AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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▷▶︎▷
木兎さんと体育館へ戻ると、音駒のベンチから黒尾さんが直ぐに駆け寄ってきた。
「悪ぃな赤葦、助かったわ」
「いえ、こちらこそ教えて頂いてありがとうございました」
片手を顔の前に立てて詫びてくる黒尾さんにそう返すと、隣に居た木兎さんが「え、なになに?何の話?」と興味深そうに俺と黒尾さんに聞いてくる。
「えー、別に木兎には関係ねぇし」
「はぁ?俺だけ仲間外れかよー!」
「......さっき、森が一人で困っていたのを教えてもらっただけですよ」
いつもの黒尾さんの挑発に直ぐ引っかかる木兎さんを軽く抑えながら、簡単に事態の説明をする。
木兎さんは直ぐに黒尾さんから俺へ視線を移し、その大きな目を更に大きくした。
「え!夏初ちゃん何か困ってたの?あ、だからあかーし一緒に居たのか!」
「そういうことです」
「でも、何で困ってたの?あと、何で黒尾がそれ知ってんの?」
「.............」
木兎さんの言葉に俺も黒尾さんを見ると、黒尾さんはなぜか俺達と視線を合わせようとしなかった。
どうやら、何か隠していることがあるようだ。
「......黒尾さん、もしかして森に何かちょっかい出しました?」
「エッ、いや、その......ちょっかい、は......出してないんだけどな?」
「わかった!ナンパしたんだろ!」
「する訳ねぇだろ男と来てんのに!木兎はちょっと黙ってろ!」
「じゃあ、何をされたんですか?」
「.............」
木兎さんの推測を力強く否定する黒尾さんの様子は、嘘を吐いているように見えない。
黒尾さんの性格からもその線は無いだろうと考え、じゃあ一体何をしたんだと問い質すと、黒尾さんはちらりと俺を見てから至極居心地の悪そうな様子でぼそぼそと白状した。
「......あの子、ナツハちゃん?が一人で居たから、もう1人のお兄さんはどうしたのかなって、ちょっと気になってさ......。あと、うちのセッターになんか似てんじゃん?多分あの子も研磨と同じく極度の人見知りデショ?だから、ちょっとお話ししたいな~とか思っちゃって......で、軽~い気持ちで声掛けたらすげービビらせちゃいましたスミマセン!」
最後の方はほぼひと息に言い切り、謝罪で締められた黒尾さんの言葉に思わず目を丸くする。
何となく森に既視感があった理由はそれだ。
音駒の同じ二年のセッター、孤爪と雰囲気がよく似ているのだ。
「ああ~!わかる!確かに孤爪っぽいわ!しかもかなり初期の方!」
ピンときたのはどうやら俺だけではなかったようで、それによりテンションが上がった木兎さんの大きい声が体育館に響き渡った。
その声に何人かがこちらへ顔を向けるが、当の本人達は周囲の人に構うことなく会話を続ける。
「だよな!俺、アップ中にたまたま目ぇ合ったんだけど、連れのお兄さんの後ろに隠れられちゃって、うわーwすげー初期研磨っぽいwって思ったんだよ!」
「わかるわかる!俺も最初すげービビられたもん!全然気付かなかったけど、夏初ちゃんと孤爪、めちゃめちゃそっくりだわ!なぁ!あかーし!」
木兎さんの同意を得られてほっとしたのか、黒尾さんもいつもよりだいぶテンションが高い。
そんな二人に話を振られ、そして自分自身も似ていると感じてしまったので、ここは素直に「そうですね」と肯定の意を返した。
そういえば、一番最初に孤爪と会った時は話すことはおろか視線すら合わせてもらえなかったことをぼんやりと思い出す。
同じ二年生でポジションも同じセッターである孤爪とは、今のように普通に喋れるようになるまで少しばかり時間が必要だった。
そうなると、やはり森と普通に話せるようになるのもそれなりの時間が掛かる可能性が高い。
おそらく、嫌われてはないと思っているが...友人として好かれているかと聞かれれば、答えはきっとノーだ。
あまつさえ、彼女に友人と認識されているのかも怪しい。知り合い以上友人未満のクラスメイト、くらいの位置付けだろうか。
「研磨!ちょっとこっち来いよ!」
話の流れから自分と森の関係性を黙々と考えていると、その間中木兎さんと楽しそうに盛り上がっていた黒尾さんが音駒のベンチに座る孤爪に声を掛ける。
「......えー......ヤダ......」
相変わらず低いテンションで露骨に嫌がる孤爪だったが、木兎さんと黒尾さんの勢いに負けて渋々こちらへ歩いてきた。
その顔は至極面倒くさそうで、こういう時の感情表現は多分俺よりも豊かだと思う。
「......クロ、何の用......?」
「いや、お前も木兎や赤葦と随分仲良くなったな~と思ってね?」
「は?」
「ほらァ、最初なんか全ッ然俺と話してくんなかったじゃん!黒尾の後ろに隠れてばっかでさぁ!」
「.......いきなり、何の話......?ねぇ、赤葦......」
黒尾さんと木兎さんの会話に何の説明もなしに巻き込まれた孤爪は、あからさまに怪訝そうな顔をして、最終的に俺に助けを求めた。
「さっき応援に来てた俺のクラスメイトが、孤爪に似てるって話をしてて」
「そうそう!女の子だけどな!」
「.......なにそれ......」
助け舟を出した俺に木兎さんが余計な一言を付け加え、孤爪はより一層眉をひそめる。
