ戻っているため、行儀が悪いとは思いつつも歩き飲みしながら一人で教室へ向っていると、渡り廊下の壁に背中を凭れて携帯を弄っている赤葦君の姿を捉えた。
もう片方の手に大きなお弁当箱、脇にペットボトル飲料を抱えてるところを見ると、おそらくこれから誰かとお昼ご飯を食べに行くのだろう。
普段なら自分に気付いていない相手には何もしないでこの場を通り過ぎるが、昨日の試合のことをまだ話してなかったし、赤葦君が一人の時じゃないと何となくまだ話しにくいので今がチャンスだと自分に言い聞かせ、深呼吸してからもたもたと赤葦君の方へ足を向ける。
「......赤葦君......」
「!」
適当な距離になったところで名前を呼ぶと、直ぐに切れ長の目が私の方へ向く。
その視線の強さに若干怯みつつも、「昨日はありがとうございました、騒いですみませんでした」としっかり頭を下げて御礼と謝罪を口すると、赤葦君は「そんな、こちらこそだよ」と相変わらず優しい言葉を返してくれた。
「見に来てくれてありがとう。木兎さんも凄く喜んでた......って、言わなくてもわかるか」
赤葦君の言葉に昨日の木兎さんの楽しそうな様子を思い出し、思わずクスッと小さく笑いを零す。
「......折角の休日に、悪かったね」
「......そんな、全然......午前中で、帰らせてもらっちゃったし......」
「......あー......いや、昨日は逆にそうしてくれてよかったよ」
「え?」
会話の途中、突然歯切れの悪くなった赤葦君に首を傾げると、赤葦君は首の後ろに手をやりながら視線を廊下の窓の外に向けた。
「あの後......午後はちょっと、木兎さん調子崩しちゃって。森達に見せられたものじゃなかったから」
「.............」
「......だから、木兎さんの格好良い所だけ見てもらえて、とりあえずはよかったかなって」
それでも少しぐずってたけどね、と付け加えて、赤葦君は小さくため息をつく。
そういえば、木兎さんはモチベーションを崩しやすいからと以前私に話していたことを思い出し、やっぱり木兎さんの調子で試合の結果とかが左右されるのかなとぼんやりと思った。
私はまだ凄い木兎さんしか見たことが無いから、あの木兎さんの調子が崩れるなんてなかなか想像することができないけど。
もしかして、今朝赤葦君が遅刻ギリギリまで部活をやっていたのもそれが関係しているのではと思い当たった。
「......さっき、体育で、バレーして来たんです......」
「え?......ああ、女子はバレーなんだ」
「うん......女バレの子に、少しだけ、教えて貰ったんだけど......レシーブも、スパイクも、全然出来なくて......女バレの子も、赤葦君達も、簡単そうに、やってるから、もう少し、出来るものかと、思ってたんだけど......実際にやってみたら、凄く、難しくて、びっくりした......」
「.............」
先程の体育の授業中、私の言うことを全く聞かないボールを女バレの子が上手に操っていた姿を思い出す。
きっと沢山練習して、一見簡単に見えてしまうほど軽々と出来るようになったんだろう。
「......腕も、すぐ痛く、なっちゃうし......だから、昨日の試合、本当に凄かったんだなって......改めて、感じました......」
「.............」
自分の運動能力の低さを目の当たりにしてしまったが、バレー部の凄さをしっかりと感じることが出来たのはよかったと思う。やっぱり自分でやってみないとわからない所もあるからだ。
へらりと笑いつつそのことを伝えると、赤葦君は読めない表情のまま黙って私の方を見ていた。
このままだとまた無言の時間がきてしまう気がして、一先ずここでお暇しようと視線を下げた矢先、赤葦君の携帯が着信を知らせる。
「......木兎さんだ」
赤葦君が相手を確認すると、どうやら今しがた話に上がっていた木兎さんからの電話のようで、通話ボタンを押さないまま小さくため息を吐いた。
直ぐに電話に出ない理由は、もしかしたら私に気を遣ってくれてるのかもしれない。
「......じゃあ私、教室戻るね......」
木兎さんからの電話を邪魔したくないし、自然な流れで退散したかった私にとっては打って付けの案件だった為、短く別れを告げて小さく頭を下げた。
そのまま教室の方へ歩き始めると、後ろから名前を呼ばれてそちらへ振り返る。
顔を向ければ、未だに電話に出ないでいる赤葦君としっかり視線が重なった。
「......よかったら、また見においでよ。昨日やってないセットプレーとかもあるし、楽しめると思う」
「.............」
律儀にまたおいでと誘ってくれる赤葦君に目を丸くしつつも、純粋にバレーボールの面白さを伝えようとしてくれてる姿勢が嬉しくて、私も変に遠慮はせずに素直にお礼を返すことにした。
「......うん、ありがとう......」
私の返答に、赤葦君は心無しか嬉しそうに小さく笑った。
求めよ、さらば与えられん
(叩けよ、さらば開かれん)