そりゃそうだろう、女の子に似てるなんて言われたら大体の男は嫌がるだろうし、元からどこか中性的な孤爪は特にそう言われることを嫌う傾向がある。
今のは完全に木兎さんの失言だ。
「ごめん孤爪、この人言葉足らずだから」
「研磨ばりに人見知りする子なんだよ。ほら、さっき木兎にヤジ飛ばしてたお兄さんの隣にいた女子......つっても、研磨は覚えてないか」
「......覚えてないし、どうでもいい......」
木兎さんの失言を詫びれば、直ぐに黒尾さんがフォローを寄越してくれる。
さすがレシーブの王者、音駒の主将だ。空気が読めるし対応が早い。
そんな黒尾さんの言葉に、似ているのは性格だということがわかったのだろう。
孤爪の嫌悪の色は多少薄れ、再び冷めた態度で彼らしい結論を出した。
「うーん、やっぱ夏初ちゃんのが可愛いな!猫は猫でも、孤爪は野良猫のボスって感じ?」
「野良猫のボスw確かにw」
「.......意味分かんないし、用ないなら戻っていい?」
「怒んなよ研磨w」
「別に怒ってない......」
またもや木兎さんがおかしな事を言い出したが、今度は黒尾さんもそれに乗っかっているようだ。
どうにもからかい癖のある主将二人にため息を吐きながら、なで肩を更に落とす孤爪だが、本当にいつから俺達とこんな風に遠慮無しに話すようになったんだろうか。
やっぱり梟谷グループの夏期合宿とかその辺だったかな、交流増えるし。
「......なに、赤葦」
「え?」
ぼんやりと思考を回していると、ふいに孤爪がこちらを見てきて思わず聞き返してしまった。
俺の反応に孤爪は若干呆れたような色を浮かべる。
「......さっきからずっとこっち見てるじゃん。何なの?」
「え、ごめん。無意識だった」
言われた言葉に反射的に謝ると、「無意識、ねぇ......」と猫目の金色の瞳をさらに細められる。
黙っていても、その金色の賢い頭で何かを詮索されているのは明白で、俺はため息を吐きながら早々に観念した。
「......いや、孤爪と俺、今みたいに普通に喋るようになった理由って何かあったかなって、ちょっと考えてた......」
「.............」
俺の言葉に、孤爪は少しばかり金色の目を丸くさせる。
しかし直ぐに元通りの大きさになると、俺から視線を外した。
「......別に、特別理由がある訳では無いけど......強いて言うなら、俺が赤葦のキャラを掴めたから、かな」
「.............」
今度は俺の方が少し目を丸くする。
どうやらこの疑問に答えを用意してくれるらしい。
「赤葦、思ってることあんまり顔に出ないし......最初どんな奴か掴めなくて、少し苦手だった」
「......顔に出ないのは孤爪だって同じだろ」
「俺はバレーしてる時だけでしょ。赤葦はずっとだよ」
「.............」
表情が乏しいとよく言われる者同士のはずが、ここに来てまさかの裏切り発言を食らってしまった。
そんな線引きをされていたのかと少しショックを覚えていると、再び金色の瞳が俺に向けられる。
なぜかその顔は、バレーの試合で時折見せる愉しそうな歪んだ笑顔だった。
「.......だから、その子が赤葦のこと少し掴めたら、仲良くなれるんじゃない?」
「!」
悪戯に言われた孤爪の言葉に、ピクリと眉が動いた。
そんな俺の反応を満足そうに眺めてから、孤爪は何も言わずにさっさとこの場を後にする。
先程の裏切り発言といい、今の発言といい、言うだけ言って俺の意見も聞かずに退散するなんてちょっと狡くないか?
「じゃあさっき、赤葦呼んで正解だったな」
「.............」
孤爪が音駒のベンチへ戻って直ぐに今度は黒尾さんがそんな言葉を掛けてくる。
さっきまで木兎さんとわいわい盛り上がってた癖に、妙な所はこっちの話でもしっかり聞いている黒尾さんは、相変わらず抜け目がない。
木兎さんに至っては「え、何?どういうこと?」と完全に話が見えていないというのに。
「.......黒尾さんは、どういうつもりで俺を呼んだんですか?うちには女子マネージャーが二人居るんですから、お二人に声を掛けてもよかったかと思うんですが」
ニヤニヤと笑う黒尾さんの前では本当に気を抜けないなと改めて感じつつ、少し疑問に思ったことを本人に聞いてみた。
確かに俺は同じ二年だし森と同じクラスで面識はあるけど、黒尾さんはそんなこと全く知らないはずだ。
なのにどうして同性のマネージャーではなく、俺を呼びに来たんだろうか。
「いや、俺も最初は女マネのどちらかを呼ぼうとしたんだけどな?」
俺の言葉に、黒尾さんはニヤニヤとした笑いをひっこめ、顎に片手を当てて少し考えるような口振りで話し出した。
「もし俺が女マネ呼ぶとすんじゃん。そしたらお前らフクロウ男子が絶対騒ぎ出すだろ?あの子の件を大っぴらにするのは良くないと思ったし、連れのお兄さんのことを先輩っつってたから、たぶん二年か一年だろうなと思って......で、色々考えた結果、赤葦呼ぶのが安牌かと思ったんだよ」
「.............」
「俺が赤葦呼んでも何も不自然じゃないし、あの子、ナツハちゃんのことも赤葦なら少し落ち着かせてくれるかな~とか、ちょっと打算はあったけどな」
「.............」
「......まぁ、結果オーライってことで」
最後にそう締め括り、にんまりと愉しそうに笑う黒尾さんのその顔は、外国の童話に出てくる笑う猫に驚くほどそっくりだった。
猫も杓子も
(敵に回したら、厄介な人ばかりじゃないか。)